[memo] 情景描写支援の試み

 情景描写に対する苦手意識ってあって、その辺も商業リプレイのハードルの高さからっていう、なんかこう宣材が逆効果になっちゃう皮肉。まあその辺については前回、裏側を見せて解消しちゃえっていう話を書いたわけですが。
 もっとなんかこう、実地で苦手意識がある場合はどうしたらいいかしらん? という。

対処-2. ゲームプレイ自体の支援

 そもそも「情景描写」がどんな活動かというと、「単なる事実を物語的に編集し、付加価値を与える」というものです。物語的な編集、というと様々なバリエーションが有りますが、ここでは最もシンプルな「戦闘シーン」について考えてみることにします。

戦闘シーンにおける PC の行動の物語的な価値とは?

 「戦闘シーンにおける PC の行動」というのは、ここでは「攻撃」とか「防御」とかいうルールに沿った処理を指します。[ゲーミング]としては「攻撃/命中/ダメージ○点」で終わるものが、[シミュレーション]に来ると「PC が○○を殴って怪我をさせた」等になります。
 ゲームとしての処理、ゲーム世界の中での現象としては、これで十分です。そこに[ナラティブ]の要素を加えようとするとどうなるか?

 例えば「物語的な価値」として「臨場感」を設定しましょう。「臨場感」とは何か? それは血肉を削る戦いの緊張感ということになるでしょうか。もうちょっとだけ具体的に書くと、死の恐怖や高揚感といった要素が、戦いの緊張感を感じさせるエッセンスになります。
 ゲームシステム側でも、それは様々なルールによって演出するべく試みられています。ヒットポイントの増減なんてな最たるもので、HP:0、死へと着実に足を進めることのスリルが、こうした緊張感の演出材料となっています。
「その戦闘の結果に対するキャラクターの行動の重要性」と設定しましょう。たとえば戦いを勝利に導いた重要な行動であったのか、あるいは敗北の危機を招く行動だったのか……はたまた語るに値しないような、どんな戦いにも見られるひとコマなのか。
 そうした重要性――または「位置付け」――を明らかにするために、あたかも物語のワンシーンのように丁寧に情景を描写し、演出するわけです。

『聖珠伝説パールシード』の試み

 では実際どうするか。
 「どう情景を描写すればいいのか分からない」ということを、「どういう言葉を喋ればいいのか分からない」ということだと考えると、必要なのは「言葉」ということになります。ほとんど全ての TRPG が、描写については漠然とした指針を提示するだけで、具体的にどんな言葉を使えばいいのか、ということは教えてくれません。

「だったら言葉のチャートを作ってしまえばいいじゃないか」

 ……という考え方が、一つにあります。
 実際こうした試みをしたシステムっていうのが過去にありました。『聖珠伝説パールシード』ってのがそれなんですが、こいつはダメージダイスの出目によって、それぞれ「読み上げるセリフ」まで書いてあります。とりあえず例として、1レベル戦士のチャート(同システムでは「コンバットマトリクス」と命名されています)を実際に見てもらいましょう。

カブ・ボーイ(1レベル戦士)
  1. しまった! 剣の重さに足がふらつき、転んでしまった! 剣に振り回されるとは情けない! HPが2減る上に、次のラウンドは攻撃ができないぞ!
  2. 失敗だ。剣は大きく宙を切っただけだった!
  3. 剣は相手の体にかすっただけだ。惜しい。1ダメージ。
  4. 何とか剣の先っぽが当たる! 2ダメージだ。
  5. よし当たったぞ! 3ダメージ。
  6. いいぞ! 4ダメージだ。
  7. 風を切る音と共に、5ダメージ。
  8. 確かな手応えだ。6ダメージ。
  9. ヒュウと風を切る音。剣は相手の肉を切り裂いた。7ダメージ!
  10. 剣は相手の体に深々と刺さった。8ダメージだ!
  11. 相手の急所をうまくつく。やったぞ。10ダメージだ。
  12. 剣と体が一体になったような感覚を一瞬覚えた。その瞬間だけは妙に剣が軽かった。そして、確かな手応え。剣の名手のような正確さで相手の急所をついていたのだ。20ダメージ。
(『聖珠伝説パールシード』ルールブック p.10)

 テキストの出来や「誰が語るべき内容か」*1[誰が語るべき内容か] = 『聖珠伝説パールシード』のコンバットマトリクスは、一人称でも三人称でもない、いわゆる「二人称」のような印象を受けます。どちらかといえば、このテキストはゲームマスターがプレイヤーに向けて語るような内容に思えます。しかしプレイヤーが語ることになっている……このあたりが同システムに妙なものを感じるところです。同種の二人称テキスト(“あなた”に語りかける文章)はいわゆる「ゲームブック」によく見られますが、これは同システムが「プレイ・バイ・フォン」や「パソコン通信」といった、既存のものとは異なる環境への適応を意識しているためなのでしょう。 については置いておくとして、サイコロの結果によって、描写を決定するわけです。

 こないだの「ゲームプレイ・ルーチンってこんな感じ?」の流れで考えると、[ゲーミング]に準拠する「ダメージ」と、[シミュレーション]に準拠する「具体的な行動」とを合わせて、自分なりに評価をすることで描写する……ってことになるのかなーと。

カードの機能によって拡張された情景描写支援

 こうした遊び方のフォロー方法は、近年になって『シルバーレインRPG』や『ガンメタル・ブレイズ』など、「カードに書かれたセリフを読む」とか「カードのキーワードを使って語る」といった方法で見られるようになりました。
 かつてパールシードが「サイコロ=ランダマイザ」によって試みた方法が、「カード=ランダマイザ兼リソース」というツールによって、より選択的に、恣意的に活用出来るようになったわけです。*2[カード=ランダマイザ兼リソース] =  こうした活用法は『トーキョーN◎VA』で定着したものでしょう。

References

References
1 [誰が語るべき内容か] = 『聖珠伝説パールシード』のコンバットマトリクスは、一人称でも三人称でもない、いわゆる「二人称」のような印象を受けます。どちらかといえば、このテキストはゲームマスターがプレイヤーに向けて語るような内容に思えます。しかしプレイヤーが語ることになっている……このあたりが同システムに妙なものを感じるところです。同種の二人称テキスト(“あなた”に語りかける文章)はいわゆる「ゲームブック」によく見られますが、これは同システムが「プレイ・バイ・フォン」や「パソコン通信」といった、既存のものとは異なる環境への適応を意識しているためなのでしょう。
2 [カード=ランダマイザ兼リソース] =  こうした活用法は『トーキョーN◎VA』で定着したものでしょう。