[chat] 20090731#9

ワークショップ
ケイ
「もうちょっと続けて聞いときたいんだが、時間あるか?」
玄兎
「構いませんよ。来月は今年度分の活字ストック残り、全部あげるんでカンヅメですし。こんだけ好き勝手に話せるのもまた、今年中は無理でしょうから」
ケイ
「年内は無理か」
玄兎
「プライベートは年内埋まってますんで。まあ新しい企画とかあげられたら、仕事にかこつけてダベれるでしょうけど」
ケイ
「まあじゃあそのときを楽しみにしとこう」
玄兎
「それはまあその時ってことで、えーと、なんです?」
ケイ
「どういう意識でニューカマー相手に営業してたかって話なんだけどな」
玄兎
「生々しいですね。フレッシュジーニアスですね」
ケイ
「そのフレッシュは生々しいじゃねえよ」
玄兎
「せっかく褒めたのに」
ケイ
「それで褒めたつもりなのかお前」
玄兎
「まあそれは人生のたな卸しの日まで置いておきましょう。営業ってなあれですけど、まあ牽引役って感じでいいですか? そのペルソナで。はいどうぞ」
ケイ
「あほなこと言ってたら忘れ、思い出した。ストーリーテリングの構造の理解ってので言うとな」
玄兎
「はい?」
ケイ
「そういうことは勉強しなきゃダメだと思ってたのか?」
玄兎
「別に。そんなことしなくても遊べますよ、TRPGは。解釈というか、方法というか。アプローチのひとつってのがいいのかな。まあ、そういうもんに過ぎないでしょう」
ケイ
「でもシナリオライティングのワークショップはやってただろ?」
玄兎
「あれは仕事半分ですんで。こっちの仕事がやりやすいように、ゲームに絡めてどういう発想をするかってのを、体験してもらっただけです」
ケイ
「マスタリングの方は?」
玄兎
「あれは、えーそうですね、トライ&エラーが許される環境をセッティングして、お互いにエラー吐きながら、議長とか、質疑応答とか、普段あんまりやんないようなことを体験してもらっただけで。ゲームマスターっぽいことって、日常の中で体験できる人は限られてるでしょう。だからまあ、場慣れすることが大事っていう」
ケイ
「じゃあスキルアップを意識してたわけじゃあないんだな?」
玄兎
「場慣れってのは最大のスキルなんですが、まあそれ以外にも一応その、意識してたものはありますよ。まったく準備してなかったら、なにもプレーできませんし。なんでまあ、準備の方法くらいは話しました。ルールの読み込みですね。あとは体験学習で」
ケイ
「体験学習ってのは?」
玄兎
「えーどれやったんだったっけな。ああ、そうだ。最初は6つくらいの簡単なシチュエーションを書いたシートを渡して、それについてルールブック読んで準備しておいてもらって、実地で1つか2つのシチュエーションをプレーしてもらうとか。1シーンを30分くらいで終わるようにして、リレーマスターで1本の話に仕立てるとか」
ケイ
「いやそれけっこうまともに訓練してねえか?」
玄兎
「ですかね。自分の経験を解体しただけなんで、正直あんまり分からんのですが」
ケイ
「自分の経験に従っただけと」
玄兎
「なにしろサンプルが少ないもんで。こればっかりはフィールドワークでデータを収集するまでは、パーソナルなレベルで考えるしかないでしょう」
ケイ
「データ収集すんの?」
玄兎
「スキルアップの経験談をみんなで書いたら良いじゃないか、て話は出てましたけどね。僕は提供側になれればいいな、くらいにしか考えてないんで。今ちょっとアンケート取ってるところですけど、サンプル数が11件じゃあねえ」
ケイ
「圧倒的に足りないってか。じゃあそれはいいとして、マスタリングのワークショップでやったのは、そんだけか?」
玄兎
「あとはシナリオデザインの方と連動したのが、他人が書いたシナリオをゲーム用にコーディングするのと、コーディングしたものをマスタリングする実験ですか」
ケイ
「ああ、そりゃ面白そうだな」
玄兎
「あれはシナリオデザイン側がメインの実験だったんで、TRPGチームで協力してくれた人たちには感謝でした。まあ、コーディングのところで役には立ったと思うけど。人に伝える技術と、自分の考えをまとめる技術は別ですからね。伝言ゲームで狂っていくことを自覚してもらったわけで。まあそれはでも、やっぱり仕事の絡みですわ」
ケイ
「狂っていくから丁寧に書け?」
玄兎
「狂っていくのを楽しめ、かなあ。集団製作ってのは、どうしたって狂いますから」
ケイ
「なんだかなあ」
玄兎
「それだからこそ面白い作品が出来るってのは、あるんですよ。自己完結するものが作りたければ、ピンで小説家にでもなればいいわけで。シナリオとコンテンツは別ですから」
ケイ
「そういうもんか」
玄兎
「コンシューマの場合は統括がはっきりしてるから、また違うでしょうけど。だからまあとにかく、今回は特に製作チームを相手にしてたから、そういうアプローチがあったわけで。子供相手にしてるときのアプローチは、また全然別ですよ。もっと雑に、じゃあやってみ、です」
ケイ
「スキルアップを必須条件と考えてたわけじゃあない、と」
玄兎
「です。最低限のことだけ覚えてもらえれば」
ケイ
「最低限のことってのは?」
玄兎
「準備と、対話と、あとは、えー失敗ばっちこいやー。この3つかな」
ケイ
「準備と、失敗ばっちこいやってのはあれか、失敗しても構わないってことか」
玄兎
「ですね。リカバーすればいい。ミスの大きさ、影響次第なんだけど、大きいミスでも謝れば済むことですし。謝りたくなかったらアドリブで話を進めて開き直っても可」
ケイ
「お前は後者だな」
玄兎
「ですね。先輩は?」
ケイ
「俺は失敗しねえから」
玄兎
「後者なんですね。でもまあ、間違ったら間違ったで、新しい面白い展開になるチャンスなんですよねえ」
ケイ
「だな」
ゲームマスターが扱う物語
ケイ
「まあそれはいいんだけどよ。対話ってのは?」
玄兎
「技術的には単なる質疑応答なんですがね。えーマスタリングと物語論に共通して、ひとつ大事なことがあると思ってまして」
ケイ
「なんだ?」
玄兎
「人が物語を求める時、というか求める心理というか。物語に求める心理かな? 実はそれってリアルではなくリアリティなんですけど、そのリアリティってのが何なのかっていうと」
ケイ
「おう」
玄兎
「誰の話だったかな、20世紀初頭くらいのもので、えーああだめだ思い出せない。まあそれはいいや。核だけ言っちゃいますけど、物語ってのはつまり因果なんですね。原因があって結果がある。現実の、リアルの出来事って実はこの因果が見えないことが、わりと多いわけです。人間の心なんかは最たるもんですが。だからそこに物語を求める。このとき求められる物語ってのは因果なんですよ」
ケイ
「犯罪の動機付けみたいな話か」
玄兎
「あれなんか完全に物語イコール因果ですよ。古くは神話なんかから、既にして人間は因果の糸を求めていた。極端なことを言うと、時間の認識そのものが因果なんですけどね。朝の後には昼が来るし、今日の後には明日が来る。神話の中ではこれ自体がもう物語になっちゃうわけです。まあそれはいいとして、もうちょっとスケールを小さくすると、自分がどういう状況にあるのは、これこれこうした原因があるからだと考える。そういう心理です。宗教で前世の業を説くときなんかも同じですね。人間はそうして因果がはっきりするところに、心の安寧を見出す性質がある」
ケイ
「なるほど」
玄兎
「物語は、だから連続性が無いと反発される、敬遠されるわけです。納得の出来る因果が無いといけない。さっきの『GURPS』で推敲する時にキャラの一貫性を保つ、とかってのも同じ理由で、そうした因果の糸が切れないようにするのが、物語を扱う時に必要なことで」
ケイ
「ふん」
玄兎
「TRPGのマスタリングも、全体としての物語にはよく目が向けられるんだけど、大事なのは全体よりも、場面場面の小さい物語だと思うんですね。全体としてのドラマっていうのは、そんなに大事なもんじゃない。もちろん成立すれば素晴らしいことですけど、全体を整えるために細部をゆがめるようなことがあると、実はプレイヤーとしてはそっちの方が納得できない、楽しめない原因になるんじゃないかってのがあって」
ケイ
「シナリオの都合上、てやつだな」
玄兎
「メタに楽しめる人ならそれでもいいんでしょうけど、キャラクターにダイブしてる人にとっては納得できないでしょう。ゲームマスターが扱う物語っていうのは、そこでプレイヤーが納得できる因果のことだと思うんですよ。それがGMが扱うリアリティでもある」
ケイ
「で、対話は?」
玄兎
「ああ、長々すみませんでした。ゲームマスターの対話スキルってのは、そのためにあって、だからプレイヤーとGMの間でお互いに納得できるところに着地させる。そこでお互いに納得できる形に加工された結果が、満足感につながると僕は思っていて。だからゲームマスターがプレイヤーを楽しませる、セッションを楽しいものとして成功させるには、シナリオの物語構造がどうのこうのなんてことじゃなく、小さい物語の連続を、それぞれ満足できる形に、納得できる形にすることだと思うわけで」
ケイ
「それがお前のGM論なわけだ」
玄兎
「ですね。ワークショップはだから、そのための体験をする場としてセッティングしました」

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