[Review] 『TRPGシナリオ作成ガイド I 基礎編』運用のススメ
章別解説で手が止まってしまったので、一度ちょっと別視点から書いてみることにします。
今回は「本書がどんな人に刺さるか」という視点から。
実用書としての本書の評価
■結論サマリー(用途マップ)
- ◎ 最適用途:初心者の初シナリオ作成/安定して完成させたい人
- ○ 有効用途:シナリオ構造の理解/GM運用の改善
- △ 条件付き:作品志向(面白さ・演出重視)
- × 不向き:即興主体・サンドボックス型プレイ
本書は「面白いシナリオを書く本」ではなく、「シナリオを破綻なく完成させるための設計マニュアル」だと思います。
そのへんを理解したうえで読めば、かなり有用なガイド、というかマニュアルとして機能すると思います。
■本書の機能定義
本書をツールとして定義すると、以下の3点に集約されます。
- 工程分解型フレームワーク
- シナリオ設計チェックリスト
- GM運用支援マニュアル
特に重要なのは、シナリオを「物語」ではなく、“体験を生み出す構造”として設計するという立場で一貫している点でしょう。
■ 使用シナリオ別レビュー
1. 初心者が「初めて作る」用途
- 有効度:★★★★★
用途として最も適しています。
Step1〜Step5の工程をそのまま順を追って進めることで、最低限の完成形といえるシナリオを作ることが出来ます。
- シナリオタイプ選定
- テーマ・体験設計
- シーン分割
といった「普通は抜けがちな工程」が明示されているため、未完成・破綻のリスクを大幅に下げることが出来るでしょう。
ただし「面白さ」は別問題であって、本書単体では保証されないことは理解しておいてください。
(個人的には「面白さ」はプレイヤーが提供するものだと思っているので、シナリオ作者やゲームマスターとしては魔法の呪文「シランガナ」で良いと思いますが)
2. 「うまく作れない人」の矯正用途
有効度:★★★★★
すでに作っているが安定しない人に対しても極めて有効。
シナリオ制作上、よく起こりがちな――
- 導線が詰まる
- 情報が出ない
- シーン構成が曖昧
――といった課題については、本書の構造分解により原因が特定できると思います。
特に以下の要素が強力で、これによって「なぜ上手くいかないのか」が言語化できるようになるかと。
- シナリオタイプ(構造の骨格)
- 体験設計(プレイヤ視点の整理)
- シーン単位での分割
3. GMの運用改善用途
有効度:★★★★☆
本書はプレイヤよりもむしろGM視点に強い内容になっています。
たとえば――
- NPCの行動原理
- 情報提示の導線
- 失敗時のバックアップ
――といった運用情報が整理されることで、アドリブの負担軽減やセッションの安定化に寄与するはずです。
- アドリブの負担軽減
- セッションの安定化
なので既存のシナリオについても、一度本書のプロセスに合わせて分解整理することで「回せるシナリオ」に修正できるかと。
4. シナリオを「作品として書く」用途
有効度:★★★☆☆
シナリオをストーリーコンテンツ志向(=読ませるシナリオ)として作る際には、本書の機能は限定的です。
本書の作成手順において、たとえば以下のような要素は主目的では有りません。
- 感情演出
- キャラクター描写
- ドラマ構築
この辺で悩んでいる方には、あまり有用ではないと思います。
ただし構造の骨格や、破綻しない設計としては有用なので、クロスチェックに使う分には充分機能すると思います。
5. 上級者の設計最適化用途
有効度:★★★★☆
本書の内容は、おそらく多くのベテラン勢にとっては既知の内容です。
ただ、それでも暗黙知の言語化や、再現性の確保といった意味では充分有用だと思います。
おそらくベテラン勢ほど読んでて「そうそう」「こういうこと」と、言語化が気持ちいいんじゃないかな?(笑)
あと、これが自分たちの作成術を言語化した教本(テクスト)として機能する、ということはつまり、これからシナリオを作りたい新人さんに教えたり、他の人に教えたり任せたりする場面でも、教材や枠組みとして使えるということです。
氷川氏が『TRPGシナリオ作成大全』で書かれていた「ペアメイキング」のように、複数人でのチーム制作なんかでもフレームワークとして使えるわけで。
プレイコミュニティの中でこの内容を共有できれば、継続的なシナリオ供給の助けにもなりそうです。
「安定して作る能力」を外部化できると言ったところでしょうか。
6. 即興・サンドボックス用途
有効度:★☆☆☆☆
本書は明確に「事前設計型」に最適化されているので、アドリブ型マスタリングとは相性が悪いです。
事前に膨大な準備をしておいて、セッションではその中から必要なものだけをピックアップする、みたいなコスパ最悪なアプローチで良ければ使えないことはないんですが、ぶっちゃけこの手法は30年前には既にダメ出しをされているくらい、一山なんぼの世界で挫折者を生み出してきた技法なので、オススメしません。
ただし世界設定やNPC設計の要素で少し使える部分はありますので、価値ゼロというわけではないです。
頭の中を整理する分には役に立つと思いますが、アドリブGMはそれ以上を期待しないほうが良いかなあ。
■ 実運用パターン
んで実際の運用についてですが。
本書の使い方は大きく4つに分かれます。
A. フル適用(初心者)
Step1〜5を順に実行しましょう。
最も推奨される使い方ですね。
B. 問題箇所参照(中級者)
詰まった工程だけを参照する使い方です。
辞書的な運用、とか言えばいいかな?
C. チェックリスト運用(上級者)
完成後の検証ツールとして使用するのにも便利だと思います。
構造を紙に書いてチェックしてみると、過不足にも気づきやすくなりますし。
D. テンプレート化
紹介されているパーツをピックアップしたテンプレを、予め作成しておく使い方です。
ベテランGMは自分のマスタリングのスタイルに合わせてこの種のテンプレをいくつも抱えていたりします。
■ 他リソースとの併用前提
本書は「設計」には強いんですが、「演出」には弱い……というか意図的に扱っていません。
そのため、たとえば以下のようなガイドが別に必要になると思います。
- ストーリーテリング技法
- キャラクター感情設計
- 演出・描写技術
本書はそもそも、設計と演出は分けるべきというスタンスだと思います。
まあ僕自身がそうなので、そう読んでしまっているだけなのかもしれませんが。
(でもその方が、一本のシナリオでいろんな遊び方ができて楽しいと思うんですよね)
■ 長所と短所(用途視点)
長所
- 再現性が高い
- 工程が明確
- GM運用に強い
- 初心者でも破綻しにくい
短所
- 面白さの飛躍は生みにくい
- 型依存になりやすい
- 自由度の高い設計には不向き
■ 総評
本書は創作力を伸ばす本ではありません。
本書は「シナリオを安定して完成させる能力」を供給する設計マニュアルです。
あるいは「発想ではなく構築を支援する本」なんて感じでも良いかも。
結論として、TRPGシナリオ作成において、「何を作るか」ではなく「どうやって形にするか」で詰まっている人にとっては、極めて実用性が高いガイドだと思います。
オススメですよ。
