[column] ファッキン・チップとシチュエーションカード

 本エントリ内の“たぶん「シチュエーションカードはゲームマスター(NPC)相手には提示できない。」ということもあるのかな?”との一文について、コメント欄にてルールブック p.179 に「NPCに対しても使用できる」という旨の記述があることをお教えいただきました。
 よってエントリ内の同文を訂正し、ここにお詫び申し上げます。
【更新履歴】

2009.10.13 : 「シチュエーションカードはゲームマスター(NPC)相手には提示できない。」に関して訂正、追記。
2009.10.10 : 「シチュエーションカードはゲームマスター(NPC)相手には提示できない。」の ul タグを解除。

 えらい前に『死に急ぐやつらのバラード』(通称『死にバラ』)という同人システムを紹介して、それがまた急によく検索されるようになってるんですが。*1[死にバラの紹介] = [Review] 『死にバラ』ってのがあってね。
 たぶん『ガンメタル・ブレイズ』の話を書いたからだと思うんですが、あちこちから聞いた話を総合すると、どうも『死にバラ』とは似て非なるギミックになってると思うんで、大して参考にならんと思います。残念ながら。
 高橋氏が「死に急ぐ奴らのバラード/ガンメタル・ブレイズ」というエントリで先に紹介されていますが、改めてファッキン・チップについて書いてみようかとか思います。

 久しぶりに長いっす(何)

ファッキン・チップとは

 ファッキン・チップとは、『死にバラ』に搭載されたカード運用ルール、および運用されるカードのことを指します。
 ファッキン・チップは、手札としてプレイヤーとゲームマスターに配られ、プレー中の“自分以外の”PC または NPC に使用されます。ファッキン・チップにはイメージを増幅させるためのフレーバーテキストと、ゲーム中で実際に起こるイベントが書かれており、ファッキン・チップを提示(使用)された PC には、洩れなくカードに書かれたイベントが“強制的に”発生する。
 ……というルールです。

ファッキン・チップの表面的な目的

 ファッキン・チップは、そこに演出効果がついてボーナスがつく場合も有りますが、原則的には「他者のプレーを勝手に決定し、演出すること」そのものを目的としています。

 なんせ『死にバラ』には

ファッキン・チップを使われ、その対象となったファッカーは、
甘んじてその内容を受け入れ、演出として活かさなければならない。
ファックする者の義務である。

という強烈なルールがあります。
 ファッキンチップで介入されたファッカー(PCのこと)は、自己演出しようがしまいがファッキンチップで指示されたイベント(行動/結果)が訪れるのです。

〔ゲーム編制〕に介入する

 この性質は、シナリオを容易に崩壊へと導きます。
 なぜならファッキンチップは、それを持ったプレイヤー個人の判断によって、行使されるためです。*2[プレイヤー個人の判断によって行使される] = 別に相談しちゃいけない、というルールがあるワケでもないのだが。
 しかもファッキンチップには、たとえば

「殺意の凶弾」

 乾いた銃声が響き、
周囲の視線は奴に集中する。
 奴の手には銃が握られ、
 銃口から硝煙を燻らせていた。
 なんて事を…!

奴は目の前の相手に
 発砲します。

のように、かなりとんでもないものがあります。
 これをシナリオ上、重要な NPC に向かって行使されることも、可能性としては決して少なくないのです。

 が、そうした危険を容認した上で「プレーを面白くする」という目的のために運用されます。
 このとき「プレーを面白くする」ということは、新しい〔ゲーム編制〕を発生させたり、既存の〔ゲーム編制〕を書き換える、ということでもあるかと思います。

註:〔ゲーム編制〕とは「目的」「障害」「制限」「手段」の四要素を設定することで、行動原理を規定することを指す造語です。僕が勝手に言ってるだけなので、たぶん他所では通じません(^^;

 ファッキンチップの効果は、この〔ゲーム編制〕の四要素を即興で書き換えたり、新しく作り出してしまう、という効果が有ります。
 そしてそれは、ゲームを円滑に進めるフォロー的な運用にも、また逆にゲームに障害を増やしてよりドラマティックな演出を施す運用にも、自由に機能します。

 シンプルな運用としては、たとえば【失せ物】によって敵ボスの秘密兵器を無くしてしまうことは、「目的:ボスを倒す」の「障害:強力な秘密兵器」を解消し、目的達成を容易にする支援型の運用になります。
 また逆に、職務質問を受けている移住者の PC に、【失せ物】で SID(身分証明証)を紛失させれば、かなり面倒な手間が発生するでしょう。PC は「目的:身の潔白を証明する」に対して「制限:SID を使わない」が追加されることになります。また、それによって目的達成が失敗し、逮捕されてしまった場合、新たに「目的:釈放させる」または「目的:脱走する」という〈ゲーム〉が発生することになります。

 こうした〔ゲーム編制〕は、従来ゲームマスター主導で行われるもの、と認識されてると思いますが、そうしたゲームマスターの権利の一部をカードというギミックによってプレイヤーに委譲し、より能動的に〈ゲーム〉を楽しむ構造として、非常に革新的なルールだと考えています。

ファッキン・チップの運用理念

 非常に個性的なこのファッキン・チップのルールですが、これは実際には何を目的として運用するのか? といった点については、ゲームシステム的な方向性をまったく持ってはいません。
 ただ、件のエキセントリックなテキストの中で、デザインコンセプトとプレイヤーへの期待が表れているように思います。
 具体的には、

ファッキン・チップを使われ、その対象となったファッカーは、
甘んじてその内容を受け入れ、演出として活かさなければならない。
ファックする者の義務である。

 ファッキン・チップのルールについては、これに従うことを「義務」とまで書いています。デザイナーは『死にバラ』を遊ぶ上で、このルールを欠かせないものとしてデザインされたのでしょう。

逆に言えば、他人の単独行動により舞台裏に身を置いたファッカーも、
ファッキン・チップの使いどころを考える楽しみがあり、暇は感じないはずだ。

 ファッキン・チップの使いどころを考えること、それ自体をひとつの楽しみとすること。また、それによって「退屈さを回避するため、PC は集団で動かなければならない」という旧弊を打破することを期待しているようにも思えます。*3[旧弊の打破] = シティアドベンチャーを行うとき、常に「単独行動中は他のプレイヤーが暇をする」という問題が付きまとうことになる。これの打破には未だに心砕かなければならない。『ご近所メルヒェンRPG ピーカーブー』のリプレイのように、他のプレイヤーのパートに退屈するプレイヤーというのは決して少なくは無い。たとえ行儀良く待っているのがマナーだとしてもだ。

自分のチンポを自分でシゴくな。
まずは相手を感じさせろ。濡らせ。そして、相手の愛撫には目一杯に応えろ。
それが真のファッカーというものである。

 これをより平易な文章に書き換えると、たぶん

自分ひとりで楽しむことを考えるな。
まず相手(他の参加者)を楽しませろ。そして楽しませようとしてくれている相手には真摯に応じろ。
それが良いプレイヤーというものである。

……こんな感じでしょうか。
 まあ原文のテイストが失われてしまって、興醒めな気もするんですが。
 スミマセン。

 以上からファッキン・チップは、ただ「相手を楽しませる」ために使用することが期待されている、と考えられます。*4[] = これはファッキン・チップ自体がデータ的に、何ら意味を持たないことも関係しているように思われるが、その辺については今回は置いておく。

シチュエーションカードについて

 対する『ガンメタル・ブレイズ』のシチュエーションカードは、というと。
 ……生憎と僕自身は『ガンメタル・ブレイズ』を遊んだことも、ルールブックを読んだことも無いので、思いっきり的外れな話になるかもしれません。そうだったらゴメンナサイ。
 まあ「いつもの事」とか言われそうだけど。

ファッキン・チップとの共通項と相違点

 シチュエーションカードとファッキン・チップとの共通項を並べると、

  • 自分以外のプレイヤーに提示(行使)する。
  • カードに書かれたシチュエーションを、カードを提示されたプレイヤーが再現する。

という 2点に尽きるかと思います。

 逆に異なる点についても、やはり、

  • シチュエーションカードは提示されたプレイヤーに拒否権がある。
  • シチュエーションカードに従うことで「ブレイズトリガー」というリソースを得る。

の 2点が挙げられるようです。

 また、これは未確認なので分かりませんが、たぶん「シチュエーションカードはゲームマスター(NPC)相手には提示できない。」*5[シチュエーションカードはGMやNPC相手には提示できない] = 理由は Wikipedia のテキスト内で、それ以前の文章では「プレイヤーとゲームマスター」等といった形でゲームマスターについても言及されているのに対して、シチュエーションカードの対象者については「別のプレイヤーに向けて提示される」として、ゲームマスターが除外されているため。まあ Wikipedia のライターが書き忘れただけかもしれないので、単なる予想に過ぎないのだが。ということもあるのかな?
 ただ、これについてはシチュエーションカードで獲得できるリソース「ブレイズトリガー」、またそれを必要とする「モーションエフェクト」という能力を、果たして誰が使えるものなのか? といった設定/解釈次第という気もしますので、保留しておきます。

 ルールブック p.179 に「NPCに対しても使用できる」という旨の記述があるそうです。
 Chaosmaker 氏、お教えいただきありがとうございました。

リソース獲得の手段としてのシチュエーションカード

 さて。ここで特に重要と思われるのは、ファッキン・チップには無かった二つの要素です。
 このうち拒否権については、単にプレーの難易度を下げる狙いもあるでしょうが、より重要な理由としては、もうひとつの要素により価値を持たせるためのアプローチとも考えられます。

 もうひとつの要素。
 つまり「リソース獲得の手段」としてのシチュエーションカードです。

 ファッキン・チップの性質が、とにかく「参加者がお互いに楽しませるために運用する」という一点に集約されているのに対して、シチュエーションカードは活躍に必要なリソースを扱うことで、「相手に活躍するためのリソースを提供する」というものに変化しています。
 それによってシチュエーションカードは、たとえ「提示されたカードが面白くないなぁ」と思っても、「リソース拾って後で活躍できればいいや」という形で、別の目的のために受け入れられる可能性を有するようになりました。

 しかし、そうして提供される「活躍するチャンス」が、また「活躍すること」それ自体が「お互いを楽しませること」とイコールであるとは限らない以上、ファッキン・チップとシチュエーションカードは、相互の運用理念において別モノである、と考えています。

 ……まあシチュエーションカードに書かれた内容を知らないので、この辺だいぶ怪しいんですが。
 もしかしたら再現するだけで楽しめるような優れたシチュエーションがてんこ盛りなのかもしれませんし、拒否権があることを利用して「再現すべきシチュエーションが楽しめるものの時だけ採用する」、という方針で運用するなら、両者はほぼ同じものと言えるかもしれません。
 リソース「ブレイズトリガー」の要素を除けば。

スタイリッシュの連鎖

 シチュエーションカードには、カードに書かれた内容を再現することは、キャラクターをよりスタイリッシュに(=格好よく)見せる効果が期待されているのだと思われます。
 そしてまた、スタイリッシュな行動をとったキャラクターは、ブレイズトリガーを得て「モーションエフェクト」というスタイリッシュなアクションを行うことが出来るわけです。

 言ってみれば「スタイリッシュなキャラクターほど活躍する」というコンセプトがあって、そういう世界観を表現するためのルールとして、シチュエーションカードはデザインされたんだろうと思います。
 「カッコイイは最強」とか「可愛いは正義」とか、そんな感じでしょうか?*6[可愛いは正義] = これは違うか。

最後に

 『ガンメタル・ブレイズ』に関しては、Wikipedia の記事と伝聞をベースに、ひたすら憶測と類型予想だけで書いています。
 繰り返しになりますが、間違ってたらゴメンナサイ。
 ちょっとまだ書き足りないことというか、「リソース化の弊害」について言及できなかったんですが、現物知らんで書くのもナンなんでここで終わっておきます。

 あと、これはもう完全に余談として。
 『死にバラ』こと『死に急ぐ奴らのバラード』は、内輪ではローカライズして今でも現役で遊んでるシステムだったりします。もちろんファッキン・チップはマーベラスなんだけど、部位別 HP にアクセサリーが入ってるのも面白くて。「形見のペンダントヘッド」で敵の銃弾を一発だけ回避する、なんてのが、特別なルールを使わなくても簡単に再現できるんだから。

References

References
1 [死にバラの紹介] = [Review] 『死にバラ』ってのがあってね。
2 [プレイヤー個人の判断によって行使される] = 別に相談しちゃいけない、というルールがあるワケでもないのだが。
3 [旧弊の打破] = シティアドベンチャーを行うとき、常に「単独行動中は他のプレイヤーが暇をする」という問題が付きまとうことになる。これの打破には未だに心砕かなければならない。『ご近所メルヒェンRPG ピーカーブー』のリプレイのように、他のプレイヤーのパートに退屈するプレイヤーというのは決して少なくは無い。たとえ行儀良く待っているのがマナーだとしてもだ。
4 [] = これはファッキン・チップ自体がデータ的に、何ら意味を持たないことも関係しているように思われるが、その辺については今回は置いておく。
5 [シチュエーションカードはGMやNPC相手には提示できない] = 理由は Wikipedia のテキスト内で、それ以前の文章では「プレイヤーとゲームマスター」等といった形でゲームマスターについても言及されているのに対して、シチュエーションカードの対象者については「別のプレイヤーに向けて提示される」として、ゲームマスターが除外されているため。まあ Wikipedia のライターが書き忘れただけかもしれないので、単なる予想に過ぎないのだが。
6 [可愛いは正義] = これは違うか。