[chat] 20090731#11

TRPGを知らない人と向かい合う
玄兎
「ただまあ、こんなもんテーブル上に展開して操作しながら、ドラゴンだのデーモンだの言ってたら、そりゃあ悪魔崇拝の儀式にも見えるだろって話で。当時としては、それほど謂れのない非難じゃなかったんじゃないか、とも思ってるんですけど」
ケイ
「まあでもそりゃあ、日本じゃ大して関係ない話だけどな」
玄兎
「日本語市場で考える上ではまあ、関係ないって言われるんだろうなあ。郷に入らば郷に従えって、わりと怖いことだと思うんだけど。まあ日本市場は良いとして、海外のゲームがやたらとリアルなカラーマップを使ったりする理由としては、そういう視点に対するエクスキューズって側面があるんじゃないか、とも思ってるんですが。かつての無塗装メタルフィギュアと違って、台座付きで綺麗にカラーリングされてるものが専用アイテムとして発売されてたり、逆にイラストのプリントされた紙フィギュアだったりするのは、そういう誤解を回避するための視点があるんじゃないかと」
ケイ
「あるかね?」
玄兎
「本当のところは分かりませんけどね。ただ、たとえばコンシューマのグラフィックが強くリアル志向に進んできたのは、映画なんかもそうですが、独自のコードを知らない人にも理解できるように、それによって何をしているのかを理解されるように、ってことはあるわけで。ドット絵ってのは、まあたとえばやる夫系のSSなんかで使われるアスキーアート、あれなんかもそうなんですけど、見える人と見えない人っているわけです。このとき、見えない人には何をやっているか分からない、分からないからちゃんと検証もしないで不気味だ、有害だってレッテルが貼られてきた歴史があるでしょう」
ケイ
「あるな。まあリアルに描けるようになったことで、別の文脈で非難されることは増えたが。それは文脈に沿って対応すればいいか」
玄兎
「『食人族』とスナッフムービー伝説とか、昔の火星人襲来ラジオとか、表現メディアが何度も通ってきた道なんですけど。最近だとエロゲあたりですかね。表現力が格段に上がったこととか、3DCGでリアル志向に作れるようになったことで、ワールドワイドに理解できる人が増えて、それぞれのお国柄で問題視されやすくなっちゃったというか。まあそっちは全然詳しくないんで、風評レベルでしか知らんのですが」
ケイ
「俺もよく知らん。同級生にそっちに転んだやつもいたけど」
玄兎
「どうしました?」
ケイ
「逃げてどっかで蜜柑作ってるとか、聞いたことがある。嫁さんとこに婿入りして」
玄兎
「そういうのもリア充って言うんですかねえ」
ケイ
「わからん。納得か妥協かも知らんし。相手1人じゃモテ期とは言わねえだろうし」
玄兎
「それもそうか。まあそれはそれでいいや。でもまあとにかくそういう外向きの、TRPG知らん人にプレー風景を目撃された場合、どうやって説明するかーとかって話については、日本ではほとんど考えられていないなあ、とは思いますよ」
ケイ
「それは考えるべきだと思うか?」
玄兎
「どうでしょう? 個人的には手の届くところで説明してれば、それで遊べる環境は作れてましたんで。サンプルケースを提示することと、それをやれと命令することとは別の話で。説明せんでも遊べる環境が作れれば、わざわざそんなことやらんと思いますし、そもそも見られる場でやんないでしょうし。まあ個々人のやる気と民度次第でしょう」
ケイ
「カラオケボックスなんかもそうだな。カラオケが先にあって、スナックやらなんやらで他の客もいるところで歌ってたのが、プライベートスペースごと貸して好きなだけ歌えるようにしたら、若い客層が爆発的に増えた」
玄兎
「まあ未成年者がスナックで歌ってたら、それはそれでまずいんですけど。そういう話で無くて、まあたとえばファーストフードにカラオケセットがあったって歌いませんわな」
ケイ
「そう考えると売るためには、まずスペースの提供が先になんのか?」
玄兎
「TRPGカフェなんかは、まさにそのモデルだと思いますが」
ケイ
「実際はどうなんだ?」
玄兎
「わかりません。3回くらいしか利用したことないし、手持ちのデータもないし。件数も少ないからエフェクトもさっぱりで。プライベートスペースって意味では、オンラインセッションの方に注目してたんですが、そっちもデータ無いんで」
ケイ
「ま、何でもいいが、結局みんな外に説明するのは面倒って考えか」
玄兎
「ぶっちゃけそうでしょ。たぶんそんなことより、個人のプレー技術の向上とかの方が、大抵の人は興味があるでしょうし、趣味なんちゃそんなもんだと思いますよ。良いから遊ぶ、悪いから遊ばない、じゃなくて楽しいから遊ぶ、楽しくないから遊ばない」
ケイ
「転ばぬ先の杖って考えはねえのか?」
玄兎
「趣味とか遊びとかの非営利活動って、均質化したときの民度はそこまで高くならんですよ。営利にしたって市場規模が小さかった頃は、たとえばファミコンだって、非難されるまで弁明なんか考えてなかったでしょう。マスメディアだってクレームが増えて、その対応に想定以上のコストがかかるようになるまでは、この後スタッフで美味しく頂きました、なんてスーパーは出さなかったわけで」
ケイ
「追い込まれなきゃあ対策なんて練らねえか」
玄兎
「しかもTRPGはあくまで趣味レベルの活動なんで、個人レベルでは追い込まれたら辞めるって選択肢も」
ケイ
「まあそっちのが現実的だな」
玄兎
「そうなるんじゃないかなあ。僕もえらそうなこと言ってるくせに、社会生活にリスク背負わないように立ち回ってるし。ソリティアだったらプレー中の感情とかどうでもいいけど、マルチプレーですからねえ」
ケイ
「機嫌悪そうに参加されるよりは、ちょっと席外してもらった方がいいケースも有るってか」
玄兎
「あくまで対策の一つですわな。遊ぶことで気分が前向きになる人もいるだろうし、そうなってもらうために遊ぼうと思う人だっているでしょう。最初はちょっと嫌だなと思ってても、終わった時に楽しかったと思えりゃいい、かもしれない。その辺は人それぞれで。まあ辞めたければ辞めればいいし、遊びたければ遊べばいい。少なくとも今のTRPGの価値はそれくらいのものだと思いますよ」
ケイ
「それは変化するものか?」
玄兎
「変化する必要があるかすら分かりませんけど。まあでもゲーム、コンシューマにしても脳トレとかシリアスゲームの登場で、マスなイメージは随分と変わったでしょう。特にDSとWiiは。アナログゲームにしても、たとえばヨーロッパ的な価値が導入されて、教育効果が期待できるものとして評価される、かもしれない」
ケイ
「評価されるかねえ。だって今のTRPGってラノベみたいなもんだろ?」
玄兎
「そういう視点があるのは否定できないでしょうねえ」
ケイ
「そのラノベ自体がそもそもスルーされてるからなあ。そうなると別のモデルが必要になるんじゃねえの?」
玄兎
「でしょうねえ。価値を与えられる人間が、声を上げてくれないと始まらんすわ。与えられない人間は、与えられる人間に興味を持ってもらえるように活動するか、与えられる人間そのものになるしかない」
ケイ
「脳トレにしても、川島隆太教授の、て看板がなかったら怪しかったしな」
玄兎
「あれもまあ、リアリティを付与するためのテクスチャですわな。説得力というか、まあ大学教授が言うんだから間違いないってのは、ラベル貼りとしてはひどくアナクロなんですけど」
ケイ
「アナクロだろうがなんだろうが、自分を客観的に評価される。しかもそれが日々の努力によって確実に向上するってのは、麻薬的なもんだよなあ」
玄兎
「口さがない人にすれば、あんなもん覚えゲーじゃんって話なんですけど。でもまあその覚える内容が、日常生活で使うスキルにほど近いから、やっぱりシリアスゲームとしての効果は有ると考えていいんでしょうねえ。あれこそリテラシーの習得ってことになるんじゃないかとか」
ケイ
「あれは良く出来てたと思うぞ」
玄兎
「ケイさんがシリアスゲーム褒めるってのも珍しいですねえ」
学者の夢のゲーム?
玄兎
「まあ僕はどうしても『アフター・ザ・ホロコースト』から離れられないもんで、数学者とか経済学者とか、とにかく人間の運動としての社会系学者の夢、って方向でボードゲーム普及を求めたくなっちゃうんですが」
ケイ
「そんなに好きか。どんなゲームなんだ?」
玄兎
「社会シミュレーションですね。核戦争後のアメリカの復興を、4つのメガコーポが工業力で競い合います」
ケイ
「メガコーポって。『Shadowrun』かよ」
玄兎
「いやまあ実際の呼び方は違うんだけど、イメージ的にそんな感じなんで。えー、勢力的には確か警備隊、銀行、電話会社、宗教団体の4つだったはずです。そいつらの誰が次世代のアメリカを掌握するかでレースになるんですが」
ケイ
「アフターホロコーストっても北斗じゃあないんだな」
玄兎
「あんなんじゃあないですね。種籾だー、とかではなくて。農業による自給自足生活までは出来るようになってますんで」
ケイ
「いくらか復興してきてからの話か」
玄兎
「そうなります。とりあえず工場が建てられるくらいには」
ケイ
「かなり復興してるじゃねえか」
玄兎
「まあ原バイオレンスな世界だったら、覇王が武力で君臨するんでしょうが、秩序が取り戻された後の話なんで。だから勝ち負けも、生活水準というか社会水準というか、社会レベルかな。支配エリアの復興度と大きさ、生活基盤の安定度なんかを数値評価したもので決まるようになってて」
ケイ
「なんつー地味な」
玄兎
「扱ってるテーマにしても、一次産業から二次産業への発展、その貿易と消費、軍事力を背景にした圧力交渉、失業者の増大による社会の不安定化、とかそんなんですからね。天候不順による不作とかも平気で発生しますし、そうなりゃ食糧危機とかも当然発生します」
ケイ
「えぐすぎるっつーの。何年前のゲームだそりゃ」
玄兎
「1977年だから32年前。しかも出したの天下のSPIですよ」
ケイ
「信じられねえ」
玄兎
「事実だから仕方がない。まあシミュレーション色が強すぎて、ゲームバランス悪すぎるのが困り者なんですが」
ケイ
「ほう。どの辺が?」
玄兎
「アメリカ大陸が舞台なんですが。えー核戦争が起きたとすると、まずどこが狙われると思いますか」
ケイ
「そらまあ、ニューヨークとかワシントンとかだろうなあ」
玄兎
「正解。だからそのあたりは核弾頭落とされまくって酷いことになってるわけです」
ケイ
「で?」
玄兎
「その辺のエリア、食糧の生産率が悪いんです。しかも不作になりやすい」
ケイ
「ダメじゃねえか」
玄兎
「ダメですよ。すぐに格差が付いちゃう。だからシミュレーションとしてはリアルなんですけど、ゲームとしてはバランス悪過ぎるんです」
ケイ
「でもお前は好きなんだな?」
玄兎
「大好物ですね。あれで学んだことは多いし。組織運用をあれと『スタートレーダー』で、個人運用を『GURPS』でってのが、僕の根っこの社会モデルなんで」
ケイ
「エゴイストだらけの」
玄兎
「エゴイストだらけの。リアルリアリティに不条理はつきものだし、プレイアビリティを上げるかどうかの判断ってのは、それを理解した上でないと笑いにもならない」
ケイ
「正直な感想言っていいか?」
玄兎
「どうぞ」
ケイ
「全然面白そうに感じねえんだけど」
玄兎
「直球投げよんなあ」
ケイ
「本音だからしょうがねえ」
玄兎
「まあねえ。建前で遊んだって面白くはならんだろうし。ただまあその辺をモデルにデザインしたゲームは面白がってたじゃないですか」
ケイ
「そら、まあ」
玄兎
「それにまあ、その面白く無さそうってのが、パイプのひとつだったりして」
ケイ
「なんだそりゃ」
玄兎
「いやほら、TRPGを特にリソースのやり取りだけで見ると、大して面白くも無いわけでしょう。リソースに意味があるから面白味が出てくるというか。まあ要するにテクスチャの貼りようなんだけど、そういうテクスチャを自由に貼れるのがシステムデザインの肝で、シナリオに応じていくらでも張り替えられるフレキシビリティがTRPGの肝で。そこで学者とゲームデザイナーが協力する、て見方は出来ませんかねえ」
ケイ
「分からんことも無いが、実例を示せないのが厳しいな」
玄兎
「とっくに通り過ぎた道かもしれませんからねえ。うーん」

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