[chat] 20090211-2

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2009/03/02 : 誤字、未変換文字の修正、および注釈を追加しました。

2009/02/11

玄兎
「回しまーす」
シノフサさん(仮)
「でさ、結局、子供に読み聞かせって、どういう?」
玄兎
「いや、もうそのまま絵本を読んで聞かせればいいんと違う? つか何か期待されてもそれくらいのことしか出来んって俺」
シノフサさん(仮)
「でもこれ実験でしょ? 何を期待されてるんだろね」
玄兎
「ドクの考えてることは分からんて。ゲームの話とかもしたから、そっちの技術を応用しろとかそういうことなのかねえ」
シノフサさん(仮)
「読み聞かせにゲームの技術なんて使えるの?」
玄兎
「どうだろうねえ。まあ、最初はとにかく行き当たりばったりでやってみよう。相手の子の環境を見てみないことには、環境整備もできない」
シノフサさん(仮)
「環境整備なんかするわけ?」
玄兎
「そりゃするよ。何をするにしたって器を整えないことには始まらないでしょ」
シノフサさん(仮)
「どんなことを?」
玄兎
「相手次第だから具体的には決められないけど、例えば採光、光をどれくらい入れるかとか、照明を使うかとか。BGMを入れるか、入れないか。周りに他の人がいるのか、いた方がいいのか、いない方がいいのか。何時ごろに始めて、どれくらい時間をかけて終わるか。あと、カーテンを閉めるか、読み聞かせるときに相手の子にどんな姿勢でいてもらうか、僕はどんなトーンでどんな調子で喋るか、読むときの声は、読み聞かせる絵本の種類は、使える言葉の制限は、読み聞かせの前後にどれくらい会話するか、とか」
シノフサさん(仮)
「そこまで考える」
玄兎
「そりゃ考えるよ。リーディングは一種の感染魔術なんだから。腕が足りない分は、小道具で補わないといかんじゃないか(笑)」
シノフサさん(仮)
「リーディング?」
玄兎
「パフォーマンスの一種。朗読劇、かな。いわゆる講談だよ。ストリートでやれば辻講談になる。本を小道具としたストーリーテリングの一ジャンル」
シノフサさん(仮)
「講談って? 落語みたいなもの?」
玄兎
「ああ、いい質問。落語と講談はちょっと違う。落語のいわゆる噺家ってのは、演者として登場人物を色鮮やかに演じ分けるけど、講談は第三者目線から語るんだよ。講談の場合、軍記を語る御伽衆を出発点にしてたそうだから、話の面白さよりも判断の何故を解釈して語ることのほうが、大事だったんだろうねえ。元は講釈って言ったそうだし」
シノフサさん(仮)
「演じないで語るって、どんな感じ?」
玄兎
「そうだなあ。手術したらしばらく声は出せないし、仕納めってことで許してもらおうか。うそ川五右衛門の段。やあやあ我こそは石川五右衛門なりい、と大見得を切ったはいいものの(ダン)、下を見下ろせば十重二十重の御用提灯(ダン)、ここで京都所司代の前田玄以(ダン)、力だすきにねじり鉢巻でこれに駆けつけ(ダダン)。悪党、お主もこれまでじゃ(ダダダン)(ダンダンダンダンダン)(ダダン)。えー、なんて具合で、いわゆるまっすぐ正面に声を投げるような感じだね。基本的にはあんまり頭を動かさないし、身振り手振りもない。代わりに拍子を打つ」
シノフサさん(仮)
「うそ川五右衛門って(笑)」
玄兎
「でたらめだから(笑)」
シノフサさん(仮)
「(笑)落語だとどうなる?」
玄兎
「思いつきでやったからなあ。かなり言葉が違っちゃうけど。えー、やあやあ我こそは石川五右衛門なりい。とまあ五右衛門、屋根の上で大見得を切ってはみたものの、下を見下ろしますってえと、御用提灯が十重二十重にぎらぎらと光っておるわけでございます。力だすきにねじり鉢巻の、京都所司代、前田玄以も駆けつけまして、悪党、お主もこれまでじゃ。とかまあ、こんな感じかなあ。上下(カミシモ)に首を振るし、身振り手振りも大きい」
シノフサさん(仮)
「なんでそんなことできんの」
玄兎
「いやあ、こんなん見よう見まねだよ。本物は瞬時に舞台を作り出しちゃう力がある」
シノフサさん(仮)
「よくわかんない人だよねえ、旦那」
玄兎
「何をいまさら(笑)」
シノフサさん(仮)
「そうだ。それってゲームの技術?」
玄兎
「ああ、そうだその話だった。まあマスタリングの技術のひとつではあると思うよ。講談は節をつけて名調子で、息も切らさず一気呵成にやっつけるから、そのまま使ったんじゃあプレイヤーが口を挟めなくて駄目だろうけど(笑)。言葉選びってか、韻を踏んだり字数を合わせて平板に聞かせたり、逆に崩して注意を引いたりには、使えるよね。あと、プレイヤーが使って効果があるかは、しらない(笑)」
シノフサさん(仮)
「拾いたくなるとか、そういうのはあるかもしんないじゃん」
玄兎
「確かに。それはありそうな話」
シノフサさん(仮)
「でも出番取られそうでGMだったら怖いかも(笑)」
玄兎
「ああー、いるよね、GMより面白く話しちゃうプレイヤー。実にすばらしい。どんどんやれ(笑)」
シノフサさん(仮)
「そういえばよく拾うよね」
玄兎
「うん。基本的に拾えるものはなんでも拾う。僕はあれですよ、ゲームマスターが事前に用意した筋書きとか、ぶっちゃけどうでも良いと思ってるんで。整った話より面白い話、面白い話より楽しい時間。整ったお話のプライオリティは、僕の中では一番低い。そんなもん別のメディアでなんぼでも摂取できるっちゅーんじゃ」
シノフサさん(仮)
「壊れた(笑)」
玄兎
「(笑)というか壊したい。だからね、環境整備なんですよ」
シノフサさん(仮)
「つながってないつながってない(笑)」
玄兎
「あれ、おかしいな。つながってない?」
シノフサさん(仮)
「分かんない。どゆこと?」
玄兎
「つまりね、プレイヤーのアイデアにGMが乗っかっても回せるっていうのは、GMとプレイヤーのコンセンサスが取れてないと出来ないの。コンセンサスを取る。共通認識を作る。そうしてプレイヤーが自由にアイデアを投下できるフィールドを構築する。これも環境整備の一環でしょ」
シノフサさん(仮)
「なんかこじつけくさいなあ(笑)」
玄兎
「その辺はほれ、僕は三流ペテン師なので(笑)」
シノフサさん(仮)
「じゃあまあ仮にそうだとすると、どういうことをしてその環境整備をするわけ?」
玄兎
「いくつか方法はあるんだけど、最も古臭い方法としては、世界観のコンセンサスを取ること。世界観のコンセンサスってのは、その世界での法則ってか、何をするとどうなる、とか一般常識としてこう考える、とかいった話。これには世界観についての勉強をする必要があって、だからまあ昔のゲームのサプリメントってのは、世界観に関するあれこれを語ってるものが多かった。実は『ガープス』のサプリメントが日本で売れなかったのもその辺が大きくてね」
シノフサさん(仮)
「っていうと?」
玄兎
「『ガープス』に限った話じゃないんだけど、海外のゲームってのはわりとこの古流の、古い流儀ね、それのコンセンサスを軸に考えられてるシステムが多いわけ。世界観重視型、まあ世代分類で言うと第二世代になるのかな。システムは数理と舞台だけをフォローしていた時代」
シノフサさん(仮)
「海外のゲームは、どんなサプリメントがある?」
玄兎
「そうだなあ。たとえば『シャドウラン』の三版のサプリメントには、一冊まるまるストリートの生活をまとめたサプリメントなんてのがある。警察というか、警備会社の資料をまとめたサプリメントなんてのもある。すごいでしょ」
シノフサさん(仮)
「すごいけど(笑)」
玄兎
「こういうのはサプリメントってかソースブックって言われてて、日本ではどっちかというと肩身が狭い。まあ印象論なんだけど、日本だとソースブックって、シナリオ集とほとんど変わらないような感じがするんだよね。たぶんこれは日本のTRPG市場が、昔から舞台表現より演出表現を重視してたからなんだと思うんだけど。日本人らしい第二次産業」
シノフサさん(仮)
「舞台表現と演出表現?」
玄兎
「はいごめんなさいかっ飛ばしすぎました。これはあれね、システムを構築する数理、舞台、演出の三要素の話ね。数理はいわゆる判定とかのルールと、それに関連する数字データ。舞台は、ゲームの舞台。世界設定だわな。演出は、いわゆるシナリオ。もうちょっと広げるとシステムを使った遊び方、ってとこかな。だから舞台表現は世界設定のサプリメント、演出表現はシナリオのサプリメントだと思ってくれればいい」
シノフサさん(仮)
「はい質問」
玄兎
「どうぞ」
シノフサさん(仮)
「なんで日本市場ではシナリオ優先だったの?」
玄兎
「ああ、そりゃ日本にウォーシミュレーションが根付いてなかったからだよ。ウォーシミュレーションの場合、シナリオってのはルールと初期設定、さっきの話で言えば数理だね。これに演出を支援するためのゴール、勝利条件が設定されてる。ボードゲームの場合は、さらに舞台としてのゲームボードがあるけど、基本的にはこれだけなんだな。そこに連続したひとまとまりの物語要素は無い。あくまでひとつの状況だけ。たぶん、起こった出来事、結果の連続が物語だって考えが、ウォーシミュレーションにはあったんだと思う」
シノフサさん(仮)
「結果が物語。筋書きは無いってこと?」
玄兎
「無い。まあ舞台さえきっちり組み上げてあれば、環境は整然と運動して、結果としての筋書きが立ち上ることはあるんだけど。なんてのかな、物語ってのは環境から切り取られた断片を編集したものであって、最初っから一本の筋道じゃないというか。今のシナリオクラフトのテンプレみたいな、人生ゲームとかスゴロクみたいな順序立った物語の展開っていうのは、たぶん最初の設計の中には無かったんだと思う」
シノフサさん(仮)
「そんなので遊べんの?」
玄兎
「遊べてるじゃないか」
シノフサさん(仮)
「は?」
玄兎
「いや、だって俺のマスタリングって、そういう方法だよ?」
シノフサさん(仮)
「はあ?」
玄兎
「基本的には僕は社会環境の設定を煮詰めて、オピニオングループを戦略配置してるだけなの。筋書きは、オピニオングループの運動を予測した結果を書いてるだけ。セッション始まってから演算すんのが面倒だから。まあでもこれも、PCの行動で簡単に覆る可能性があるもんだね」
シノフサさん(仮)
「覆ったらどうすんの」
玄兎
「その場で組みなおすんだよ。当然」
シノフサさん(仮)
「はああ?」
玄兎
「いや、驚かれてもなあ」
シノフサさん(仮)
「だってそんなすぐに組みなおせるものなの?」
玄兎
「そうだなあ。もちろん完全な演算はできないよ。これまでの経験とか、色んな知識から似た構造のものを引っ張り出してきて、それを当てはめてショートカットしてんだけどね。ヒューリスティクスだわな」
シノフサさん(仮)
「たとえばどんな風に?」
玄兎
「たとえば突撃衝力のある白兵戦部隊と、弾幕が張れる射撃戦部隊が戦うことになったら通説のナガシノ・ウォーを持ってくるとか? いや、馬防柵とか戦場の見晴らしとか、舞台の構成要素で引用するもの変わるか。あー例をあげるのは難しいなあ。プレーしてるときと今とではおつむの使い方も違ってるし。とにかくそれをするために、GMやるのに勉強したってのはあるんだよね。僕がヨーロッパ圏の勉強をしてたのも、元はと言えば舞台のリアリティを高めるためだったし。前にブログで鏡さんて方も、そんなことしてたって書いてた。いやもっと遡るとウォーシミュレーション・ボードゲームで先輩に勝つためだったんだけど(笑)」
シノフサさん(仮)
「勉強して勝てるもんなの?」
玄兎
「デザイナーのセンスとコンセプトが理解できれば。っていうのは、ウォーシミュレーション、特にヒストリカル・シミュレーションゲームってやつは、歴史上の戦場をモチーフにしてるから、実際の戦いがどうやって行われたのかを再現すると、大体歴史通りの結果になるようになってるわけ。だから負けた軍勢をプレーするときは、歴史どおりの結果にならないルートを探す。補給線を断つとか、捨て駒を使って戦場を敵本陣よりにするとか。あとは数理の問題。こっちはアビリティとリアリティの問題で、歴史どおりに進めたときのリピータリティ*1[リピータリティ] = 再現性。の率で大体分かる。逆にいうと、リピータリティの狂い、まあ数理の狂いがあるかどうかを理解するのに、一番早くて確実な方法が、歴史を勉強すること」
シノフサさん(仮)
「ああ、それで海外のゲーマーは日本より年齢層が高いわけ?」
玄兎
「だと思うよ。まあ下にも広がってたとは思うんだけど、場所を取るし、一日で終わらないゲームなんかはゲームボード広げっぱなしで何日もいなきゃいけないんで*2[ゲームボード広げっぱなしで何日もいなきゃいけない] = 俗にビッグゲームと呼ばれたタイトルは、大きな(たとえば一坪分くらいの)マップと非常に多くのコンポーネントを使って遊ぶため、再現するための記録や、あまつさえ再度ゼロから同じ配置を作り出すだけでも一苦労なので、継続して遊ぶつもりがあるなら、現状保存が鉄則となる。ちなみに地震の多い日本/関東エリアは、地震でコマの配置がズレてしまうことがあり、ビッグゲーマー泣かせの土地と言える。筆者は実際、地震のせいで一ヶ月遊んだビッグゲームがオジャンになった経験がある。、子供がやるには親の理解が必要だったと思うし、大人の方がやりやすかったのは確かだろうね。で、まあそんなこともあって、アイボリータワーとまではいかないけど、碩学気取りのディレッタントが話題にするにはものすごく都合が良かったっていうのは、あると思う。僕もそっちよりの人間だけど(笑)」
シノフサさん(仮)
「なんてめんどくさい連中(笑)」
玄兎
「めんどくさい言うな(笑)。まあでも日本ではその辺の文化が薄かったから、いきなりドンとRPGが入ってきた感があるし、本格的な普及はドラクエの後発だったから、ターゲットユーザの年齢のゾーンも低かった。だからゾーニングの都合で、この面倒くさい碩学スタイルの方法は敬遠されたんだと思う。特に日本のTRPGにとって大きな価値を持った『ロードス島』と『ソード・ワールド』の展開が、今で言うラノベ、昔はティーンズノベルなんて言ったけど、このゾーンで行われてたのが決定的で。ものすごい早い段階から物語を意識してシナリオデザインすることが考えられてた。両方ともソード&ソーサリーの世界としては、オーソドクスと言うか、個性的じゃないでしょ? 『ドラクエ』とかとも大きなずれを感じることも無いし」
シノフサさん(仮)
「そうだねえ。魔法も戦闘のがほとんどだし」
玄兎
「『指輪物語』しかなかった人たちにとっては『指輪物語』はユニークだったけど、『ドラクエ』も『FF』も『ソーサリアン』もあった人たちには、数あるファンタジーの一つだったんだろうな。とにかく重みが違った。で、そうすると世界の存在感、ユニークさが希薄になって、価値が軽くなるわけ。んで代わりに物語がクローズアップされていく。この辺はゲームブックの影響も大きかったと思うけど。で、そっちが隆盛するのと反比例して、それまでの海外産ゲームと、その支援として展開されてたソースブックとか、ファンタジー系で多く見られた汎用の舞台解説本は、希薄なものの勉強なんてかったるいと、さらに立場を弱くしてティーンズのゾーンからは敬遠されて。んでソースブック系の商売は廃れたと。さすがにD&Dクラスになると、最古参のファンたちによって受け継がれていったし、海外でも健在どころかメインストリームになってるくらいだから、何度でも黒船は来航するんだけど」
シノフサさん(仮)
「なるほど」
玄兎
「と、勝手に考えてる。ちゃんとデータ調べたわけでも無いんで、間違ってるかも(笑)。さっき話してた『ガープス』のサプリメントが日本では弱かったのも、また『ガープス』自体が流行らなかったのも、この辺の要素がけっこう影響してると思うんだよね」
シノフサさん(仮)
「戻ってきた(笑)」
玄兎
「(笑)もうちょっとだけ喋らせてよ」
シノフサさん(仮)
「どうぞ」
玄兎
「『ガープス』のサプリメントの多くは、原書の方だね、こいつは相当なレベルでソースブックとしての性質が強いわけ。だから実は資料的な価値は高いし、読む人が読めばゲームを遊ぶ人でなくても面白いものだと思うんだけど、実用性で言うと、日本市場とは相性が悪かった。日本の遊び方では、舞台とか世界設定っていうのは物語を彩るアペンド程度のもので、シナリオのコントロールは物語の筋書きの方がメインになってるから」
シノフサさん(仮)
「海外の方ではシナリオは舞台でコントロールするわけ?」
玄兎
「最近はそうでもなくなってきたみたいだけど、昔はそういう傾向は強かったと思うよ。ダンジョンなんてそのまんまでしょ。それがダンジョンから出ても同じ構造で遊ぶように示唆したのが、たぶん『トラベラー』*3[トラベラー] = GDW社から発表されたSF世界を取り扱うTRPGシステム。ボードゲーム界の哲人、マーク・ミラーによって生み出されたシステムは、その魅力的な世界と渾然一体となって現在まで続いている。同じ世界設定の中で遊ぶウォーシミュレーションボードゲーム『インペリアル』や、『トラベラー』のモジュールでありつつ単独のボードゲームとしても遊べる『メイデイ』など、ユニークなユニバースを形成している。私にとっては思い出深いタイトルの一つでもあり、『トラベラー』について語りだすと止まらないので、後は本文を参照(笑) だったんだと思う。あれは当時にしては異様なシステムで、まあ古典中の古典だけど、名作です。ちなみにソード&ソーサリーで似たようなことをしてたのは『ロールマスター』*4[ロールマスター] = ソード&ソーサリーの汎用システムとして発表されたタイトル。日本語版は第二版がホビージャパンより「アームズロー&クローロー」、「スペルロー」、「キャラクターロー&キャンペーンロー」、「トレジャーロー&クリーチャーロー」の四分冊で発売された。呆れるほど緻密な「痛打表」と、それに対応するべく緻密になった呪文の数々は語り草になっている。また私自身は「キャラクターロー&キャンペーンロー」のキャンペーンロー部分を、世界構築型ファンタジーのマニュアルとして『ハーン・ワールド』と併せて現在でも愛用している。なお、『ロールマスター』の第四版や、後継である『HARP』の簡易版『HARP Lite』は「TRPGサークル幻想遊戯」の手によって翻訳が行われていた。(現在はPDF公開、千葉大学祭配布版、ともに終了した様子)なんだけど、まあそれはいいや。で、僕が本格的にGM修行し始めたのは『トラベラー』のせいでね。社会システムとか勉強してないと死ぬほどつまんないんだこれが(笑)」
シノフサさん(仮)
「だからさ、なんでそんなゲームやってんの旦那。マゾ?(笑)」
玄兎
「マゾ言うな(笑)。『トラベラー』にはロマンがあるのだ」
シノフサさん(仮)
「出たロマン(笑)」
玄兎
「惑星間を宇宙船で航行するのですよ。そして交易するのですよ。惑星はそれぞれが独自の文化を持ってるし、政治体制も社会機構も色々だから、海に船出して新世界へと繰り出していけるのですよ。これをロマンと言わずに何がロマンか」
シノフサさん(仮)
「旦那が熱い。珍しい(笑)」
玄兎
「もーメラメラ燃えてますよあんた。『ガープス』の話なんて持ち出すのがいかんのだ。もう後悔しても遅いのだ。これはもう諦めるしかないわけですよ君(笑)」
シノフサさん(仮)
「(笑)いや別に嫌じゃないから。面白いし」
玄兎
「なんだ。ならいいや。思う存分やらせてもらおう」
シノフサさん(仮)
「どうぞ」
玄兎
「なんか軽く引かれてる気がするんだけどなあ。まあいいか」
シノフサさん(仮)
「『トラベラー』だっけ」
玄兎
「そう、『トラベラー』。で、こいつでみっちり仕込まれた。『トラベラー』ではゲームマスターじゃなくてレフリーって言うんだけどね」
シノフサさん(仮)
「レフェリーじゃないの?」
玄兎
「うん。レフリー。日本語版ではそう書いてある(笑)」
シノフサさん(仮)
「翻訳が(笑)」
玄兎
「まあいいのですよ。とにかくこのレフリーってのが、裁定者、判断をするだけの人なわけ。昔、TRPGの説明をするときに、ウィザードリィの由来をひっくり返して、コンピュータがやる作業を人間に任せた、なんて言うんだけど、『トラベラー』のレフリーはまさにそんな感じなんだな」
シノフサさん(仮)
「判断するだけって、あれ? それってあれじゃないの、Aマホ*5[Aマホ] = ご存知『Aの魔方陣』の略称。Aマホでは、一般的なGMという役割は無く、代わりにSD(セッションデザイナー)という役割がある。SDはそのセッションの目的、難易度、プレーできるターン数、1ターンあたりの時間、求められる成功要素などセッションデータを設定し、プレイヤーのプレーを評価することに専念する。コアフレームのみのルールキットであるため、実際の運用についてはSDに委ねられており、SDのハンドリング技術がゲームの面白さを左右する、という大胆な設計になっている。設計者の芝村裕吏氏による世代分類では、設計思想的には2006年4月現在において唯一の第四世代TRPG。のSD」
玄兎
「正解」
シノフサさん(仮)
「え?」
玄兎
「実際はどうか分からないけど、芝村さんって『トラベラー』のヘビーユーザーらしいんで、影響されたと言うか、たぶん芝村さんのマスタリングスタイルが、そういう型なんだと思う」
シノフサさん(仮)
「そうなんだ」
玄兎
「実際どうか知らんから、予想だけどね。で、『トラベラー』のレフリング? の型ってのは、さっきも言ったけどものすごく古い。『トラベラー』のレフリーの難しさってのは主に二つあって、一つは社会のシミュレーション。知識やら教養やらが無いと、説得力のあるシミュレーションが出来ないから、プレイヤーも何をしていいのか見当がつけられなくて困っちゃう。コンセンサスの基軸を作るのがレフリーなんで。で、もう一つが判定関連の設定でね」
シノフサさん(仮)
「ふんふん」
玄兎
「『トラベラー』の判定は、えーと僕は『メガトラベラー』って『トラベラー』のアップグレード版で遊んでたんだけど、こいつは判定をタスクシステムってので行っててね。判定の難易度、行為の成功に重要な技能と能力値、必要な時間、行為の危険度っていう四つの要素を組み立てて判定をする。ちなみにちゃんと書式があって、ユニバーサルタスクプロフィール、略してUTPってので書く。さっきいった順番でね」
シノフサさん(仮)
「Aマホじゃん(笑)」
玄兎
「Aマホだよ。ってかAマホが『トラベラー』だよ、ってか(笑)。だから僕はあのゲーム、ものすごい馴染んだ」
シノフサさん(仮)
「めんどくさいのに」
玄兎
「Aマホの判定を、個人単位で行ってると思えば、まあ大体『トラベラー』ってそんな感じだよ。シナリオ全体の難易度とか、そういう一元化された数値はなくてね。ただまあ、その分Aマホと違う部分もある。特に重要なのは、時間ってリソースの管理。『トラベラー』のタスクシステムの面白さの一つは、かかる時間を最初に設定することで、これを急いで片付けて短縮するか、もっと時間をかけてじっくり構えるか、って判断をプレイヤーができることね。ちなみに時間を半分にすると難易度が上がって、倍にすると難易度が下がります。Aマホの場合は、判定回数が固定で、SDが設定したターン内で終わらせないといけないけど、『トラベラー』の場合は判定がフレキシブルな分、シナリオ全体の時間をプレイヤーが想定して、時間管理をしていくわけ」
シノフサさん(仮)
「また難しそうな」
玄兎
「難しいと思うよ。そもそもこの楽しみ方が正しいのかどうかも分かんない(笑)」
シノフサさん(仮)
「分かんないのかよ(笑)」
玄兎
「僕は『トラベラー』を楽しむ方法として、そういう舞台設定と時間で回すレフリングについて教わったし、実際それが面白かったからそうやって遊んでるわけだけど、もしかすると違う遊び方が正しいのかもしんない。この辺『トラベラー』は教えてくんない。超スパルタ。昔はみんなそうでした(笑)」
シノフサさん(仮)
「ちょい質問」
玄兎
「なに?」
シノフサさん(仮)
「どうやってシナリオ全体の時間をプレイヤーが想定するの?」
玄兎
「ああ、それは簡単。他人の判定結果と、旅費の計算」
シノフサさん(仮)
「は?」
玄兎
「他人の判定結果ってのは、たとえば敵NPCが移動判定で、PCたちのところまで30分で来るとするじゃないか。そしたらPCは30分以内で出来る準備を整えるってわけ。旅費の方は、『トラベラー』ってのは交易船で惑星間交易をしてるわけ。だから燃料とか食費とかそういうものと、惑星での滞在費、あとクリティカルなミッションに当たってる場合は医療費とか慰謝料とか、逆にそのミッションを成功させたときの利益とか、そういうものを計算しておいて、どれくらいその惑星で遊んでられるかを計算するわけ」
シノフサさん(仮)
「うっわ。本気で地味だわ」
玄兎
「本気で地味なゲームばっかり好きでごめんなさいねえ。でもまあ、そういう日常があって、非日常の中にとんでもない存在感で割り込んでくるからこそ、非日常での冒険に緊張感が出るんだと、僕は思ってる。現実はね、誰にも生き急げなんて言ってくれない。何かを求め焦がれる者は、自分で自分の身を焼かなくちゃいけない。腹をくくれなきゃ、日常の重力から逃れることなんて出来やしない。まあ古いんだろうけどねえ、こういうのは」
シノフサさん(仮)
「嫌いじゃないけど、若い子はついて来れないんじゃない? 草食系男子とか」
玄兎
「だろうねえ。だから今風のゲームを研究して、どこで折り合いをつけるかとか、こっそりさりげなくこっち側に引っ張ったりできないか、考えたりしてんだけど(笑)」
シノフサさん(仮)
「そんな陰謀が(笑)」
玄兎
「そりゃそうだよ。僕は僕の遊び方が古いことを知ってるけど、同時にものすごく楽しいものだってことも知ってるんだから。問題は、今のところ時間をかけた接触感染でしか伝えられてないことなんだけど(笑)」
シノフサさん(仮)
「旦那のゲームは楽しいけど、真似しようとしても出来なかった理由はよーく分かった(笑)」
玄兎
「僕とか先輩らのやってる古流のマスタリングってのは、突き詰めると完全にゲームマスター個々人で独立すると思う。色んなシステムを遊んで、自分なりにルールの機能を解釈して、自分のマスタリングに使いやすいルールを抽出して、他のシステムに適合するように組み替えて、フレキシブルにどんどん拡張していく。ひらすら試行錯誤する。結果として、たとえばT&Tを遊んでいても、誰それ風T&Tとか別物の運用になっちゃう。で、これを技術化できた人が、システムデザイナーとして一人で世界中のユーザと戦う資格を得る」
シノフサさん(仮)
「技術化できるもんなの?」
玄兎
「僕はまだ完全にはできてない。一生できないかもしれない。僕と同じようなマスタリングをしたかったら、とりあえず数こなして下さい。あと筋書きを書いた場合も、何でそうなるのか矛盾がないように、スタート地点まで遡って設定を組み上げておくとか。社会科の副読本をTRPGのソースブック扱いするようになれば一人前だと思うんだけど。ヒストリーチャンネルを見るとか(笑)」
シノフサさん(仮)
「ねえねえ、前から思ってたんだけど」
玄兎
「なに?」
シノフサさん(仮)
「馬鹿でしょ?(笑)」
玄兎
「(笑)おう。馬鹿。馬鹿って言われた。リサ、おうリサ」
シノフサさん(仮)
「リサって誰(笑)」
玄兎
「気にしないで。十年以上も前のネタだから。まあとにかく、さっきも話したけどヒストリカルシミュレーションの文化があったお陰で、海外では昔からユーザの年齢層が日本より上まで広がってたから、ソースブックを使って舞台でシナリオをコントロールするって方法も、わりとすんなり受け入れられたんだと思う。日本とは違って」
シノフサさん(仮)
「そこにつながるわけ」
玄兎
「まあ、後『ガープス』ってキャラクター作った時点でゲームが半分かた終わってるわけね。さっきの言い方をすると、キャラクターはオピニオングループの最小単位で、こいつを作った時点で戦略的な運用方法は、ある程度決まってる。で、あとはシナリオ内のどの場所に布陣させれば効果的に影響を及ぼせるかってのを考えながら、運動させていくわけだ。キャラクターをトークンとして効率重視の運用をすると、そういうプレーになる。で、そういうプレーをしても、プラスとマイナスの特徴によってキャラクターの個性が出るから、キャラがただのトークンにならずに済むって寸法なわけ」
シノフサさん(仮)
「そうやって遊ぶものなの?」
玄兎
「そうやって遊ぶことも出来る、って話。こないだツダ君が来たときも、ドライなプレーの話をちょっとしたんだけど。まあとにかく『ガープス』ってのはどこまでも汎用なもんで、受け皿は広いんだけどユーザを選ばなさ過ぎる。ユーザを選ばなさすぎて妙なバッティングが発生して、その火が全体に広がって、今では荒野になっちゃった。とか、そんなような印象があるんだよなあ。切ねえなあ」
シノフサさん(仮)
「手広すぎたから駄目だったってこと?」
玄兎
「いや、たぶんロールプレイを演技の方向で進めたのがいかんかったんだと思う。演技型ロールプレイは、メタゲームでもなんでもいいから枠組みを絞っておかないと暴走するから。ルールブックで演技することが重要って書かれてると、ルーニーとマンチキンが暴れやす、あ、もう晩飯か」
シノフサさん(仮)
「病院って早いよねえ、夕飯」
玄兎
「消灯時間が早いからねえ。まあ健康的な生活ってやつを送ると、そういうことになるのかもしれないけど。電気も節約できて省エネなエコ生活(笑)」
シノフサさん(仮)
「じゃあ今日はそろそろ帰るね」
玄兎
「ほいほい。長話に付き合ってくれてありがとさん」
シノフサさん(仮)
「礼はいずれ形のあるものでお願い」
玄兎
「さっさと帰って原稿やりやがれ。あ、やべ」

References

References
1 [リピータリティ] = 再現性。
2 [ゲームボード広げっぱなしで何日もいなきゃいけない] = 俗にビッグゲームと呼ばれたタイトルは、大きな(たとえば一坪分くらいの)マップと非常に多くのコンポーネントを使って遊ぶため、再現するための記録や、あまつさえ再度ゼロから同じ配置を作り出すだけでも一苦労なので、継続して遊ぶつもりがあるなら、現状保存が鉄則となる。ちなみに地震の多い日本/関東エリアは、地震でコマの配置がズレてしまうことがあり、ビッグゲーマー泣かせの土地と言える。筆者は実際、地震のせいで一ヶ月遊んだビッグゲームがオジャンになった経験がある。
3 [トラベラー] = GDW社から発表されたSF世界を取り扱うTRPGシステム。ボードゲーム界の哲人、マーク・ミラーによって生み出されたシステムは、その魅力的な世界と渾然一体となって現在まで続いている。同じ世界設定の中で遊ぶウォーシミュレーションボードゲーム『インペリアル』や、『トラベラー』のモジュールでありつつ単独のボードゲームとしても遊べる『メイデイ』など、ユニークなユニバースを形成している。私にとっては思い出深いタイトルの一つでもあり、『トラベラー』について語りだすと止まらないので、後は本文を参照(笑)
4 [ロールマスター] = ソード&ソーサリーの汎用システムとして発表されたタイトル。日本語版は第二版がホビージャパンより「アームズロー&クローロー」、「スペルロー」、「キャラクターロー&キャンペーンロー」、「トレジャーロー&クリーチャーロー」の四分冊で発売された。呆れるほど緻密な「痛打表」と、それに対応するべく緻密になった呪文の数々は語り草になっている。また私自身は「キャラクターロー&キャンペーンロー」のキャンペーンロー部分を、世界構築型ファンタジーのマニュアルとして『ハーン・ワールド』と併せて現在でも愛用している。なお、『ロールマスター』の第四版や、後継である『HARP』の簡易版『HARP Lite』は「TRPGサークル幻想遊戯」の手によって翻訳が行われていた。(現在はPDF公開、千葉大学祭配布版、ともに終了した様子)
5 [Aマホ] = ご存知『Aの魔方陣』の略称。Aマホでは、一般的なGMという役割は無く、代わりにSD(セッションデザイナー)という役割がある。SDはそのセッションの目的、難易度、プレーできるターン数、1ターンあたりの時間、求められる成功要素などセッションデータを設定し、プレイヤーのプレーを評価することに専念する。コアフレームのみのルールキットであるため、実際の運用についてはSDに委ねられており、SDのハンドリング技術がゲームの面白さを左右する、という大胆な設計になっている。設計者の芝村裕吏氏による世代分類では、設計思想的には2006年4月現在において唯一の第四世代TRPG。

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