[chat] 20100731#6

アマチュアリプレイの商品化とネームバリュー、TRPGの先の話

玄兎
「それに、リプレイ執筆を推奨することには別の目的もあってね」
シノフサさん(仮)
「別の目的って、それ、ここで聞いて大丈夫な話?」
玄兎
「まあ、いいんじゃない? 夢見がちな誇大妄想狂の妄言だよ。思考実験としては面白いと思うけど、本気で考えるなら煮詰めなきゃいけないポイントてんこ盛りだし」
シノフサさん(仮)
「何か考えてるんだ?」
玄兎
「別に何だって話じゃないんだけどさ。シェア取っちゃえよって話」
シノフサさん(仮)
「なんの?」
玄兎
「電子書籍の」
シノフサさん(仮)
「くわしく」
玄兎
「難しい話じゃないよ。単に電子書籍でのリプレイやシナリオを、商品価値のあるものにしちゃえって話。今なら自由に金額設定できるでしょ。電子書籍の市場が、果たして野心的な連中のニューフロンティアになるのか、それともリザベーションになるのか。少なくとも現在の同人誌よりかは低コストで参入できるし、コミケみたいに時間も場所も限られた環境に比べてリスクも少ない。なにより在庫抱えて泣くこともない」
シノフサさん(仮)
「競争相手は?」
玄兎
「ネット上で無料で公開されてるコンテンツ。まあ一番の敵は、ニコ動のアイマス使ったアレになるんじゃないかな。ユーストリームを使った生中継なんかは、シェアとしては別だろうから気にしなくてもいい。あと、キネティックノベルとかなんかそんなのも有ったけど、価格帯から言ってシェアは別になるから気にしない」
シノフサさん(仮)
「それって収益が出るレベルになる?」
玄兎
「今の同人のレベルだと、けっこう難しいと思う。理由はいくつかあるんだけど、単純に読物としての精度、読みやすいコンテンツを作る技術体系がまとまってないこと。それからネームバリュー。商業リプレイが売れる理由っていうか、売れるようになるまでの流れは、まず最初にタイトルの紹介として、つまり入門書として読まれることにある。この時点では購入者は、リプレイが面白いかって話よりも、新作がどういう楽しみを提供してくれるのか、どう遊べばいいのかってコンセプトを読むために買う。この最初の一冊を顔見世興行として使って、読物としての面白さを確保することで、そういうハウツーから乖離した読物としてのリプレイが売れるだけの土壌を作っていく。ライターもゲームマスターもプレイヤーも、そこで名前を売ってるからこそ新しいシリーズも手にとってもらいやすくなってるって話」
シノフサさん(仮)
「リプレイはネームバリューが重要ってこと?」
玄兎
「言っちゃなんだけど、リプレイってキャラクター商品だと思ってるんよ。つまりゲームマスターとか参加者とか、そういう面子自体がキャラクターになってる。グループSNEがGMしか名前を出さないのは、ひとつには一般的なプレイモデルとしての提案、みたいなベクトルがあるんだろうけど、もうひとつ、リプレイのPCを使ってマルチメディア展開をするからっていうのも有ったと思う。小説とか漫画とか、PCに変な色がつくことを嫌ってたんだと思うんだけど。あとは参加者が業界関係者じゃない、てのも大きそうで。スチャラカ時代のダイナマイトナースとか」
シノフサさん(仮)
「じゃあF.E.A.R.のは?」
玄兎
「あれはもう一歩進めて、参加者自体もキャラクターとして扱ってるタイプで。だからまあ、役者人のネームバリューで集客する、テレビドラマに近いやり方じゃないかね。プレイヤーも基本的に業界関係者なんで、リプレイで名前が出ることは、リスクよりも宣伝効果の方が大きい。さっきの、だから『レレレ』みたいなもんだ。人気のパラメータが大事」
シノフサさん(仮)
「そこにつながるんだ(笑)」
玄兎
「いや、単なる思いつき」
シノフサさん(仮)
「なんだペテン?」
玄兎
「何も言ってないのにペテン扱いは酷い(笑)。でさ、同人ってのはそういうネームバリューが無いわけ。商業リプレイは、そういう継続性というか、連続性というか、そういうものが商品としての付加価値を与えることになってる。この辺のモデルが同人には無いんだけど、もし今、このタイミングで電子書籍のリプレイを発表すれば、少なくともTRPGクラスタの間では話題にできる。まあ質が悪けりゃ意味ないんだけどさ」
シノフサさん(仮)
「じゃあ意味無いじゃん」
玄兎
「いんや、今はウェブでテキスト系のリプレイ公開してても、それの質が良くてもほとんど話題にされないからね。それに比べりゃ話題性があるだけ有益だよ」
シノフサさん(仮)
「一応、理はあるわけね」
玄兎
「まあ、まだ小さいけどね。TRPGクラスタの中に混じってるギークが、iPhoneだのiPadだの見せびらかすとき、お仲間に見せるネタなんかにもなるし。まあそれはいいとして、アマチュアが出来る広報活動としては、コンテンツを増やすっていうのは十分、有効なんだよ。電子書籍にしろってのは、単に話題性って部分が大きいけど、それともうひとつ、宣材、宣伝材料としての価値を高める狙いって言うのも、有ったりなかったり」
シノフサさん(仮)
「なんの?」
玄兎
「ひとつはTRPGの。それからもうひとつはプレイヤーの」
シノフサさん(仮)
「さっきの話?」
玄兎
「そ。連続性とか継続性とかの元になる話。ルールブックだろうがリプレイだろうがシナリオだろうが、基本的に先行投資なわけだけど、その先行投資に踏み切らせる元は何かといえば、期待感、それと保証。で、まずその保証はコンテンツに対する先行投資として機能する。でもそれだけじゃない」
シノフサさん(仮)
「ネームバリューでしょ。ほかに何かあるわけ?」
玄兎
「金が取れるゲーマー」
シノフサさん(仮)
「どういうこと? パフォーマーとか?」
玄兎
「そう。まあ市場規模の問題から言って、今はまだ全く絵に描いた餅なんだけど、将来的に市場規模が大きくなれば、そういった人材を抱えるだけのキャパシティを確保できるようにもなるでしょ」
シノフサさん(仮)
「つまり旦那の考えてることは、TRPGゲーマーのプロ化?」
玄兎
「有り体に言えば、そういう話。少なくとも今の時点では夢物語だと思ってるけどね。ロードマップを書いてみても、日本って国の経済状況やら社会体制やらがどうなるか分からないし、TRPGクラスタを構成している人員がどれだけ資金力を身につけるかもわからない。あと10年くらいで形になれば御の字くらいの話で、当初の流れを作るだけでも3年先くらいまでは地道な活動しか無いと思う。ただ、20年先まで市場が存続しうるなら、考えておいて損はないんじゃないかなあ、とか」
シノフサさん(仮)
「本当にプロ化はありうると思ってる? なんかそんな風には聞こえないんだけど」
玄兎
「あ、やっぱり分かる? プロ化そのものは、まったく本気じゃないというか。TRPGが現在のスタイルであるままなら、プロっていうのは今のクリエイター方式からは脱却できないと思う。演出と編集っていう粉飾で、実際とは異なる面白さを生み出す仕事。あるいはナラティブ、物語を作る、書くことを目的としたツールとして発展するなら、物語を書くことを目的とした人たちのコモンセンスとして、あるいは教育技術としての研究を進めた上で、専門学校なりカルチャースクールなりで使用する、でもまあこれは既にあるだろうね」
シノフサさん(仮)
「他の方向性は?」
玄兎
「『D&D』みたいな、ミニチュアゲームの方向に進む場合、まあでもミニチュアゲームというか、ファンタジーである必要はこれっぽちもなくて、もっと露骨に現実的な兵器を扱うポリミリ系の研究用材になる感じ。またこれもファンタジーである必要はないんだけど、文明レベル、あるいはアクシオムの低い環境でのシミュレーションとして利用する場合。歴史研究用材で、特に記録の残されていない考古学フィールドでのシミュレーションだね。これについてはアメリカで何度かタッチしたことがあるけど、わりと面白い。ただこれも、作る意義、商品としての価値がどこにあるのかっていう命題があるんだけど」
シノフサさん(仮)
「それはでも、ゲームクリエイターとしての仕事ってことじゃないの?」
玄兎
「ああ、考古学フィールドの方は、そうなるよね。ゲームの目的、勝利条件と敗北条件のテーゼを研究資料から抽出して、ベーシックなプレイが研究で仮定された運動に沿った形になるように。そこにイレギュラーの発生要件を組み込んで、たとえば気象とか外敵とかなんだけど、そういう要件の発生確率を調節してね。でもこれ、直接ゲームにするのも良いんだけど、同じロジックでMASも作れるんだわ」
シノフサさん(仮)
「MASって何?」
玄兎
「マルチエージェントシステム。誤解を恐れずに言うなら、人工知能同士が自動的に行うゲーム、くらいでいいかな」
シノフサさん(仮)
「コンピューターにシミュレーションさせるやつ?」
玄兎
「そうそう、それ。一時期話題になった、なんだっけ、複雑系? とか、なんかそんな感じの。ちゃんと相手の手の情報がクローズドになってる麻雀を、全員コンピューターで打ってると考えると分かりやすいかね。それぞれロジックを適宜生成しながら行動してるわけだけど、フレームは状況判断、目標の選択と決定、行動の選択と決定、状況の生成、ていうロジックの繰り返し。ゲームボードから状況が、勝利条件と敗北条件から目標が、ルールから行動がそれぞれ生成されるわけだけど、アナログゲーマーはまあ、こういうロジックを作ったり読んだりするのが上手い。上手いというか、慣れてるんだな。これをたとえば人間の行動モデルと合わせて、種としての、生物としての人間の繁殖、再生成と、人間の行動基準となる価値観の生成と分化、伝播、まあ他にも色々あるんだけど、そういったことを並列で運動させると、マクロ社会の縮図を、ものすごい大雑把に演算ができるようになる」
シノフサさん(仮)
「大雑把なんだ(笑)」
玄兎
「今はどれくらいまで粒子を小さく出来るんだろうねえ。昔、アメリカ行ってたときには、その手のボードゲーム作ってみたりもしたんだけど。わりと好評でした」
シノフサさん(仮)
「自慢か(笑)」
玄兎
「うん。密かに(笑)。『アフター・ザ・ホロコースト』以来、憧れ続けてた社会シミュレーションを作る機会がもらえたのは超自慢。まあ出来はっていうと、ゲームとしては大して面白いもんじゃなかったんだけどね。テクスチャが分かる人だけ、面白いと感じるような。まあマニアックなゲームでした。普通に『シヴィライゼーション』とか『オリジンズ』とかやった方がよっぽどいい」
シノフサさん(仮)
「『オリジンズ』って、前に言ってたやつ?」
玄兎
「どっちだろ? いや『オリジンズ』ってと、実は第二次大戦前夜の外交戦を扱ったゲームもあるんだよね。古いんだけど。今言ったのはそっちじゃなくて、クロマニヨン人やらネアンデルタール人から人類に進化したり、そこから更に文明を発展させたりするゲームの方。ああいうのもスパコンとか使えば、相当な精度まで掘り下げられそうだよね。まあ限界はあるにせよ。て、だいぶ脱線しちゃったな。TRPGの話じゃなくなってる」
シノフサさん(仮)
「(笑)いつものことじゃん」
玄兎
「(笑)まあねえ。それはそれとして、話を思いっきり戻そう。たしかリプレイの話をしてたんだったよね。で、プロ化、プロTRPGパフォーマーは難しい、までいったのか。まあそれはそれとして、リプレイで名前を売ること、面白いものが提供できることの保証を取り付けることは、TRPGの業界に関わる道の一つではあろうか、とかかな。TRPG関連のテキストが書ける人間が増えれば、それだけ業界的に取りうる戦術も増えるだろうし」
シノフサさん(仮)
「それだけで何か変わるもん?」
玄兎
「まあ、変わらないかなあ。ただTRPG関連のコンテンツが出版されて、ああ、それが電子書籍でも。とにかくそれである程度の利益が上がるとなれば、紙の本の方でも興味をもつかも知れないっていうのは、あるでしょう。今の出版業界の状況では、特に。個人的にはファシリテーションに長けたリプレイ書きが増えたらいいな、とかは思ってるけど。そうすりゃユーザを増やすきっかけにもつながるし、興味を持った人がルールブックを買う、かも知れない」
シノフサさん(仮)
「それをやるために今、必要なものは?」
玄兎
「何が必要だろうね。ハウツー記事でも書こうか。でもリプレイあんまり読まないし、だから研究もしてないんだよねえ。昔のSNEのリプレイと、『セブン=フォートレス』無印時代のきくたけリプレイくらいしか、ちゃんと当たったことがなくて」
シノフサさん(仮)
「そっちまではやってないんだ。ちょっと意外」
玄兎
「ああ。まあリプレイって下手な人が書いてるとものすごく読みにくいんだよね。それでまあ、何度か下手なのに連続して当たっちゃって、敬遠するようになっちゃったんよ。読むの面倒で。この辺の心象をちゃんと分析すれば、上手い方法がわかるかも知れない。でもそういうのは、もっと読み込んでる人がやってくれた方がいいと思う。ビバ丸投げ」
シノフサさん(仮)
「また逃げた(笑)」
玄兎
「前にTRPG.NETあたりでその手の記事を見たような気もするんだ。まあオンセでもSkypeで音声チャットが普及してきてるみたいだし、テキストチャット時代みたいに簡単なカット&ペーストだけで済むような話じゃなくなってるからなあ。テープ起こしも馬鹿正直に一言一句拾ってると先に進めないし。ありゃもっと大雑把に拾って、語尾やら口調やらで言葉通り、帳尻合わせりゃいいんだ。いや、そういう話はどうでもいいのかな。技術としては、ひとつだけ確かなことがあって。個別ハンドアウトは、実際のセッションで使ってなくても、リプレイのために書くこと、加筆することは手間に応じた価値があると思う。あれはリプレイを読みやすくするためのコツでもあるよ」

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