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ワークショップ:おさらい
クジ
「おつかれさまです」
玄兎
「いや本当におつかれさん。こないだコピーもらったの見たけど、すごいね」
クジ
「そういえばあの時、ちょっと嘘ついてましたよね?」
玄兎
「ほえ? なんか嘘ついてた?」
クジ
「スキルアップは考えてなかったって、言ってたじゃないですか」
玄兎
「言ったっけ」
クジ
「もう忘れたんですか」
玄兎
「うそうそ、ちゃんと覚えてる。でもまあ考えてなかったのは本当だから、嘘ってわけじゃあないよ。聞かれたから答えたけど、僕のプランの中では優先順位はものすごく低かったし」
クジ
「いいんですか、あれで」
玄兎
「資料は送ったし、意味はちゃんと理解してくれてると思うよ」
クジ
「それならいいんですけど」
玄兎
「そういやスキル関連のアンケート分がまだ来てないけど、集計中?」
クジ
「です。どれとどれが同じスキルなのか分からないんですよ」
玄兎
「じゃあそれを検証していこう。あとでサワ坊が来るから」
クジ
「サワさん来るんですか?」
玄兎
「まあ仕事だけどね。時間取れそうなら意見聞くって事で」
クジ
「そういえば、これ仕事じゃないんですよね。ギャラもらってるから忘れてましたけど」
玄兎
「こっちは趣味だねえ。でもまあ安いけどギャラ払ってるし、君にしたら仕事と思ってくれても別にオーケーってことで」
クジ
「安いですかね」
玄兎
「時間給で考えたら安くない? いやまあ高いと思うなら下げるけど」
クジ
「安くないと思います(棒読み)」
玄兎
「じゃあ今回は約束どおりで」
玄兎
「えーとね、ぶっちゃけ何を教えたのかとか、かなりあやふやなんだけど」
クジ
「30そこそこで、もうボケましたか」
玄兎
「ひどいことを言う。ボケかどうかはさておいて、ちょっとリストを見せてくれるかい」
クジ
「スキル関連は、えー、アンケート結果の書き出しはこっちです。まだまとめてはいませんけど」
玄兎
「どれどれ、と。ああ、細かいこと覚えてるなあ、みんな」
クジ
「覚えてませんか」
玄兎
「いや、なんとなく思い出してきた。やっぱシナリオ関連が多いね」
クジ
「1周年アンケートの方でも、シナリオ関連のテクニックがもっと知りたいってコメントが多かったですね」
玄兎
「まあ、ワークショップでやったのは作成じゃなくて加工だからねえ。1年もやったら尽きるだろう」
クジ
「今度はTRPGのシナリオの作り方とかのワークショップやりませんか」
玄兎
「その辺の技術はでも、調べればいくらでも出てくると思うんだけどねえ。ネットにゃ山ほどネタが転がってるし。まあそれ以前に、シナリオデザインとハンドリングのスキルってのがまた、かなり密接な関係にあるんで、一概にこれが正解ってのも無いし。つかそもそも時間取れねえって」
クジ
「残念」
玄兎
「いっそ君が立ち上げてみたらどうじゃろ」
クジ
「うーん。うまく回せますかねえ」
玄兎
「まあ連続して何回もやるとかでなくて、春にやったあれの合宿みたいな感じに仕立てる手もあるだろうけど」
クジ
「あれも面白かったですね。でもあれやるには人数足りないんじゃないですかね」
玄兎
「まがりなりにも商業サイドからオファー出したからなあ。プロ揃いだったからできたってのも大きいし」
クジ
「それを考えると私が企画しても、難しいんじゃないかと」
玄兎
「そうだねえ」
クジ
「それにそもそも、ワークショップの運営の仕方が分かりません」
玄兎
「そりゃあれだ、GMと同じだよ。押し付けの体験学習じゃなくて、参加者が自発的に何をしたらいいのかを考えて、ファシリテータが良い方向に後押しをする。前にやったやつで、散々に体験してもらったのと同じ」
クジ
「あ、やっぱりそうだったんですか」
玄兎
「気付いてたんなら、やれるでしょ」
クジ
「いえ、気付いたのはケイさんなんですが。ワークショップの話をしていたときに」
玄兎
「ああ。ま、あの人なら気付くわな。むしろ参加者の君が気付いてなかったのは、ちと切ない」
クジ
「でもそうするとあのワークショップは、ワークショップであると同時にセッションでもあった、てことになるんですか?」
玄兎
「そうだね。なると思うよ。まあファシリテータというか、そういうペルソナでワークショップのプランを考えた時の思考回路、考えてみるとTRPGのシナリオ作るときと大差ないし」
クジ
「そうなんですか?」
玄兎
「うん。シナリオデザインのワークとしては、ごく基本的な話なんだけどね」
クジ
「詳しくお願いします」
ペルソナシナリオ
玄兎
「詳しくね。うーん。合宿の時にも話したことなんだけどさ。デザイン、デザイナーはペルソナシナリオを考えるわけね」
クジ
「ペルソナシナリオ?」
玄兎
「ああ、君あんとき居なかったっけ」
クジ
「何時ごろです?」
玄兎
「何時だったかなあ。たしかスピード線100本勝負とかやってたときじゃなかったっけ」
クジ
「私も参加してました、それ」
玄兎
「ああ、それじゃ聞けるわけないね。じゃあ簡単に説明しよう。こういうとき、オリハタがいればいいんだけど。まあ無いものねだりか。さて、と。エレベーターに乗ったことは?」
クジ
「普通のですか?」
玄兎
「普通の」
クジ
「どうやってこの部屋まで来たと思ってますか」
玄兎
「そりゃあそうだわな。じゃあ聞くけど、このホテルのエレベーター、どんな感じだった?」
クジ
「どんな感じ?」
玄兎
「そう。どういうデザインがされていて、現在どういう状態にあるか」
クジ
「えーと」
玄兎
「うん、まあ聞き方が悪かったかもしれない。ただまあエレベーターひとつとっても情報は膨大にあるわけでね。広さやなんかは当然としても、たとえば照明の位置と形、フロアの表示場所と表示方法、操作パネルの配置、手すりの高さ、ドアの構造、壁の手触りと汚れ具合、とか。それから乗り込んだ時の最初の一歩の感触、揺れたり沈んだりするものもあれば、びくともしない感じのものもある。状況もあるしね。それにパネルを押した時の感触なんかも、押した時にパネルがボタンみたいに引っ込んで戻って、て感触があるものと、ほとんどそういう感触が無いものがあるでしょ。あとは自分の視線がどう動いているか、自分ひとりのときと知り合いが一緒のとき、他人が乗ってるとき、ガラガラのときギュウギュウのとき。他人の視線なんかもあるね。それに外が見えるときはエレベーターが動いてる時どう見えるか、感じるか。外が見えないときはどう感じるか。圧迫感はどうか。駆動音は、動きはじめと止まった時の G の感触は、とか。はいそこポカンとしない」
クジ
「いや、だけど」
玄兎
「絵描きメインの人は、言語化はしてないみたいなんだけどね。ペルソナシナリオっていうのは、そうした環境とか状況に対して人間、特にユーザーがどういう風に行動するかのプロセスを細かく分解して並べたものね」
クジ
「ユーザーの行動パターンですか」
玄兎
「それもデザイナーが勝手に考えた、ぼくのかんがえたゆーざーぞう、じゃ駄目で。あくまで実際の利用者の行動データの集計結果、そこから導き出される共通点のこと。たとえばさ、パックの納豆を食べる時のペルソナシナリオを書いてみるとね」
クジ
「納豆ですか。玄兎さん納豆食べましたっけ?」
玄兎
「食べないよあんなもん。匂いが駄目」
クジ
「ですよねえ。この間も逃げてましたし」
玄兎
「まあでも、自分が食べないからってペルソナシナリオが書けないわけじゃあない。食べてる人の行動を見てれば分かるよ。ちょっと古いモデルになるけど、こう、ふたを開けるでしょう。そうすると小さいセロハンが納豆の上に載ってて、これを取らないと始まらないわけだけど、取ると納豆の糸がこう、セロハンにくっついちゃってる。だから箸でくるくるやって、セロハンと納豆の間に伸びた糸を切るわけ」
クジ
「ああ、やりますね」
玄兎
「さて質問。ふたはどこにある?」
クジ
「開けたんだから。テーブルの上とか?」
玄兎
「そうだね。どういう状態で?」
クジ
「どういうって?」
玄兎
「じゃあ、どう置いてある?」
クジ
「こう、裏返しに」
玄兎
「うん。でしょ? そう、裏返しに置く。なんで裏返しに置く?」
クジ
「そのまま置いたらテーブルが汚れるから、ですか」
玄兎
「だね。なんで汚れる?」
クジ
「なんでって、裏側が汚れてるから」
玄兎
「はい、じゃあ足りなかった部分を付け加えて、さっきのペルソナシナリオを強化しよう。まず、ふたを?」
クジ
「ふたを開けて、テーブルの上に裏返しに置いて、セロハンを取って、セロハンについた納豆の糸を箸で切って、それから食べる。ですか」
玄兎
「正解。良く出来ました。と言いたいところだけど、まだ分解が終わってない部分がある。セロハンはどうする?」
クジ
「ひっかけ!?」
玄兎
「ごめんね。ただまあ、そういう分解をしていくわけですよ。で、まあ僕は納豆食べないから分からないんだけど、あのセロハンについた糸を切るって作業、ちょっとした手間だと思うわけ。だとすると、糸を切るって作業が必要ないような構造だったら、なんとなく食べやすい印象になると思わない?」
クジ
「思います」
玄兎
「だからそこを改良すれば、評価されるでしょ」
クジ
「あ、そういう考え方ですか」
玄兎
「そう。まあそういうのが、デザインを練る時の基本。利用者、ユーザーがどういう行動を取るか、どう思うか、これは連動してて、そこから2つの思考法に分岐する。1つがユーザーの行動を省略させるためにはどうしたらいいか? てこと。こっちは直線的な改良案。もう1つは逆に、ユーザーをどう行動させたいか、そのためにはペルソナシナリオをどう書き換えるか、まで考える。こっちは間接編集だね。飲み物の自販機があるとして、そこにベンチとゴミ箱があるかどうか、っていうのは利用者の行動パターンを変えるでしょ? ベンチが無くても、たとえば花壇かなんかの縁が腰掛けるのに丁度良かったりすれば、ベンチと近い効果が見込めるし。まあこの場合はベンチより心理抵抗が強いんで、座って飲ませることを想定するなら男性客を狙ったラインナップにすべきだ、とか。公園内、待合室のドリンクコーナー、大通り沿い、路地の角地、ではそれぞれ買った後にどうするか、とかも違うわけで」
クジ
「ああ、はい」
玄兎
「自販機の例はまあ、納豆のパターンよりスケールが大きくなってるけど、基本的にデザインっていうのは、ユーザがどう動くか、どう動かしたいかを考えてするもので」
クジ
「デザインが欲望を作る、ていうのと同じですか」
玄兎
「同じだね。あれはまた意味深い言葉だと思うんだけど」
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