[chat] 20091103#3-三つの試練

三つの試練について
玄兎
「じゃあ、仕切り直して。ドラマの基本モデルの話をしよう」
オリハタさん(仮)
「はい、おねがい」
玄兎
「あ、でもその前に注意点を」
オリハタさん(仮)
「なに?」
玄兎
「ドラマ構造って、間違った理解をされると全部同じでしょ、て言われちゃうから」
オリハタさん(仮)
「そこまで?」
玄兎
「そりゃそうだよ、汎用性の高いモデルだから。分類としては記号論てか意味論になるのかな? ちょっと分からんのだけど」
オリハタさん(仮)
「どうなるわけ?」
玄兎
「基本的なドラマの構造って、まず三度目の正直のモデルになっててね」
オリハタさん(仮)
「どういうこと?」
玄兎
「三つの試練ってやつ。二つ目の試練までは、クリアしても先がある。三つ目の試練でやっと目的が達成されるわけ」
オリハタさん(仮)
「それ聞いたことある。なんで三つなの?」
玄兎
「うん、それはいい疑問だ。結論から言うと、それが一番ドキドキできる回数だから。意外性の問題なんだけどね。最初は万能感を持ってて、これが打ち砕かれる。次に物語の中で努力が語られることで、努力の結果としての成功が期待されるんだけど、でもまだ終わらない。そこから更に物語が続いて三つ目の試練にこれまでの全力で当たるわけだけど、これをクリアしても、もしかしてまだ先があるんじゃ? ていうドキドキ感ていうかね。二度まで裏切られたから、三度目も裏切られるんじゃないかっていう不安があって、これは二度目までだと足りないし、四度目になると緊張感が途切れちゃうから、丁度いいのが三度目って話。お笑いの繰り返しギャグにも近いかも」
オリハタさん(仮)
「あ、やっぱりちゃんと理由はあるんだ」
玄兎
「もちろん。もうひとつ、三つも苦労を重ねれば、その成果にも納得できるっていう、努力を肯定するための条件って意味もある。だからこの三つの試練てのが、何かを成し遂げるドラマの構造としてひとつある。でさ、上手いショートカットの作戦を考えたとしても、物語を盛り上げようとすると試練は三つ欲しいわけ。たとえば作戦を先読みしてた敵がいた、とか。で、それについて、うまくクリアしたって結局は試練が出てくるんじゃんか、何やっても同じじゃねえの、て言う人がいる」
オリハタさん(仮)
「それで嫌なんだ」
玄兎
「そういう読み方をされると嫌だねえ。努力が反映されない、プレイヤー馬鹿にしてる、てことになるでしょ?」
オリハタさん(仮)
「コンピューターゲームでは良く有るんじゃないの?」
玄兎
「そりゃプログラミングされたもの以外のものは出力できないからなあ。アナログの強みはそれが瞬時に生成できるところだよ」
オリハタさん(仮)
「でも構造論ってコンピューターと同じようなアプローチじゃないの?」
玄兎
「まあ、そうだね。ぶっちゃけデータベース処理以上のものにはならないから、単純にパターンを整理したデータベースと、それをランダムに抽出してロジックに合わせて編集できれば、いくらでもドラマの構造なんて作れると思うよ。それが面白いものになるかどうかは別にして」
オリハタさん(仮)
「ドラマの体裁は整うってこと?」
玄兎
「そういうこと。そうなってくると、後の問題は地口ってか、語り口? ストーリーじゃなくてテリングの問題になってくるんよ。構成力じゃなくて表現力。勝負どころはそこに集約される」
オリハタさん(仮)
「その表現力ってどういうものなわけ?」
玄兎
「基本的には整合性の話かな。説得力じゃなくて納得力とか」
オリハタさん(仮)
「あ、それ聞いたことある。納得力と説得力って何が違うわけ?」
玄兎
「客観と主観の違いかねえ。客観的に考えるとツッコミどころなんだけど、読んでる時には気付かないとか。今の少年漫画だと、まあジョジョ立ちあたりが典型かなあ。日本だと浮世絵とか、ヨーロッパでも風刺画とか、戦記ものの兵力差とか、意味のあるデフォルメって言えば良いのか」
オリハタさん(仮)
「でも説得力も似たような意味で使わない? 有無を言わせぬ説得力とか、あんなの主観じゃない?」
玄兎
「そうだあね。突き詰めて考えれば同じもんだと思うよ。まあ、分かる人には違いが分かるんだろうけど、僕には言葉で区別できるほどには線が引けてない」
オリハタさん(仮)
「じゃあそれは置いときましょ。話を少し戻すけど、そうすると構造論は、どうやって使えば良いの?」
玄兎
「構造的には強固なものだから、これ自体は特にいじらなくてもいいと思う。あくまで土台として使って、後は割り切りっていうか、はいはい次があるんでしょ、じゃなくてこの先どうなるんだろう? て思わせるにはどうしたらいいか、てことを考える方が建築的というか」
オリハタさん(仮)
「だから表現力とか納得力とかって話になるわけね」
玄兎
「そういうこと」
オリハタさん(仮)
「そこはフォローしてくれないわけ?」
玄兎
「してないなあ。というか、したら意味がない」
オリハタさん(仮)
「なんで?」
玄兎
「この先どうなるの、て心理の根っこは不安だから。不安、不安定、不信、てものは法則性からの逸脱の可能性でもたらされるわけで。ゲーム分析の中では確か、戦場の霧、とか言われるやつになるのかな。いや、ちょっと違うか?」
オリハタさん(仮)
「観客を不安にさせるためには、パターンにより過ぎてちゃいけないわけね」
玄兎
「というか、そこがデザイナーの腕の見せ所だから」
オリハタさん(仮)
「てことは、ヒントはあるんでしょ?」
玄兎
「まあ、ある。意外性演出の基本的なパターンてと、ウソ、大げさ、紛らわしい。この三つ」
オリハタさん(仮)
「JAROってなんじゃろ(笑)」
玄兎
「そうそう(笑)。誇大広告、虚偽広告ってのが無くならない理由は、それがユーザーの目を引くから。目を引くことが、次に対する期待と不安の演出にとっては不可欠なもので」
オリハタさん(仮)
「具体的には?」
玄兎
「戦記もの、ヒーローものでよくある、敵の数がやたらと多い。いやそれ無理だろう、どうやって勝つんだよ、てのがいきなりドンと出てくる。あるいはその影がチラホラ見えるようになる。物語中に示唆されるわけ。で、それが、えーまあこれは後の話にしよう」
オリハタさん(仮)
「えー」
玄兎
「話には順序があるの。ただでさえ直感で話しちゃうんだから、自制できるときはしとかないと、またグダグダになっちゃう」
オリハタさん(仮)
「はーい。それで、でもそれって、ドラマの構造論だけでは話は作れないって話にならない?」
玄兎
「なるよ、もちろん。当然じゃん。あくまでフレームだもん、これ」
オリハタさん(仮)
「それって意味あるの?」
玄兎
「あるよ。てのは、少なくともTRPGにはデータとルールがあるから。ゲームのルールとデータ、つまり統合的にシステムとみなされるものだけど、こいつの内での数理的要件が、三つの試練に適用される。逆説的に、システムが支援してるゲーム編成と、三つの試練のストーリー要件とをリンクさせればシナリオになるし、できる」
オリハタさん(仮)
「システムで支援されてない要件はどうするわけ?」
玄兎
「そのためにゲームマスターがいるんでしょう」
オリハタさん(仮)
「ああ、そういうこと」
玄兎
「そういうこと。世界を構成するあらゆる要件は、条件さえ整えばゲームになるし、それをゲームに変換するのはゲーム編成とかゲームデザインとかの話になる。で、それはゲームマスターもプレイヤーもひっくるめて、みんなでやる話で。システムはその一部を肩代わりしてるに過ぎないってかね」
オリハタさん(仮)
「システムは、三つの試練の一部分を切り出したものってこと?」
玄兎
「平たく言うと、そういう読み方も出来ると思う。特に最後に戦闘して終わるモデルなんかは、システムの持つ要件のなかで戦闘が一番面白くなるように設計されてるから、ていうのもあるだろうし」
オリハタさん(仮)
「旦那もそう遊んでるわけ?」
玄兎
「まあ、新しいシステムで遊ぶときとか、初心者さんと遊ぶときは。身内で遊ぶときはそんなん知ったこっちゃなくて、自分らが面白いと思う要件をテーマに、ゲームをその場でどんどんでっち上げながら遊んでんさ。だから汎用システムが都合がいい」
オリハタさん(仮)
「もうひとつ質問。三つの試練は必ず三つ無くちゃいけない? その、プレイヤーのアイディアで二つ一気にクリアするとかはダメ?」
玄兎
「いいと思うよ。実際シナリオデザインしたときに考えてた試練が、あっさり想定外の方法でクリアされることなんて、よくあるし」
オリハタさん(仮)
「あるんだ(笑)」
玄兎
「あるある。ものすごくある(笑)。システムフレームの中で、この判定に成功しないとダメ、とか縛りをつけておけば、そういう心配は無いんだけどね。それはプレイヤーの発想力の邪魔になるし、いいアイディアが浮かんでも無駄になるとか、それこそプレイヤーを馬鹿にしてると思うんで」
オリハタさん(仮)
「でもドラマを語る上では、そういう措置も必要になったりしないの?」
玄兎
「ドラマが決まった枠内で動くなら、そういうことも必要だと思う。だから、このモデルを使ってシナリオの枠組みを決め打ちしておくなら、試練はシステム準拠での解決に限定しとくのがいいと思うよ。僕はそういうの好きじゃないけど」
オリハタさん(仮)
「好きじゃないんだ」
玄兎
「好きじゃないねえ。プレイヤーがやりたいことに応える形の方が好き。一人でおはなしを作るのは、仕事で散々やってるから間に合ってるし」
オリハタさん(仮)
「ふんふん。で、旦那はそのモデルの話をしようとしてるわけね?」
玄兎
「そうそう。量産できる、汎用的な、普遍的な物語のモデルっていうのが、最近の、だから第三世代型のTRPGに求められてるもんでしょ。ああ、ちょっとそこのカバンとって」
オリハタさん(仮)
「これ?」
玄兎
「うん。ああ、ありがと。それじゃあちょっと、こいつを使って説明していこう」

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