えー。先月から今月にかけて、富士見書房/富士見ドラゴンブックから出た『○○がよくわかる本』のうち、持ってた四冊ばかりを読み返して、ぼやぼや考えてみたわけですが。
僕が最初に『わかる本はどこへ消えた』を書いたときに考えてた「わかる本」とは、ちょっと路線が違ったんだなぁ、と了解しました。あのとき想定していたのは『T&Tがよくわかる本』だったのです。*1[T&Tがよくわかる本] = 富士見ドラゴンブック系とは一線を画した体裁の技術書。セッションリプレイは皆無で、当時のソード&ソーサリー世界の常識(例:貨幣に対する認識)から、各種一般装備や魔法の使い道、困ったチャンの分類、98ページに渡るゲームマスター指南、要所をおさえた Q&A など、256ページの薄い文庫本に詰め込まれた情報量は多い。
今回は総括的に、執筆者が「わかる本」に与えた機能と、それが現在どのようにプレゼンテーションされているのかについて考えてみたいと思います。
シリーズ化した以上、決着を付けないと寝覚めが悪いんで(笑)
長々やった割に大した話じゃないのが情けないところですが、ま、「事実の追認」より「どうすれば伝えられるのか」を知りたかったんで、答えがどんなものでも構わんといえば構わんのです。わはは。*2[どうすれば伝えられるのか] = 新しくゲームを作る人にも、今あるゲームを誰かに教えたい人にも、共通して踏まえるべき要所――ファシリテーションの叩き台になるモデル――が欲しいと考えている。
ページの内容
教本としての「わかる本」
まずは「わかる本」を教本とする通信教育(笑)が、どう行われていたかを抽出してみることにします。
「わかる本」の六大要素
「わかる本」に共通して見られる要素を抽出してみると、大まかに分けて六項目あるように思います。
- 作品紹介
- システム
- キャラクター
- プレイング
- マスタリング
- シナリオデザイン
……こんな感じ。
便宜上、本シリーズではこれを「わかる本の六大要素」または単純に「六大要素」と定義しておきます。
で、それぞれがどういう要素なのかは、以下の通りです。
作品紹介
言わずもがなの、作品紹介。
該当する TRPG の作品タイトルと、どんなゲームなのか、どんなゲームが遊べるのかについて紹介します。
……いやまあ、書籍全体が作品紹介ではあるんですが、これは概要の紹介ということで。多くのゲームタイトルが世界設定と、それを再現するためのシステムとなっているため、その他の要素に関連付けられていない世界設定の紹介もここに分類されます。
システム
ゲームに使用されるシステム、それを構成する個々のルール&データについての解説です。
この時代のルールといえば「判定」の方法と手順についてが大半ですから、基本的には「どのように判定するのか」「どんな手順で判定するのか」「どんな状況で判定するのか」などについてが中心になります。
キャラクター
ゲームで使用するキャラクターについての解説です。
ほとんどのタイトルが「キャラクターメイキング」についての解説が大半になっていますが、これは「キャラクターのデータをどう作るか」について、作業手順だけでなく「システムがどのようなキャラクターで遊ぶことが想定しているか」から逆算して、「どのようなキャラクターを作ればいいのか」に重点を置いています。
プレイング
プレイヤーとして、どのようにゲームに参加すればいいのかについての解説です。
ほとんど全てのゲームには、デザイナーが想定した「典型的な遊び方」というものがあります。たまにルールキットでしかないシステムもありますが、そうしたごく一部の例外は除いた TRPG に存在する「○○という状況には××と対応する」という不文律、形のないマニュアルの実例が中心になります。*3[典型的な遊び方] = もちろんこれはパターンの一つに過ぎないため、ゲームに慣れてきたら「敢えてパターンを外す」というプレイングもある。「そうしなければならない」というものではない。
マスタリング
ゲームマスターとして、どのようにゲームを運営すればいいのかについての解説です。
プレイングと並列で語られることもあれば、独立したマスタリング・スキル(技術)として語られることもあります。「ゲームマスターが取るべきスタンス」や「ルールブックに書かれていないことの解決方法」などが中心になります。
シナリオデザイン
セッションに使用するシナリオをどのように作ればいいかについての解説です。
多くのゲームマスターが「面倒くさい」と言い、また未経験者がゲームマスターに挑戦することを躊躇わせる、たぶん最大の原因であるシナリオデザインについて、プレイングの不文律と連動する形で「どのようなシナリオを作ればいいか」「どんな準備をすればいいか」などが示唆されています。
大雑把ですが、こんなところで。
「わかる本の六大要素」の配分確認
では次。
「わかる本の六大要素」がどのように配分されていたのかを、それぞれの「わかる本」の目次の章立てに当てはめてみます。
読んだモンを無駄にしたくない貧乏性。
- 第一章:ロールプレイングゲームの世界
= 作品紹介 - 第二章:最初の冒険
= プレイング - 第三章:キャラクターを作ろう
= システム、キャラクター - 第四章:これで準備はOKだ
= システム、キャラクター - 第五章:いったいどうなる大冒険
= プレイング、マスタリング - 第六章:キミもダンジョンマスターになれる!
= シナリオデザイン
- 第一章 冒険に出よう!……冒険者たちの誕生
= 作品紹介 - 第二章 冒険の始まり
= システム、キャラクター、プレイング - 第三章 ワースメイカー
= マスタリング、シナリオデザイン - 第四章 地底の死闘~そして新たなる冒険を求めて
= システム、プレイング、マスタリング - 第五章 操兵の戦い~そして新たなる冒険へ
= システム、プレイング、マスタリング - 第六章 ワースメイカーヒント集
= マスタリング
- ブルーフォレストをぜんぜん知らない人へ
= 作品紹介 - プレイングガイド もうひとりの自分を
= システム、キャラクター - ワールドガイド ようこそシュリーウェバへ
= 作品紹介、シナリオデザイン - キャンペーン リプレイ アバール国のじゃじゃ馬娘
= システム、プレイング、マスタリング
- はじめに
= 作品紹介 - 第1章 シャドウランの世界
= 作品紹介 - 第2章 キャラクター
= システム、キャラクター - 第3章 行動判定
= システム、プレイング、マスタリング - 第4章 戦闘
= システム、プレイング、マスタリング - 第5章 マトリックス
= システム、プレイング、マスタリング - 第6章 魔法
= システム、プレイング、マスタリング - 第7章 シャドウランの冒険
= シナリオデザイン
一見して全編リプレイ形式という『シャドウランがよくわかる本』は、他と比べて突出したフォーマットに見えましたが、こうして内容だけで比較してみると、単に「章立て」あるいは「切り分け方」の違いという気もしてきます。もちろん観測地点は大きくシフトしているわけですが。
実際、内容それ自体については他の「わかる本」と同じものと大差ありません。
リプレイ形式でも、以前のテキスト形式でも、本質的には同じコトをやっている。
単純に「表現方法が違うだけ」と考えることも出来そうです。
あとは「なんで違う表現方法に切り替えたのか」という点が問題になりますが、それは次回に。
References
↩1 | [T&Tがよくわかる本] = 富士見ドラゴンブック系とは一線を画した体裁の技術書。セッションリプレイは皆無で、当時のソード&ソーサリー世界の常識(例:貨幣に対する認識)から、各種一般装備や魔法の使い道、困ったチャンの分類、98ページに渡るゲームマスター指南、要所をおさえた Q&A など、256ページの薄い文庫本に詰め込まれた情報量は多い。 |
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↩2 | [どうすれば伝えられるのか] = 新しくゲームを作る人にも、今あるゲームを誰かに教えたい人にも、共通して踏まえるべき要所――ファシリテーションの叩き台になるモデル――が欲しいと考えている。 |
↩3 | [典型的な遊び方] = もちろんこれはパターンの一つに過ぎないため、ゲームに慣れてきたら「敢えてパターンを外す」というプレイングもある。「そうしなければならない」というものではない。 |