第1章 セッションはどのように始まるか
準備した設計を、実際の遊びへ移行する
はじめに
『準備論』では、セッションを始めるまでに何を設計するのかを扱いました。
遊びの目標を決め、ゲームシステムを選び、レギュレーションを整えます。
参加者を考え、シナリオを設計し、情報、NPC、判定を準備します。
さらにセッション運営やプレイグループについても設計します。
これらはすべて、セッションを成立させるための準備です。
しかし、準備が終わったからといって、遊びが自動的に始まるわけではありません。
実際のセッションには、準備したものをプレイヤーの前へ持ち出す段階があります。
キャラクターを確認する。
ルールを確認する。
必要な情報を説明する。
世界を提示する。
そして、
プレイヤーに最初の選択をしてもらう。
ここで初めて、準備していた設計が実際の遊びへ変わります。
この移行は、単なる事務手続きではありません。
準備中、GMが扱っていたのは「これから行う遊び」の設計でした。
しかしセッションが始まれば、GMの前には実際のプレイヤーがいます。
想定していたキャラクターとは少し違う行動をするかもしれません。
説明した内容を理解していないかもしれません。
逆に、GMが想定していなかったところへ興味を持つかもしれません。
つまり、セッション開始と同時に、GMの仕事は「設計すること」から「運用すること」へ変わります。
本章では、この移行をどのように扱うのかを考えます。
重要なのは、準備したものをすべて説明することではありません。
プレイヤーが判断できる状態を作り、その判断によってゲームへ参加できる状態を作ることです。
1-1 なぜセッション開始を設計するのか
セッション開始時に、GMは多くの情報を扱います。
ゲームシステム。
レギュレーション。
キャラクター。
世界観。
シナリオの導入。
プレイヤーが置かれている状況。
これらを適切に共有できなければ、プレイヤーはゲームへ参加できません。
例えば、プレイヤーが自分のキャラクターをどのように動かせばよいのか分からないとします。
世界観を知らないため、何が可能なのか判断できません。
あるいは、シナリオの目的が分からないため、何をすればよいのか分かりません。
この状態では、プレイヤーに「自由に行動してください」と言っても意味がありません。
第1巻『原論』で扱ったように、テーブルトークRPGではプレイヤーが情報をもとに選択します。
つまり、
情報がなければ、選択は成立しません。
セッション開始時にGMが行うことも、基本的にはこの構造から外れません。
必要な情報を提示する。
プレイヤーが状況を理解する。
プレイヤーが選択する。
その選択に結果を返す。
ここからゲームが始まります。
したがって、セッション開始の目的は「説明を終えること」ではありません。
プレイヤーがゲーム上の判断を開始できる状態を作ることです。
1-2 何を観察するのか
セッション開始時にGMが見るべきなのは、予定表だけではありません。
プレイヤーが実際にどのような状態になっているのかを観察します。
まず確認したいのは、ゲームを始めるために必要な情報が共有されているかです。
例えば、次のような状態です。
* 使用するゲームシステムが分かっている
* 今回のレギュレーションが分かっている
* 自分のキャラクターを理解している
* 自分のキャラクターが置かれている状況を理解している
* 最初に何が起きているのか分かっている
* 次に何を判断できるのか分かっている
ここで重要なのは、「説明したか」ではありません。
プレイヤーが理解できたかです。
GMが十分に説明したつもりでも、プレイヤーが理解できていなければ、ゲーム上は情報が存在していないのと同じです。
これは準備論における情報設計とも接続しています。
準備論では、セッション運営シートに「プレイヤーの理解」を重点的に観察する項目として設定しています。
つまり、セッション開始時からすでに観察は始まっています。
次に見るべきなのは、プレイヤーがゲームへ参加しているかです。
プレイヤーが黙っているからといって、必ずしも問題とは限りません。
考えているだけかもしれません。
逆に、よく話しているからといって、ゲームへ参加できているとも限りません。
重要なのは、発言量ではなく、
自分の意思でゲーム上の判断を行っているか
です。
「どうすればいいですか?」という質問が多いなら、情報が不足している可能性があります。
何をしていいか分からず沈黙しているなら、状況が理解できていない可能性があります。
逆に、「こうしてみよう」
「それならこっちはどうだろう」
「この情報を使えば、こうできるのでは?」
という発言が出ているなら、プレイヤーはすでにゲームへ参加し始めています。
観察すべきなのは、GMが予定通り説明できているかではありません。
プレイヤー側で意思決定が発生しているかです。
1-3 どう判断するのか
観察した結果を、GMは判断しなければなりません。
ここで重要なのは、すべての問題に対して同じ対応をしないことです。
例えば、プレイヤーが質問したとします。
その質問が単純な確認なら、そのまま答えればよいでしょう。
しかし質問の内容が、
「この世界では魔法ってどういう扱いなんですか?」
だった場合はどうでしょうか。
単に世界設定を説明するだけでは、情報量が過剰になるかもしれません。
反対に、
「分かりません。ゲームを始めれば分かります」
と答えれば、プレイヤーが判断するための情報を失います。
ここで判断すべきなのは、
その情報が、今のプレイヤーの判断に必要なのか
ということです。
必要なら提示します。
必要でなければ、後回しにできます。
この考え方は、情報設計で扱った「必要な情報を適切なタイミングで提示する」という考え方につながります。
同じことはキャラクター確認にも当てはまります。
キャラクターの能力をすべて説明する必要があるとは限りません。
今回のセッションで実際に使う可能性が高い部分を確認し、分からない点があれば補足します。
ルールについても同じです。
ルールブックの内容を最初から最後まで説明する必要はありません。
プレイヤーが判断するために必要なルールを共有します。
つまり、セッション開始時の判断基準は、
「何を説明するべきか」ではなく、「何があればプレイヤーは判断できるか」です。
1-4 どう介入するのか
では、プレイヤーが十分に判断できていない場合、GMはどうすればよいのでしょうか。
基本的には、情報を追加します。
例えば、
「何をすればいいのか分からない」
という反応が出たとします。
このとき、すぐに「では、この場所へ行ってください」と指示してしまうのは適切ではありません。
まず、何が分かっていないのかを確認します。
- 目的が分からないのか。
- 状況が分からないのか。
- 選択肢が見えていないのか。
- 世界の前提を知らないのか。
原因によって必要な介入は変わります。
目的が分からないなら、目的を提示します。
状況が分からないなら、現在の状況を整理します。
選択肢が見えていないなら、判断材料となる情報を追加します。
ルールが分からないなら、必要なルールを説明します。
ここで重要なのは、プレイヤーの代わりに判断しないことです。
GMが、
「では、あなたたちは森へ行くことにしましょう」
と決めてしまえば、セッションは進みます。
しかし、その選択はプレイヤーのものではありません。
第1巻『原論』で扱ったように、プレイヤーの選択が世界へ影響することがゲームとして重要です。
したがって、GMの介入は、
選択することではなく、選択できる状態を回復することを基本とします。
1-5 レギュレーション確認
セッション開始時に最初に確認するべきもののひとつが、レギュレーションです。
これは単なるルール確認ではありません。
今回のゲームがどのような条件で行われるのかを、参加者全員で共有するためのものです。
準備論では、ゲームシステム、レギュレーション、参加者、シナリオ、情報、NPC、判定、セッション運営、プレイグループという順番で準備を整理しています。
セッション開始時には、それらのうちプレイヤー側へ共有する必要があるものを取り出します。
例えば、
- 使用するゲームシステム
- 使用サプリメント
- キャラクター作成条件
- 使用するルール
- ハウスルール
- プレイ時間
- 今回重視する遊び
- 避けたいこと
などです。
ただし、ここでも「すべてを読み上げる」ことが目的ではありません。
必要なものを、必要な順番で共有します。
レギュレーションとは、プレイヤーを縛るための規則ではありません。
参加者全員が同じ条件でゲームを始めるための土台です。
1-6 キャラクター確認
次に確認するのがキャラクターです。
ここでは数値を確認するだけでは不十分です。
キャラクターが、今回のゲームの中でどのように機能するのかを確認します。
特に重要なのは、
- キャラクターが何をできるのか
- プレイヤーが何をしたいのか
- キャラクターが何を目的としているのか
- 今回のシナリオへどう関わるのか
です。
キャラクターシートの記載内容をGMがすべて読み上げる必要はありません。
むしろ、プレイヤー自身が自分のキャラクターを理解しているかを確認する方が重要です。
ここでも観察が必要です。
プレイヤーが、
「この能力はこう使えます」
と説明できるなら、問題ありません。
一方で、
「このキャラクターって何が得意なんでしたっけ?」
という状態なら、ゲーム開始前に補足しておく価値があります。
キャラクター確認は、準備したキャラクターを検査する時間ではありません。
プレイヤーが自分のキャラクターを使って判断できる状態を作る時間です。
1-7 世界観説明
世界観説明も同じです。
世界設定を詳しく説明すれば、プレイヤーが理解しやすくなるとは限りません。
必要なのは、プレイヤーが現在の状況を判断するための情報です。
例えば、
「あなたたちは帝国の歴史について三百年前から説明します」
という説明よりも、
「あなたたちは帝国領の国境都市にいます。現在、この都市では隣国との緊張が高まっています」
という説明の方が、現在の判断には直接つながります。
もちろん、世界観そのものが今回の遊びの中心なら、より詳細な説明が必要になるでしょう。
しかし、その場合でも目的は同じです。
プレイヤーがゲーム世界を理解し、そこで行動を選択できるようにすることです。
説明量は多ければよいのではありません。
プレイヤーの判断に必要な量を考えます。
1-8 導入を提示する
ここまで準備できたら、いよいよシナリオを開始します。
ここで注意したいのが、「導入を完成させよう」と考えすぎないことです。
GMが用意した導入を完璧に演じ切ることが、セッション開始の目的ではありません。
導入とは、プレイヤーを物語の中へ押し込むための文章でもありません。
プレイヤーが最初の判断を行える状況を提示することです。
例えば、
村で家畜が襲われる事件が続いている。
村長から調査を依頼された。
ここまで提示したうえで、
「どうしますか?」
とプレイヤーへ返せます。
この瞬間、準備していたシナリオが実際のゲームになります。
プレイヤーが、
「森を調べます」
と言えば、その選択に結果を返します。
「村人から話を聞きます」
と言えば、その選択に結果を返します。
「夜まで待ちます」
と言えば、その選択に結果を返します。
どれが正解なのかをGMが決める必要はありません。
必要なのは、プレイヤーが選択でき、その選択によって状況が変化することです。
1-9 プレイヤーをゲームへ参加させる
セッション開始の最後の段階は、プレイヤーへ判断を返すことです。
ここで初めて、GMは「説明する側」から「観察する側」へ移行します。
それまでGMは、必要な情報を提示していました。
しかしここからは、プレイヤーが何をするのかを見ます。
何を考えているのか。
何に興味を持っているのか。
何を誤解しているのか。
どの選択肢を比較しているのか。
そして、どのような行動を選ぶのか。
この観察を始めた瞬間、実践が始まります。
ここで重要なのは、プレイヤーがGMの想定通りに行動することではありません。
第8章「アドリブ構造論」で扱うように、プレイヤーがGMの予想を超えることは、テーブルトークRPGが意思決定によって成立する以上、むしろ自然なことです。
したがって、
「予定通りに始まったか」
ではなく、
「プレイヤーが自分の意思でゲーム上の判断を始めたか」
を確認します。
判断が始まったなら、セッションは始まっています。
本章のまとめ
セッション開始とは、準備した内容を説明し終えることではありません。
準備から実践へ移行し、プレイヤーがゲームへ参加できる状態を作ることです。
そのためにGMは、レギュレーションを確認し、キャラクターを確認し、必要な世界観を説明し、現在の状況を提示します。
そして最後に、プレイヤーへ判断を返します。
重要なのは、説明した量ではありません。
プレイヤーが必要な情報を持ち、自分の意思で選択できる状態になっているかどうかです。
セッションが始まれば、GMは「予定を実行する人」ではなくなります。
プレイヤーの反応を観察し、必要なら情報を補い、選択を支え、結果を返します。
それが準備から実践への移行です。
本章のチェックリスト
□ セッション開始が「説明を終えること」ではないと説明できる
□ 準備から実践へ移行する意味を理解している
□ レギュレーションを確認する目的を説明できる
□ キャラクター確認で何を見るべきか理解している
□ 世界観説明を情報量ではなく判断可能性から考えられる
□ 導入の目的を説明できる
□ プレイヤーがゲームへ参加できているか観察できる
□ 情報不足と判断できる状態の違いを理解している
□ GMがプレイヤーの代わりに判断してはいけない理由を説明できる
□ セッション開始を「プレイヤーが最初の選択を行った時点」から捉えられる
本章の結論
セッション開始とは、準備した設計をプレイヤーの選択へ接続することである。