[howto] 連続判定ルールの心得(?)

 連続判定ルール系、『ガンドッグ』のターゲット・レンジ・システム(TRS)や『神曲奏界ポリフォニカRPG』以降の SRS の多くに搭載されたフォーカスシステム(FS)、それから『Dangeons&Dragons 4e.』の技能チャレンジもそのようですが、とにかく「ある一つの目的を達成するために、段階的な複数の判定が必要なルール」について、『シャドウラン』のデッカーの悲哀から書こうとしてたんですが。
 そしたら話がどんどん膨らんでいって、2版におけるデッカーとマトリックスに関するメカニズムデザインの穴と、4版でマトリックスが強化現実にシフトしたことでその穴が埋めやすくなった話について、なんてことまで書きたくなっちゃって……終点を見失ってしまいました。
 三日間も浪費してもーた。何やってんだ自分……
 ということで、その辺の話をバッサリ切り捨てて、とりあえず連続判定ルール系の運用についての注意点。

連続判定ルールの欠点

 先にちょっと、連続判定ルールが運用次第で“欠点になってしまう”部分を指摘しときます。

俺のアイディアって、無駄?

 TRPG の特長として、プレイヤーの自由な判断――〈意志決定〉――が状況を動かしていく、というものがあります。
 ですが連続判定ルールでは最初から何をすべきか、選べる選択肢が決められてしまっていることが多く、アレンジが効かないケースがあります。それが合理的で、他に選択の余地の無いようなものであればともかく、そうでないもの、他にアイディアのあるもの、浮かびそうなものについても、「この中から選ばないとダメ」ということになると、これでは自由な判断が出来ない……と感じさせてしまうことがあります。

え、俺ダイス振るだけ?

 TRPG の特長である「自由な判断」に関してもう一つ。
 多くのプレイヤーが様々な行動を、思いつきに従って行い、それが楽しい会話によって進められていたとき、自分の思いつきがゲームマスターに「じゃあ連続判定と行こう。最初は○○からかな」といった具合にいきなり判定で決められてしまう、ということになると、不公平感がつきまといます。
 他人のアイディアは、楽しそうに創造的に解決されていたのに、自分のアイディアは判定で決められるなんて! というわけですね。実際にはそれはゲームマスターが用意していた「想定される選択肢」を突いた的確なアイディアであり、それはむしろ褒められるべきケースであることが多いわけですが、プレイヤーが「自分も楽しくおしゃべりしたい」と思っていた場合、またそういう雰囲気がテーブルに有った場合、いきなり冷水を浴びせるようなもの……と感じされてしまうことがあります。

あと何回振ればいいんだよ?

 連続判定ルールは、その名の通り連続的に判定を行います。判定と言うと、大概ダイスを振ることとイコールなわけですが、この「ダイスを振る」という行為、あまり意識されないことが多いのですが、実はストレスになります。結果を求められる、結果が出される、ということに伴う緊張感ですね。
 これが通常なら一回の判定で成否が決まるので、ストレスはすぐにカタルシスとなって解消されます。しかし連続して判定を行う場合、その緊張感は持続するわけです。ですから 1回の判定が終わって、すぐに次の判定を求められると、ストレスを解消する、リラックスして心身の緊張を解きほぐす時間が無く、ストレスによってどんどん疲れていってしまいます。そのため連続回数が増えるほどに集中力が磨耗し、ゲームへ集中できなくなってしまい、判定に対しても投げやりになってしまうことがあります。

ここで俺が失敗したら、今までの苦労みんな水の泡?

 ストレスに関して、もうひとつ。
 ある重要な事柄を解決するとき、求められる能力が 1人のキャラクターにしか無い……というケースがあります。このとき、そのキャラクターの責任は重大です。しかし最初からそのキャラクターにすべてを賭ける、と集団が判断しての結果であれば、すべてを託した集団にも責任はあるため、任されたキャラクターの心理的負担はいくらか軽減されます。
 より責任が、心理的負担が大きくなるのは、「みんなの努力の結果が委ねられる」という状況です。たとえば 3段階の連続判定があって、1人目、2人目がそれぞれ成功。その両者でない第三のキャラクターが最後の判定を行うことになり、この判定如何で前 2回分の判定が無効化されてしまう……というとき、第三のキャラクターにかかる心理的負担は非常に大きくなります。他の 2人にしてみれば「俺たちは成功したのに」という気持ちがあり、また 3人目にしても「前の 2人は成功したのに」という自責の念で、ネガティブな気分になってしまうことがあります。

欠点の解決法。心がけておきたいこと

 以上が、経験的に「連続判定の落とし穴」だろうなと感じた要素です。
 で、まあ最初に断ったとおり、これらは運用、マスタリングやデザイン次第で回避できる問題だろうなと思っていて。
 その解決法、心がけておきたいことについては、以下の通りです。

質疑応答で選択肢を開示する

 「プレイヤーのアイディアが反映されない」と言うことに対して強く否定するなら、「用意されたレールの上を、ただダイスを振るだけで進んでいくのは自由意志に欠ける」とか、そんな感じでしょうか。だったらレールの切り替えポイントは、プレイヤーに作ってもらえばいい……ちと抽象的ですが。

 具体的には、判定が一段階進むごとに、「次は○○する必要があるけど、どうする?」と質問をすること。
 このときプレイヤーが具体的な行動を決定せず、たとえば「○○みたいな方法はアリ?」なんて質問をしてきたら、「だったら○○するとか、××するって方法があるよ」と、用意していた選択肢の中から質問内容に近いものを開示する、という手順になります。

 このとき心がけたいことは、「次の段階に必要な要件をはっきりさせて、質問を絞り込ませる」ということ。
 たとえば「○○ってアイテムが欲しいね」と言えば「○○って買える?」とか「誰が持ってそう?」といった質問が出やすくなるでしょう。「ここから先は○○の知識が必要だ」となれば「誰が知ってそう?」とか「俺××技能あるけど、これじゃダメ?」とか「図書館に本あるかな?」といった展開が考えられます。
 実際には連続判定としてモデリングされていたとしても、プレイヤーの選択によって決められた行動であれば、あまり不自由だと感じさせずにスムーズに進めることができます。

いきなり判定を持ち掛けない

 これは何も連続判定ルールに限った話ではないんですが。

 他のプレイヤーと和やかな会話によって進められていたものが、自分が何かを提案すると、突然「じゃあ○○で判定だ」と言われるのは、プレイヤーとしてあまり気分のいいものではありません。ゲームマスターにとっては予定通りのことでも、プレイヤーにとってはちょっとビックリする展開です。
 楽しそうなおしゃべりの輪に入ろうとしたら、急に「よし判定だ! 判定したまえ!」とか言われても、なんだか突き放されたように感じることもあるでしょう。そうならないようにする必要があります。

 具体的には、プレイヤーの提案から判定までの間に、少し雑談の時間をとるようにするといいでしょう。前述の「質疑応答で選択肢を開示する」というのは、このテクニックの具体例でもあります。
 ゲームマスターにとっては、待ち遠しかった展開かもしれません。たとえば「これで念入りに準備してきたシナリオが生きるぞ!」といった具合に。しかしプレイヤーにとっては、そんな事情は知ったことではないのだ、ということを心がけておきたいところです。

 雑談をしながらゲームの状況についてとか、目的についてとかに言及していって、「そろそろ○○あたりで判定するぜい」というアピールをしておいて、プレイヤーに心の準備と、なんらかのプランを練る時間を与えます。
 プレイヤーがゲームやゲームマスターに慣れていると、急に判定を持ちかけても「よし来た!」とアッサリ請け負ってくれちゃうことも多いんですが(笑)、あまり慣れの無いプレイヤーだと「判定をする」というだけで緊張してしまいますので、IN/OUT はゆっくり行いたいものです。

それぞれの判定の間に描写による成果確認の時間を置く

 連続判定は、緊張のし通しで気の休まるヒマがありません。そうしたスリリングな時間を楽しめる人は構わないかもしれませんが、ストレスは徐々に蓄積し、ゲームに集中することの邪魔になってしまいます。これはカタルシスが、言い換えると達成感が得られないことが原因とも考えられます。
 であるなら、達成感を演出すればいい。

 具体的には、判定するごとに「どのように状況が変化したか」といった成果を描写する、という方法です。連続判定は往々にして、数値評価だけで進行してしまうケースが少なくありません。しかし数値というのはシンプルすぎて、実感を得られないことが少なくありません。また、数値は判定にも使われるものですから、継続的に数値のことばかり話していると、いつまで経っても判定気分から抜け出せず、ストレスから解放されにくい環境になってしまう……ということもあります。
 自分が何をして、どのような結果になったのか。ということを具体的に知ることは、安心にもつながります。そうした細かな描写によって、プレイヤーにカタルシスを提供し、少しでもストレス環境を意識しないで済むように、自主的に気分の入れ替えをするチャンスを演出するといいでしょう。

 ……以上がマスタリングの話になります。
 次はゲームデザインの話です。

選択肢を一長一短の魅力的なものにする

 前述の「質疑応答で選択肢を開示する」方法は、選択肢をクローズドにする方法です。しかし選択肢クローズドという方法は、先に用意しておいた連続判定モデルからは外れてしまう場合もあります。
 また、質疑応答を受けるまでなく選択肢が限られてしまっていること、内容が専門的/限定的すぎてプレイヤーの知識に期待できないこと等(たとえば「宇宙ロケットの発射実験手順」等)については、わざわざ連続判定にしているのに質疑応答のフェイズを入れることは時間の無駄、ということにもなりかねません。

 そうした場合、ゲームマスターは選択肢をオープンにした方が効率的で、ユーザフレンドリィにもなると思います。それでも「自由な判断」を尊重したい場合、判断のレベルを変えて、「どの選択肢にするかを選ぶ」レベルへと力点をズラしてしまう、という方法が考えられます。
 このとき、選ぶこと自体が楽しめるように、それぞれの選択肢に一長一短を与えてほどほどに悩めるようにするのがいいでしょう。また、選択肢の中に「これはダメ/論外だな」と思えるものを入れておくと、判定を行う前に小さな達成感が演出できて効果的です。

積み重ねた成功を無駄にしない

 積み重ねられた成功が、後で判定するプレイヤーたちのプレッシャーになることが少なからず有ります。もっともプレッシャーを感じるのは、そうした積み重ねられた成功が、自分の失敗によって台無しになってしまうということです。精神の自衛機構は、そうしたプレッシャーからなるべく逃れようとするものです。
 とはいえ TRPG もゲームですから、スリルやプレッシャーといったものは適度に必要です。しかし過度なプレッシャーは、プレイヤーから集中力を奪い、正常な判断能力を奪います。それはゲームを正面から楽しむには不適当な環境と言えますので、改善する必要があるでしょう。不要なプレッシャーは、なるべく排除すべきです。

 具体的には、積み重ねられた成功が無駄にならないように設計することです。
 どういう段階まで進んでいるのだから、今ここで失敗しても、まだ不完全ながら挽回のチャンスはある。そういったデザインを心がけておくとよいのではないかと思います。

 また、マスタリング技法としても、「挽回できる」というイメージを与えることは重要です。
 もちろん失敗しても全く関係がない、というのでは判定をする意味がありませんから、失敗すれば相応のペナルティは負うべきです。しかし過剰なペナルティを負わせる必要もありません。名誉挽回、汚名返上のチャンスがあることが分かれば、過剰な緊張の中、ダイスを振ることもなくなります。
 こうした状況で過剰に緊張してしまうのは、責任感の強い人に多いパターンですが、そうした人には「自分が何かしらの手段(具体的なリスクを負うこと)で、不完全であっても挽回するチャンスはある」ということを伝えることが効果的です。
 もっとも、緊張しすぎている人は心のバランスを取るために、失敗したらどうなるか、ということを何度も質問してくる場合が少なくありません。それに丁寧に答えるだけでも、十分な効果があると思います。

まとめ、というか雑感

 連続判定ルールには様々な用途があり、また数値上の駆け引き、戦闘以外でのリソースの管理、さまざまなリスクコントロールをゲームに取り込んでいく上でも興味深い手法だと思います。
 しかし運用次第で「あんまり面白くない」と感じることもあって、扱いが難しいルールであるようなので、たくさんのサンプルが集まって、安定して楽しめるモデルが作れたらいいですね。