[memo][twi] 『へうげもの』の茶の湯のこと

 Twitter でつぶやいた『へうげもの』の話をこっちにメモ。

  • あくまで『へうげもの』の話として。宗二の示した「真の一座建立」のくだりは重要だ。「自信が持てたのです(中略)好みと好みがぶつかり合いそこから生ず新しき価値の旨さを」
  • そして秀吉に答える。「当世にはふさわしうないお召し物にて」。この「当世には」がひっかかる。今焼を扱う故(侘び数寄者)の言葉か、名物に依った秘伝書(山上宗二記)の著者としての言葉か。
  • 侘び数寄者としての言葉であれば、「自信」と「好みと好みのぶつかり合いから生じる旨さ」を育まんとする、[対話]を求める言葉として読める。*1[[対話]] = ここでの[対話]は、広義にはいつもどおり「異なる価値観の者たちが意見を交わし、互いを理解するに到ることを目的とした行為。またはそのプロセス。」といった意味合い。より狭義には山上宗二が「知った」とする真の一座建立のプロセス、即ち「好みと好みのぶつかり合い」を指す。
  • また秘伝書の著者としての言葉であれば、秘伝書の内実と異なる価値観を示すことで、秘伝書の価値を無くすることを恐れた言葉と読むことも出来る。ただ、秘伝書には一期一会の元になった言葉など、侘び数寄にも通じるものがいくらでもある。それを守ることは侘び数寄者としても必要だったかも?*2[侘び数寄者としても必要だったかも?] = 作中の「茶の湯秘伝書」は、真の一座建立を知る以前の、格式と名物に重きを置いていた宗二による「名物目録」としての性質がクローズアップされている。あくまで作品内の情報のみで考えると、指南書としての性質は無視したほうがいいように思う……が、それを言ったら一連のツイート自体が無効化されないので、それは考えないことにする(笑)
  • どうも利休晩年の「まことの侘び数寄」は、[対話]を重んじ変化を恐れない質のものになっている様子。だが宗二とのやりとりで、秀吉は[対話]を拒否した。[対話]が出来るのは、互いの価値観を認め合える環境であらねばならない。故に他者のそれを認めぬ秀吉は侘び数寄の敵となった。
  • 利休も名物の格(真)に対して今焼黒茶碗という破格(草)を追求したんだけど、それが過ぎて黒茶碗が新たな格(真)になっちゃって硬直する。利休自身はそこから更なる破格、面白みを求めて変化するんだけど、ここで失敗する。*3[真/草] = 「真行草」の格の話。王羲之の整備した楷書・行書・草書の頭文字で、「真=本格」「行=本格と破格の狭間」「草=真に対する破格」とした格式と様式の喩えとして使われる。この真行草の喩え、元の中華思想では「真」を最上とするのに対し、本邦では「侘び」思想により「真を極めて草に至る」という円環が生じた。
  • 宗二が殺されて鬼畜と化し、計略のために弟子たちを遠ざけたことで、自身が至った真の一座建立、[対話]から生まれる価値の旨みを伝えることを怠った。狂言袴で伝えようとしても送られた忠興は黒茶碗の格に従って硬直してるし、古織も忠興とは微妙な関係だったし。*4[狂言袴] = 『へうげもの』第八十二席「死刑台的階梯」より。利休が忠興に送った高麗筒茶碗「挽木鞘」の別名。忠興が「ひいき目に見てござらぬか?」と茶化したところ、古織は鼻で笑っている。
  • そう考えると利休が切腹の折、古織に「それがあなたなのです」と伝えたのも、ほとんど賭けだったんじゃないかという気もしてくる。古織が[対話]を諦めたような有様だったのを、必死に自分と向き合えと諭してるように見える。床の間での切腹とか、当初は予定になかったんじゃなかろうか?
  • 宗二が殺されたとき、利休が鬼畜と化さずに辛抱強く弟子たちと向い合っていれば、あるいは古織に対する三成の好意から、別の展開もありえたかも知れない。そうした[対話]の努力を怠っていたことが、光秀の最期を聞いたときに表面化し「私は関白様が宗二にしたことと同じことを」なのかも。

 まあ、かなり強引な読み方をしてる部分もあって、これが「作中の人物らの思考と合致するか?」と聞かれると、微妙に回答に困るところがあったりする。少なくとも表面的/自覚的にはもっとシンプルな思考だったり、単なる意地として読んだ方が、物語的にも人物的にもしっくり来る。
 ただまあ一歩引いた視点から、構造やら構成やらで考えると、そんな感じになってんのかなぁ? という、まあそのくらいの話です。

References

References
1 [[対話]] = ここでの[対話]は、広義にはいつもどおり「異なる価値観の者たちが意見を交わし、互いを理解するに到ることを目的とした行為。またはそのプロセス。」といった意味合い。より狭義には山上宗二が「知った」とする真の一座建立のプロセス、即ち「好みと好みのぶつかり合い」を指す。
2 [侘び数寄者としても必要だったかも?] = 作中の「茶の湯秘伝書」は、真の一座建立を知る以前の、格式と名物に重きを置いていた宗二による「名物目録」としての性質がクローズアップされている。あくまで作品内の情報のみで考えると、指南書としての性質は無視したほうがいいように思う……が、それを言ったら一連のツイート自体が無効化されないので、それは考えないことにする(笑)
3 [真/草] = 「真行草」の格の話。王羲之の整備した楷書・行書・草書の頭文字で、「真=本格」「行=本格と破格の狭間」「草=真に対する破格」とした格式と様式の喩えとして使われる。この真行草の喩え、元の中華思想では「真」を最上とするのに対し、本邦では「侘び」思想により「真を極めて草に至る」という円環が生じた。
4 [狂言袴] = 『へうげもの』第八十二席「死刑台的階梯」より。利休が忠興に送った高麗筒茶碗「挽木鞘」の別名。忠興が「ひいき目に見てござらぬか?」と茶化したところ、古織は鼻で笑っている。