[chat] ストレスとカタルシス ~ 娯楽の構造

 プレイグループの周辺地域に TRPG ってキーワードが洩れるようになって、相対的に「TRPG って何ぞ?」という質問を、僕もたまに聞かれるようになったりしてます。
 それに絡んで面白い話をする機会があったんで、テープ起こし。

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娯楽の構造

 三十路のアレな二人(笑)がメシ食いながら、「TRPG ってナンなんだ?」って話になったと思ってください。
 んで一方が「考えてるコトを整理したいんで、話させてもらっていいですか」っつって、相手がそれを承諾。そいつを録音したものを議事録っぽくしたものが、以下になります。

勝ち負けは必要ない
玄兎
「んじゃま、ご面倒かけます」
ハッチン(仮)
「コレ(メシ代)は持ってね」
玄兎
「はいはい、了解です(笑)
んじゃ、えーと。
……TRPG ってのは勝ち負けが明確じゃない、なんだか妙なゲームだとか言われてるんですけど、ソレに対して『みんなが楽しめれば勝ち。そうでなければ負け』って価値観があって」
ハッチン(仮)
「うん」
玄兎
「楽しいの、つまんないのってのは主観でしかないじゃないですか。
しかも空気を読んだら『つまんない』とは言いにくい」
ハッチン(仮)
「そりゃあそうだよねえ」
玄兎
「そういう意味では、勝ったか負けたかってのを主観で決めるしかないゲームなんです。TRPG って」
ハッチン(仮)
「面白いの? それ」
玄兎
「どうなんでしょう? 僕は面白いと思ってます」
ハッチン(仮)
「うん」
玄兎
「まあ正直、哲学的なゲーム論でないと、ゲームとしては認めづらいモンかもしれませんけどね。ただ、娯楽ではあります。間違いなく」
ハッチン(仮)
「ゲームじゃなくても娯楽」
玄兎
「ええ」
カタルシス
玄兎
「娯楽ってのは、カタルシスを得るためのプロセスだって考え方があって、僕はソイツを支持してるんですが」
ハッチン(仮)
「カタルシスを。
そういや、カタルシスってよく言うけど、どういう意味なん?」
玄兎
「元は医学用語で、体内洗浄のことだったそうです。
毒素を吐き出させるような、まあ、ダイナミックな治療法で。
で、それを……『魂が』とか大上段にやったんだと思いますが……ギリシャ悲劇が精神にもたらす効能として、アリストテーレスが『詩学』でやらかしたんですよ。
それを更に、ヒゲのユダヤ人が代償行為で得られる満足感に仕立てたと」
ハッチン(仮)
「なに、ヒゲのユダヤ人って」
玄兎
「フロイト先生です。『狂骨の夢』で京極堂が言ってたでしょ(笑)」
ハッチン(仮)
「あれユングじゃなかったっけ?(笑)」
玄兎
「でしたっけ? まあどっちでもいいや。
とにかくカタルシスについては、フロイト先生がそういうことに決めたと。
んでまあ、そのカタルシスを得る行為が、娯楽なんじゃねーの? って話です」
ハッチン(仮)
「そんな簡単に得られるモンなの? カタルシス」
玄兎
「わりと簡単です。
それに人間がどれほどユニークで業腹な存在なのかも分かります(笑)」
ハッチン(仮)
「ブラッキーな方向に突っ走りそうだ(笑)」
ストレスとカタルシスの関係
玄兎
「カタルシスってのは、『浄化』とか『解放』なんてニュアンスもあります。
厭世的な思想ですが、悲劇的にこう、主役が死んじゃったりするような話ってのも、それまでの苦難からの解放って意味がある……なんて話もあって」
ハッチン(仮)
「なるほど」
玄兎
「つまりカタルシスを得るためには、まず酷い目に遭う必要があります」
ハッチン(仮)
「またそんなダイナミックな話なんだ(笑)」
玄兎
「解放されるには、囚われないとイカンでしょう。
だからまず、囚われます。自縄自縛です(笑)
そうして自由が奪われた状態で人間が感じるものは?」
ハッチン(仮)
「『自由になりたい』とか?」
玄兎
「そうそう。そんな感じで『解放されたい』と思う。
ちなみに『自由じゃない』と感じてイライラが溜まっていく状態を『ストレスが掛かってる』なんていいますね」
ハッチン(仮)
「するってと、なに。
カタルシスを感じるにはまずストレスを感じればいいと」
玄兎
「です」
ハッチン(仮)
「で、カタルシスを得たい場合は、まずストレスを自分にかけると」
玄兎
「そう」
ハッチン(仮)
「そりゃあ……マゾい(笑)」
玄兎
「でしょう? こんなアホなことする生物は、人間くらいのモンでしょ(笑)」*1[人間くらいのモンでしょ] = 実際はどうなんだろうね? トレーニングにも一定の「ストレス=緊張感」は必要だって言うし。
ハッチン(仮)
「やっぱりブラックだ(笑)」
玄兎
「しょーがないです。そういう人間だから、僕」
ハッチン(仮)
「それは知ってる(笑)」
面白い娯楽、つまらない娯楽
ハッチン(仮)
「そうすると娯楽の面白い、つまらないは、バランスの問題?」
玄兎
「ん?」
ハッチン(仮)
「つまり、ストレスに対するカタルシスの量が、どれくらいかと」
玄兎
「あ、なるほど。数量化するにはいい考えかもですね」
ハッチン(仮)
「たぶんストレスの質とかカタルシスの質とか、イロイロ違うんだろうけど、一つのガイドラインにはなるんじゃないの?」
玄兎
「質と、アンテナの性能の差もありますね」
ハッチン(仮)
「恐竜並みの鈍感だと、ストレスを感じないと」
玄兎
「その場合は、カタルシスを演出してもチープになっちゃうんじゃないかな」
ハッチン(仮)
「絶対値にはならないけど、意外とイケるんじゃ?」
玄兎
「ゲームの難易度設定なんかには、いいですね。
そしたらアレだ、ギャンブルの掛け金と倍率の関係とか、まんま?」
ハッチン(仮)
「そういえばそうだ。
リスクとリターンのバランスがとれてないオッズじゃ誰もベットしないし」
娯楽作品の構造
玄兎
「水戸黄門なんかも分かりやすいストレスとカタルシスなんですよね」
ハッチン(仮)
「おお? ああ、最初にお代官さまが悪さをして」
玄兎
「堪えて堪えて、最後に暴れてチョン」
ハッチン(仮)
「分かりやすい」
玄兎
「あれは視聴者もカタルシスを得られますけど、登場人物も得てるハズなんですね」
ハッチン(仮)
「虐げられてた人たちが」
玄兎
「です」
ハッチン(仮)
「……どゆこと?」
玄兎
「これ、本来なら観客のカタルシスは二次的なものじゃないですか。
カタルシスを得てるのは村人であって観客じゃない。
村人がどーなろうと悪代官がなにしてようと、所詮はスクリーンの向こう側の世界ですよ。観客には関係ないじゃないですか」
ハッチン(仮)
「そりゃそうだ」
玄兎
「でも見てる人はストレスを感じたりカタルシスを得たりしてる。何でか?」
ハッチン(仮)
「なんでってそりゃあ、感情移入してるからでしょう」
玄兎
「舞台、まあ、映画とかテレビとかでもいいですが。
そういうものに感情移入すると、どんな気分になります?」
ハッチン(仮)
「どういうって、えー……登場人物になった気分になる、とか?」
玄兎
「それです」
ハッチン(仮)
「それが、何?」
玄兎
「いや、だからつまりですね。
観客が当事者になっちゃうんですよ」
ハッチン(仮)
「……うん」
玄兎
「どう言ったらいいか……
あー、つまりストレスのある状況に望んで飛び込んでる」
ハッチン(仮)
「うん」
玄兎
「で、芝居が終わる頃には登場人物はカタルシスを得てる」
ハッチン(仮)
「……ああ、さっきの話! ブラックな」
玄兎
「です。人は望んでストレスのある環境に飛び込んで、後にカタルシスを得てそこから解放される。
……というのが娯楽の構造じゃないかって話です。
全部の娯楽がそうだとは、さすがに言えませんが」
「ゆきて帰りし物語」
玄兎
「もうちょっと進めると、『ゆきて帰りし物語』ってのがあります」
ハッチン(仮)
「行って帰ってくる物語? ……旅行記?」
玄兎
「またそんな身も蓋もない(笑)」
ハッチン(仮)
「でも、そういうコトじゃないの?」
玄兎
「ええ。身も蓋もないことを言えば(笑)
これはアレです、トールキンの『ホビットの冒険』の作中に登場する本の題名なんですが。
こないだ知ったんですけど、大塚英志の本*2[大塚英志の本] =『ストーリーメーカー 創作のための物語論』のこと で、物語の雛形として“行って帰る物語”ってのが登場するそうです。何かを失った主人公が、非日常へ旅立って、失ったものを取り返して日常へ帰ってくる。そういう構造」
ハッチン(仮)
「マッチポンプだ」
玄兎
「ひどい言われようだなァ(笑)
まあ、とにかくそういう構造があるんです」
ハッチン(仮)
「ちょい待った。考える」
玄兎
「はい」
ハッチン(仮)
「だから、つまり……ああ、それも娯楽の構造とかってのと同じわけだ」
玄兎
「そうそう」
ハッチン(仮)
「でも、えー『桃太郎』って何を失ってるのん?」
玄兎
「平和じゃないですか?
……ああ。あれ鬼が悪さする話が抜けちゃってること多いですよね」
ハッチン(仮)
「そうだよねえ」
玄兎
「鬼が悪さをするエピソードが抜けると、単に桃太郎って強盗が鬼が島を襲撃しただけの話になっちゃう(笑)」
ハッチン(仮)
「だよねえ(笑)」
玄兎
「あれは色んなバリエーションのある話だからなァ。
鬼が記号化してて、『悪さをするもの』と決め付けられてるから、わざわざ鬼が悪いってエピソードは要らないのかもしれません。
ゲームのモンスターと一緒ですわな。
当節、野生動物にだって愛護団体がどーたらこーたら言うのに、ゲームのモンスターともなると誰も彼もが嬉々として『たたかう』コマンドを選択する」
ハッチン(仮)
「そっちには行かなくてもいい(笑)」
玄兎
「ですか」
ハッチン(仮)
「『かぐや姫』は……あれは『月の国の人間』って記憶だかなんだかを失ってて取り戻して帰っちゃう話か」
玄兎
「そういうことでしょう。
稀人伝説にしてもヒドい話ですけどね、アレは。
地球の男どもを弄んだ挙句に、バカンスは終わりだとばかりに月に帰っちゃう。
人助けをしない稀人。これは新しい(笑)」
ハッチン(仮)
「寄宿先のじーさんチは助かったんじゃないの? 経済的に(笑)」
玄兎
「経済的に人助けをする稀人。バラマキか(笑)」
ハッチン(仮)
「生々しい話になっちった(笑)」
玄兎
「まあ、そのへんの民話/伝承が全部“行って帰る物語”に当てはめられるってワケじゃないと思うんですが、その辺を大塚先生がどう解釈してるのかは、読んでないんで知りません(笑)
ただその日常から非日常、んでまた日常回帰のプロセスが、娯楽と同じじゃねーかと思ったんで」
ハッチン(仮)
「なるほどね」
で、結局なんの話だっけ?
玄兎
「……で、結局なんの話でしたっけ?」
ハッチン(仮)
「なんだっけ。テーブルトークがどーのこーの」
玄兎
「TRPG が。えー……?」
ハッチン(仮)
「ああ、そうだ。勝ち負けがどーのって」
玄兎
「そうだった(笑)」
ハッチン(仮)
「考えまとめるんじゃなかったんか(笑)」
玄兎
「ゴメンナサイ(笑)」
ハッチン(仮)
「で、結局どんな結論になる? 今回の話は」
玄兎
「そりゃ、あー……アレですよ。
だから『ゲームとして』勝ち負けが出せるものでなかったとしても、『娯楽として』楽しむことはできるってコトで」
ハッチン(仮)
「その構造が、ストレスとカタルシスだと」
玄兎
「ですね」
ハッチン(仮)
「んじゃゲームのルールってのは、ストレスをコントロールする道具か」
玄兎
「お。それイイですね。そういう定義もアリだなァ」
ハッチン(仮)
「でもそれ範囲が広すぎて大して意味なくない?」
玄兎
「これもまあペテンの類かな(笑)」
ハッチン(仮)
「まあ TRPG が勝ち負け関係なしに楽しめるってのは分かった。
んじゃ何でルールとかがあるのかってのは?」
玄兎
「それは、えーと……ちょっとまって。まとめる」

 まだ話は続いたんですが、長いんでここまで。
 それにしても偉そうに語ってンなァ、自分。
 マジメに研究してる人に怒られないか。こんなん(苦笑)

References

References
1 [人間くらいのモンでしょ] = 実際はどうなんだろうね? トレーニングにも一定の「ストレス=緊張感」は必要だって言うし。
2 [大塚英志の本] =『ストーリーメーカー 創作のための物語論』のこと

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  1. ピンバック: ペテン師が憂鬱。

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