安い心

 交際相手や片恋の対手を傷つけたり殺したりといったものが多く見られる。そうした報道を見るたび「安売りするものだな」と思う。


なにをか。自分の心をだ。
 相手を傷つけたり殺したりすれば満足できるのだから、安いというしかない。殺傷、暴行、拉致監禁等といった手段は極めて安易で安価だ。後のことを考えなければ労は少なく、またその後のこととやらも自己保身でしかない。相手のことなど微塵も無い。
 言ってみれば万引きや置き引き、窃盗の感覚に近い。これは相手の心や自己満足を得るためのコストを安く見積もっているということではないか。
 そんなことすら考えていないのかもしれない。

 「労少なくして功少なし」という言葉があるが、多くの場合、それは大したことをしていなかったのに、自分では苦労をしているつもりで、過剰な期待を抱いたために起こるもの、という気がする。
 前述の話であれば「捕まれば大罪となる罪を犯してまで貴方を手に入れたいと思ったのに、貴方は振り向いてもくれない」とかまあ、そんな自己陶酔や愚痴程度の意味だ――そんな陶酔で凶悪犯罪を犯した犯罪者がどれほどいるかは知らないが。実際はもっと短絡的で衝動的な、他人にとってつまらないものだろう。
 ほとんど全ての犯罪に言えることだが、自己保身以外のリスクを負わずに手に入るものなどたかが知れている。金で買える心のようなものだ。上っ面でしかない。犯罪を企てている人間に「そんなものが本当に欲しいのかね」と一度聞いてみたいものだ。