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ワークショップ:まとめ
- 玄兎
- 「面白いといえば、そういやあれの話はした? これ」
- クジ
- 「呼びかけの話なら、1日目の分で」
- ケイ
- 「お前そこまでやる必要あったのかよ。職業訓練じゃねえか?」
- 玄兎
- 「というか、社会化訓練ですね。基礎的なソーシャルスキルです。そもそもマスタリングのワークショップだからって、マスタリングだけに有効なことしかやっちゃいかん、てわけでもないでしょう。マスタリングの役に立つなら、なんでもやってみていいはずで」
- ケイ
- 「そうは言っても参加者からしたら詐欺くさくねえか、それ」
- 玄兎
- 「ああ、うん、単純に経験積みたいだけの人にはそうかもしんない。でもまあそれなら別にワークショップなんか来ないでも、ただ遊ぼうと言えば済む話でしょう。屁理屈ですけど」
- ケイ
- 「屁理屈だよなあ」
- 玄兎
- 「ですね。まあそこんところを分かった上で、敢えてこねくり回すわけですけど。集まった面子ってのはまあ、大なり小なりゲームマスターやんのに自信が持てない人だったりするわけでしょう。ああ、いやクジ君だけ別なんですけど。彼は仕込みのつもりで呼んだんで」
- ケイ
- 「やっぱり」
- クジ
- 「それ言われたのみんなでイエサブに行った時でしたけどね」
- 玄兎
- 「うん、まあ、ごめん。いや悪いとは思ったんだけど、ほら、言ったら真面目にやろうとしちゃってたと思うんですよ、君。仕切り役っつか」
- クジ
- 「うーん」
- 玄兎
- 「リーダー決めって難しくてね。参加者が各自で考えながら、それっぽい人を決めた結果として出来るなら良いんだけど、最初から引っ張ろうとする人がいると、支持者とアンチで悪い対立軸が出来ることがあるんで。シナリオライティングの方でも、ちょっとそんな流れがあったでしょ」
- クジ
- 「そういえば、そんな雰囲気ありましたね」
- 玄兎
- 「ああなるのが嫌だったから、最初から教えとくわけにはいかなかったってことで。放っておいても君、場の空気読んでまとめるの上手いし」
- クジ
- 「うーん」
- ケイ
- 「ペテンだな」
- 玄兎
- 「返答に困ること言わんで下さい。まあでもTRPGのトラブルの原因って、大半がコミュニケーション不全でしょう。その辺を回避できさえすればゲーム的なミスなんてのは、大した問題にゃなりませんし。今回は出来るようになるまで一緒に歩くのが目的でしたから、ミーティングにせよトライアルにせよミスが大前提なんですよ。だからまあ、ミスっても空気が悪くなりにくい土台作りから、と」
- 玄兎
- 「で先輩、悪いんですけどそろそろこっちのミーティングしたいんで」
- ケイ
- 「ああ、そう?」
- 玄兎
- 「最後に何かあれば」
- ケイ
- 「じゃ質問。マスタリングのワークショップってな、結局なんだったんだ?」
- 玄兎
- 「大きな目的が二つあって。ひとつはワークショップという形態をとることで、いい意味での緊張を作りたかったんですね。話を聞いてりゃまあ、そう特別なことはしてなかったの分かってもらえたと思うんですが、目的意識のある状態で、虚心と競争心がない交ぜになる環境ってのを作ろうとしたら、ワークショップってのがまあ、あの時点での僕なりの答えだったわけです」
- ケイ
- 「でもそれも結局は人を選ぶだろう」
- 玄兎
- 「そらもちろん。万人に同じ手法が通用するはずもなく、まあ偶然あの時やってみたいって言ってた人たちの、なんですか、適性? そんな感じのもんを考えてみたら、そういうアプローチが一番いいかなあと思っただけで」
- ケイ
- 「その環境作りはいいとして、それだけで終わりじゃねえんだろ? にしちゃ回数が多すぎるし」
- 玄兎
- 「回数はまあ、人が増えてったってえこともあるし、参加者サイドから継続のオーダーがあったってのもあるんですけどね。あとまあそれ以外の点でいくと、もう一つの大目的ですね。スキルアップに必要なサイクルのパターンを、ひとつふたつ提示しておこうかと」
- ケイ
- 「どんなサイクルだ?」
- 玄兎
- 「行動、意識、熟考、まとめ。この4段階をぐるぐる回していくことですか。まあ自習目的だけでもなくて、それをみんなでサイクルしていって、体験をコモンセンスというかコンセンサスというか、共通認識として形作っていく効果も狙ってて。この共通認識、共有体験ってのが常識として背骨になって、そいつが自信につながって、自信さえ持てればゲームマスターなんて恐るるに足らず。そんな感じ」
- ケイ
- 「その自信が揺らいだり崩されたりってことはないのか?」
- 玄兎
- 「いくらでもありますよ、んなもん。僕だって何度先輩らにボロカスにされたことか。ただまあ自信を失っても、そのコモンセンスを築いたグループ内で相談するとか、解決策があるわけで。そういうバックボーンになるグループが複数あれば、1本が折られても回復する間に他の骨が支えてくれますんで」
- ケイ
- 「んじゃまあ自信はいいとして、スキルアップはどうなんだ?」
- 玄兎
- 「その場でスキルアップを目指すって考えは、無かったんですよ。初心者さんなんちゃスキルアップ以前の話ですんで、土台作りに専念しました。早いうちにやったルールの読み合わせとか、感想戦とか、あとアンケートもですね。この辺はそのままセッションに使えますし。モデリングすると、読み合わせが行動のための準備運動で、セッションが行動と意識。んで感想戦が意識と熟考で、アンケートが熟考とまとめになります」
- ケイ
- 「なるほど。そのモデルを叩き込むことが目的だったと」
- 玄兎
- 「ですね。このモデルで大事なことは、ゲームマスターは感想戦とアンケート結果を、次のセッションに反映すること。それを繰り返すことでプレイヤーサイドの参加意欲を引き出していく。自分の意見が通る環境のが、そうでない環境より圧倒的に、よっしゃやったろかいって気持ちになりやすいですからね。それで前のめりに参加してくれるようになれば、放っておいても話が回っていくようになるんで、マスターもだいぶ楽が出来るようになります」
- ケイ
- 「具体的には?」
- 玄兎
- 「具体的には。そうですね、まあ僕のケースでいくと、本来難しいはずの引きの技術メインで、楽にセッションが回せるようになる傾向があります」
- ケイ
- 「そりゃ最初に意見聞いてるんだから、引くのは簡単だわな。合意できてるようなもんだし」
- 玄兎
- 「そうそう。んでまあ、引きの方が難しいとか、上級テクニックとか言われてるわけだけど、実はそんなんコモンセンスとコンセンサスの問題で、それってマスタリングの技術ってより単にコミュニケーション能力だろうと。だから伝える技術と聞く技術を鍛える方が先だと」
- クジ
- 「それで呼びかけとアンケートだったんですね」
- 玄兎
- 「そう。まあ、とにかく自分の書いたシナリオどおりに押したいって人には向かんかも知れないし、そういう人が参加してたらごめんなさい、ですね。まあ吟遊詩人に興味はないけど」
- ケイ
- 「謝る気ねえだろ」
- 玄兎
- 「あんまり。んでまあ楽が出来ると考えた場合なんですが、そりゃあ余裕が出来るってことで、余裕が出来ればアドリブをきかせたり、アレンジかけたり色々できるようにもなるでしょう。やりたいこととか、前回の感想戦やらアンケートやらで情報は仕入れてるんだから、そのあたりから重点的にチョイスしていけば、ヒット率も上がろうってもんで。あくまで個人的な意見としてなんですが、TRPGのスキルなんて1人で頑張ったって向上しませんよ。向上したかったら、向上しちゃう環境を作ることを考えた方が良いと思うし」
- ケイ
- 「その向上しちゃう環境作りってのを、体験してもらったってわけか」
- 玄兎
- 「そんなとこです。一応は場の形成というか、作り方なんかも加味してますけど。語り部の輪とか使いましたし」
- ケイ
- 「なんじゃそりゃ」
- 玄兎
- 「あっちで民話の収集してたときの経験則から、勝手にそう呼んでるだけなんですけどね。だいたい3メートルくらいの円に座るんですよ、語り部って。どうもその距離が、一番言葉の掛け合いがしやすいみたいなんですね」
- クジ
- 「輪の大きさを変えていろいろやりましたよね」
- 玄兎
- 「あの時も、結局は3メートルくらいの円に収まったんだよね。あれって一応、理論というかパターンとしても成立してるみたいで。たしかカンバセーションサークルだったかな? 西洋建築で一家団欒の場を作るときの、リビングの家具の配置パターンとか。ソファやなんかの配置を、だいたい直径3メートルの仮想円にするらしいです。今度オリハタに聞いてみようと思ってんですが、それは置いといて」
- ケイ
- 「とにかく徹底して環境作りに腐心したってことだな」
- 玄兎
- 「です。そこまで出来れば、あとは回数をこなして骨を太く丈夫にしていくだけでしょ。試したいことを試せる、トライ&エラーの場ってか。3つだか4つだかのグループから適当に集まってるんで、所属グループでは出来無さそうなネタとかも後腐れなく試せるし、環境的にミスって元々なんで、まあ気楽にやっちゃってくれと」
- ケイ
- 「トライ&エラーって普通にできねえの?」
- 玄兎
- 「緊張してたら難しいでしょう。グループで回数を積んで、1回の価値が希釈されてくりゃあ、冒険もできるようになりますけどね。スキル特性ってか才能ってか、まあ出来ることと出来ないことって人によって違うんだけど、その辺は試しながら判定していきゃいいわけで。お試しプレーが出来ないから緊張しちゃうとこって、あると思うし。初心者とベテランでは1回の重さが違うから」
- ケイ
- 「甘やかしすぎじゃねえかなあ」
- 玄兎
- 「まあねえ。本音を言ったら僕もそう思わんでもないですけど、そういうこと言ってるとマッチョとか言われますよ。あと大人の方が失敗に対して臆病だし。それはともかく、問題は失敗しちゃいかんと思っちゃう初心者心理と、わがままなプレイヤー専門の人たちなわけで。プレ専でやってる人も、初心者さんだとリプレイやらなんやらで無駄に目が肥えちゃってると、過剰に期待しますし」
- ケイ
- 「なに、じゃあ商業でリプレイが良くなればなるほどニューカマーのハードル上がっちまうって?」
- 玄兎
- 「そういう行き詰まりも、実はあるんじゃないかと思ってんですよ。商業が自分で自分の首を絞めてるっつか。そういう意味ではSNEが新人にばっかリプレイGMやらせるのも、FEARがゲームフレームをかっちり作ってリプレイを再現しやすくしてるのも、同じ状況認識から違うアプローチをしてるだけ、とも考えられるんじゃないかとか」
- クジ
- 「もしかして、だから昔のリプレイ持ってきたんですか?」
- ケイ
- 「だから?」
- 玄兎
- 「ああ、好きなリプレイ持ってきてもらって、どのシーンのどこがいいとか、その前後の流れとかをダベってた回があったんですよ。あれ何回目だっけ?」
- クジ
- 「4回目です。人が少なかったからセッションは短めにして」
- ケイ
- 「いろいろやってんなあ」
- 玄兎
- 「やってることは、そんじょそこらのグループと変わらんっしょ。活動として認識されてないレベルの話に、わりと無理矢理こう、価値を持たせたっつーか。本来ならこんな体裁整える必要もなかったと思うんですけどね。ああすみません。ミーティングの時間が足りなくなる」
- ケイ
- 「そうか。じゃあ、今日はここまでだな」
- クジ
- 「ありがとうございました」
- ケイ
- 「こちらこそありがとう」
- 玄兎
- 「ああ、そうそう。ネタの取捨選択は任せますんで。んじゃ、おつかれさんです」
- ケイ
- 「おう。おつかれ」
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