[GURPS] 数字の読み方ひとつで化けるゲーム・追補版

注:追補は主に「余談」セクションです。

 『GURPS』ってな記述力に於いて最高峰の TRPG システムでして。
 この「記述力」ってな「語彙」ですな。
 豊富な語彙に支えられてるんで、いろんなモノを色んな書き方ができる。
 なんで「白紙だから何を書いてもいい」ってのとは違います。
 それ言ったら自分は『Mega Traveller』持ってくるわ(笑)

 なんだけど、まあその語彙も使い方次第ってやつで。
 今回は『GURPS』で扱う「数値」に規則を与えて表現力を上げるバリアントってのを、ちょろっと。

 あ、「わけ分からん」って人は素直にスルーして下さい。
 分かんなくても特に問題はありません(笑)

CLD の話

 自分がキャンペーンゲームを始めるとき、まあ 2ヶ月くらいかけてゲームの舞台設定を組みます。
 で、その各種データは色んな情報をコード(CLD*1[CLD] = 「Campaign Leading Data」の略。なんでこんな名前にしたんだろ?(笑) )に変換して記述するんですね。
 このへんは『Traveller』の UWP (Universal World Profile) の概念が出発点にありますが、「キャンペーンの舞台それ自体」から「キャンペーンの舞台に存在する代表的な集団のデータ」など、対象となるものの規模や性質などは多彩なので、記法は必ずしも統一されていません。

 また方法論については『TORG』の対数システムを利用しています。
 コード化についても、『Traveller』の UWP の他に、『TORG』のアクシオムや『GURPS』の文明レベルの細分化、『Shadowrun』の生活コストの配分*2[生活コストの配分] = 『Shadowrun』第3版「Sprawl」にある追加ルール。なんかの概念を応用しています。
 ……その目的は「ゲームデザインの土台を作ること」と「個人と組織を連続させること」の二つです。

基本概念:数値評価を相対化する「みなし」の導入

 たとえばウチで遊んでいる、『GURPS』をベースにした「千年紀」というキャンペーン・ログブックには、次のような定義文があります。

Define (1999)
  • 以下の技能のレベルは「1.5 を{レベル}乗した規模」と評価する。(後略)

 結果、これら(指定された技能*3[指定された技能] = 主に IQ 基準の技能の技能レベル)の値は「相対的に +1 増加する毎にスケールを 1.5倍する」となります。
 たとえば〈政治12〉の PC は〈政治11〉の PC の 1.5人分、〈政治10〉の PC 2.25人分の働きをします。
 〈地域知識/東京15〉の PC は、〈地域知識/東京12〉の PC の実に 3.38倍の量の知識を持っているのです。

レベル差分 規模(閾値)
0 1.00 (0.88~1.24)
+1 1.50 (1.25~1.87)
+2 2.25 (1.88~2.81)
+3 3.38 (2.82~4.22)
+4 5.06 (4.23~6.32)
+5 7.59 (6.33~9.48)
+6 11.39 (9.49~14.24)
+7 17.09 (14.25~21.36)
+8 25.63 (21.37~31.03)
+9 38.44 (31.04~47.55)

 本当は「すべての技能レベル」や「能力値」、「副能力値」なんかにも適用したいんですが、これ荷重ルールや移動力のルールとの相性が悪いんですよ。たとえば「1.5倍の腕力があるなら 1.5倍の重量を持ちあげられるだろ」って事になりますし。(だからこの概念を導入している『TORG』では、アイテムの重量も同じく対数評価になっています)

組織の技能レベルをまとめることで表現できること

 さて。
 この「みなし」を導入することで、何が出来るのかというと。
 そうすることで、「組織そのものを PC と同じように動かすこと」が可能になります。

 たとえば組織の構成員が 10人いて、彼らの〈管理〉が皆 10レベルであるなら、10倍の規模を上記の表で見て「差分:+6」なので〈管理16〉の組織とみなせるようになります。
 また〈管理14〉と〈管理13〉の二人組が協力することで、〈管理16〉の組織とみなせるわけです。

 こうすることで、「PC が組織に属すること」や「何らかの目的のために組織を結成すること」、そして「複数の PC が同じ技能を持つこと」に、現実的な(ゲーム的な)価値を持たせることが可能になります。

 そしてまた、「高レベルのキャラクターを排除することで組織を弱体化させる」などのシチュエーションも、ゲーム的に表現可能になります。
 たとえば〈指揮16〉と〈指揮12〉の PC が 1人ずつの組織と、〈指揮10〉の PC 10人が集まった組織は、〈指揮〉の評価でいえば同じ〈指揮16〉です。しかし前者の組織の〈指揮16〉の PC が一人倒れた時と、〈指揮10〉の PC が一人が倒れた時の損害は、明らかに異なります。前者は〈指揮12〉まで一気に下がりますが、後者は〈指揮16〉のままです。

 こうした差異によって、高レベルのキャラクターに率いられたワンマン組織に対しては「妨害」や「囮」、「暗殺」などの作戦をとり、低レベルで複数のキャラクターが集まった組織は高レベル PC で組織ごと蹂躙する……などゲームの幅を拡げることにつながります。

対数システムの計算

 対数システムの計算は、パッと見にはさっぱり分からんかもしれませんが、実は表と加算だけで計算できます。
 たとえば L15 と L12 の合計を出す方法は……

  1. まず L12 に数値を揃えます。(L12 を基準値とする)
    • L15 = L(12+3) → 「差分:+3」より「規模:3.38」
    • L12 = L(12+0) → 「差分:+0」より「規模:1」
  2. 次に「規模:3.38」と「規模:1」を“足して”「規模:4.38」。
  3. 表より「規模:4.38」は「差分:+3」の範囲。
  4. よって基準値 (L12) に「+3」した L15 が答えとなります。

 ……こんな感じ。
 コツは「基準値」の設定でんす。
 ホントは差分マイナスの表もあるんだけど、めんどくさいので今回はパス。

低レベルの PC は協力しても無駄じゃない?

 判定の際には 15 を使用しますが、リアルなパラメータが必要になるとき(たとえば協力して行動をするとき)は、ちゃんと「L12 の 4.38倍」にすれば、協力が無駄にならずに済みます。「塵も積もればナントヤラ」ってこともありますし。

無駄に増補された「余談」(笑)

対数システム好き好き(笑)

 自分の対数システム好き(笑)は、この手の表現力に富んでる点から。
 たとえば上に書いたゲームの拡げ方は、『T&T』の戦闘モデル*4[『T&T』の戦闘モデル] = 『T&T』の「攻撃力の高い個体は魔法と射撃武器で、数が多ければ《~の壁》呪文などで分断して各個撃破、残った雑魚集団はボコスカプレス」といった戦術モデルに沿っている。なんだけど。
 ああいう戦術性の高いプレイングを、セッションを通じて表現できるのが強みですわな。

 それを『GURPS』と合わせたのは、『GURPS』の 3D6 下方ロールの確率分布の曲線との相性がいい……って考えてるからで。
 「人間の認識する“感覚的な規模”は対数関数的である」って話があって、まあ「ウェーバー – フェヒナーの法則」なんかに始まって、「地震(マグニチュード)」や「星の明るさ(等級)」、「音の大きさ(デシベル)」なんかの数値化には対数が使われてるらしい。「情報量(エントロピー)」なんてのもあるわいな。
 その辺はまあ、最終的には「直感的な成否確率の理解」とのバーターなんで、好みの話になるんだけど。

対数システム見る前から好きだったんだけど

 対数とか指数(逆対数)とか、ああいう曲線が昔から好きだったんよね。
 『TORG』で出会う前から、『スペオペヒーローズ』におけるキャラクター作成のポイント*5[スペオペヒーローズ] = 技能は「獲得レベルの2乗」、能力値は「獲得レベルの2乗×10」ポイントを支払って獲得する。や『パワープレイ』の必要経験点チャート*6[パワープレイ] = レベルアップの必要経験点が「次のレベルの2乗×100」。なんかで使われてたんよ。
 僕は最初にそっちの方で、指数関数的な分布が好きになった。
 なんといっても分かりやすかったし。

 そういや、どっちもデザインされたの山北篤氏だっけ。
 考えてみりゃ自分の『箱庭世界』も『パワープレイ・プログレス』の色がかなり強いし、氏のデザインは昔から肌に合ってたんだろうなァ。

『GURPS』の性能をフル活用するために

 これ、まあ慣れないと使うの大変ですわな。
 実際に馴染んでもらうまで、ちょっと時間かかったし。(その間、計算は全部僕がやってた)
 それでもコレを導入してるのは、それによって『GURPS』の持つ記述力をフル活用するため。

 『GURPS』の語彙は最高峰だと思うし、普通のゲームシステムじゃ出来ないような「直接的な生命のやり取りでない“戦い”」を記述するための材料まで、キッチリ揃ってる。なのに肝心の「ルール」が存在しなかったから、それを実際に記述する文法が無かったんよね。
 だから折角『GURPS』使ってんのに、単純なバトルゲームなんかやっちゃったりする。
 まあ「いかにシナリオと無関係なところでキャラクターの造形を掘り下げるか」のトレーニングにはなるかもしれないけど、ゲームとしてはブレが大き過ぎて、事故率が上がる一方なんよね。

 なんでまあ、自分なりに「ちゃんと『GURPS』を使いこなす方法」を考え続けて……
 考え続けて 5年くらい実験しまくってたどり着いたのが、ここ。
 こいつを使いこなせば、シナリオ全体を戦場にしたゲームが構築できます。*7[シナリオ全体を戦場にしたゲーム] = こいつをシンプルにまとめると『ハンターズ・ムーン』になる、と考えてる。

他のゲームシステムでは使えないの?

 他のゲームシステムでも使えないのか? ってのはまあ、工夫すれば使えるはず。
 実際、この考え方を土台にして『Shadowrun』やら『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』やら……まあ他にも色々やってるし。

 ゲームシステムやゲームスケールによって「(対数の)底をいくつにするのか?」なんてトコから考え始めるんで、同じシステムを使っていても、チャートが全然変わってきたり。
 たとえば『Shadowrun』のレーティングは通常 6 ~ 8 あたりが天井になるわけで、『GURPS』みたいに 3 ~ 18 ほど幅はない。だから基準を大きめにして評価領域を広げないと、記述される社会のスケールが小さくなっちゃうんよね。

ゲームマスターの資源管理ルールでもあって

 こりゃまあ、ゲームマスターの資源管理ルールでもあって。

 不用意に強い NPC を出すと、その NPC の属する集団は自動的にワンマン化しちゃうんですね。
 たとえば組織のレベルと同値の NPC 出しちゃうと、その時点で組織に残った人材のレベルは、全部足しても「組織レベル-2」の範囲になっちゃう。
 一瞬でオケラですわ(笑)
 そんな感じで自然、GM は NPC のデータをケチるようになります。
 お陰で PC は「必要なデータを持つ NPC を探すゲーム」が必要になったり。

 集団のデザインには、その規模や役割などから GP (Group Points) を設定して、後は『GURPS』のキャラクターメイキングと同じようにデザインをします。
 この辺の作成ルールとデータは粗方あがってるんで、今はだいぶ楽だったり。*8[集団デザインルール] = たとえば「†組織の傾向」(-20~40GP) という集団特徴には、「絶対王政」「共和制」「評議会を持つ」「友達付き合い」等の分類がある。これは「†気質」(=民族や宗教など所属する社会の典型的な精神構造を持つ)というローカルの追加特徴が元ネタ。

ローカルルールを足して新しいゲームを開拓する

 何を数値化するか?
 数値は何を表しているか?
 2つの数値にどんな関連性を持たせるか?

 そんなことちょっと考えてみると、そこから新しいゲームが拓けちゃったりするのです。
 これもアナログゲームの楽しさのひとつかなーとか。

References

References
1 [CLD] = 「Campaign Leading Data」の略。なんでこんな名前にしたんだろ?(笑)
2 [生活コストの配分] = 『Shadowrun』第3版「Sprawl」にある追加ルール。
3 [指定された技能] = 主に IQ 基準の技能
4 [『T&T』の戦闘モデル] = 『T&T』の「攻撃力の高い個体は魔法と射撃武器で、数が多ければ《~の壁》呪文などで分断して各個撃破、残った雑魚集団はボコスカプレス」といった戦術モデルに沿っている。
5 [スペオペヒーローズ] = 技能は「獲得レベルの2乗」、能力値は「獲得レベルの2乗×10」ポイントを支払って獲得する。
6 [パワープレイ] = レベルアップの必要経験点が「次のレベルの2乗×100」。
7 [シナリオ全体を戦場にしたゲーム] = こいつをシンプルにまとめると『ハンターズ・ムーン』になる、と考えてる。
8 [集団デザインルール] = たとえば「†組織の傾向」(-20~40GP) という集団特徴には、「絶対王政」「共和制」「評議会を持つ」「友達付き合い」等の分類がある。これは「†気質」(=民族や宗教など所属する社会の典型的な精神構造を持つ)というローカルの追加特徴が元ネタ。