[chat] 20100104#x2-英雄、カテドラル的論壇

英雄の心

玄兎
「当分しゃべれないんで、打ち止めってことで」
ケイ
「しょうがねえわな」
玄兎
「じゃあ。えーと結論から。みなさん子供になりましょう。以上」
ケイ
「なんだそりゃ」
玄兎
「ですよね。ここでいう子供ってのは、エターナルチャンピオンのことなんですが」
ケイ
「エターナルチャンピオンは永遠の戦士じゃなくて永遠の子供ってやつだな。えらい古いな。誰の話だったっけあれ」
玄兎
「僕が最初に見たのはサークルの会報でしたけど。確かソウル五輪のときあたりで。カメさんの記事で」
ケイ
「商業でも見た気がするんだよなあ」
玄兎
「それは後で調べてもらうことにしといて、とりあえず話を進めさせてもらいます」
ケイ
「おう」
玄兎
「まあその、この場合は戦士というか英雄ですね。チャンピオン。それが子供だっていうのはずっとこれ考えてることで。あの、最終的には大人の力も必要なんですが、英雄ってな子供じみたところがありまして」
ケイ
「そらまあ、そうだろ。大人は英雄なんてものにはならねえよ」
玄兎
「誰でしたっけ、大人とは子供の抜け殻、とか子供が死んだ死体が大人、とか」
ケイ
「オールディスじゃねえ? when childhood died…だろ?」
玄兎
「そうそう、それそれ。オールディスでしたっけ。まあいいか。あれですよ、えー、子供らしさが死んだとき、その死体を大人と呼ぶ。でしたか」
ケイ
「英雄には子供らしさが必要か。子供らしさなあ」
玄兎
「子供らしさを夢見る力と定義して良いなら。わがままさ、でも良いんですけどちょっと毒がありすぎるんで、無害っぽく装える程度には周囲を気にして。現状に満足しないでわがままを言う。こうなればいいのにと自分のエゴに従って行動する。社会に順応することと、社会に従属することは違うというか。ブードゥーのオウンガンが日本に来たとき、東京はゾンビだらけだと驚いた、なんてエピソードもありますが」
ケイ
「まあコンビニエンスってかゾンビニエンスだよな。RPGマガジンの巻末マンガかなんかでネタにされてた」
玄兎
「井上雅彦の短編の、防腐剤食って腐らないサラリーマンと、電飾ゾンビだったかな。地下鉄の廃線だったか業務用通路だったか、あの話なんかはサラリーマンがかなり直接的にフリークスにされてて好きでした。昔『ゴーストハンターRPG』のシナリオに使いました(笑)。それはともかくあれです、その英雄の心というか、子供の心というか、プレイヤー専門の人にもそういう心を持っていて欲しい」
ケイ
「でもそれ、困ったちゃんにならねえ?」
玄兎
「だから周囲を気にする、無害っぽく装える程度には社会化されてる必要はあるんですが。TRPGの場合、メタレベルの、プレイヤー間の社会ってのがひとつあって、それと別にもうひとつ、シナリオデザイナーとの社会ってのがあるんですね。通常、社会対個人ってのは社会が勝つもんなんですが、その社会に一石を投じて個人のエゴに沿う形に社会を改変するのが、英雄ってやつでして」
ケイ
「社会は大人が作るものだからなあ。パワーバランスの存在しない社会なんてねえし。けどそりゃヒーローじゃねえよな?」
玄兎
「日本でヒーローのイメージって、英雄というより救世主って感じでしょう。たぶん特撮の影響なんでしょうけど。だから川内康範先生の言うところの、正義の味方。ナポレオンが英雄ってのは納得できるけど、ヒーローって言われると違和感がありそうな気がしますよ?」
ケイ
「ルンクエの英雄なんかも、ヒーローってより英雄だわな。まあルンクエ世界ではヒーローつっても通りそうなもんだが」
玄兎
「同意します」
ケイ
「質問」
玄兎
「どうぞ」
ケイ
「社会がシナリオだとしてな、プレイヤーは個人か? それとも卓を囲むプレイヤー全員がひとまとまりで個人か?」
玄兎
「どっちでもありですけど、英雄と呼べるのは後者でしょう。他のプレイヤーを味方に付けられないような手合いが、社会を説き伏せられるはずも無く」
ケイ
「てよりそれさ、ゲームマスターが社会なんじゃねえの?」
玄兎
「わはは(笑)。待ってましたの大回転。そこなんですよ」
ケイ
「なにが?」
玄兎
「準備は出来てるんですよ」
ケイ
「わかんねえ」
玄兎
「じゃあ種明かし。モデル的にはこれ、神と司祭と英雄の関係に良く似てません? 神のシナリオを、司祭が聞いて語る。でも司祭は都合によって神を下僕にしちゃうこともある」
ケイ
「ああ、だから英雄ってか。英雄は司祭に認められて箔をつける。過去に遡って神の寵愛を受けていたことにされる」
玄兎
「ゲームマスターも司祭として、神を下僕にするくらいの気概が欲しいですね、とかも思うし。神をシステムにしても語れる話なんだけど、こっちは明らかに反発が強いでしょうから。ただまあどのシステムで遊ぶかを選ぶ段階で、ゲームマスターは神を従える司祭になってるんですが」
ケイ
「はい質問。お前の話にやたらとキリスト教っぽいニュアンスがあるのは何でだ? 別にキリスト教徒じゃねえよな?」
玄兎
「ああ確かに。カテドラルなんかモロだしタローも、キリスト教を背景にして話しましたからね。まあでもキリスト教徒ってわけじゃないです。ただ構造が身近じゃない分、客観的に見られるんじゃないかと思って題材にしてるだけで。ビジネスマンが外来語でお茶を濁すのと同じようなもんです(笑)」
ケイ
「そんなんかよ(笑)」
玄兎
「ここ10年くらい、その辺の素材を使って仕事してるってのもあります。あと単に地中海が好きなんで(笑)」

カテドラル的論壇

玄兎
「そうそう。カテドラルったら前にオリハタと話したことにちょっとリンクしてるんですが、カテドラルの上物ってのは現役の聖職者が手入れするし、敬虔な信徒の手によって建てられます。ただそのカテドラルの建設を決めた聖職者が忠実な神の僕かってと、必ずしもそういうわけじゃあないでしょう。当然のように政治力学もある。色んな社会背景を鑑みて、細い一本の糸筋のような道をたどって偉業をなした人が、列福されて福者になったり、まあ今の列福制度は奇跡も必要なんで単なる社会的偉業だけじゃ駄目らしいんですが、とにかくそういう人が、聖堂に名を残したりする」
ケイ
「サンタモニカとか」
玄兎
「聖モニカですね。サンフランシスコもセントヘレナもセントルイスもみんなそう」
ケイ
「サンクトペテルブルグもそうだよな?」
玄兎
「そうそう。まあその辺は聖堂名どころか地名になっちゃってますが、とにかくそうした人たちの偉業を残すために聖堂が建てられる、て背景もあるわけです。なした偉業を後世に伝えるために建てられるカテドラル。そうするとそこでまた新しい信徒が生まれて、スパイラルを生じさせることにもつながる。昔から経験則として使われてきた遊び方が、用語を定義されて整備されて美しいカテドラルとして建設されるってのは既に行われてることで、たとえばシーン制とかゴールデンルールとか、それが言葉として定義されて、形を持って俎上に上げられることで研究も進む。カテドラルも大きくなっていく。大きくなる過程でなんだかわからない、カテドラルというよりウィンチェスター・ミステリーハウスみたいなありさまになることもあるんだけど、それはそれで区画整理し直して、必要とあらば立て直しもしながら、見た目新しい姿で後世に伝えていく。そういう環境が出来ればいいなあという」
ケイ
「GDC的なもんか?」
玄兎
「GDCだとちょっと難しいというか、最近ほとんど遊べてないんで偉そうなこと言えないんですが、GDCはあれハードル高いんで、IGDAくらいで。あっちのが間口が広いですから」
カテドラル的論壇 – 補足・フライングバットレス
玄兎
「でもIGDAのゾーニングはどっちかと言えばクリエイター向きで、TRPGのフィールドでそういう人たちは少ないんですよ。相対数としてはむしろクリエイターというかミドルユーザというか、そういう人も多かったと思うんですが、コミュニティ毎の絶対数が少ない。たぶん平均すると、エンドユーザ5人にクリエイター1人みたいな状態じゃないかと。絶対数が少ない状態だと担当者の負担が大きい。ゆらぎも大きくなるし、まあ個体差の大きさはユニークアイディアの源だから構わんのですが、バッファというか、フライングバットレスというか、そういう仲立ちがいないと徒花になっちゃうんで」
ケイ
「で、そのフライングバットレスって何なんだ?」
玄兎
「ゴシック建築に見られる建築物の要素で、荷重を分散させる構造です。理論的に正確なところは分からんのですが、建物の外壁を薄くしたり、窓をあけたり、柱を細くしたりしても上位構造の荷重に耐えられるように、力を分散します」
ケイ
「分かるような、分からんような」
玄兎
「むちゃくちゃ乱暴なことを言えば、バットレスって外壁を支える心張り棒みたいなもんなんですが、それがこう、旧来的なバットレスよりずっと高い位置で機能させてるのがフライングバットレスだとか思っといて下さい。高いとこを支えるだけで、下の方まで崩れなくなるという不思議」
ケイ
「なんとなく分かったが、心張り棒が仲立ちってのはどういうことだ? 壁を支えてるだけだろ?」
玄兎
「上物が建てられる土台の部分を論壇と考えて、そうするとフライングバットレスってのは従来の論壇からちょっと距離のあるところに建てられるわけですね。そこから主体となるカテドラルを支える。たとえばTRPGの話をするときに心理学でフォローしたり、社会学やら経済学やらでフォローしたり、なんて考えでもいいし、そこまで大きく別の論壇まで張り出さなくても、論壇の中心の方で使われてる小難しい言葉とか定義とか抜きにして、日常的な表現で話したりとか」
ケイ
「ゲームの話で心理学が出るような?」
玄兎
「そうそう、まさしく。情報を圧縮するには、どうしても用語をガッチガチに定義した上で話をしたくなるんですが、そういうのって定義を共有した人たちの間でしか通用しないじゃないですか。もっと砕けたところから関心を持ってもらわないと、言葉が増えないんですね」
ケイ
「具体的にはどんな人間だ?」
玄兎
「佐藤雅彦」
ケイ
「佐藤雅彦? SKKの?」
玄兎
「違う違う。そっちの畑で言うなら『インテリジェントキューブ』ですよ」
ケイ
「おお、懐かしい。ご同業か?」
玄兎
「いやあ、バザールでござーるのCMとか、ピタゴラスイッチとか作ってる人ですよ?」
ケイ
「マジで?」
玄兎
「マジで。シンプル・イズ・ベストというか、単純なのに何故か目が切れない仕事をされる方で。そこに『プチ哲学』て本が。そうそれ、そういう距離感の人ですね」

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