帰国早々にそれは無い。
……と、身勝手な思いが最初に現れた。
次に早すぎると思い、それからどうしようかと途方に暮れた。
僕なんぞに何もできるはずもないのに。
伊藤計劃。
「SF作家」として記憶されている。少なくとも、今のところは。
もっとずっと長生きして、もっとたくさんの作品を読ませてもらいたかった。
生きていれば、きっと素晴らしい傑作を生み出されたことだろうと思う。
あるいは「夭逝の天才」だったのかもしれない。
神ならぬ身に、そんなことは分からない。
でもそれは仕方なのないことだと思う。
歴史に if を唱えるのは、作家の仕事であって読者の仕事じゃない。
僕も氏の著作の一読者として、氏の唱えた if を幻視する者だった。
もう、新しい if は現れない。
変えられない過去の分岐点のその先なんて、誰にも分かりはしない。
『ハーモニー』の著者に対して、僕は冥福を祈れない。
ただ「これからも残された著作は大事に読ませていただきます」とだけ。