やっとここまで来た。
……なんて一人で感慨に耽っていても、なんも進まないので我に返ることにして。
これまで【娯楽の核】と、それを「操作」と「反応」に分解した【娯楽の核子】を基点に、シリアスゲームとアクションゲームについて追っかけてみました。(タイトルに偽りアリというか、娯楽の核子“で”読み解いてるわけではなく、娯楽の核子“から”読み解いている――単なる出発点――のが実情になっちゃってるなァ……というのは自覚してますゴメンナサイ)
- シリアスゲームって?
- 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(1) ~ シリアスゲーム
- 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(2) ~ 試験とゲーム
- 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(3) ~ ハイスコア競争
- 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(4) ~ 操縦ゲームの歴史
- 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(5) ~ プレイ技術
さて。
今回は前回に引き続いてプレイテクニックについて、【娯楽の核】を純粋に楽しむだけなら発生しなかったはずの、奇妙な上級テクニックに関する話から始めることにしましょう。
ページの内容
『スペースインベーダー』の上級テクニック(一部)
大ヒットし、社会現象にもなった『スペースインベーダー』には、さまざまなテクニックがありました。
ゲームの中で設定されている「インベーダーをすべて打ち倒す」という目的を達成するために出来たものに、有名な「名古屋撃ち」や「中央突破」といった戦術があります。
しかし『スペースインベーダー』の技術は、それだけではありません。
……ああ、いや「月面宙返り」とか「炎のコマ」とか、そっち方面じゃないですよ(笑)
前回、次回予告として書いた「カラ撃ち」や「レインボー」などのことです。
テクニック解説(簡略)
それぞれどんなテクニックだったのか、簡単に紹介しますと……
「カラ撃ち」
「カラ撃ち」は、UFO を撃って高得点を取るためのテクニックです。
『スペースインベーダー』では常にいるインベーダーという敵の他に、定期的に画面上空を通過する UFO を撃墜しても、得点になります。しかも UFO を撃墜したときの点数は、インベーダーと比べてかなりの高得点に設定されています。
実際に UFO を撃墜した際の点数は「それまでに打った弾数」によって決められてます。これが最初から 8発、以降 15発ごとのタイミング(8、23、38、53…)が最も高いため、UFO が出てくるまでに弾数調整をする必要があります。
これが「カラ撃ち」と呼ばれるテクニックです。
ただ、『スペースインベーダー』には「画面内に 2発しかミサイルが撃てない」という制限があるため、不用意に「カラ撃ち」をして弾数調整しようとすると、その間に UFO が通り過ぎてしまって無駄に終わる。いやそれどころかインベーダーが迫ってきて状況がむしろ悪化している……というケースが結構あります。
やっていることは「無駄弾を撃つ」というだけのことですが、意外とリスキーなのがこの「カラ撃ち」というテクニックの特徴です。
「レインボー」
「レインボー」は、インベーダーを撃って高得点を取るためのテクニックです。
『スペースインベーダー PART 2』以降、インベーダーの得点にも差がつくようになりました。具体的には縦列一番下段(言うなれば最前列)のインベーダーは基本点のみですが、二段目以降のインベーダーにはボーナス点が追加されます。縦列ごとに何段目かを判定しますから、下から順に撃墜していると基本点しかとれません。
そこで、敢えて二段目より上のインベーダーを狙って撃墜するのが「レインボー」と呼ばれる上級テクニックです。
これはインベーダーの移動処理が縦列ごとではなく一体ごとに行われていることで、下段と上段で移動にズレがあることを逆手に取った一種のバグ技で、まだボーナスのなかった PART1 の頃に発見されたものでした。
「高得点」を目的とするプレイ
前述の通り、「カラ撃ち」は意外とリスキーなテクニックです。そして「レインボー」も、かなりギリギリのタイミングを狙う必要があるため、狙いをつけている間にインベーダーが迫ってきてしまうというリスクを負うことになります。
ただステージをクリアするだけなら、そんなことはしないでサクサク敵を撃墜しまくっていた方が、全然効率がいい。
それでも挑戦者が絶えなかった理由の一つに、彼らが「高得点を出す」という目標を持っていたことが挙げられます。
高得点。
点数評価に関する話は本シリーズの 3つ目のエントリでも書きましたが、『スペースインベーダー』でも似たような構造があります。
ゲーム機がフォローしている得点評価は以上ですが、それに加えてゲーム機外で行われる得点評価もあります。
ゲーム機外で行われる得点評価
- 過去の自分の総合得点との相対評価
- 同じ店舗のハイスコア記録との相対評価
- 地区や全国のハイスコア記録との相対評価
……とまあ、こんな具合です。
最後の「地区や全国のハイスコア記録との相対評価」というのは、これ当時どこまで正確に行われていたかはさすがにリアルタイムで経験していたわけではないので(笑)分からないんですが、ヘビーユーザー間や大きなゲームセンター――当時は「インベーダーハウス」と呼ばれていた――に独自の情報ネットワークがあって、ハイスコア情報がやり取りされていたそうです。
ゲーム機内の点数評価が“絶対評価”によるソリティア(一人遊び)であるのに対して、ゲーム機外の点数評価は“相対評価”によるマルチプレイ(多人数による遊び)であることが分かります。
元は【娯楽の核】に沿ってデザインされたソリティアだったものに、「点数」という“特別な価値”を与えられたことで、遊びの評価に幅が出来ていったわけです。
ところが、これだけでは語れない要素がまだあります。
それがバグ技だったはずの「レインボー」です。
異端のテクニック「レインボー」
「レインボー」というテクニックは、その他の――名古屋撃ち、中央突破、カラ撃ちなどの――テクニックと比べても明らかに異端な存在です。
前述の通り、「レインボー」は最初、処理上の問題から発生した一種のバグでした。
バグはバグ。開発チームはこれを取り除く工夫をするか、あるいは「仕様」として無視しても良かったわけですが、それが何故かバージョンアップである『スペースインベーダー PART 2』からボーナスポイントまで付いた特別なテクニックとして認められるようになったわけです。
何故なのか……についての正確なところは分かりません。調べりゃ出てきそうだし、こんなエントリ書いてるんだからちゃんと調べろとお叱りも受けそうなところですが、今回は「ボーナスが付いた経緯」の具体的な理由についてはあんまり関係がないので。
大事なことは、そのバグ技が注目されたということです。
「ハイスコア追求型」と「ショープレイ追求型」
当時の熱気をリアルタイムで経験しているわけではありませんが、伝聞によると当時のプレイヤーは主に「ハイスコア追求型」と「ショープレイ追求型」の二種類に分かれていたそうです。
ハイスコア追求型プレイヤーは、前述のとおり「カラ撃ち」や「名古屋撃ち」、「中央突破」などのテクニックによってハイスコア競争にチャレンジしていました。
それに対してショープレイ追求型プレイヤーは、ユニーク(個性的)なテクニックを発明することや、ユニークな状況を作り出すこと、よりスリリングなゲームプレイをすることなどに血道を上げていたそうです。
「レインボー」は、このショープレイ追求型のプレイヤーが好んでやっていたプレイでした。
で。
ショープレイというのは、そのとおり「ショー = 見世物」ですから、見てもらえないと意味がないわけです。当時はあのマンガ*1[あのマンガ] = もちろん『ゲームセンターあらし』のこと。のように巨大ディスプレイにプレイ画面が映し出されるでもなく、14型くらいの大きさのディスプレイが、真上を向いている平台が大半を占めていました。これは観戦に適しているとは言えません。それでも覗き込んでくるプレイヤーはいたでしょうが、喫茶店と兼業のようなインベーダーハウスでは、入店したら基本的に自分の席に座るのがマナーですし、相席でもしない限りは長い時間、見続けるというのは難しい。
短時間しかいない観客に、「レインボー」を見せるというのは至難の業です。
それでも見せようと思えば、友人知人を誘って同席させるのが一番手っ取り早くて確実でしょう。たぶんこの辺りが「レインボー」にボーナスが導入された現実的な理由なんじゃないかと思うわけですが、意外と開発スタッフのいたずらだったのかもしれないわけで、本当のところは分かりません。
何はともあれ、こうしてそれまでソリティア(一人遊び)だったゲームが、ショーとしての“価値”を持つことで、コミュニケーション素材としての性質が拡張されました。
下世話な言葉を使えば「ショープレイの腕前を自慢する」ということです。
腕自慢のコミュニケーション
『スペースインベーダー』で最初に設定されていた価値観は、前述の「高得点を目標としたゲームプレイ」にあります。腕前を自慢するための「価値 = コミュニケーション素材」としては「ハイスコア = 得点」が設定されていたわけです。
で、ここにハイスコアに依存しない別の価値観を持ち込んだのが、「レインボー」に代表されるショープレイの要素だろうと考えます。そして「レインボー」にボーナスが付加されることで、「レインボー」はハイスコア競争にもショープレイにも有効なテクニックとなりました。
それはショープレイ追求型のプレイヤーに「ショープレイに徹する」か「ハイスコア競争に参加する」かという選択肢を提示することにもなり、新たにハイスコア競争に参加するプレイヤーが増え、競争が激化することになりました。
実は「レインボー」というショープレイは、自慢するためのコミュニケーション素材としては「感心してくれる観客がいなくなった時点で無効化されてしまう」という限界があり、またプレイヤーも慣れてしまうことで得られるカタルシスの量が減ってしまう、という欠陥がありました。
ですから時間が経つごとにショープレイ追求型のプレイヤーは引退していく傾向があったのではないか? ということが想像されます。「レインボー」のボーナス化は、意図したものであったかはさておき、これに歯止めをかける効果もあったのではないかと思われます。
コンピューターゲーム以外のショープレイ
ショープレイは、当たり前ですがコンピューターゲームだけのものではありません。
むしろそれ以外の分野で活発に行われていたことです。
たとえばスポーツ。
ショー要素を意識しているプロスポーツのアスリートたちは、たまに勝負と関係ないところで「魅せる」技術を発揮します。イチローの背面キャッチなんかは良く知られたショープレイでしょう。*2[イチローの背面キャッチ] = 何年か前に、イチローはこのショープレイを封印するようなコメントをしており、実際それ以降はこのプレーは春季キャンプなどの練習中などにしか見せていなかったと思う。相手チームやそのファンへの配慮、また「勝つこと」に真摯な姿勢を示そうとすると、ショープレイは不適切と考えられることもあっただろう。
また、ショープレイ自体に得点を取り入れ、ハイスコア競技にしたスポーツも数多くあります。
たとえばフィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングなどがそれです。「スケートをする」ことや「泳ぐ」ことの初期の目的である「移動手段」や、その標準的な評価基準「速度」や「安全性」からは離れたところにショーとしての新たな価値を見出し、それを競い合うために得点を導入したパターンではないかと思います。
まとめっぽいもの
最初はバグだった「レインボー」にショープレイとしての“価値”を見出した人々が、それをテクニックと見なし、最初に設計されていたゲームプレイの目的「ハイスコア競争」とは全く異なる「テクニックを見せる/自慢する」という楽しみ方を創出しました。
そして異なる“価値”は新たなゲームプレイを生み出し、マンネリ化という業病への処方箋として機能し、結果として「より長く楽しむ」ことができるようになります。
……とまあ、こんな感じで。
次回予告
次回はこうして発見される“価値”についての話になります。
直接的なゲームからは離れ、社会的な視点で語ることになるかと思いますんで、もしかすると今まで以上につまんないかもしれません。
が、実はここからが TRPG に直接関係する話だったりします。
そして同時にソーシャルスキルの学習にも関係する話だったりもします。
長いよね。
読んでくれてる皆さんには、ゴメンナサイ。
ゲーム機内で行われる得点評価