「この娘は、夕日を抱いているわ。力強いくせに、とても切ない想い」
「俺たちは夕日に照らされた、影みたいなもの」
「色濃い闇で作った、切り絵みたいなものなのよ」
「朝日が当たれば溶けちまう。俺みたいなもんだよ。へへ」
「それに少年、夕日は夜の進軍ラッパ。我々は夕日から生まれるのです」
「ごめんなさい」
電話の向こうで、別れを告げる声がした。
ほがらかで、すこし気弱で、笑顔でみんなを気を遣って。
可愛かったけど、それ以上に彼女がものすごく無理をしているように見えた。
守ってあげたくて、それがそのまま、プロポーズの言葉になっていた。
みんな冗談だろうと笑ったし、俺も冗談さと誤魔化したけど、本気だった。
彼女も笑っていたけど、後であれには本当に困ったと、楽しそうに教えてくれた。
好きなんだ。
それがどうして、こんなことになったのか。
いつの間にか、喧嘩になって……
きっかけは、修学旅行だったか、進学だったか。
いや、なにかもっと別のことだった気がする。
――廃線になったの。
――海の見える、岬の駅だったの。
――お母さんが反対するの。
お母さん?
いや、彼女のお母さんは、ずっと昔に海難事故で亡くなったんじゃなかったか。
なにか違う。
――あまり長く生きられないの。
――そういう家系なの。
――私、子供は産んであげられない。
――それでもいい?
違う。それはこっそりやりなおしたプロポーズの儀式。
ちゃんとした場所で聞きたい。
ちゃんとした場所で答えたい。
そのときの彼女があまりに真剣だったから、恥ずかしかったけどやりなおした。
山を背にした彼女の、瞳に映した夕日がとても綺麗だった。
そうだ。夕日……
――夕日が暮れたら、帰っちゃいけない。
――二度と帰れなくなってしまう。
――だから、
修学旅行には行けない。