[掌篇] 話の夢の話の

 望んだ夢を見る方法は分かっている。
 夢はいつも、眠る前に話していたことの続きなのだ。
 ある日それに気付いてからというもの、眠る前には話をするようにしていた。
 妻も子もある、あたたかな日々。

 ある夜のこと、妻は私に同窓会の話をしてくれた。
 眠りにつくと案の定、その話の続きになる。
 妻はその昔に片想いをしていた男と、わりない仲になっていた。
 そうして私が目を覚ますと、まだ夢は続いていた。

[夕映えの物語] 03.インタールード

「きれいな“ゆうばえどき”には、海を見てはいけないよ」
「ゆーばえどきって、なあに?」
「きれいな“ゆうばえどき”には、山を見てはいけないよ」
「ゆーばえどきって、なあに?」
「あちらとこちらが地続きになる、おそろしい時間さ」
「じつじゅき?」
「ああ、可愛い子。おまえはどこにもやらないよ……」

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[夕映えの物語] 番外.ある街角

   一

 人間にとっての時の流れは、私たちのそれと、大きな隔たりがある。
 育ちゆく者。変化する者。老いゆく者。
 彼らは時間の積み重なりを、その身に刻んでいる。
 けれど私たちの体には、そうしたものは刻まれない。
 ただ在るようにして在るだけだ。
 羨ましい。
 そう、思う。
 人々の中に在って、その暮らしを見つめ続ける私も、姿を少しずつ変えることはある。
 そうしなければ、疑われてしまうから。
 だがそれは流行の服に着替えるようなもので、降り積もる時間ではない。
 足元を往来する人々が、ひどく羨ましくなった。

「お待たせ」
「遅いよ」

 私の足元で、恋人たちの短い会話。
 そこに込められている、たくさんの時間。
 寒空の下、男は女を待っていた。
 信号を見、横断歩道を見、駅の入口を見、腕時計を見、私を見、革鞄の中を見、また信号を見。
 ほとんど同じ動作を、男はただ繰り返していた。
 寒さにふるえる体を温めるため、小さく足踏みをしながら。
 そうして一時間二九分三九秒を過ごし、仝四〇秒目に駅から出てくる彼女を見つけた。
 信号は十二秒間、彼らの間に立ちふさがり、十三秒目に頬笑んだ。
 焦りの色をおし隠し、けれど喜びの色は満面に、一時間三〇分ちょうどに彼らは抱き合う。

「お待たせ」
「遅いよ」

 そちらだけはポケットに入れていた左手で、彼女の右手を握った。
 どちらともなく歩き出す、楽しげな後ろ姿。

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