[memo] TRPG の重さ(2) ~ 抽象化と具体化

 B.W 氏の「軽いシステム~ボードゲームとTRPG」から始まった「軽いTRPG」探しの旅、僕がウダウダと印象論を書いてたら、accelerator 氏が「軽いTRPGとTRPGっぽいガードゲーム/ボードゲーム」でいくつかのタイトルについて実例を挙げてくれてます。いい感じです。
 んでまあ「【娯楽の核子】で~」の方で書こうと思ってたんですが、あれはなかなかペースが上がらんので、ちょっと先に書いちゃいます。また印象論なんですが。

 TRPG とそれ以外のゲームの、「共通認識」の意味の違い。特に具体化と抽象化について。

アブストラクトとコンクリート

 「アブストラクト」と聞いて「庄司卓」とか『ダンシィング・ウィズ・ザ・デビルス』なんかが出てきた貴方、同世代ですね? ……とかそんな話は置いといて(笑)

アブストラクトゲームについて

 「アブストラクトゲーム」というカテゴリがあります。
 広義では、ある事象についてのシミュレーションとして作られていながら、高度に抽象化することでシミュレーション元やテーマ性が希薄になり、強い競技要素に特化していったゲーム。あるいは単純にシミュレーション要素やテーマ性を最初から持っていないゲームのことです。
 狭義になると、「偶然性を排除」した「完全情報ゲーム」に属するモノ、とかそんなカテゴライズをされるようですが、たぶんこれは囲碁、将棋、チェスなどに代表されるゼロサムゲーム*1[ゼロサムゲーム] = より厳密には「二人零和有限確定完全情報ゲーム」というモノになるのだが、書くのが面倒なので本エントリでは「ゼロサムゲーム」で通す。がすべて広義のアブストラクトゲームに属するので、そこにフォーカスした際の条件付けでしょう。

 ここで「広義 ⇒ 狭義」をレベルと見なすと、

  • 低レベル : 現実味が薄い・競技性が重視されている
  • 高レベル : 偶然性が無い・情報が完全に開示されている

 なんて感じになるんじゃないかと。
 「アブストラクト」は「Abstruct」、これは「抽象的な」とか「抽象化」とかいった言葉ですので、このレベルはそのまま「抽象化レベル」と考えることが出来るかなーと考えてます。

 とにかく、ここで使われる「アブストラクト(Abstract)」はそのまま「抽象化」とか「抽象的な」という意味で、アブストラクトゲームというのは「極端に抽象化されているゲーム」とか「現実味の薄いゲーム」とか、そんな感じの認識でいいんじゃないかと。

TRPG は非アブストラクトゲーム

 で、TRPG ってのはその対極にいるわけです。
 TRPG では物事を可能な限り、具体的に扱います。そうするためにはゲームの状況について、より具体的な認識を共有する必要があり、それが「TRPG の重さ」のひとつだろう、と言うのが B.W 氏が書かれていたエントリの要点でしょう。そしてそれは正鵠を射ていると考えています。

 TRPG のゲームプレイは、なるべく物事を具体的に扱うため、抽象化とは反対のベクトル、具体化の方向性を持っています。そういう意味では前述の「具体化レベル」が低いほど TRPG に近い、とも考えられます。
 この辺はなだらかなグラデーションになっていて、どこまでがボードゲームで、どこからが TRPG 、という線引きをするのはちょっと難しい(別の区分法が必要になるのでは?」)と思います。

(「アブストラクト(Abstruct) = 抽象化」と対比するために、対義語として「具体的 = コンクリート(concrete)」を持ってきて、TRPG は「コンクリートゲーム」とか呼んでもいいかもしんない。いや、冗談ですが(笑))

「具体的な事柄 = 物語」と考えて

 TRPG ではない、もっと一般的なボードゲームでも物語、言い換えれば「具体的な事柄」を“語る”ことは可能です。
 昔、囲碁や将棋の対局内容をファンタジー戦記化したことがありました。*2[囲碁将棋の対局内容の戦記化] = 囲碁を戦略/兵站、将棋を戦術/合戦と捉えて書いたもの。中学時分の黒歴史(笑)
 ボードゲームの対局中に、物語が脳内で絵コンテ化されたり、文章化されていくこともあります。
 格ゲーで「俺の嫁」争奪戦をしてるアホなスバラシイ友人もいました(笑)

 ……とまァそんな次第で、他のボードゲームでも物語を作り、語ることは可能です。
 しかし、そういう物語はゲームプレイそのものには意味がありません。
 あくまでフレーバーとしてのみ機能し、プレイヤーが望んだとき、ゲーム外ゲーム(プレイ中のゲームのルールや目的とは直接関係しないミニゲーム。主にソリティア)を発生させることはありますが、それは一緒にプレイしている他のプレイヤーには関係ありません。

 理由は単純で、TRPG 以外のゲームは、そうした物語をプレイヤー間で共有する必要がない。共有しなくたって遊べるからです。
 たとえば『Last Night on Earth』の表現は映画的に訴えかけるものがありますが、だからといってキャラクターの置かれた状況について、“ゲームのルールを越えて”具体的に状況を認識し、それに基いて行動する必要は無いわけです。もちろん、想像力によってゲームの状況を盛り上げた方が、より楽しめるとは思いますが。

 ところが同じような状況が TRPG で発生したら、プレイヤーはなるべく具体的に、そのキャラクターの置かれた状況について認識し、可能な限りそれ(状況認識)を共有する必要があります。
 この辺が TRPG とボードゲームの違いかとも思うんですが。

重さの一つは「具体化」と「抽象化」の往来

 ただまあ翻ってよく考えてみると TRPG のルールも、こと判定について考えてみると実に抽象的です。あんまりボードゲームと変わらないんですね。
 TRPG の重さは「具体的な共通認識を作り、それを抽象的なルールで扱うために一度抽象化して入力し、出力された抽象的な結果を再び具体化する」という形で、具体化と抽象化を往復しなくちゃならん部分もあるだろうな、と思います。

 行為判定の基本的な流れを考えてみると、

典型的な行為判定の流れ(システム)
  1. ゲームマスター : 「具体的な」状況を提示する
  2. プレイヤー : 「具体的な」解決案を提示する
  3. ☆ゲームマスター : 「具体的な」解決案の「抽象的な」判定方法を提示する
  4. プレイヤー : 「抽象的な」判定を行う
  5. ☆ゲームマスター : 「抽象的な」判定結果を「具体的な」結果に変換し、反映する

☆=「具体化⇔抽象化」の処理を行うプロセス

……とまあ、こんな感じで「具体化⇔抽象化」の処理をするのはゲームマスターの役割です。
 ところがプレイヤーもなるべく行為を成功させたいと考えるわけですから、実際には、

典型的な行為判定の流れ(プレイング)
  1. ゲームマスター : 「具体的な」状況を提示する
  2. プレイヤー : 「具体的な」状況の「具体的な」解決案を考える
  3. ☆プレイヤー : 「具体的な」解決案を「抽象的な」判定処理に置き換えて検討する
  4. プレイヤー : 「具体的な」解決案を提示する
  5. ☆ゲームマスター : 「具体的な」解決案の「抽象的な」判定方法を提示する
  6. プレイヤー : 「抽象的な」判定を行う
  7. ☆ゲームマスター : 「抽象的な」判定結果を「具体的な」結果に変換し、反映する

☆=「具体化⇔抽象化」の処理を行うプロセス

……といった具合でプレイヤーも自主的に「具体化⇔抽象化」を行うことになり、それが余計に負担になってしまっている……ということはあるかと思います。
 この辺、『Aの魔法陣』では「質疑応答」や「前提変換」といったプロセスを明示して、それぞれ「具体化⇔抽象化」を SD に行わせ、プレイヤーの負担を減らそうとしたんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?*3[プレイヤーの負担を減らそうとした] = だが「質疑応答」については回数制限によって、重さとは別のストレスが発生してしまっており、諸手をあげて軽量化に成功した、と評価するのも難しい。

 ここで面白いのが accelerator 氏が例示されていた『I wish so』というゲームです。
 見ればこのゲーム、「具体化⇔抽象化」のプロセスが無いんですね。
 だから取り回しが軽く感じられるんだろうと思います。

 ただし accelerator 氏も

ただし、万人にこの遊びができるかというと微妙なところがあります。例えば学校に対するイメージがあまりに違いすぎるなど、参加者の間で共通の世界設定が通じない場合には遊ぶのが難しくなりそうです。

と書かれている通り、参加者の間で舞台設定を共有できないと、その部分での負担はやっぱり“ボードゲームよりは”重くなってしまうだろうなァ……とも思います。

References

References
1 [ゼロサムゲーム] = より厳密には「二人零和有限確定完全情報ゲーム」というモノになるのだが、書くのが面倒なので本エントリでは「ゼロサムゲーム」で通す。
2 [囲碁将棋の対局内容の戦記化] = 囲碁を戦略/兵站、将棋を戦術/合戦と捉えて書いたもの。中学時分の黒歴史(笑)
3 [プレイヤーの負担を減らそうとした] = だが「質疑応答」については回数制限によって、重さとは別のストレスが発生してしまっており、諸手をあげて軽量化に成功した、と評価するのも難しい。

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