作り話

 どう考えても脈が無さそうな相手へアタックしている友人に、「頑張れ」と言ってみた。
 


裏を返せば、その脈が無さそうな相手と僕には少々の因縁があった。
 でもまあ友人は好きだというので、“だったら好きにやりたまえよ”……なんていつもの酷薄な話ではない。“どうせ脈が無い相手だったらどれだけ頑張っても空振りに終わる。いずれ疲れて諦めるだろう”――という計算が第一にあっての言葉だった。
 腹黒いとか根性悪とか言われるのも仕方が無い。

 僕は「頑張れ」という言葉があまり好きではない。
 他人の善意に鈍感なところがある半壊人間は、自分が「頑張れ」と言われても特別、なんら心揺さぶられるものが無いからだろう。それが善意などではなく、発言者の悲鳴としてのものであれば、ヤル気にもなるのだけど。

 ところが友人は頑張った。その様は実に適当だった。
 そして結果を出した。
 先ほど僕に一報をくれ、招きに応じて会ってきた。
 なるほど、友人は見る目が有ったんだなと思った。僕には見えなかったものを見ていたわけだ。相手は今や、僕の目にも面白みを覚える、とても好感の持てる人物になっていた。
 完敗である。
 あまりに小気味良い負けっぷりだったので、夜の街で呵呵大笑して衆目の目を引いたが、そういう好奇心に満ちた怪訝そうな薄気味悪そうな視線もまた小気味が良かった。
 そして別れ、しばらく良い気分で酔い覚ましをした後、さて帰ろうといささか薄暗い路地へ入ったところで後ろから何かがぶつかった。金気に触れた小さな痛みを背中に感じ、僕は前のめりに倒れる。
 そして背中に降り注ぐ生暖かい赤黒い液体を浴びながら、僕は二度と起き上がることは無かった。
 悪は滅びるものなのである。