[chat] 20100104#x7-逸脱する楽しみ

コインの裏表

ケイ
「じゃあ最後は、TRPGの遊びの範囲だな」
玄兎
「というかあれなんですよね、言葉にしちゃうとものすごく単純なんですが。逸脱なんですよ、要するに」
ケイ
「は?」
玄兎
「枠から外れる遊び。さっきコインの裏表って言ってたじゃないですか。まさしくあれだと思うんですよ」
ケイ
「ちょっとちゃんと話してくれ。ここは大事なところだ」
玄兎
「いや、まあ思いつきの段階を抜けてない話なんですが。まあいいか。僕の好きな言葉で言うと、突破すること。制限突破。限界突破。RPGってカテゴリについて、特性をキャラクターがレベルアップすることだ、て定義する話が有りましたが、成長ってのも言い換えると、これまでの制限、限界を突破することですね。突破する。敵を打ち破るのもそうだし、課題を攻略するのもそう。言ってしまえば当たり前のことなんですが、ここでさっきの、シナリオ作成時にストーリーが予測されるって話が出てきます。予測されたストーリーを突破する。逸脱する。TRPGを、そういう遊びとして認識することも出来るんじゃないかということです。遊びというより楽しみかな?」
ケイ
「なるほど」
玄兎
「第三世代と呼ばれるシステムが出てきてこっち、メタゲームって言葉が誕生したというか流通したというか、まあそんなのがあるんですが。メタゲームって言葉の場合、概念はまずゲームがあって、その上位レイヤーとか外枠とかにメタゲームがある、てことになります。メタですから。この場合、ゲームレイヤーにいるものは、キャラクターですね。こちらは不確定要件。目に見えませんし、誰にも触れませんから。で、メタゲーム層にプレイヤーがいる。こちらは確定要件。見りゃそこにいるし、触れるし」
ケイ
「さっきのシナリオとストーリーの違いってのと同じ考えか」
玄兎
「そうそう。シナリオは不確定で、ストーリーは確定。いやこの場合は仮定になるのかな? ああ、いやそれはちょっと置いといて、メタゲームについて話しておくと、パターンに沿ってストーリーを踏襲するプレイング、なんてのもメタゲームに沿った遊び方になるようです。こういう展開になったから、じゃあ次はこうだろうなって予想して、それに併せてキャラクターを動かす。ゲーム内で起こっている事象ではなく、シナリオのテンプレート、ありがちなパターンに沿って考える。キャラクターが未来予測しているわけではなく、プレイヤーが未来予測をしている。これはキャラをコマとみなしたプレイングで、いわゆるロールプレイ、役割に演者が振り回される遊び方とは真逆の方向ですが、そういう遊び方ってのが、現在のメインストリームになってんじゃないかと」
ケイ
「ハンドアウトとかだっけか?」
玄兎
「そうですね。あれなんかメタゲーム用の装置じゃないかと。リプレイなんかでも一番盛り上がってるのって、意外性のある行動というか、思わずナンダッテー! と叫びたくなるような、それまでの流れをぶった切るような行動だと思うんですよ。淡々と予定調和の中で進んでるリプレイって、あんまり人気が出ない。FEARリプレイの見せ方の上手さっていうのは、基本的にはキャラの強いテキストで進めておいて、その中で時々プレイヤーが強く出てくる、ていうイレギュラー性の表現じゃないかっていうのがあって」
ケイ
「あれだろ、ニヨニヨしちまうような(笑)」
玄兎
「ニヨニヨって何ですか(笑)。まあちょっと話を戻すと、キャラにプレイヤーが振り回される遊びと、プレイヤーがキャラを使い倒す遊びがあるわけです。これって単に重心の違いなんで、もちろんコインの裏表になってます。一方はキャラクターの行動原理がベースになっていて、もう一方はプレイヤーの行動原理とかテンプレートとか、そういうものがベースになっている。確定要件にしてるもののレイヤーが違う。いや、レイヤーって言葉自体がそもそもズレを招くもので、コインの裏表なんだから、同次元にある別の位相とか、何かそんなもんなのかも知れません。この辺は言葉遊びですが」
ケイ
「で?」
玄兎
「昔のロールプレイ、キャラがプレイヤーを振り回すっていう遊び方に慣れ親しんでた人たちが、そこから逸脱して、プレイヤーがキャラを使い倒すっていう遊び方を見出した。メタゲームの楽しみですが、それを新しいTRPGの楽しみ方、TRPGってそれが楽しいんじゃねえかってことで、そういう遊び方がしやすいようにモデリングされたのが、いわゆる第三世代ってやつなのかとか」
ケイ
「キャラの制限を突破したところでの楽しみってのを見出したと」
玄兎
「ただこれ、ちょっと皮肉なところもあって。キャラに振り回されていたからこそ、そこから逸脱してキャラをメタに使い倒すのがむちゃくちゃ楽しいっていう、ギャップの楽しみってのが弱くなっちゃった部分もあるんじゃないか、とも思うんですよ。だからたぶん、昔から遊んでいた人で、それに順応出来た人にとってはむちゃくちゃ面白いんだけど、最初からそれに触れた人には」
ケイ
「ベテランほど楽しめないってか。そりゃ確かに皮肉だな」
玄兎
「それでも昔の、で、これ何すればいいの? ていう状態からは脱することが出来たし、やっぱり功績は認められるべきだと思います。正面から見てなかった頃は、気分でダメ出ししてたんですけど」
ケイ
「若気の至りってやつだな、そりゃ(笑)」
玄兎
「というか、僕も考えてみると、そういうところで遊んでた部分って大きかったなあと思ったんですよ。モデリングしてみると、土台になってるものとベクトルが違うだけで。現実的に考えうるゲーム世界の人間とか生活とかって枠組みがあって、そこに介入することで逸脱する。まずシステムごとにデザインされた遊び方のスタンダードモデルがあって、そこからどうやって自分なりの遊びを見つけるか、より貪欲に楽しむかっていう。これまで掘り下げるって言われてた行為は、ある段階を超えた辺りから進化の方法じゃなくて、逸脱する方法を探してたんじゃないかって」
ケイ
「オプションとかブリッジとか、そういうことか」
玄兎
「そうそう。この辺が国産TRPGと海外TRPGの違いというか、まあ海外って言うより『D&D』なんですが。あれは別で、スポーツなんですよね。ルールを逸脱することではなくて、ルールの中で最大限の効率を求めるというか」
ケイ
「その分、洋ゲーのがシステムの練り込みについてはうるさいイメージがあるよな。インスタントなイメージが薄いっつか」
玄兎
「わりと雑なシステムも少なくなかったとは思うんですが、d20旋風が吹き荒れて、その辺一気に駆逐されちゃったイメージありますね。SPI的なデザインするとこが無くなっちゃったってか」
ケイ
「レレレみてえなキワモノって、もう無えか?」
玄兎
「どうなんでしょう。ここ10年くらい、海外のシステム放置なんで」
ケイ
「なんでだよ」
玄兎
「いやもう翻訳して遊ぶのが大変で。洋ゲーは一作に一生付き合っていくだけの重厚さが売りってイメージがあるんですが、僕がそれをやるのは『GURPS』で」
ケイ
「腹くくったか(笑)」
玄兎
「はい。そろそろゲーマーとしてはアガリを決め込む年齢だろうってのもありますし、あとは『GURPS』をベースフレームにして、いろんな遊びのエッセンスを取り込んだビッグゲームを作るだけに費やそうかと。他になんかやるとしても、いいとこ自作システム作る人の応援くらいで。回復してからですが」
ケイ
「早くしろや(笑)」
玄兎
「無茶言わんで下さい(笑)。まあそれは置いといて、ただ『GURPS』はベーシックとマジックっていうコアだけだけど邦訳があるし、邦訳については続編はもう出ないんじゃないかって諦めムードでもあるんですが、コアだけあれば後はもうこっちで勝手に遊ぶんで。サプリメント翻訳しても公開できないのが忌々しいくらいで。独占翻訳権がなあ」
ケイ
「どうどう(笑)」
玄兎
「ああ、えーとあれだ。それは置いといて後は『KULT』くらいかな。洋ゲーでやってるのって。あっちは僕以外にメインGMがいるんで」
ケイ
「あれはどうした、『ARS MAGICA』は」
玄兎
「版上げされてからは手、出してません」
ケイ
「ああ、あれバージョンアップしたんか」
玄兎
「全体的にスマートに遊べるようになったらしいですよ。翻訳して遊ぶ気力ないんであれですけど。違う、脱線してる」
ケイ
「おお、すまん。戻せ戻せ」
玄兎
「時計の針は戻らない、て、いやだからそんなベタギャグは良いから(笑)。で、えーとどこまでいったんだ。第二世代からの逸脱のあたりでしたっけ?」
ケイ
「おう。第三世代が第二世代から逸脱する形でモデリングされてるってとこだな」
玄兎
「あ、どうも。えーと、そうすると後は、何から逸脱するかってとこですね。第二世代はシナリオからの逸脱。第三世代はキャラクターからの逸脱。そんな感じでばっさり切っちゃうと、わりと面白いもんが見えてくるのではないかという」
ケイ
「どういうことだ?」
玄兎
「老子でしたっけ? 奪うにはまず与えよってやつ。逸脱するにはまず最初に、枠組みを作んないといけない。壁があるから突破するし、枠組みがあるから逸脱できるっていう。ハンドアウトとかコネクションとか、あとトレーラーとか今回予告とか、そういう枠組みを最初に用意しといて、そこから逸脱することで想定外の楽しみ、イレギュラー、安全な危険を楽しむという。その足がかりとして、だからメタゲームっていう概念が語られるようになったんじゃないかってことです。これもまたコインの裏表というか、実はだから、メタゲームが土台で、そこから乖離する遊び方っていう論法だってあるはずで」
ケイ
「なるほどなあ。しかしそいつあ」
玄兎
「デジタルゲームの役には立ちませんよ(笑)」
ケイ
「だよなあ(笑)」
玄兎
「ただまあ常識というか、こんなことは出来ないだろうな、ていうことが出来るようになった、ていうのは、これまでの常識から逸脱しているってことで。だから目新しいことが出来るようになると、とりあえず飽きるまでそれをいじり倒すっていう行動が目に付くようになるわけで。裏をかく、というのはでも、皆そんなこと分かってるでしょ(笑)」
ケイ
「初歩の初歩だからなあ、そんなこたあ。それ以外は技術開発の次元か」
玄兎
「海外のゲーマーからJRPGが駄目だ、て言われるのはだから、そこでしょうね。新しいことが出来るようになってないっていう。だからファンタジー、世界を救う、とかいう次元から逸脱して、更に『ドラクエ』的な遊び方からも逸脱して組んだあれは、わりと海外でも評価されている。あれは技術レベルの話じゃないじゃないですか」
ケイ
「まあ、それもそうか」
玄兎
「ユーザが勝手に作り出す逸脱なんてのも有りますけどね。エクストリーム・ラブプラスとか。まあそれは置いといて、なんでまあ、TRPGとかアナログゲームから吸収出来ることって、まだまだ沢山あると思いますよ。少なくともデジタルゲームを考えててアナログゲーム遊んでないなんてのは、ちょっと視野が狭すぎるというか、勿体無いというか。無理ってわけじゃないとは思いますが、他のエッセンスを見ようとしないってのは、たぶんガラパゴス化の原因なんで」
ケイ
「ものすげえ初歩的なところまで戻ってきちまったなあ、しかし」
玄兎
「哲学ですね(笑)」

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