[chat] 20091110#1-ドラマに登場する役割

ドラマに登場する七つの役割について
玄兎
「で、まあ今日も始まりましたー、と」
オリハタさん(仮)
「テンション低いなあ」
玄兎
「いやあ、年末に向けて徐々にスケジュールが厳しくなってきてるわけで。連載増えたり書籍化されたり、今日はインタビューでした。今日もこれ終わったら原稿書かないとなんだけど」
オリハタさん(仮)
「大丈夫なの?」
玄兎
「後でちょっと寝かしてもらえれば。まあ実際、ここで話しとくことで刺激を受けて、モチベーションアップすることも少なからずあるからね。そういう意味では、これは重要。出力するのはオートマチックでいけるんだけど、土台を組み直す作業をしとかないと、ああいうのって摩耗するから。それ考えると、オリにももっとギャラ払わないといかん気がするんだけど」
オリハタさん(仮)
「払って払って(笑)」
玄兎
「うん、まあ考えとく」
オリハタさん(仮)
「ほんと疲れてるみたいねえ」
玄兎
「まあね。でもそれ考えても仕方ないんで、じゃあ話を始めよう。いい?」
オリハタさん(仮)
「オーケー」
玄兎
「てかこれ、TRPGの話にしてるけど、実際はシナリオライター向けの話になってる気がする。まあ先輩の狙いもそっちだろうけど、別に大した話をしてるわけでもないからなあ。いいのかね?」
オリハタさん(仮)
「いいんじゃない?」
玄兎
「まあいいか。なんか注文あったらメールでもなんでもちょうだいな、と」
オリハタさん(仮)
「テンション低いなあ」
玄兎
「疲労のピークってやつだから、まあ今回は諦めて。でもたぶん喋ってりゃ回復するから。終わった後で死にそうだけど。で、えーじゃあシーン配置の話まで終わったんだから次、の前にこれ」
オリハタさん(仮)
「なに?」
玄兎
「こないだの話の簡単なチャート」
オリハタさん(仮)
「先に渡してくれれば」
玄兎
「うん、まあそうなんだけど。今度はそれと、あとこれ」
オリハタさん(仮)
「お金?」
玄兎
「硬貨。1円玉から500円玉まで、全部で6種類」
オリハタさん(仮)
「くれるの?」
玄兎
「なんでやねん(笑)。これで各シーンに登場する役割を配置していきます」
オリハタさん(仮)
「これで?」
玄兎
「これで。さっきのチャートをここに置いて」
オリハタさん(仮)
「はい」
玄兎
「で、まあ主人公ってのは出ずっぱりなんで、ここでは割愛します。単純にコインの種類が6種類しか無いからって話でもあるんだけど、まあ有ってもずらっと並べるだけなんで、意味がないし」
オリハタさん(仮)
「詳しく説明できる?」
玄兎
「そうだね。まああれだ、主人公ってのは、話の中心人物だわな。でもそれは、別に一人に集約されなきゃいけないわけじゃない。ドラマって概念の上では勘違いされやすいんだけど、時系列順の出来事があるとして、それがドラマではないから。構成次第でテーマそのものが主人公になることがあるわけ。登場人物はあくまで代弁者だね。だから今回も、ドラマ上の役割っていうのは人物ではなくセリフである、と考えてくれてもいい」
オリハタさん(仮)
「セリフが役割? もうちょっとわかりやすくできる?」
玄兎
「群像劇の場合、主人公って一人に絞れないでしょう。そういうとき、でも共通するテーマを持たないと、ドラマは空中分解しちゃう。もちろん色んな人がいて、色んな答えがある、ていうグランドホテルでも全然構わないんだけど、それでも基本的にはそれぞれの答えを出した人たちが集まって、色々あっていいんだ、ていう答えを導き出すわけで。その場合、テーマは多様性になるわけだけど、その多様性っていうテーマを表現する、媒体としての登場人物が主人公ってことになる。これはそれぞれ、その場にはいないこともあるんだよね。でも、そうだとしても、他の役割の人たちは主人公たるテーマに対してクエスチョンを出したり、ガイドをしたり、エクスキューズしたり、ていう立ち回りによって、主人公たるテーマを浮き彫りにする」
オリハタさん(仮)
「ふむふむ」
玄兎
「ところで人とがコミュニケーションを取るシンプルな方法、分かりやすい方法が対話であって、そのときの基幹スキルって言葉でしょ?」
オリハタさん(仮)
「だから言葉が役割ってわけね。前に言ってた描写がどうこうっていうのも、同じ話?」
玄兎
「まあ、大体同じだと思う。で、そのセリフについての意味っていうのは、コンテクストで語られるわけでしょう。そのコンテクストは、実はその人物が前に登場したときにどの役割、どの立ち位置に居たかで大まかに語ることが出来る。それと組み合わせて、シーンっていうのは常に次のシーンにつなぐための方向性を示す必要があるから、それぞれのシーンで登場する役割っていうのも限られてくるわけ。だからまあ、ドラマを構成するときは、主人公以外の役割の配置が重要になってくるって話」
オリハタさん(仮)
「その役割を今から割り振っていくわけね。で、役割って実際どれだけあるの?」
玄兎
「ドラマに必要な役割は、全部で7種類。今回のモデルでは、プロップの説をベースに、ストーリーとキャラクターを、テリングとプレーでつなぐ構造をとってます。グレマスの方がスマートではあるんだけど、TRPGであれを使うのは結構大変なんで、原始的だけど解像度の高い方を採用ってことで」
オリハタさん(仮)
「ちょっと待って」
玄兎
「なにさ」
オリハタさん(仮)
「グレマス知ってるの?」
玄兎
「うん、まあモデルを抽出しただけだから、詳しくはないけど。そういやあれは6種類だからこいつにゃ丁度良さそうだけど、今回のはプロップ寄りのアプローチなんで違います。で、まあ出ずっぱりの主人公は無視して、残り6枠ってことで。前にブログでちょっと書いたんだけど、えーと、じゃあまず役割の大まかな説明からいこうか」
オリハタさん(仮)
「お願い」
玄兎
「まずは協力者。いわゆる旅の仲間だね。これがいる。彼らは主人公と行動を共にしてサポートしたり、時には主人公に変わって行動したりする。まあ主人公に変わってるときの彼らは主人公であって協力者じゃなかったりもするんだけど」
オリハタさん(仮)
「主人公と協力者が入れ替わるってこと?」
玄兎
「というより、主人公が複数になるって感じかな。協力者と主人公の違いは、主体性の違いとでも言うか。協力者ってのは主人公を助ける手足であって、行動の決定権、オピニオンリーダーはあくまで主人公に預けてる。目的を達成するための手助けはするけど、目的達成そのものは主人公に委ねてる」
オリハタさん(仮)
「協力者自身が目的を達成しようとすることってないの?」
玄兎
「あるよ。ただ、その場合も実際には主人公を後押しするための行動だったら、それはやっぱり協力者としての役割。たとえば煮え切らない主人公に代わって、協力者が自分がやる! て言って前に進もうとしたとき、主人公がそれを止めて俺が行く、で役割を譲っちゃうなら、それは協力者。逆に主人公がやる気を出したのに、自分がやるっつって主人公の邪魔をする場合、そのキャラクターは協力者じゃなく対抗者になってる」
オリハタさん(仮)
「対抗者?」
玄兎
「ライバル。身も蓋もないこと言えば、引き立て役(笑)」
オリハタさん(仮)
「(笑)ほんっとに身も蓋もない」
玄兎
「事実だからなあ。まあ、順序が逆になっちゃったけど、対抗者について説明しとこう。対抗者ってのは主人公と同じような目的を持って行動するんだけど、主人公とは共同歩調を取らないで、ことあるごとに主人公を出しぬいてやろうとする。主人公に勝とうとすることで、結果として邪魔になるようなこともあれば、無駄を省いてくれることもある。本来的なエネミーではなくて、あくまでライバル。てか最後の関門で消える」
オリハタさん(仮)
「消えちゃうんだ」
玄兎
「消えちゃうんです。ラスボスにやられちゃって、後は任せたと言ってみたり、やっぱ俺だけじゃ駄目みたいでした協力してくださいと言ってみたり、勝ち負け言ってる場合じゃねえやと言ってみたりする」
オリハタさん(仮)
「あ、そういう役割じゃなくなっちゃうってことね」
玄兎
「そういうこと。別にキャラが消える必要はない」
オリハタさん(仮)
「なるほどなるほど」
玄兎
「話を戻して、えーと次は敵対者だね。こいつは協力者の逆で、はっきりと主人公に敵対する。主人公とは異なる目的を持って、主人公の邪魔をする。あるいはこいつらが主人公であれば、従来の主人公が敵対者になる、だからまあ鏡写しの存在だね。小悪党から黒幕まで、ことあるごとに主人公に対して乗り越えるべき課題を出してくる」
オリハタさん(仮)
「それ、ゲームマスターじゃないの?」
玄兎
「(笑)まさしく。ほぼ全てのTRPGで、ゲームマスターはこのポジションを必ず引き受けることになる。ほぼっていうのはコンゲームやPvP、プレイヤー同志が争うようなシナリオの場合、PCが他のPCの敵対者になって、ゲームマスターが何もしなくてもいい場合があるから(笑)」
オリハタさん(仮)
「そんなこともあるんだ」
玄兎
「まあ、TRPGの遊び方としては今のところ、メインストリームにはなってないからね。仲の良いメンバーで、後腐れのないような遊び方ができるようでないと、やりづらいところがあるんで」
オリハタさん(仮)
「逆にコンベンションとかの方が、やりやすいってこと? 後腐れはないでしょう?」
玄兎
「どうだろ。冬の時代が過ぎてからこっち、コンベも固定メンバーの集まりになってることが多いらしいし。まあそうでなくても、赤の他人との競技ゲームって、後味よく終わるの難しいからね。ある程度、悪ノリが許されるくらいの関係の方がやりやすいと思うよ」
オリハタさん(仮)
「そういうもの」
玄兎
「だと思う。えー、次、いいかな?」
オリハタさん(仮)
「あ、うん。ごめん」
玄兎
「こちらこそ。じゃあ次、犠牲者。ゲーム的には脱落者の方が、イメージが近いかも知れない。基本的には日常から非日常にブリッジするプロセスで、その変化に耐えきれずにドロップアウトしちゃう人。犠牲者って表現なのは、非日常が初めて具体的な形になって現れるとき、その具体的な形として、非日常へのブリッジの犠牲になるから。日常から連続殺人事件っていう非日常に移行するとき、犠牲者が出て初めて殺人事件っていう非日常にシフトする、とか」
オリハタさん(仮)
「ドラマからドロップアウトするっていうのとは違うの?」
玄兎
「というと?」
オリハタさん(仮)
「だから、退場するとか」
玄兎
「そこんところは難しい。退場することで後押しをする、支援者になるケースとかもあるんで、ただ退場する、ていうだけでは犠牲者とは限らない。まあ敵対者の手によって退場させられる、てのが犠牲者かな」
オリハタさん(仮)
「それなら、うん、わかる」
玄兎
「良かった。急いでいこう。次は依頼者。これは主人公に対して何らかのお願いをする人。お願いをして、お願いを叶えてくれと言う。命令型のこともあるし、懇願型のこともある。上からでも下からでも、とにかく主人公の行動のルールを決める役割ね」
オリハタさん(仮)
「依頼。勇者に使命を与える王様とか?」
玄兎
「そういうのも依頼者だね。依頼者は、依頼をした時点から、ドラマ上でその依頼が意味を失うまで、ずーっと効果を持つ。この役割はちょっくら卑怯で、主人公に一種の呪いを欠ける性質がある」
オリハタさん(仮)
「勇者なんだから魔王を倒せ、みたいな?」
玄兎
「そうそう。一度言われただけで、魔王を倒すために行動しなくちゃいけなくなる。別に無視してもいいんだけど、それでも依頼された事実によって、依頼に対する反応それ自体に意味が発生するようになる」
オリハタさん(仮)
「言ったもん勝ちじゃない(笑)」
玄兎
「そうだよ(笑)。だから依頼者の依頼ってわりと一方的で、呪いってわけ」
オリハタさん(仮)
「その呪いをかけるのもゲームマスターでしょ?」
玄兎
「そうだね。シナリオライターだったり、ゲームマスターだったり」
オリハタさん(仮)
「なるほどなー。なんとなく分かった。協力者、対抗者、敵対者、犠牲者、依頼者、で、あと二人?」
玄兎
「主人公の枠がないから6枠だよ」
オリハタさん(仮)
「あ、そっか」
玄兎
「うん、で、まあ最後が援助者。物心両面、まあどっちか一方ってこともあるけど、とにかく主人公たちを援助する。中盤のテコ入れ役だね。良き理解者で、主人公の行動を後押しする。協力者と近いんだけど、協力者と違うのは、主人公と行動を共にしなかったり、主人公がまったく持っていなかったもの、足りなかったものを外から持ってくる点。協力者が兼任するケースもある」
オリハタさん(仮)
「魔法のアイテムをくれたりするような感じ?」
玄兎
「そうそう、正しくそんな感じ。魔法昔話だと神様とか妖精とか、人ならざる者がこの枠に入って、それによって神秘性を際立たせたりしてる。まあ、一人で解決出来ない課題に対する、ブレイクスルーだよ」
オリハタさん(仮)
「聖人伝説の、天のお告げとか、奇跡とかのポジションね」
玄兎
「そうそう。社会的に認められた存在がここに入ることで、主人公の行動の正当性を裏付けしたりもする」
オリハタさん(仮)
「正当性ね」
玄兎
「とまあ、役割の基本的な話は、こんなところかな。次にこいつらを配置していきます。」
オリハタさん(仮)
「はーい」

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