昔、『ダブルムーン伝説RPG』って TRPG があってね。
凄まじい名作だったと思ってるんですが、なかなか語られることがないんですよ。
あまりに残念なので、ちょっとご紹介しておきます。
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とりあえず、手短に来歴から。
『ダブルムーン伝説』は、まずコンシューマゲーム雑誌「マル勝ファミコン」の読者参加型の誌上ゲームとして姿を表しました。この誌上ゲームは雑誌名が「マル勝スーパーファミコン」に変わった後も継続しましたが、編集部の内部事情と、メインデザイナーの大貫昌幸氏の急逝などから、第三部で終了になりました。
この『ダブルムーン伝説コンパニオン』が TRPG 化されたのは 1991年。
時期的には誌上ゲームの第二部実施中だったと思います(この辺ちょっとアヤフヤ)
その後、ワールドガイドを中心とした追加データを掲載した『ダブルムーン伝説サプリメント』が発売されましたが、上記のとおり大貫氏の急逝によりシリーズは途絶。
……と、だいたいこんな感じです。
後に『双月英雄伝ダブルムーン』なんてのが「コンプRPG」(あれ、「ゲームクエスト」だっけ?)で掲載されましたが、内容がまったく別モノでガッカリした記憶があります。
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次にゲームデザインですが。
これがまた、初めて見たときは衝撃的でした。
システムの根幹は、従来の他のシステムと大差ない種族+クラスのキャラクター作成でした。
が、最初にど胆を抜かれたのは「一人で持てるアイテムは 8個まで」という、コンシューマ RPG 『ドラゴンクエスト』のようなルール。
当時、既に『ソード・ワールドRPG』や『ロードス島戦記コンパニオン』が出ていましたが、しかし「どれくらいアイテムを持っていいのか」という基準が特に設定されていなかったので、平気で「ロープ1km」とか言い出すプレイヤーもいて、しかしそれに対する歯止めがなかったんですが、大上段に「8個までね」とやられたのはショックでした(笑)
次の長所は「戦士にも魔法がある」という設定です。
このシステム、なにげにクラスが 15 種類もあって、当時にしてはそれだけでも大したモノだったんですが、戦士系クラスにも《ファイターマジック》という必殺技っぽい魔法が用意されてました。
これ実はスゴイことで、当時の TRPG の戦士系クラスって『DnD』(今でいうクラシック)から綿々と受け継がれてきた「壁」の役割そのままで、レベルが上がっても行動範囲が広がらなかったんですよ。そこに「サンダーブレード」とか、必殺技要素を盛り込んできたでしょう。驚きました。
このゲームをやった後、『ロードス島戦記コンパニオン』が物足りなくなって戦士魔法を導入した、なんて人も当時は居たんじゃないかな? 少なくとも僕はやりました(笑)
ところでこのゲーム、見るべき点はたくさんありますが、中でも「討ち取りポイント」は好きでした。戦闘で相手にトドメをさした PC に、通常の経験点とは別にボーナス経験点を与えるという、ただそれだけのルールなんですが、コイツのお陰で戦闘が他のゲーム以上にヒートアップするんです。
なにしろ敵の LP(ライフ・ポイント:一般的な HP に相当)が減り始めてくると、みんな目の色が変わってくる。自分こそが最後の一撃を加えるんだと躍起になるわけです。
このルールの利点を、とりあえず三つばかり挙げてみます。
一つ目は、非戦闘系クラスの PC が戦闘中、退屈しないこと。
「討ち取りポイント」を狙うなら、敵にこれまでどれくらいのダメージを与えたのかをカウントしておかなければなりません。考えてプレーするゲーマーは、放っておいてもスコアラーになります。
二つ目は、戦闘が加速度的に盛り上がっていくということ。
「討ち取りポイント」を狙うとき、戦士系クラスの PC は序盤からアクセル全開でいくことはありません。このゲームには《ファイター・マジック》という必殺技がありますが、それは PP(パワー・ポイント:一般的な MP に相当)を消費する有限の手段だからです。
その結果、序盤はお互い探り合いをして、戦闘が中盤にさしかかった辺りから、必殺技の応酬になっていきます。
一度に与えるダメージレンジが広いということは、それだけトドメを差せる確率が高くなるということです。また逆に、もし討ち洩らしてしまったら、後衛に控えるハイエナども(笑)の露払いをしてやったダケということにもなり、そんなに悔しいことはありません。ですからこれは「討ち取りポイント」を狙うなら必然の戦略となります。(そして必殺技のダメージが低かったときこそハイエナたち(笑)の出番となるわけです)
三つ目は、GM が戦闘での演出をするようになるということ。
これは私見ですが、「討ち取りポイント」のルールを十全に活用しようとすると、PC が与えたダメージで敵がどうなったかということを、ある程度は伝えていく必要があります。そうしなければ敵の LP が分からず、二つ目の戦略性が有効に機能しなくなってしまうためです。
どうでしょう?
15年以上経った現在でも、まったく遜色がないと思うんですが。
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こうして CRPG との親和性を図り、戦闘に重点を置いた設計は見事なものでした。
しかしこのとき既にメインストリームは『ソード・ワールドRPG』シナリオ集をメインとした“シナリオ攻略”型ゲームに移行しており、お陰でいまいち評価されることなく、誌上ゲームの終了と同時にフェードアウトしていってしまいました。