[diary] 寿退社(笑)

 ある制作チームの女の子たちが揃って

「寿退社します」

 と言いよる。

 最初はビックリしたんだけど、そうだよね、エイプリルフールだよね。
 みんなで口裏を合わせてるあたりが手が込んでるのぅ(笑)

 で、午前中の仕事が終わって食事に出て、そこで偶然鉢合わせた A 子(仮)に

「寿退社しましょう(笑)」

 とか言われる。
 いや、「しましょう(笑)」って何(笑)
 つか俺、フリーランスだから退社とか無いし(笑)
 ということで、

「ばーか(笑)」

 と返しておいた(笑)
 それにしても、今日はいったい何なんだ。
 ……と思ってたら昼休み終了間際、

「あの、寿退社したいんですけど」

 またか。
 いや、またちょっとだけアレンジされてるぞ。
 今度は「したいんですけど?」だ。

「うん。いや、いいんじゃないかな?」

「本当ですか」

「もちろん。で、お相手は?」

「中学のときの同級生で――」

 おお、騙る騙る。
 ……いや、騙りすぎじゃないかソレは?

「んで、いつ頃の予定?」

「六月に挙式の予定なんですけど、辞めるのはチームが解散するときに」

「式が六月。でも式の前後は忙しくなるでしょう。新婚旅行は?」

「旅行は無しで、式の準備で何日かはお休みいただけたらと思うんですけど」

 おうおう、つまりこれが連中の本命か。
 それにしてもキッチリ手の込んだ遊びをしてくれるなァ。
 うんうん。こういうのは好きだぞ俺。

「ああ、うん。そうだね。そうすると、今月中に日程教えてもらえれば、一週間くらいは空けられるように組むから」

「ほんとですか! よかったぁ」

 もしもーし。演技派だな、チミ。
 いっそ役者にでもなった方が……はて、ドッキリが来ない?

「って、エイプリルフールだよね?」

「え、ウソなんですか?」

「いや、ウソってか、えー……えー?」

「あの、エイプリルフールじゃないですよ?」

「あれ、今日って四月一日だよな」

「そうですけど、今の話はエイプリルフールのウソじゃなくって」

「……えー。あ、マジなのか。うん、ごめん。了解」

「はい。よろしくお願いします」

「はいこちらこそ」

 なんて壮大な仕掛け。
 いや、ちょっと待てよ?

「ところでその話、他のスタッフにした?」

「あ、はい。友だちには」

「あー、そう。んで、俺のところに話に来たのは?」

「C さんが、最初に話通しておいた方が良いよって」

「ちなみにエイプリルフールのネタをみんなで仕込んでたことは知ってる?」

「? なんですそれ?」

「あー、やっぱり。はいはい、んじゃ詳しい話はまた後日。もう休み時間終わってるから、持ち場戻って」

「はい。失礼しました」

 ……誰だこの絵を描いたヤツ。
 どれを狙ったのか分からんけど、なんとまあ手の込んだことしてくれやがって(笑)

 それにしても、あの子もなんでよりにもよって今日、そういう話をするんだか。
 しかも「辞めたい」ならともかく「寿退社したい」ってのは、なんか言葉が変じゃないか?
 まあ、ここまでが壮大なエイプリルフールってんなら分かるんだけどさ。
 うーむ(笑)