[掌篇] 06 : 動かない右手

 はるか海を臨んで、廃線の脇に、痩せた古木。
 かつては旅客を休めた木陰に、今は年寄り一人ばかり。
 黒い老犬が、枯れた右手に鼻を寄せ、吠えた。
 ばう。
「そっちはだめ。こっちへおいで」
 億劫そうに身を揺すり、左手を少しだけ上げた。
「今までありがとう。もうお行き」
 ばう。

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