[嘘] 無茶な友人

 例によって、どこかに嘘がまぎれています。
 いや、探して分かるようなモンではないんですが(笑)

1990年 3月 10日

「憶えていたら、連絡する」

 そう、約束した。
 あれから十八年と二ヶ月。

 面白いな。
 近々のことは忘れてしまうのに、遠い昔のことなら思い出せる。

「また、食いに来ようぜ」

 引っ越しの数日前。
 一人は北陸へ。一人は九州へ。

「店、残ってたらな」

 二人の子供が、照れくさそうに笑っていた。
 あれから十八年と二ヶ月。

2008年 5月 10日

『ようやっと見っけた。憶えとうか?』

 受話器から聞こえる、男らしい言葉。
 名乗りもしないその声で、わかった。

『帰ってきとう』

 面白いなと思う。
 彼の人の中では時は流れていないのだろうか?

『店、まだおった』

 妙に訛っていても、分かる。
 ああ、こいつは変わっていない。

『なに黙っとう』

 そこでようやく気が付いた。
 僕はまだ一言も口にしていなかった。

「いや、驚いて」

 ボソリとつぶやいた。
 それだけで、けたたましい笑い声が返ってくる。

『その無愛想、変わってねー』

「お前こそ、男言葉だ」

『いや、驚いて』

「その無愛想、変わってねー」

『お前こそ、男言葉だ』

「俺が男言葉で何が悪い」

『オレだって男言葉でなにが悪い』

 互いの真似をして、ぎゃははと笑いあう。

『メシ、食いに行こうぜ』

「馬鹿。俺は仕事中だ」

『バカ。オレも仕事中だ』

「仕事中ならメシ食いにいけねーだろう」

『仕事中だからメシ食いにいくんじゃねーか』

「わけわっかんねー!」

『分かる分かる。分かるから分かれ』

「分かるか!」

『分かる!』

「あー。無茶言うな」

『オレがムチャ言わなかったらお前ムチャしねーじゃん』

「無茶はしなくてもいいから無茶って言うんだ」

『いいや、ここはムチャするところだぜ。来いよ』

「ちょっと待ってろ。調整するから」

『いいやダメだ。今すぐ来い』

「なんで急ぐ。理由は」

『オレは明日の朝帰る』

「じゃあ今晩でもいいじゃねーか」

『だから今晩も食いに行く』

「そうか」

『お前もだぜ』

「無茶すぎだ馬鹿」

『どうにかしろ』

「できるか馬鹿。どっちか一方にしろ」

『じゃあ今』

「あー。調整利くか聞いてくっから待ってろ」

『10秒な』

「馬鹿」

 ……で、スケマネに聞いてみたら、都合は付くらしいというので出張ることに。
 ちょっくら行って来ます。