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編集用素材としてのセッション
- 玄兎
- 「また脱線した」
- クジ
- 「そうですよ。なんで脱線させるんですか」
- 玄兎
- 「何でって言われてもなあ。構造論だったらそこら中に転がってるし、文芸表現を求めすぎるとTRPGとしては逸脱すると思うし。表現者としての欲求は、リプレイ化とかノベライズとかで達成する方がいいと思うんだよ。その方がみんな幸せになれる」
- クジ
- 「そうするとセッションってどういう場なんです? 物語を作る場にはならないんですか?」
- 玄兎
- 「物語の大筋を決める場ではあると思うよ。あとはまあ、編集用素材をみんなで出し合う場所じゃないかね。合宿で使った言葉でいけば、ストーリードラマ型のシナリオは、ストーリーとリマインダーは決まってるけど具体的なテリングが決まってない状態。たぶんこっちが現在のメインストリームで、一般的なゲームシナリオの形。FEARは更に最後に戦闘する事まで決まってて、それが解決策になることが大筋で決まってる。手の込んだシナリオになると更に条件闘争が仕込まれるんだけど、とにかく戦闘が解決策を講じる手段の大枠ってことは確か。で、どっちにしても物語表現というか、物語を作る領域でフリーハンドになってるのはテリングの要素が中心だと思う。しかもカオス」
- クジ
- 「そこでは完成させられないですか?」
- 玄兎
- 「逆に聞きたいんだけどさ、完成させられそうだと思ったことある?」
- クジ
- 「まったく無いです」
- 玄兎
- 「だよねえ」
- クジ
- 「20年やっても完成させられないですか」
- 玄兎
- 「コンテンツとしての完成を見たことは無いねえ。もちろん具体性を持った形にはなるんだけど、それにしたって活字の文芸と比較したら、とてもじゃないけど完成とは言えんわ。この場合は相手の土俵に上がるために文字に起こすとして、生ログを文字起こししただけのものと、市販されてる小説とを比較すると、クオリティはどうしたって低くなるでしょ」
- クジ
- 「やっぱり駄目ですか。遊びながら頭の中で編集してますよね」
- 玄兎
- 「ああ、そうそう、そこ。コンテンツとしての物語を作ろうとすると、どうしてもこう、一次記憶を整理してフィルタリングして長期記憶に放り込んでさ、そこで保存されるコンテンツに変わるんだけど、それって個々人で違うからさ。自分の中ではコンテンツとして形成できるんだけど、自分自身が社会に対する一次記憶でしかないから」
- クジ
- 「すみません、ちょっと、え?」
- 玄兎
- 「ああ、コンテンツの性質の話。だからさ、脳内の一次記憶と長期記憶ってのはまあ、人間の脳内の話なんだけど、それをこう社会に転写してみるとね、長期記憶が活字とかまあ有形の、誰でもアクセスできる情報に保存されてるのに対して、一次記憶ってのは人間とかこう随時変化し続ける性質のものってことで。分かりにくい?」
- クジ
- 「人間が一次記憶っていうのは、ちょっと」
- 玄兎
- 「そっか。こうなんてか、人間にせよ他の生物にせよ、情、報を、発信、す、る、媒体、とし、て、は。うーん、駄目だ。逃げられた」
- クジ
- 「文字書きの人ってそんなことまで考えるものなんですか?」
- 玄兎
- 「世の中わかんねえよ? 物語論とか言語学とか勉強してる建築家もいるし」
- クジ
- 「オリハタさん、でしたっけ?」
- 玄兎
- 「そうそう」
- クジ
- 「よっぽど好きなんですねえ」
- 玄兎
- 「あれと話してると異常に頭が良くなった気がすんだよね。君もそうだけど、理解力があって質問上手なんて貴重な人材、嫌うわけがない」
- クジ
- 「あ、え?」
- 玄兎
- 「うんごめん。流そう。で、えーと、どこまで話したっけ?」
- クジ
- 「物語を完成させられるか? とか」
- 玄兎
- 「あ、そうかそこか。えーとね、ちょっと酷い言い方をするとさ、セッションやっててシナリオの練り上げをしてる気分になることがあるんだよね。特に考えてたストーリーどおりに話が進んじゃうと。ミドルプロットから一気にフルプロットに推敲してる気分になっちゃう。単にシナリオの情報量を増やしてるだけってか」
- クジ
- 「ネームを練ってるみたいなものですよね。私も『Aマホ』でやってます」
- 玄兎
- 「あれも便利だよねえ。んでもまあ、そこで出来上がる生ログって贅肉つきまくりだったり、筋肉足りなかったりするんだわ。しない?」
- クジ
- 「しますよね。イベントの順番を直したり、余計な話を削ったり、判定だけの部分をちゃんとロールさせたり」
- 玄兎
- 「そうそう。シェイプアップしたり、欠けてる部分の修正したりしないと、人に見せられるものにはなんないよね」
- クジ
- 「ですよねえ。良く分かります」
- 玄兎
- 「うん。だからまあ、生ログのままクオリティ高くしたかったら、ゲームマスターもプレイヤーも、超ハイレベルな表現者にならなきゃいけない。でもそれは参加者全員がそう望んで進まないと、そうはなれないし。ゲームマスターがそれをしたいと思っても、プレイヤーが特にそういう意識を持ってないなら、プレイヤーが自然とそうなっていくような遊び方をして、コミュニティを育てないと始まらない」
- クジ
- 「大変そうですよね。時間もかかるでしょうし」
魔獣戦線
- 玄兎
- 「えーと、ネットで魔獣戦線、魔の獣の戦線ね、まあそういうサイトがあるんだけど。知ってる?」
- クジ
- 「いえ」
- 玄兎
- 「まあオンラインセッションというか、キャラチャ、いやPBCなのかな? 分類はちょっと分からんけど、とにかくそんな感じのサイトがあって。そこではセッションがタイムシートに沿って進むみたいなんだわ」
- クジ
- 「タイムシートって? 話の進みが決まってるってことですか?」
- 玄兎
- 「これもテリングは自由でストーリーは固定、て感じかな。ショートプロットが決まってるというか。何度かサイト見ただけだから、実際のハンドリングは分からないんだけど、なんとなくTで区切った『Aマホ』で、ターン進行がリアルタイムとか、そんな風に読めた」
- クジ
- 「それだと失敗多くなりません?」
- 玄兎
- 「普通はなると思う。『Aマホ』なんかも失敗を許容することで初めて遊べるデザインだし。ただまあ物語記述の訓練としては、わりと面白い効果が期待できるんじゃないかとも思ってる」
- クジ
- 「時計を見ながらポイント打ったりできますよね」
- 玄兎
- 「できそうだねえ」
- クジ
- 「マスターがポイントを打つところを時間で決めてれば、プレイヤー側から自分の見せ場をそこに持っていくように動かせる、てことじゃないですか?」
- 玄兎
- 「なるほど、確かにそれも可能そうだなあ。そうするとまあ、その枠の中って限定は付くけど、効果としてはそれなりに見込めるか。もちろんリプレイとか、ちゃんとコンテンツ化することで成果を見せないと始まらないところはあるけど」
- クジ
- 「形になる、嬉しいが違うます」
- 玄兎
- 「なんで片言。たぶんそこのひと手間、ひと手間ってほど楽なもんじゃないんだけど、形にして再生できるようにするかどうかってのが、色んな部分で大きいよなあ」
- クジ
- 「ですよね。あ、また脱線してませんか?」
- 玄兎
- 「ごめんごめん。えーと、魔獣戦線の話をすると。あれはつまり、フレームをガッチリ固めておいて、その中での錬度を高めていくってモデルになるのかな。まあ私見としてはオセロ、リバーシ? あれっぽいイメージ。プレー自体はシンプルで、中の展開もわりと多様なんだけど、角が取れるかでゲーム結果が大きく変わるみたいな。ゲーム方面のプレーに慣れて余裕が出来てくれば、日常と非日常ってかこう、キャラチャとゲームプレーとが各フレーム内でグラデーションを描くように遊べるし、時間に押されて切羽詰ると、人間ってどんどん行動的になっていくし」
- クジ
- 「『Aマホ』のプレーとビクトリーロールみたいな」
- 玄兎
- 「ああ、ちょっと近いかも。実際にどうやってるかはリプレイ読んでみないとなんだけど、まだそっちは手をつけてないから分からない」
- クジ
- 「でも、かなりシビアなゲームになりそうですね、それ」
- 玄兎
- 「そこでまあ、面白い仕掛けと言うか、どうやら逆説的なアプローチをしてるみたいなんだあな。基本的にPCは勝つらしい」
- クジ
- 「勝つって? 負けないんですか?」
- 玄兎
- 「どうもそうらしい。難易度ハードなシナリオでも、全力投入すれば途中のプレーがまずくても勝てるらしい。ただまあ、あんまりかっこ良くないと言うか、体裁が悪いというか。勝ち方にこだわるのがマナーというか、遊び方?」
- クジ
- 「それってゲームなんですか?」
- 玄兎
- 「まあ何だろう、とにかく可能な限り最小の力で勝つ、ていうゲームかな。相手の弱点を探って、いかに効率的に覆滅せしめるか、てことなんだと思う」
- クジ
- 「うーん」
- 玄兎
- 「だからさ、蚊を殺すのに核弾頭使うわけにはいかんでしょう。たとえば梅雨時に洗濯物を部屋干ししてるとしてさ、殺虫スプレーを使ったら匂いが洗濯物に付くから、できれば手でパチンとやっちゃうのがベスト。まあそれが無理で、スプレーでも駄目だってことになったら、あとはもう蚊取り線香でも焚いてってことになるけど、そうするともう蚊取り線香の匂いが全部の洗濯物に付いちゃうから嫌だとか」
- クジ
- 「すみませんもうちょっとマシな例えは無いですか」
- 玄兎
- 「あれ、だめ? あ、そうか核弾頭の方で話せばよかったのか。今気が付いた」
- クジ
- 「今?」
- 玄兎
- 「今。まあでもこう、周りに被害があるのかはたぶん能力次第とかってことになるのかなあ。わからんけど、とにかく最小限の力で倒すのがベストで、なんだっけな、オーバーキルをやっちゃうと、心が折れるとか、なんかそんな表現で」
- クジ
- 「そうすると、制限時間の間に弱点を探す方が本当のゲームってことですか」
- 玄兎
- 「そういうこと、だと思う。TRPGって物語を作る娯楽と、競技的なゲームとが同居してるわけで、そのうち前者を強調した上でのアプローチなんだと思う。数理化できればそれはそれで面白そうだと思うんだけど。こう、リザルトが経験値になるような感じの。またちょっと脱線しかけてるんで、話を戻そう」
- クジ
- 「お願いします」
表現者としてのGM
- 玄兎
- 「で、まあ話を戻すけど。どこまで戻そうか。えー、物語の完成度だっけ?」
- クジ
- 「リプレイは編集されたもので、セッションそのものじゃないって話からで、いいですか」
- 玄兎
- 「ああ、そこ。うん、まあそこからだと、シナリオデザイナーが最初からストーリーを作って、理想的なテリングとか想像した上でプレーに望んじゃうと、大抵ガッカリすることになる、てとこかなあ。プレイヤーは必ずしもゲームマスターの良き理解者じゃないし、ゲームマスターのためのストーリーテリング用パーツでもないから。そうするとまあ、物語はその場で出来上がっていくものとして、出来ていく過程そのものを楽しめるようになった方が幸せだと思うわけ」
- クジ
- 「それでストーリーのないシナリオを?」
- 玄兎
- 「ストーリーが無いってわけじゃないんだよね、本当は。少なくとも僕はそのつもりで、だからストーリーはキャラクター1人1人が持ってんだよ。TRPGで書くストーリーって結局ドラマだからさ、基本的には欲さえあれば簡単にモデリングできる。人間って素直だから、欲を持てば必ずコンフリクトを生むし。生活に根ざしたキャラクターを大事にするのもその辺があって、生活環境から生まれた欲ほど強いものはないし、ジレンマも深くなるって考えがあって。生活から乖離した欲って、行動力に変換されにくいでしょ。だからこう、まず最悪のゴールがあって、それを少しでもいい方向に変えようとすれば、ゲームもドラマも簡単に生まれる」
- クジ
- 「生活環境を改善するゲームって、よくやりますよね。○シリーズのメッセージテキストもそんな感じでしたし。○○○の○○も?」
- 玄兎
- 「基本的にはファンタジーに生活を書くのが僕の仕事だから。てかゴブリン退治だって環境改善の話でしょ? ゴブリンが襲ってくるかもしれないから退治してくれ、とかゴブリンに畑が襲われた、家畜がやられた、子供がさらわれたから、とか」
- クジ
- 「対症療法ってことですよね。放置しておいたら将来的に、きっと悪くなるに違いないから、早めに危険の目を取り除いておいてくれ、とか。て考えると、ちょっとバイオレンスな感じですけど」
- 玄兎
- 「そうだね。暴力的だって自覚がない人もいそうだけど」
- クジ
- 「そのためのモンスターじゃないですか」
- 玄兎
- 「ペテンだよなあ。まあそれはいいや。シナリオデザインの方に話を戻すと。あくまで個人的な方法論ではあるんだけど、僕の基本的なシナリオの作り方ってのは最悪の事態からスタートする。まず典型的な悲劇を考える。このとき考える悲劇なんて大したもんじゃなくて、とりあえず参加者が共感しちゃいそうなポジションのキャラクターをいじめればいい」
- クジ
- 「さりげに酷い」
- 玄兎
- 「プレイヤーにプレイヤーを助けてもらうのが、一番やる気も出るでしょ。まあ悲劇っても別に殺すんでなくてさ、ちょっと夢が一生叶わないようなシチュエーションでもいい。誰かと結婚したかったら周囲に引き裂かれるとか、スポーツ大会で優勝したかったら足の腱切るとか、店が持ちたかったら頭金まであとちょっとのところで泥棒に入られるとか」
- クジ
- 「死亡フラグもそれですよね。俺この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ、でも戦死してしまいましたって。死んじゃったから夢は叶わないよって」
- 玄兎
- 「そうそう。同じモデルなんだよね」
- クジ
- 「そこまで決まったら、あとはその予防策を練ったり、復活させたりする方法を考えれば、出来上がりですか」
- 玄兎
- 「そう、それだけ。あとはその悲劇が誰に訪れるのかで、被害者が自分なのか他人なのか、それで導入形式が決まっておしまい。簡単でしょ?」
- クジ
- 「そりゃあ聞いてる分には簡単ですけど、それで話が終わっちゃったら、ワークショップにならないじゃないですか」
- 玄兎
- 「目標を変えるとか」
- クジ
- 「目標を?」
- 玄兎
- 「アイディア出しの場にするとか、自分らで研究する場にするとか」
- クジ
- 「技術論じゃなくてですか」
- 玄兎
- 「じゃなくてです」
- クジ
- 「そういうのも面白いかも。でも人集まりますかね?」
- 玄兎
- 「それはやってみないと分からないなあ。僕の時だって不安だったしねえ」
- クジ
- 「そういうものですか」
- 玄兎
- 「ですよ。人数少なかったら別にワークショップじゃなくても、ファミレスかどっかでダベるだけでも十分やれそうだし、それならいけるんじゃない?」
- クジ
- 「なるほど」
- 玄兎
- 「まあ、考えてみてよ。データ持ってるんだし、シナリオ書いてみ」
- クジ
- 「そうですね。やってみます」
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