分かる人にしか分からないように書くのも意外と大変だったりして。
手抜きじゃないんです……ほんとだ、ヨ?(笑)
それも良いんじゃないかなと
「〈妖怪〉が〈想い〉によってその在り方を変えるなら、〈人間〉という〈想い〉が集まれば、もしかしたら……」
――せかいのひみつ
「疲れたあ」
くたびれ果てたボヤキ声とともに、女が一人暮らしの自宅へ帰る。
玄関に手をかけると、ガラリと開いた。はて、鍵を掛けてはいなかっただろうか?
都会暮らしから離れて、もう何年になるだろうか。過去にはキャリアウーマン然とした印象を与えていたのに、すっかり田舎暮らしが板についてしまったものだと、ちょっと可笑しな気分になる。
――なお、過去とは常に美化されるものであって、それが事実である保証はどこにもない。
しかし疲れた。今回も。本当に。私が会合に出ると、婆さま方がはしゃいで仕方がない。いつだかの井戸端会議の感覚そのままなのだ。爺さま方はニコニコ笑うばかりで、ろくに助け舟を出してもくれない。
「お疲れ様でした」
そうそう。そういう言葉が欲しかったのだ。労いの言葉はいつだって嬉しい。
靴を放り出すように脱ぎ、少し考えてからきちんと揃える。これでよし。
「山神様の会合、どうでした?」
あれ?
「センセ?」
「減点」
そう応えて、二人、小さく笑った。
「空梅雨でしたもんね」
部屋着に着替えてきた先生に話題を振りつつ、丸いちゃぶ台を挟んで座る。
先生には麦茶、自分は缶ビールだ。
「西の方はおひいさまがカンカンだし、東は東でうまく的が外れるし」
「それで調整の相談ですか」
「割り振りがねえ。私たちの力にも限界があるし、やり過ぎたら後がねえ」
自然に任せてくれても構わないのに……と、僕などは思うのだけど、昔からそう在ることを願われた彼女らにとって、やはり見過ごすわけにもいかないのだろう。
いつぞやの夜、新宿のバーで明かされた世界の秘密を思い、溜息がこぼれてしまう。
「どうしたの?」
〈レディ〉――
貴女への誓い、諦める気はないけど。
たまに心が折れそうになります。
最近じゃあ近所のおばちゃんがお見合い写真を持ってきたりするんですよ。
「?」
大きな溜息を吐いた男に、女は縁側へ出ようと誘う。
風情のある濡縁に揃って腰を掛け、飲み物を呷る。
女が空を指差して、今年も会えないのかしらね、と呟く。
天帝に定められた、年に一度きりの逢瀬。
しかし近年はほぼ毎年と言っていい程、空は雲に覆われて、その機会すら邪魔されて久しい。
さぞ辛かろう。我が身に重ねて感じ入った。
だが、と考えなおす。
晴れでないなら、雨雲なら、雨を乞い願うことはない。
彼らには不運だろうが、そうであるならこのひとが思い悩むこともない。
ふとそんなことに思い至り、男はそれも良いんじゃないかなと、女の横顔に笑った。