十五夜だったと思う。月見をせねばなるまい。
病院で眺め、帰ってからもまた眺めた。
病院では、アホウ患者が珍しく大人しくしていた。
感じ入るところでもあったのか、ただの気まぐれか。
ま、何にせよ邪魔されなかったのは良い。
落ち着いて話が出来た。
普段ものすごく落ち着きのない人間だが、こういう時は大人しい。
ふと気が付いたが、月見は、相手の顔を見ないで話せる。
月を眺めたまま、誰に向けるでもなく言葉が出せる。
会話のテンポはスローモーで、話の内容は行きつ戻りつ。
こういう空気も、楽しめる。
家に電話して月見をしようと言ったら、酒は飲むなと言われた。
ここんとこ酒を飲みたいと思わなかったが、飲むなと言われると飲みたくなる。
飲ませろと言ってみる。
少しだけねと言われたので、やっぱやめとくと断った。
どんだけ天邪鬼なのか。自分。
雲の流れるのが早いねと言う。
見れば確かに早い。
明日の天気は大丈夫だろうか? 洗濯物が溜まってるんだが。
そんな雰囲気ブチ壊しの話を口にすると、そういうことは普通は女が心配することだろうと笑われた。
何故か気分が良くなった。