[英雄考] 外野手の悲劇

 唐突ですが。
 天然芝の球場の方が怪我も少なく、アクロバティックなプレーはやりやすいそうです。
 思うに外野守備の花形が少なくなったのって、“魅せるダイナミックなプレー”が出来なくなったせいなんじゃない? だから好投手、名打者だけにスポットライトがあたるようになったんじゃない?
 とか思いました。


 ダイビングプレーが出来なくなったことで外野手の守備範囲が狭まり、その分だけ予測行動の重要性が増しました。そしてそれに合わせて選手もプレースタイルを変化させていきます。
 これは玄人の目から見れば面白い(その上手さを理解できる)んですが、素人が見てもなんのこっちゃわからんので、あんまり面白くないんですよ。ショーとしては。

 これにはプロ野球の性質、つまり攻撃と守備がクッキリ分かれている点も大きく関わっています。
 ヒーローの資質には、まず「ハラハラドキドキさせてくれる」って要素が重要です。いうなれば“ギャンブル性”です。そして「緊迫した状況(ギャンブル)に勝つ」ことが、ヒーローの条件とも言えます。
(このとき“ヒーロー”とは「緊迫した状況から良い方向へ開放してくれる人間」ということになります。観戦者自身はその勝敗によって実際に利益/被害があるわけではありませんが、感情移入することでそれに近い状況を楽しむことが出来ます。特撮ヒーローと同じ構造です)

 ところが上手な守備、予測行動が適確な守備というのは、ちっともハラハラドキドキしません。淡々とプレーが進行し、当然のようにアウトを取るだけです。これはそのチームを応援している人とっては重要なことですが、興味本位で見ている人にとってはツマランのです。
 対してダイビングキャッチというのは、分かりやすい勝負どころなんですね。ダイビングキャッチって、落としたら間違いなく進塁されるけど、キャッチできれば攻撃側の流れをバッサリ一刀両断に出来る。そういうギャンブルなわけです。見ているだけで、ハラハラドキドキできるものです。
 だからダイビングキャッチをする選手は“勝負師”であり、そういう選手のプレーってのは、ハラハラドキドキできます。このドキドキ感を味わわせてくれ、しかも勝つってのが、ヒーローの資質なんです。

 余談になりますが、これは名打者と名
投手の一騎打ちと同じ法則です。その対決もやっぱりハラハラドキドキするもので、一球一球、彼らは相手の思考を読み合い、どちらかが読みあいに勝っても、その後更に力勝負もあります。
 そうした勝負を魅せてくれる彼らがヒーローになるのは必然でしょう。

 で、まあ冒頭にもいいましたが、ダイビングキャッチが出来なくなったということは、外野手にとって魅せ場が一つ奪われたのも同然です。彼らにスポットライトが当たりにくくなったのも、むべなるかな、と。
(あくまで外野手として見たとき、残された“魅せる要素”は強肩によってアウトを取る守備くらいでしょうか?)

*  *  *

 余談ですが、サッカーでも当然ながら予測行動は大事です。
 ……なんですが、攻守が常に入れ替わり続けるサッカーの場合、「チャンスのとき、何故かいつもそこにいる」ってのはむしろヒーローの資質になります。

 なぜならチャンスボールをベストポジションで受けることは、その先にシュートのチャンスというギャンブルが待っています。このギャンブルに勝つことができれば間違いなくヒーローです。
 ただ、サッカーというスポーツは試合時間に比して得点数が少ないことにあります。観戦者は最初からそのことを知っているので、その時は得点できなくても「次がある」という期待感によって評価を維持します。(この辺がサッカー観戦の麻薬性かもしれません。サポーターが一丸となって期待感を持ち続けることができるという要素)

 サッカーで名アシストがヒーローになれるのは、「彼がボールを持てば、次にチャンス(ギャンブル)を演出してくれるに違いない」という期待感によるものでしょう。
 その辺が野球とサッカーの大きな違いです。