[chat] 20100731#1

キャラクターが社会を背負ったゲームの話

シノフサさん(仮)
「『蓬莱学園』のシナリオの書き方教えて」
玄兎
「そんなもんは無い!」
シノフサさん(仮)
「無いの!?」
玄兎
「しいて言えば、ひたすら事件を羅列するみたいな感じ? いや本当はちゃんと普通に書けるんだけど、そうやって書いたシナリオを蓬莱学園で動かして面白かったかって言うと、打率二割八厘くらいの面白さだと思うんだよね」
シノフサさん(仮)
「じゃあどうすればいいの」
玄兎
「ひとつの事件がもたらす可能性を、委員会とか部活とかごとに考えておくこと? 蓬莱学園ってフィールドには全てが詰め込まれてるから、どんなことだって起こりうる。どんなことだって起こりうるものを、どうやって記述すればいいのかって言ったら、そりゃまあ書ききれるもんじゃない」
シノフサさん(仮)
「それは分かる。だから困ってんじゃん」
玄兎
「うん。だから困るんだよね。NPCとPCのパワーバランスをどう考えるか、とかにもよるんだよ。蓬莱学園で起こった事件は、誰かが墓穴にはまってむりやり帳尻合されるまで無制限に拡大していくわけだけど、その方向性についてはバタフライエフェクトみたいなところがある。ただそのバタフライエフェクトにしても、より力のある方に引っ張られるのは当然でさ。だからNPCの方がPCよりパワーがあるなら、NPCに主導権を握らせることで、事件拡大の流れを決め込んでおくことは可能なわけ」
シノフサさん(仮)
「PCにパワーがあったら、それはできない?」
玄兎
「うん。PCみんな委員長の委員長ゲームとか、超面白いけど超収拾つかなくなるよ。NPCに圧倒的なパワーを与えて相対的にPCを管理するのは、『クトゥルフの呼び声』の作法だね。神話的驚異っていう圧倒的なパワーによって、サーチャーは主導権を握られ続ける。ここから開放されて、PCが神話的驚異そのものになっちゃったりしたら、もうバトルモンガーの和マンチが暴れるような程度の低い話じゃなくて、まさにパワープレイになるわけでさ。バランス・オブ・パワー」
シノフサさん(仮)
「それってゲーム成立するの?」
玄兎
「ほとんど言ったもん勝ちになるところはあるかなあ。時間と経費と人員をリソースに、委員会やら有力クラブやらの持ってる問答無用の説得力、限定的なヒーロー効果とでも言うかな、これがまあ言ったもん勝ちを実現する源なんだけど、こいつを突っ込んでゲーム開始。でもすぐ蓬莱パワーの投げ合いになって、誰が最初に墓穴を掘るかの爆弾ルーレットになる。スペオペのヒーローポイント合戦、とはまたちょっと違うか。それはそれとして、重要委員会の委員長が墓穴に落ちて退学になったら、それはそれでもっと巨大な事件の始まりになるんだけど(笑)」
シノフサさん(仮)
「(笑)だめじゃん」
玄兎
「駄目なんだけど面白いんだよ。後で考えると馬鹿馬鹿しいんだけどね(笑)。まあそれは置いといて、蓬莱学園のシナリオの作り方って、シナリオの作り方というより遊び方の方なのかな、半ば遺失技術になりかけてたような気もするんだよね。伝承系がものすごく細くなってた。経済戦争で圧迫されまくってたから。系列としては、ルンクエのラインなんだけどさ」
シノフサさん(仮)
「ルンクエ?」
玄兎
「ルーンクエスト。信仰、だからカルトとかクランとか、キャラクターの行動方針とか行動範囲にベクトル与えた、PCに直接社会を背負わせた、たぶん初めてのTRPGシステム。それまで信仰に触れることはタブーとされてきたというか、セッションが黒魔術の儀式みたいに言われてた経緯なんかもあったし、移民国家としてのアメリカにとっては扱いづらいテーマだったんだろうけど、そこに早い段階から踏み込んでたパイオニアになんのかな。まあそれはいいや。とにかくゲームデータとオピニオンが面白い形でリンクしてるから、ひとつの目的を達成するにも安易な協力関係が結びにくいというか、一致団結してるはずなのに、皆してバラバラにアホなことを始めるというか」
シノフサさん(仮)
「名前だけは聞いたことあったけど、そんなゲームだったの、あれ」
玄兎
「うちで遊んでたときは、そんな感じでした。僕が参加してた範囲ではって話で、僕が参加してないところでは、もっと普通の『D&D』みたいに遊んでたのかも知れないけど。あの頃のタイトルはどうやって楽しむのか、ユーザが自分で探さなきゃいけなかったし、だからマスターの解釈とコンセプトでゲーム内容なんていくらでも変わっちゃったし」
シノフサさん(仮)
「じゃあ、あくまで旦那の話ってことで」
玄兎
「うん。そう思って聞いてください。どっちかというと村の古老の話、くらいのネタだわな。でね、実はこの遊び方がストーリードラマ型、あるいはナラティブ型ってのかな? そういう遊び方にとってものすごく重要な位置を占めてて」
シノフサさん(仮)
「どういうこと?」
玄兎
「PCが劇中の役割を演じるっていう話」
シノフサさん(仮)
「ロールプレイとかって話?」
玄兎
「そう。昔からロールプレイ、ロールプレイングについて、ゲームデータ上の役割、ロールを果たすプレイングと、キャラクターの性格的なものを演じる、ロールするプレイングっていう二つの区分があったんだけど、キャラクターの個性が物語的にどういう意味を持ってるかってのは、分かるでしょ?」
シノフサさん(仮)
「意味? ああ、ストーリーの展開をコントロールするとか? 時代劇の配役と性格みたいな」
玄兎
「そうそう。だからさ、この二つのロールプレイの間に、物語、ストーリードラマ、ナラティブ、まあ呼び方はどれでもいいけど、そういう類のバッファを置くとね、この二つの中間に物語上の役割を演じる、ていう三つめの区分が生じるわけ。で、ルーンクエストっていうのはその嚆矢だったと思うわけ」
シノフサさん(仮)
「蓬莱学園はその系譜って話?」
玄兎
「うん。部活なんかはまだ個性が存在しうるんだけど、委員会なんかは完全にカルトだよなと思う。部活も委員会も徹底して、その方針を自己肯定の材料として、他者を強弁でねじ伏せる材料として存在してる。海にも空にも密林にも、絶対的な自己肯定に基いた奔放さってか、要するに好き勝手を肯定する精神にロマンという名を与えて他人の迷惑顧みなかったり、風紀を守るために風紀を乱すことを厭わなかったり」
シノフサさん(仮)
「同じようなシステムって他にもあったの?」
玄兎
「海外では『ワールド・オブ・ダークネス』のシリーズ。ストーリーテラーシリーズって言ったほうがいいのか? とにかく『ヴァンパイア・マスカレード』とか『ワーウルフ・ジ・アポカリプス』とか『メイジ・ジ・アセンション』とか、あの辺は同じ系譜になってくると思う。突拍子も無い行動をとっても、だってマルカビアンだし、とか。まあマルカブさんにはマルカブさんの行動方針があるべきというか」
シノフサさん(仮)
「マルカブさんってなに」
玄兎
「マルカビアンっていうヴァンパイアのクラン、氏族ね。マッドマンというか、狂人。そのまんまか」
シノフサさん(仮)
「なんだべー?(笑)」
玄兎
「それはマッドマンだけどそっちじゃない(笑)。まあその、なんかこう行動原理がまったく分かんない、他のクランからも連中は狂ってるとか散々な言われようのクランなんだけどさ。そいつの愛称が、マルカブさん。あんまし意味ないから気にしないで。んでまあ、その、マルカブさんだから好き勝手にやっていいってもんでもないんだけど、変な行動とってもマルカブさんだから仕方ない、みたいな妙な説得力がある。それはルンクエのカルトなんかと同じベクトルだと思うわけ。無茶なことやっても、だってあいつはオーランシーだし、みたいな。あとは『トーグ』も近いカラーはあるかな。ナイルじゃしょうがない」
シノフサさん(仮)
「日本では?」
玄兎
「強く意識させた最初のタイトルは、多分『トーキョーN◎VA』だと思う。それから『深淵』あたりに引き継がれて。『天羅万象』も、なんかそんなだったような気もする。個人的には『ガープス・ルナル』出してガープスの話題も入れたいんだけど、あれはオフィシャルがカルトの価値を破壊しちゃったから入れらんない」
シノフサさん(仮)
「くわしく」
玄兎
「うん。サプリメントの一つに、NPCデータをまとめてるのがあるんだけどさ、秩序を守るガヤンのサンプルNPCが、重度のアル中なんだよね。そりゃ中にはそういう人間もいるだろうけど、数少ないテンプレートを発表するチャンスに、何でそんなイレギュラー出すかなって。『ソード・ワールド』時代のアンチファリスが念頭にあったのか、それとも単にキャラのサイドストーリーが映えるキャラクターとか安易に考えちゃったんだろうけど、結果としてカルトテンプレートを外すことが当たり前になっちゃったっていう」
シノフサさん(仮)
「それでオフィシャルが破壊したって話」
玄兎
「そういう話。で、まあ個人的な恨み節はいいとして」

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