[chat] 20091110#2-役割配置・その1

ドラマの構造・その2(役割配置・前編)
オリハタさん(仮)
「それで、これに配置していくわけね」
玄兎
「じゃあ、えー、どういう風に進めようか?」
オリハタさん(仮)
「どういう風にって?」
玄兎
「いや、順番をさ。シーン毎に登場する役割を置いていくか、役割毎にそれぞれのシーンでどう干渉するのか」
オリハタさん(仮)
「うーん。シーン毎に進めるのがいいんじゃない? その方が話の流れごと見られるでしょ?」
玄兎
「うん、確かに。じゃあそれでいこう。まず最初は魔術師のシーンからか。始まり、日常のシーンだけど。ここでは何の役割も出てきません」
オリハタさん(仮)
「出ないの?」
玄兎
「だって日常だから。乗り越えるべき課題もなにもないんよ。まあ日常の中で乗り越えなきゃいけない、たとえば宿題とか残業とかいった話はあるかもしれないけど、ここで出てくる課題はドラマとは特に関係しない。日常回帰のためのモチベーションとして、理由付けとしてはありうるけどね」
オリハタさん(仮)
「早く宿題をやらなきゃいけないのに?」
玄兎
「そうそう。世界の危機より宿題の方が大事とか、異世界に飛ばされたっつーのに早く現実世界に帰らないと連ドラ見逃しちゃうとか。まあとにかく、ここで出てくる宿題だの連ドラだのってのは、ドラマ的には日常を表す記号であれば良い。キャラの個性付けとかにも意味あるんで、大事なとこではあるんだけど、まあそれだけ。同じように、ここで登場するキャラクターたちは、ドラマ的にはフラットな状態で、ポジション取りも単なる人間関係のマトリックスに沿うだけ」
オリハタさん(仮)
「じゃあ次から出るのね?」
玄兎
「出るよ。シーン2・ハイプリエステスは、非日常、いわゆるドラマらしいドラマの始まり。ここでドラマに関係する初期設定が出てくるんだけど、それを浮き彫りにするために登場するのは、この三つ。協力者、犠牲者、対抗者ね」
オリハタさん(仮)
「あれ、敵対者は出ないんだ」
玄兎
「出ないよ。まだそこまで具体的な妨害は無い。主人公は、まだこの時点では具体的な被害を被ったりはしない。代わりに、主人公より先に被害を受けた犠牲者が出たり、主人公より先に非日常について知識を得たキャラクターが、主人公に対する対抗者として登場する。で、そういう奴らが出てくるんで、それに即応する形で主人公を擁護する協力者も、登場するわけ」
オリハタさん(仮)
「その犠牲者って主人公の関係者じゃなきゃいけないの?」
玄兎
「そんなことは無い。まったく赤の他人でも、ただ危機が近付いてることのアナウンサーとして、犠牲になってくれればいい。現代ものでよくあるのが、近所で殺人事件がおきました、まあ物騒ねえ、てパターン。このとき殺人事件の被害者が第一の犠牲者。それからその関係者が第二の犠牲者」
オリハタさん(仮)
「間接的な犠牲者っていうのもありなんだ」
玄兎
「うん。まあ事件で被害を被ったら、基本的には犠牲者ポジでいい。これまたよくあるのが、犠牲者の関係者、間接的な犠牲者とは面識があって、断片的に情報がくるパターン。これは情報のコントロールが簡単なんで、よく使われます。出力される情報は、あくまで二次犠牲者の記憶に依存するんでね」
オリハタさん(仮)
「後で追加するときは、思い出したんだけど、でいいから(笑)」
玄兎
「そうそう。だからすごい楽。あと、同じく情報を小出しにする方法として昔からあるのが、小道具を使うケース。たとえばホラーものの定番小道具、日記。日記って他人に見せるものじゃないから、かなりダイナミックに情報がはしょられてる。つながる情報の出力をコントロールすればいいから、これも簡単。最後の記述、窓に、窓に、とか」
オリハタさん(仮)
「あいつがやってくる、とか? あいつって誰(笑)」
玄兎
「そうそう(笑)。そこ書けよ、て必ず突っ込まれる、あれ。でも書いちゃ意味ないんで、そこは日記だからしょーがねーなー、で理解しといてください(笑)。意味不明の手紙とかもそう。で、そうした間接的な犠牲者と関係がある別の人物が、自分がその犠牲者のために事件を解決する、とかいって乗り出してくるパターンがある。主人公に疑いの目を向けてくる刑事とか、犠牲者の気を引こうとする三枚目とか。それがここ」
オリハタさん(仮)
「対抗者ね。じゃあ、それで主人公に、お前がやったんじゃないのか? て挑発してきたところに、横から割って入って、違います、て言うのが協力者ね」
玄兎
「そうそう。で、アリバイ証明のために協力してもらうとか」
オリハタさん(仮)
「分かりやすい」
玄兎
「うん。あとまあ馬鹿話としては、たとえばツンデレパーソナリティは、対抗者と協力者のダブルフェイスと考えられる。主人公を目の敵にしつつ、なんだかんだ言って協力する(笑)」
オリハタさん(仮)
「それって矛盾しない?」
玄兎
「短時間で切り替わる、単なるスイッチスタンスだから、特には。たとえばあんたが犯人なんじゃないのお? とか自分では言うくせに、他のキャラから本当に犯人扱いされると擁護に回ったりする。たまに自分で突っ込んで勝手に弁護してくれる便利なツンデレもいる。この辺も、まあものすごい勢いで大丈夫かあんたって話なんだけど、役割的には問題ない(笑)」
オリハタさん(仮)
「(笑)ヤンデレは?」
玄兎
「ヤンデレは、敵対者かつ協力者かな。主人公が浮気、まあこれはヤンデレの子から見たって話だけど、浮気をしようとするときは敵対者になる。でも浮気に対するエクスキューズは全て相手になすりつけて、主人公を擁護するところは協力者、とか。ただヤンデレペルソナが登場するような話って基本的に恋愛路線だから、あくまで人格としての主人公に対するポジションなんだよね。テーマに対するヤンデレとなるとアホな理論構築が必要で、そんなん疲れるんでパス(笑)」
オリハタさん(仮)
「はい、じゃあ次に進めて。女帝だっけ?」
玄兎
「そうだね。次はシーン3・エンプレス。自律行動が出来るようになって、葛藤したり、決意したりする場面。このシーンになると、さっきの三枚に、もう一枚、これ。敵対者が出てくる」
オリハタさん(仮)
「ここで出てくるんだ」
玄兎
「出てくる。出てきて色んな妨害をする。その妨害によって主人公は追いつめられて、そこから脱出するために、主人公は非日常と戦う決意をすることになる。吊り橋が落とされたり、ボートが無くなったり」
オリハタさん(仮)
「吹雪になったり?」
玄兎
「まあ吹雪は天災だから、敵対者かってと怪しいんだけど、そこで電話線を切るのは敵対者だね」
オリハタさん(仮)
「とにかく行動の妨害をするわけね」
玄兎
「そう。まあこの辺ちょっと対抗者と区別が付けにくいんだけど、たとえば被害者が増えて、これが連続殺人事件だと認識されて、次は誰が殺されるか分からない、自分が殺されるかも知れない、だったらここから逃げなければ、と主人公が考えて行動すると、先回りしてそれを妨害する。その結果、主人公は逃げることを諦めて事件を解決する、て決意をする。そう追い詰めるのが、敵対者と犠牲者」
オリハタさん(仮)
「犠牲者も?」
玄兎
「犠牲者は、犠牲者としてのポジションから主人公にストレスをかける役割。非日常を否定する、ネガキャンするための存在というか」
オリハタさん(仮)
「対抗者もいるんでしょ?」
玄兎
「もちろん。対抗者は、ここでもやっぱり主人公に張り合おうとする。ありがちなのが、先に逃げようとしてボートを湖に沈めちゃって、ついでに自分も犠牲者になってくれるパターン」
オリハタさん(仮)
「殺人鬼なんかと一緒にいられるか、て逃げようとする若い男とか?(笑)」
玄兎
「あれは単なる犠牲者だね。ただし主人公が行動を開始してて、たとえば全員揃えて犯人が出てくるのを待とうとしてるなら、対抗者になりうる。対抗者は主人公が葛藤してる、逃げようとしてる間は犠牲者ルートをたどりやすい。で、次、シーン4・エンペラー。第二幕の始まり」
オリハタさん(仮)
「エンプレスまでが第一幕?」
玄兎
「そ。三幕構成だと、だけどね。起承転結で言うなら、起が終わって承に入る」
オリハタさん(仮)
「ふんふん」
玄兎
「ここにくるとこの二枚、対抗者と犠牲者は退場する」
オリハタさん(仮)
「対抗者は出てこないの?」
玄兎
「必然性が無い。三つめのシーンで決意したから、主人公はとりあえずその決意を行動に移そうとしてみるわけだけど、そこでちょっかい出されても邪魔なだけなんだよね。対抗者がいなくても、シーン的にも主人公はまだ手探りで、うまく行動できない状態だから、対抗者が出てきても単に話が進まなくなるだけで、人格的成長としても、ドラマとしても意味が無い。意味があるとすれば、嫌われ役として登場させて主人公への感情移入を強めるくらいだね。とにかく、本来の役割としては機能しない。たとえば情報収集のシーンで、先に警察がいて事情を聞いてたり、素人が首をつっこむなと言ったりはするんだけど、同席したり、結果として主人公は情報収集が出来るようになる」
オリハタさん(仮)
「本来の役割って、どういうこと? ただのライバルじゃないの?」
玄兎
「行動としてはライバルなんだけどね。まあ言葉がちょっとあれだけど、本来の役割は偵察部隊みたいなもんだからさ。主人公の代わりに先行して失敗する役割なんだよ。たまに踏破することもあるんだけど、判断ミスをする。むしろミスをしなかったら主人公になれるポジションなんだけど。だからライバルキャラってのは人気が出る」
オリハタさん(仮)
「でも、そういう人って実際にいたら鬱陶しくない?」
玄兎
「実際にいたらね。でも正論を吐く主人公より、親しみが持てる瞬間もあるでしょう」
オリハタさん(仮)
「ポジショニング次第では、そうかも」
玄兎
「僕もそんな感じ。キャラとしてはね、鏡写しになるから作りやすいし、立てやすいんだよね。それにほら、なんていうか、ロウとカオス、まあTRPGならローフルとカオティックの方が好まれるかもだけど、とにかくそういう規律と自由って、メンタリティーで天秤偏るでしょう。だからまあ、一方しかないと、ドラマとしては話が一方的になりすぎる傾向があって、そういうのはお客さんを選んじゃうから」
オリハタさん(仮)
「それって単なる八方美人じゃない」
玄兎
「そりゃそうだよ。エンターテイメントなんだから(笑)」
オリハタさん(仮)
「(笑)悪い顔」
玄兎
「さあ次に、の前に忘れてた。コード・エンペラーではこいつが出てくる」
オリハタさん(仮)
「依頼者? 事件の解決を頼みにくるってこと?」
玄兎
「そう。まあ何かしら決意してさ、非日常から脱出するぞと考えたとき、そのための具体的な最初のプランを提示するのが、依頼者のポジション。さっきも話した通り、この後ずっとこの依頼に呪われることになる」
オリハタさん(仮)
「お告げとか、運命とか」
玄兎
「そう。まったく酷い話だよなあ。で、まあそれはいいとして、この依頼者の提案したルールに従って、ドラマにはっきりとゲームの要素が組み込まれる。以降、ドラマはこのルールに従って行動するようになる」
オリハタさん(仮)
「そのゲームは、ゲーム理論とかのゲーム?」
玄兎
「たぶん。シンプルな、ルールがあってゴールがあって、ハードルがあってスキルがあるゲームを想定しとります」
オリハタさん(仮)
「前に言ってたゲーム編制ってやつね」
玄兎
「そう。で、えーと次だ。シーン5・ハイエロファントだね。エンペラーでは一人ないし協力者とのグループで、日常の延長線上のスキルで頑張ってたところに、新しい役割が出てくる。それがここ、援助者」
オリハタさん(仮)
「神様とか妖精とかってやつね」
玄兎
「その辺の表現は、設定世界によるだろうけど、まあ基本的にはあるヒエラルキーに沿った上位者というか、主人公と協力者が持ってなかったスキルを外付けする」
オリハタさん(仮)
「外付けなんだ」
玄兎
「外付けです。援助者の援助ってのは、条件が整えば絶大な威力を発揮するけど、そうでないときはまったく役に立たなかったり、消えちゃったりする。ありがちなのが、三つの願いとか、守りの魔法とかだね。ピンチになったときに威力を発揮するけど、ピンチにならないようにはしてくれない(笑)」
オリハタさん(仮)
「ミステリーだと、権力者が警察より探偵を信頼してくれるみたいな?」
玄兎
「そうそう。それで独自の捜査権を認められたり、一部では警察には手に入らないような情報を提供してくれたりする。まあ大抵、そういうのって墓穴掘りなんだけど」
オリハタさん(仮)
「権力者が事件の黒幕でした、てやつね」
玄兎
「そうそう。本人は操作の邪魔をしてくれるようにミスリードしたりしてるつもりなんだけど、それで却ってばれちゃいました、とか」
オリハタさん(仮)
「策におぼれない策士っていちゃダメなの?(笑)」
玄兎
「完璧超人になっちゃうから、ダメでしょ。それが許されるのは主人公側だけだよ」
オリハタさん(仮)
「そうなんだ」
玄兎
「でないと主人公が負けちゃうからね。最後に勝たせるには、溺れてくれないと困る(笑)」
オリハタさん(仮)
「身も蓋も無い(笑)」
玄兎
「(笑)メタ話って大体そうなっちゃうから。で、とにかくシーン5では、援助者が出てきて何かしらの援助を約束してくれる。あるいは実際に援助してくれるようになる。で、それに合わせて対抗者が復帰する」
オリハタさん(仮)
「出た(笑)」
玄兎
「援助者の援助が始まると、それに合わせてパワーバランスを調節するかのように、対抗者が帰ってくる。あるいは主人公に代わって自分が援助を受けようとするんだけど、失敗に終わる。その争いに負けることで、主人公を引き立ててくれるわけ」
オリハタさん(仮)
「なんか可哀想なんだけど」
玄兎
「まあ、そういうポジションだからなあ。それで可哀想と思われるから、判官贔屓のお客さんたちはライバルキャラのファンになる。主人公人気を確立しておくためには、ここに至るまでの間に、主人公の魅力を強調したり、対抗者がダメで当然、と思われるような演出をかけておく必要がある」
オリハタさん(仮)
「対抗者も同じ援助を受けるパターンってないの?」
玄兎
「あるけど、そういうのって大概、ダブル主人公のパターンだよね。二人の主人公が、お互いの対抗者として機能する。時間的に、二人のキャラの掘り下げをするのは難しいけど、二次創作的な、掘り下げができないってことは余地が大きいって事でもあって、それはつまり妄想に遊べるって話でもあって。だからダブル主人公のパターンは、腐女子受けがいい(笑)」
オリハタさん(仮)
「出た、腐女子(笑)」
玄兎
「商売的には無視できなくなってるからなあ、あの層。昔から似たような傾向を持った層っていたんで、別に今に始まった話じゃないんだけど。まあいいや。で、次はなんだっけ。ラヴァーズか。シーン6」
オリハタさん(仮)
「内面の変化だっけ?」
玄兎
「あと選択ね。援助によって行動範囲が広がった、出来ることが増えたことによって、自分がすること、すべきこと、したいことを選択する。その責任を感じる。このシーンで登場する役割はハイエロファントと同じ。協力者、敵対者、依頼者、援助者、対抗者」
オリハタさん(仮)
「さっきのが援助で変化したとすると、今度は?」
玄兎
「変化ってシーンのこと? だったら今度は主人公の意志、主に責任と選択、決意で変化する」
オリハタさん(仮)
「援助を受けた責任と、その援助で何をするかの選択?」
玄兎
「ザッツライト。大抵の場合、対抗者がその葛藤を浮き彫りにする。まああれだよね、世界を救う勇者だって決め付けられて、勇者なんだから世界助けろよって言われる。でも問題は他にもあって、どのカード切るの? ていう」
オリハタさん(仮)
「協力者は主人公の選択に協力して、支えてくれるわけでしょ? 敵対者は目的のために行動して、依頼者は?」
玄兎
「何をすべきかって事を、義務とか責任について、なになにすべきです、て言う。ストレスをかける役割」
オリハタさん(仮)
「モラルってわけね。援助者はただ援助をしてくれて、対抗者が浮き彫りにするって言うのは、対抗者には責任がないから?」
玄兎
「援助がないからね。力持てるものの責任、ノブレス・オブリージュを主人公に要求したり、逆に依頼者とは反対の、悪魔のささやきを仕掛けたり。決断するのが嫌なら俺が代わりにやってやる。だからその援助を俺によこせとか」
オリハタさん(仮)
「それで渡しちゃだめなのよね」
玄兎
「別に主人公サイドが渡す選択をしても良いんだよ。ただ援助者の方が、主人公を見限らなければ意味がないんだけど(笑)」
オリハタさん(仮)
「ライバルキャラ、ほんと可哀想なんだけど(笑)」
玄兎
「まあ、そういう役割だから(笑)」
オリハタさん(仮)
「見限るパターンって無いの?」
玄兎
「無くは無い。見限られる、ていうのも次のシーンのことを考えると、よくあるパターンではあるんだ」
オリハタさん(仮)
「次ってなんだっけ。あ、ターニングポイント」
玄兎
「そう。だから見限られて、主人公の座を譲ることはありうる」
オリハタさん(仮)
「あれ、でもそれって主人公が入れ替わるだけじゃないの?」
玄兎
「そうだよ。ドラマ的にはキャストの入れ替えをするだけ」
オリハタさん(仮)
「その場合、役割が入れ替わってライバルが主人公ポジションで活躍すると、援助者も当然その主人公を支援するわけでしょ?」
玄兎
「そうそう。だから援助者の立ち位置自体は変わらない。ただ主人公の外装が替わってるだけ。あるいは主人公はそのままで、援助者が主人公への直接援助を打ち切る場合もありうるんだけど。ああ、ごめん、ちょっと休憩させて」
オリハタさん(仮)
「大丈夫なの?」
玄兎
「この話だけは終わらせちゃおう」

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