[夕映えの物語] 00.どこかの町で

 


「この娘は、夕日を抱いているわ。力強いくせに、とても切ない想い」
「俺たちは夕日に照らされた、影みたいなもの」
「色濃い闇で作った、切り絵みたいなものなのよ」
「朝日が当たれば溶けちまう。俺みたいなもんだよ。へへ」
「それに少年、夕日は夜の進軍ラッパ。我々は夕日から生まれるのです」

――ある月夜の宴にて

「ごめんなさい」

 電話の向こうで、別れを告げる声がした。
 ほがらかで、すこし気弱で、笑顔でみんなを気を遣って。
 可愛かったけど、それ以上に彼女がものすごく無理をしているように見えた。
 守ってあげたくて、それがそのまま、プロポーズの言葉になっていた。
 みんな冗談だろうと笑ったし、俺も冗談さと誤魔化したけど、本気だった。
 彼女も笑っていたけど、後であれには本当に困ったと、楽しそうに教えてくれた。

 好きなんだ。

 それがどうして、こんなことになったのか。
 いつの間にか、喧嘩になって……
 きっかけは、修学旅行だったか、進学だったか。
 いや、なにかもっと別のことだった気がする。

――廃線になったの。
――海の見える、岬の駅だったの。
――お母さんが反対するの。

 お母さん?
 いや、彼女のお母さんは、ずっと昔に海難事故で亡くなったんじゃなかったか。
 なにか違う。

――あまり長く生きられないの。
――そういう家系なの。
――私、子供は産んであげられない。
――それでもいい?

 違う。それはこっそりやりなおしたプロポーズの儀式。
 ちゃんとした場所で聞きたい。
 ちゃんとした場所で答えたい。
 そのときの彼女があまりに真剣だったから、恥ずかしかったけどやりなおした。
 山を背にした彼女の、瞳に映した夕日がとても綺麗だった。

 そうだ。夕日……

――夕日が暮れたら、帰っちゃいけない。
――二度と帰れなくなってしまう。
――だから、

 修学旅行には行けない。