[夕映えの物語] 番外.ある街角

   一

 人間にとっての時の流れは、私たちのそれと、大きな隔たりがある。
 育ちゆく者。変化する者。老いゆく者。
 彼らは時間の積み重なりを、その身に刻んでいる。
 けれど私たちの体には、そうしたものは刻まれない。
 ただ在るようにして在るだけだ。
 羨ましい。
 そう、思う。
 人々の中に在って、その暮らしを見つめ続ける私も、姿を少しずつ変えることはある。
 そうしなければ、疑われてしまうから。
 だがそれは流行の服に着替えるようなもので、降り積もる時間ではない。
 足元を往来する人々が、ひどく羨ましくなった。

「お待たせ」
「遅いよ」

 私の足元で、恋人たちの短い会話。
 そこに込められている、たくさんの時間。
 寒空の下、男は女を待っていた。
 信号を見、横断歩道を見、駅の入口を見、腕時計を見、私を見、革鞄の中を見、また信号を見。
 ほとんど同じ動作を、男はただ繰り返していた。
 寒さにふるえる体を温めるため、小さく足踏みをしながら。
 そうして一時間二九分三九秒を過ごし、仝四〇秒目に駅から出てくる彼女を見つけた。
 信号は十二秒間、彼らの間に立ちふさがり、十三秒目に頬笑んだ。
 焦りの色をおし隠し、けれど喜びの色は満面に、一時間三〇分ちょうどに彼らは抱き合う。

「お待たせ」
「遅いよ」

 そちらだけはポケットに入れていた左手で、彼女の右手を握った。
 どちらともなく歩き出す、楽しげな後ろ姿。

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[掌篇] 47 : 双子の犯罪

 教壇の上に、二冊のノート。
「それで、どっちが?」
 大人の声が、厳しく問う。
 二人の子供はサッと、お互いを指差した。
「そう。では二人とも、罰として――」
 お互いを恨めしそうに睨む、二人の子供。
「廊下に立ってなさい」
 木造の古い校舎。
 その廊下に、はじまりの男女。

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