[chat] 20100104#2-戦術研究の研究?

TRPGの戦術研究の良し悪し
ケイ
「ところでそんなにバトルゲー化してんのか? TRPG。年末あたりからTRPG系のブログ読み漁ってんだが、戦術研究とか少なかったみてえだぞ」
玄兎
「いくつか理由は考えられるんですが、単純に戦術研究を公表するのを惜しんでる人たち、戦術研究の公表にかかる手間の問題、あとデータッキー、和マンチって言葉の持つニュアンス、関連してエターナルチャンピオンという言葉の持つ意味、あたりが表面的な根っこなんじゃないかと」
ケイ
「ブログを探しても出てこないか?」
玄兎
「最も活発なところで、D&Dなら出てくるかなあ。あとフィア、FEAR系のタイトルのいくつかは強いコンバット志向で、商業リプレイでもデータコンボの実例を提示したりしてますんで、単純なスキルビルドのレベルでなら出てくるんじゃないかと。ただコンプレクスな戦術というより、個々人のデッキデザインのレベルが大半でしょう」
ケイ
「理由は?」
玄兎
「いくつかあるんですけど、基本的にPCのデザインはプレイヤー個々人が持つ最大の権利で、そこに横槍というか、口出しするのはタブーだってのがあるんじゃないかと。モラルとしては正しい方向性だと思います」
ケイ
「モラルとしては、か。じゃあゲームとしては?」
玄兎
「PCデザインのレベルでは口出しするべきじゃないと思います。実際に使う場になってから、そこでガチでスポーツ的にプレーするなら他人に口出し、大いに有りだと思います。口出しと言うより声出しですよね。それに乱戦中に怒号が飛び交うとか、むしろリアルじゃねーかとも思いますし。この辺も、でも実は現在のコンバットゲームの穴だったりするんですが」
ケイ
「詳しく」
玄兎
「ワンマンアーミーが多すぎるんですよ。ちょっと長い話になるんで、順を追って話てみたいんですけど、いいですか?」
ケイ
「それ若い連中に話す意味ある?」
玄兎
「てかベテランなら当たり前に考えてる話だと思いますよ」
ケイ
「そか。まあいい、やってくれ」
玄兎
「分かりました。じゃあお言葉に甘えて。まずTRPGで規模の広い戦術研究がしづらい、あるいは敬遠される最大の要因なんですが、それはパターン化を嫌うってことだと思います。優れたボードゲーム、たとえば囲碁や将棋なんてのは、最善手ってのが必ずしも存在しない。少なくともそう考えられてます。だから研究もするし信念も持つ」
ケイ
「信念ってなんだよ」
玄兎
「たとえば加藤一二三九段て棋士は、もうなんかバカの一つ覚えかと思うくらい棒銀て戦術を使うらしいんです。そのことは他の棋士は知ってるわけで、そらもう棒銀への対抗策とか研究してくるんですが、それでも棒銀を指す。なんでかったら研究されていてもなお、棒銀で三割勝ってるそうなんですね、加藤九段。それで研究されても三割勝てるってのは棒銀て戦術が優れてるからだと。だから三割勝てる内は棒銀を指し続けると」
ケイ
「三割でいいもんなのか?」
玄兎
「でも戦術が知れてても勝てるって凄いことですよ。そんなん普通は戦力差とか、分かってても勝ち目が無い、とかいう次元の話で」
ケイ
「それもそうか。そこまでくるとあれだな、別の戦術で負けたりしたら、棒銀使ってりゃ勝てたかもとか考えるだろうし。そら嫌だわなあ」
玄兎
「そうそう。そういうのがあるから命懸けで、ても別に負けても死ぬわけじゃないけど、とにかく真剣に棒銀打ち続けてるんでしょう。将棋の戦術史は知らんのですが、もしかしたら加藤九段がいたおかげで棒銀研究が大きく進んだ、なんてこともあるかもしれません」
ケイ
「打倒加藤、なんて棋士が出てくればバトル物っぽいな」
玄兎
「あれですよ、『月下の棋士』の世界」
ケイ
「ああ」
玄兎
「で、えーと話戻ります。戦術研究の話ですけど、TRPGって戦術研究すると、どうしても有利不利が発生しやすいんですよね。最善手が有る、というか」
ケイ
「ギャザでも最善手に近いものは組めたけど、有ったとしてもトークンがランダムだったから使えるとは限らなかったしな」
玄兎
「それにデッキの相性もありましたからね。でもTRPGは最初からトークン揃った状態で戦えるんで、理想的とする戦術が常に実行できる状態にある。この時点でスキルビルドが固定化しやすいわけです」
ケイ
「スキルビルドが固定化すりゃ、まあ普通はスキルユースも固定化するわな」
玄兎
「ですね。で、最善手ばっか使うってのはパターン化ですし、パターンで戦闘が解決できるようになると、折角のスリルが台無しになっちゃったりします。あと最善手だろうと思わしきものが敵にバレれば、当然その対策も講じられてくるわけで、そういうのを嫌う人もいます。いわゆる和マンチ、和製マンチキンってのは、そういう最善手を突き詰めるプレイヤーのことで、そういうのは通じゃない、とか大人気ない、とかいったニュアンスでやんわり卑下されるわけです」
ケイ
「それはなんとなくわかるな。あれだろ、格ゲーで格下プレイヤー相手に強キャラセレクトするようなやつ(笑)」
玄兎
「そうそう(笑)。で、まあそんな最善手なんですが、そもそもそれを発生させちゃうTRPGの構造的欠陥てか、システムデザイン上のドでかい課題がひとつあって。ヒットポイント制のことなんですが」
ケイ
「ヒットポイントが課題? そりゃあれだ、削り作業だな」
玄兎
「です。なぜ最善手が出来てしまうのか、て話になるんですが」
ケイ
「強くなったことを実感させるのに、分かりやすいのは数量の拡大だからだろ。ヒットポイントが上がんのって、あれ、ダメージのアベレージが上がるからだしな」
玄兎
「そうなんですよね。相対的に強い敵というのは、その派手なダメージに耐えられるよう、ヒットポイントを上昇させなければならない。同じ原理でPCのヒットポイントも上がります。しかもドッヂ*1[ドッヂ] = 「dodge=回避」のこと。「ドッヂロール」は回避判定。は少なめにしなければならない」
ケイ
「避けられまくるとモチベーション下がるんだよなあ。シューティングでもアクションでも、敵が早くて避けまくるタイプだと、追い回すだけで疲れるってのと同じだな」
玄兎
「マニアクスのマタドール先生には苦労させられました(笑)」
ケイ
「ありゃまあ、そういう生き物だから(笑)」
玄兎
「とにかくそういう、ドッヂを敬遠するメンタルがある。折角レベルアップして、与えるダメージが上がったのに、それがあっさり避けられましたで無効化されたら、そら嫌気もさすってモンで。昔、『ガープス・ルナル』で回避がバカ高いトロールってのを出されたことがあって。こっちの攻撃がクリティカルしないと、3D6で15以下で回避されるんですね。そらもうやる気なくなるわ(笑)」
ケイ
「範囲魔法でぶっ飛ばすとかは、あ、ガープスか」
玄兎
「です。3秒かけて3Dにして、狙って狙って投げても避けられてダメージ半減じゃあ」
ケイ
「これだからガープスってやつは(笑)」
玄兎
「ガープスの正しい攻撃魔法というのは、鎧装備の敵に《痒み》です(笑)」
ケイ
「地味すぎるっつーんだ(笑)」
玄兎
「強いのに。まあ最強の攻撃呪文は《物理障壁》で相手を閉じ込めた上で《悪臭》と《火炎》のコンボですけどね」
ケイ
「なんでそれが最強なんだ?」
玄兎
「まず《物理障壁》で相手が脱出出来ない状況を作った上で、内部の空間に《悪臭》をかけて呼吸する度に生命力抵抗、失敗すると直接ダメージの状況を作り、足元に《火炎》をかけることで無呼吸でいられる時間を半減させます。まあ準備に時間かかるんで、実践するには騙し討ちにするしかないんですが」
ケイ
「それは回避手段ねえの?」
玄兎
「ありますよ。《瞬間移動》でも使えば簡単に脱出できます。あとは《物理障壁》をキャンセルしてもいいし」
ケイ
「それは封じられんのか」
玄兎
「それ封じちゃうと、《悪臭》と《火炎》がかけられなくなるんで」
ケイ
「なるほど」
玄兎
「これもまあ、相手が脱出手段を持ってなかったら対象は自動的に消滅する、で構わないくらい酷い手段ですけど、勝てりゃいいってもんでもないし、エレガントさに欠けるってもんで」
ケイ
「避けまくりは駄目。ヒットポイントは削らせろ。それから?」
玄兎
「その線でいくと、退屈させるな、ですね。戦闘にかかる時間が長い。結果的に、戦闘で活躍出来ないPC担当は、もれなく退屈できます」
ケイ
「おめでとうございます(笑)」
玄兎
「ありがとうございます。て、そうじゃない(笑)」
ケイ
「あるよな、そういうの。支援し終わったらキャンセルされるまで防御か攻撃か、何も期待されなくなるキャラ(笑)」
玄兎
「だから2ターンで効果消えるようにしたんでしょう?」
ケイ
「まあな」
玄兎
「同じ発想がTRPGの方でも有りまして。退屈させないために、たとえば防御呪文と回復呪文のエキスパートがいたとして」
ケイ
「クレリックか」
玄兎
「そんな感じで。だとして、その辺のクラスが戦闘で意味を持つようにするためには、毎ターンかそれに近い比率で、その辺の支援スキルを使うような状況に持ち込まなきゃいけないわけです。とすると敵の攻撃も当たり易くしないといけない。避けまくり軽戦士にゃ回復も防御強化も不要ですから。その辺を考えると、ドッヂロール自体があんまり意味がなくなってきます。あるいはドッヂロール、プロテクション、ヒーリングの使いどころがそれぞれ分かれるようなデータを組むことになります」
ケイ
「ああ、『D&D』ライクのシステムが、いつまで経ってもクラスを横に広げねえのと同じだな。コンバットのエキスパートってなそれほど種類が多くならねえから」
玄兎
「だと思います」
ケイ
「あれ、いつまで経っても『D&D』から抜けやしねえっての、あっちのユーザからも聞くんだけど、絞って作られてる分、ああなるのはしょうがねえわな」
玄兎
「逆にクラスが無駄に多いシステムとか、同人ゲームじゃよくありますけど、結局すぐに有利不利がバレるんですよね。それで結局、使われないクラスの印刷ページは資源の無駄(笑)」
ケイ
「世知辛えなあ(笑)」
玄兎
「まあ、そんなんこんなんで最近は、初心者は戦士に、ではなく初心者は支援タイプに、てパターンもデファクトスタンダード化してるような気がします」
ケイ
「なんでだ?」
玄兎
「プレイングのパターンなんですけどね、達成感を味わいやすい。特に他のプレイヤーからフォローに感謝されやすいことと、ベテランプレイヤーが遠まわしに指示しやすいってこともあります」
ケイ
「ああ、回復してくれ、とか」
玄兎
「そうそう。それはPCとしても自然なセリフでしょう。命に関わる状況で、そら助けてくれくらい言うわけで。で、回復すればサンキューと言われる。敵ぶん殴ってても感謝はされませんから(笑)」
ケイ
「そりゃそうだ(笑)。敵なんか倒しても当然だしなあ。ギリギリで倒して助かった、くらいか」
玄兎
「ですね」
ケイ
「なるほどな。達成感を感じる位置が変わってんだな」
玄兎
「アダルトチルドレンが増えてますからね。もちろんエターナルチャンピオンとしてのテンダイスソードってのも健在なんですが」
ケイ
「なるほど」
玄兎
「で、まあさっきの話なんですけど、TRPGって他のプレイヤーのPCになんかしてくれって頼むのが難しいとこあるんですよね」
ケイ
「まあPCってな自分の城だからなあ。他人にとやかく言われていい気分ってこともねえか」
玄兎
「そう。まあその辺もあって、なるべく自分ひとりで解決しようとする傾向が強クなってる気がします。これがコンシューマだったら、一人で何人もPC操作できるんですけど。今んとこ一人のプレイヤーが同時に複数のPC扱うゲームって、たぶん『TRPG大宴会』に掲載された『モンスターメーカー』のシミュレーションRPGくらいなんじゃないかな?」
ケイ
「『メックウォーリア』もスイッチするだけだしな」
玄兎
「『パラノイア』も基本的には一人ですし。別に複数人を動かし立って構わないと思うんですけどねえ」
ケイ
「プレイヤーのポテンシャル頼みだからじゃねえの?」
玄兎
「それはありますか」
ケイ
「ウォーシミュレーションでもトークン多すぎると考えられなくなるだろうが」
玄兎
「『タクティクスオウガ』より『FFタクティクス』の方が遊びやすい、とかですね」
ケイ
「だな」
玄兎
「ちょっと脱線しかけてるんで、むりくりまとめます(笑)」
ケイ
「(笑)ああ、そうだな。やってくれ」
玄兎
「はい。で、結局そういういくつかの要件があって、だから集団戦術ってのは研究されづらいんだと思うんです。大きなところでは、他人のプレーに口を挟みづらいこと、最善手が発見されれば戦闘が作業になってしまうこと、手の内をさらせば対策を研究されてしまうこと。それに関連して、戦闘には時間がかかること、退屈させないためには仕事を増やすこと、そのためにはヒットポイントの削り合いがメカニズムデザイン上の最善手とされていること。この辺が、システム側の持った戦術研究をさせにくい要件だと思います。あとはアルゴリズムを書いたり、戦術機動をグラフィカルに表現することが難しいことなんかもあります。逆に言えば、このうちのいくつかについてクリアされれば戦術研究は活発になりうると思いますし、コンバットゲームとしてのTRPGが生き残る筋にもなるかと思います」

References

References
1 [ドッヂ] = 「dodge=回避」のこと。「ドッヂロール」は回避判定。

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