[Column] 【娯楽の核子】で読み解くゲーム(5) ~ プレイ技術

 ……で、まあ操縦ゲームですよ。
 【娯楽の核】として「キャラクターを操縦すること」を楽しむゲーム……なんですが、こんなんが TRPG にどうつながるってんだろう? 自分でもちょっと分からなくなってきた。

 嘘。ホントは分かってる。

 まあでもたぶん、ほとんどの人には関係ないんだろうなーとか思ったりもします。最初っから自分が書きたくて書いてるだけなんだし、気にせず突っ走るんですけどね。
 置いてく速さで置いてけぼり(半笑)

 んでは始めるとしましょう。

黎明期の六つのゲーム

 前回、ACT や STG の元になった六つのゲームについて、大雑把に紹介しました。『Tennis for Two』、『Spacewar!』、『Odyssey – Table Tennis』、『PONG』、『BREAK OUT』、『スペースインベーダー』の六つです。
 で、これらのゲームにはそれぞれプレイヤーに求められる技術 = プレイ技術があり、それが「飽きさせない工夫」になっています。
 今回はそれぞれのゲームのプレイ技術について、簡単に追っかけてみたいと思います。

『Tennis for Two』のプレイ技術

 『Tennis for Two』は「ネットの向こうの相手コートにボールを落とす」ことを目標にプレイします。
 コンソールは「ボールを打ち返す角度を決める」ものと「ボールを打つ」ものの二つ。
 リソースはありません。
 ですからプレイヤーは、相手コートに入るように角度を調節し、タイミングよくボールを打ち返すテクニックが求められます。

 また、相手プレイヤーが打ち返しにくいよう、角度を調節してタイミングを狂わせることも重要なテクニックとなります。
 『Tennis for Two』に必要なテクニックは、それだけです。

 『Tennis for Two』は、どちらかがミスをするまで延々とラリーを続けることになります。
 制限時間なども特にありませんでしたし、勝敗を決めるポイントなどもプレイヤーたちが自分で管理していたそうなので、続けようと思えばいくらでも続けられたんでしょうが、このゲームは世界に一台しかなく、プレイ希望者が行列をなしていたそうなので、たぶん観客たちのプレッシャーや彼らへの配慮、集中力の摩滅などからミスを誘発してゲームが決していたのではないかと想像されます(笑)

『Spacewar!』のプレイ技術

 怪物ゲーム『Spacewar!』は「相手の宇宙船にミサイルを当てる」ことと「自機をミサイルや太陽に当てない」ことを目標にプレイします。
 コンソールは「自機を移動させる」ものと「ミサイルを射出する」ものの二つ。
 リソースは「燃料:自機が移動するたびに消費」と「ミサイル弾数:ミサイルを射出するたびに消費」の二つになります。

 僕は六つのゲームのうち、『Spacewar!』(といってもMZ-2500やMSXでエミュレートしたものですが)だけは遊びこんだ経験があるので、ちょっと細かく書いてみます。

燃料と自機の操縦

 燃料は有限で、尽きてしまえば自機はまったく動かなくなります。そのため太陽の引力に引き寄せられて激突するか、敵ミサイルに狙い打たれてしまうことになり、負け確定というわけです。ですから燃料は可能な限り、節約することが求められます。

 自機には画面中央の太陽に引き寄せられる引力と、すべての移動に慣性が働いています。そのため放っておけば太陽へと引き寄せられますし、コンソールで入力を止めた後も引力と慣性によって動き続けます。
 これを利用して目的座標より手前で入力を止めて燃料を節約する、というテクニックがあります。

 また軌道上にミサイルがあった場合は急制動をかけて回避するわけですが、そのためにはコンソールを逆に入力して逆噴射する必要があります。もちろん逆噴射でも燃料は消費されますから、できるだけ急制動をかけないようミサイル軌道と自機軌道の交点を予測して動かすテクニックが必要になります。

 燃料というリソースは、今後あまり扱われることがなくなりましたが、慣性運動については ACT のゲーム要素に通じる重要なもので、これによって僕は『Spacewar!』は STG だけでなく ACT にとっても重要なタイトルだろうと考えています。

ミサイルの運用

 ミサイルも有限リソースです。撃ち尽くしてしまえば攻撃手段を失い、「相手の宇宙船にミサイルを当てる」という目標が達成できなくなってしまいます。結果、燃料が尽きるまで逃げ惑うしかなくなってしまうのです。これを回避するために、ミサイルもまた効率よく運用しなければなりません。

 ミサイルは自機正面から垂直に射出され、そのまま直進します。
 ミサイルには太陽の引力が影響しません。それにミサイルの速度は遅く、撃ってすぐ命中するほど早くもありません。そこで回避運動が生まれ、また戦術的にミサイルを運用するテクニックが生まれます。
 具体的には「何発かのミサイルを使って相手の機動を制限し、とどめのミサイルで攻撃をする」というテクニックです。*1[戦術的ミサイル運用] = そのためプレイヤーはとどめの一撃を放つ瞬間、しばしば「Checkmate!」などと気障なセリフを吐いたという話を聞いたことがある。『Spacewar!』の設定では宇宙船となっているが、ことミサイル運用については潜水艦の魚雷運用の感覚により近いのではないかと思う。

 ミサイル運用については多くの STG とは随分と違っているわけですが、「弾を撃って敵に当てる」という要素や、「敵の機動を予測して撃つ」といったテクニックの大本ではあるだろうと考えます。

『Odyssey – Table Tennis』のプレイ技術

 『Odyssey – Table Tennis』は「飛んできたボールを打ち返す」ことを目標にプレイします。
 このゲームは『Tennis for Two』と同じように「ミスをしない」ことが重要なゲームです。
 『Tennis for Two』についてはプレイ経験がないので分かりませんが、たぶんこの『Odyssey – Table Tennis』の方が、『Tennis for Two』より単純なゲームではないかと思います。
 リソースはありません。

 『Odyssey – Table Tennis』はボールのスピード、反射角などは一定で、特にプレイヤーが工夫すべきこと、テクニックの介入する要素は「ボールの軌道を予測してパドルを先回りさせておく」くらいしかありません。
 プレイヤーがミスをするまで延々とラリーが続きます。*2[テクニックの介入要素がない] = おかげで歴史的にも評価は低く、後発の『PONG』を以って「娯楽目的」のコンピュータゲームの嚆矢とする説がある。ちなみに『Tennis for Two』は宇宙開発技術研究の一例として、『Spacewar!』はミニコンのデモンストレーションとして開発されたので、両方とも「娯楽目的」のコンピューターゲームではなかった。

『PONG』のプレイ技術

 『PONG』も『Odyssey – Table Tennis』と同じように、「飛んできたボールを打ち返す」ことを目標にプレイします。が、『PONG』はそれに「ボールを相手に拾わせずにゴールする」ことが追加されます。
 リソースはありません。

 基本操作こそ同じですが、『Odyssey – Table Tennis』に比べて『PONG』にはプレイヤーのテクニックが介入する余地がいくつもあります。たとえばボールが徐々に加速することや、打ち返したときのパドルの位置や操作によって打ち返されるボールの射角が変わることなどです。
 これらの要素によって、プレイヤーは能動的に相手ゴールを狙うことができるようになっています。そのため「相手のミスを待つ持久戦」だけだった『Odyssey – Table Tennis』に比べ、より能動的に「相手のミスを誘う」プレーが可能になり、結果として目的に「相手ゴールにボールを入れる」ことが増えることになりました。

『BREAK OUT』のプレイ技術

 『BREAK OUT』は「ボールを打ち返す」ことと「打ち返したボールをブロックに当てて消す」ことを目標にプレイします。

 『BREAK OUT』の基本操作は『PONG』のものと大差ありません。狙うものが「相手のゴール」から「画面内のブロック」に置き換わっただけ、とも言えます。しかしこれまで同じ条件下での対戦ゲームだった『Tennis for Two』、『Spacewar!』、『Odyssey – Table Tennis』、『PONG』とは異なり、『BREAK OUT』はソリティア(一人遊び)用のシステムになっているため、工夫がなされています。
 それが「当てたブロックは消える」ということです。

 ゲーム開始時は綺麗に敷き詰められたブロックがあるので、どこに打っても大体ブロックに当たりますし、ブロックに当たって跳ね返ってくる角度もシンプルです。しかしゲームが進むことで、残っているブロックの状況によっては乱反射してボールの軌道予測が難しくなったり、残った一つに上手く当てるために反射角を何度か調節しなければならなかったりと、ゲームの状況は刻々と変化していきます。
 そのため、プレイヤーには「ボールの軌道を予測する」テクニックと、「狙ったところにボールを飛ばす」テクニックが要求されます。

『スペースインベーダー』のプレイ技術

 最後に『スペースインベーダー』ですが。
 『スペースインベーダー』は「画面内のすべての敵を消す」ことと「敵や敵の弾に当たらないようにする」ことを目標にプレイします。
 リソースはリトライできる回数(自機の数)があります。またリソースと呼べるかどうかは分かりませんが、「ミサイルは一画面内に 2発までしか撃てない」という制限があります。

 『スペースインベーダー』は(実際の開発がどうであったかは別として)『BREAK OUT』をベースに、ブロックが“インベーダー”という動く敵キャラに変わったり、『PONG』から継承していたボール打ち返しが『Spacewar!』の STG 要素と差し替えられたりしています。なのでまあ、テクニックについてもそのあたりのモノがベースになってきます。
 具体的には、ターゲットが動くので「敵の機動の予測」が必要になりますし、ミサイルも遅いので「敵の軌道上にミサイルを置く」テクニックも必要です。
 また、『Spacewar!』のような総弾数の制限はありませんが、一画面中に 2発までしかミサイルを射出できない(3発以上の連射は不可)という制限があります。敵に命中すればその時点でミサイルは消えますが、外してしまうと画面上辺にたどりつくまでミサイルは消えません。その間、その分だけミサイルは撃てなくなってしまうわけです。ですから連射に頼らず「ミサイルを確実に敵に当てる」テクニックも重要になります。

まとめっぽいもの

 ということで、ゲームのテクニックというものは、まず「ゲームのルール」の中で「プレイ目標」を達成するために発生します。
 もうちょっと丁寧に書けと叱られそうなモンですが。ゴメンナサイ。

次回予告

 で、次回ですが。
 次回は『スペースインベーダー』の有名な二つの上級テクニック「カラ撃ち」と「レインボー」のあたりから「長く遊べる構造」を考えてみたいと思います。

 またちょっと間が空くかもしれません。
 前回と今回の分でかなり体力使ったので。

 ……ああ、でもやっとここまで来た。

References

References
1 [戦術的ミサイル運用] = そのためプレイヤーはとどめの一撃を放つ瞬間、しばしば「Checkmate!」などと気障なセリフを吐いたという話を聞いたことがある。『Spacewar!』の設定では宇宙船となっているが、ことミサイル運用については潜水艦の魚雷運用の感覚により近いのではないかと思う。
2 [テクニックの介入要素がない] = おかげで歴史的にも評価は低く、後発の『PONG』を以って「娯楽目的」のコンピュータゲームの嚆矢とする説がある。ちなみに『Tennis for Two』は宇宙開発技術研究の一例として、『Spacewar!』はミニコンのデモンストレーションとして開発されたので、両方とも「娯楽目的」のコンピューターゲームではなかった。