[chat] 20100425#2

【更新履歴】

10.05/05 : 「~パサージュ論とか」の下りを修正。聞き直してみたらオリハタ女史は否定していたが、玄兎が聞き流してしまっていた。ちなみに『パサージュ論』はヴァルター・ベンヤミンとのこと。

玄兎
「結局のところ、サークルと学校グループだと、遊び方がまるで違ってたんだと思う。僕らは棲み分けてたし、学校グループは棲み分けてなかった」
オリハタさん(仮)
「棲み分けって?」
玄兎
「ウォーシミュレーションと。TRPGってウォーシミュレーションとかミニチュアゲームとか、その辺からの派生って言われてるし、実際そういう部分はたっぷり見て取れるわけだけど、そっちのゲームをこってり遊んでみると、TRPGの戦闘って少なくとも当時のものはものすごく雑だったんだよね」
オリハタさん(仮)
「前にやってたポリミリゲームみたいなやつ?」
玄兎
「『ディプロマシー』は、どっちかというとTRPG寄りだね。別のテーブルでやってた、あれ何やってたんだっけ? 『パンツァー・ブリッツ』?」
オリハタさん(仮)
「あれはめんどくさそうだった(笑)」
玄兎
「うん。まあ実際めんどくさいです。めんどくさいんだけど面白い、というか説得的って言った方がいいのかな。とにかく原因と結果についてじっくり考えることが出来るし、そうすることで納得がいく。プレイングミスとかも、戦略や戦術のまずさとして後でちゃんと判断できるだけの情報がある」
オリハタさん(仮)
「それが無いって話?」
玄兎
「基本的にダイス目だけだったからね。コンシューマの、ファミコンとかのRPGの戦闘と同じ。コマンド戦う、みたいな。まあそれを鼻で笑うように『T&T』では戦術性の高い呪文やなんかが追加されたりしたんだけど、その辺で一旦、戦闘ゲームとしてのTRPGの成長が止まる。『T&T』の戦闘モデルを『D&D』の感覚で遊ぶと、ものすごいワンサイドゲームになるんだけど、そっちの方がゲームバランス考えるのも簡単なんで、以降しばらく『D&D』ライクな戦闘モデルが横行することになるんだな」
オリハタさん(仮)
「停滞しちゃったんだ」
玄兎
「そこで別のフィールドでの棲み分けってのを考えるようになる。最初の最初は、たぶん『トラベラー』だと思うんだけど、この辺は詳しい歴史はわかんないから置いとくとして」
オリハタさん(仮)
「出た『トラベラー』(笑)」
玄兎
「しょうがないだろ、好きなんだから。ほんとにあれは革新的だったと思うんよ。たぶんデザイナー自身が『D&D』とか『T&T』とかよく分かってなくて、もっとこう原理とか定義とかから、たぶんTRPGってこういう遊びなんだろうなっていう想像だけで作っちゃったみたいな。なんかそんな雰囲気(笑)」
オリハタさん(仮)
「想像だけで作っちゃったんだ。平賀源内?(笑)」
玄兎
「ああ、いいなそれ。そんな感じかもしんない。あるいは『D&D』に対するアンチテーゼというか、お前ら言ってることとやってることが違うじゃねーか、ただの雑なウォーシミュレーションじゃねーか、とか当てつけからかもしれないんだけど。とにかく『トラベラー』では戦闘そっちのけで、人間を遊ぶゲームとしてのモデリングがされた。たぶんそこで汎用的な行為判定が、ゲームシステムのプライマリーとして確立されたんだと思う」
オリハタさん(仮)
「戦闘はどうしたの?」
玄兎
「一応は搭載されてるんだけど、少なくともゲームシステムのプライマリーからは外されてたと思う。じゃあどこにあるかっていうと、同じデザイナーが作ったボードゲームの方にある。この辺はたぶんマーク・ミラーの矜持もあったし、もしかしたら商業戦略もあったのかもしれない。とにかくウォーシミュレーションゲームとルールをリンクさせることで、TRPGとウォーシミュレーションを分離させたというか、TRPGはウォーシミュレーションじゃないんだろ? ていうところからデザインがスタートしてる印象がある」
オリハタさん(仮)
「そこでシステムが切削されたのね」
玄兎
「セッサク?」
オリハタさん(仮)
「大きい構造の中から小さい構造を切り抜いたり、切り取ったりするやり方」
玄兎
「切る削るって書く? 建築用語?」
オリハタさん(仮)
「建築でも使うけど、ジャーゴンとして使ってるのは幾何学じゃない?」
玄兎
「幾何学なのか。建築は幾何学?」
オリハタさん(仮)
「コルビュジェは、幾何学は人間の言葉だ、て言ってるし」
玄兎
「建築が言語だってのは、あちこちで聞くしなあ。コルビュジェったらピューリズムの人だよね」
オリハタさん(仮)
「そう」
玄兎
「あとなんだっけ、パサージュ論とか」
オリハタさん(仮)
「それ違う」
玄兎
「そうか、じゃあこの辺の言葉は幾何学用語的に使ってるのか」
オリハタさん(仮)
「どれ?」
玄兎
「黎明期のシステムデザイン論の包括みたいな感じで、ばらばらに書いてあったんだけど。ちょっと待って。書き出してある。さっき言ってたのは、ほら、ここで同じこと言ってる。84年12月、ナンバー601。『トラベラー』は宇宙のデザインという、より大きなボリュームを切断した断面に美しいプランの反復性を発見、小さなプランの反復でボリュームをリビルド、その中のより優れたアーキテクチャがあるものは切削し、外部のアーキテクチャと連結している*1この他に“『D&D』は大きなプラン(平面)のラベルを書き換え、細かな凸凹を削り取り、新しいアーキテクチャ(建築)を拡張する折もそれぞれのプラン自体に手を入れず、資源の価値の新たな発見によってそれぞれのアーキテクチャをリンクすることでボリュームを形作ることに努めた。”や“『T&T』は『D&D』によって形作られたボリュームをプランに開き直し、スマートなプランをひとつの大きなボリュームの分節としてリビルドした。”とも。。これのボリュームとかプランとかってのが、ちょっと分かりにくいんだけど」
オリハタさん(仮)
「こっちの言葉だとしたら、ボリュームは立体。プランは平面。プランからボリュームが出来るっていうのは、たぶんコルビュジェのノートから」
玄兎
「どの辺読んだらいい?」
オリハタさん(仮)
「そのままの話が、コルビュジェの『建築をめざして』に載ってるから」
玄兎
「ありがとう」
オリハタさん(仮)
「そっちの言葉を使う人なんだ。なら私、これ読めるかも」
玄兎
「てか、たぶん読めると思う。でも出来るところまで自分でやってみたいんだわ。これだけは」
オリハタさん(仮)
「それだけじゃないでしょ(笑)」
玄兎
「(笑)まあね。ところでプランが平面って平面図のこと? それに基づいて建設されたものがボリュームで、だからプランがプランで平面が計画とか」
オリハタさん(仮)
「違うんだけど面白そうだからそれでもいいかも(笑)」
玄兎
「誤解の理解に行き着くまで突っ走れってか。上等(笑)。ちょっと潜ってみると、えーとここではアーキテクチャは建築で、ゲームで扱われるパラメータ同士を線でつないでひとつの方向から見たものが二次元のプラン、複数の視点から複数のパラメータを見ることで浮かび上がるボリューム。複雑で凹凸のある連立多元的な曲線を持った、自然言語の中にある記号が、プランで定義されたパラメータに収束されて、ゲーム用の独自言語として整形されたスマートなボリュームに。ああ、これってキュビズムなのか」
オリハタさん(仮)
「なんか見えた?」
玄兎
「見えた見えた。ありがとう。たぶん先生のシステムデザインの考えのベースはこれだ。あとはデザイン自体の思想ってか、たぶん建築の方から見ないとダメなんだろうけど、そっちの記述からフィードバックさせていけば、モデリングできると思う」
オリハタさん(仮)
「思うんだけど、旦那のその潜るっていうのさ、たぶん建築なんだと思うんだけど」
玄兎
「そうなの?」
オリハタさん(仮)
「思いつきだけど。それで、棲み分けの話が終わってないと思うんだけど?」
玄兎
「ああ、うん。つまりって言うかなんて言うか、ウォーシミュレーションより面白い部分っていうのがアピール出来なきゃいけなかったって言うか。サークルは元々ウォーシミュレーションの集まりだったから、その中でロールプレイングをやろうとすると、違いをはっきりさせなきゃいけなかったっていうのがあって。だから棲み分け。中学の方ではそんな対立は無かったから、棲み分けたりTRPGらしさとか考えたりする事もなくて、普通に今でいうラノベのエピゴーネンみたいな遊び方をしてたっていう」
オリハタさん(仮)
「だから遊び方が違ってたってことね」
玄兎
「そういうこと。てか何で僕のが喋ってるんだ」
オリハタさん(仮)
「いつものことでしょ(笑)」
玄兎
「まあ。いやこのスイッチ切ると喋るんだよね、君」
オリハタさん(仮)
「うん」
玄兎
「しょうがないか。じゃあ君の話は後で自分で文章化しよう」

References

References
1 この他に“『D&D』は大きなプラン(平面)のラベルを書き換え、細かな凸凹を削り取り、新しいアーキテクチャ(建築)を拡張する折もそれぞれのプラン自体に手を入れず、資源の価値の新たな発見によってそれぞれのアーキテクチャをリンクすることでボリュームを形作ることに努めた。”や“『T&T』は『D&D』によって形作られたボリュームをプランに開き直し、スマートなプランをひとつの大きなボリュームの分節としてリビルドした。”とも。