例によって、Twitter に書こうとしたら長くなっちゃったんで Blog で、というパターン。
なんちゅーか「ちゃんと書きたいこと」に対して Twitter ってのは使いにくい。
ページの内容
『GURPS』の難しさ
『GURPS』の難しさがどこにあるのか?
そもそも『GURPS』って難しいの?
まず最初に断っておくと、『GURPS』の“ルールは”難しくはありません。
ルールが複雑だとか膨大だとかいうのは「全部使おうとするからそうなる」という話。
あとは日本語版の展開の仕方が悪かったというか、不親切すぎたというか。
順を追って解像度を上げ下げするルール
『GURPS』のルールには解像度ごとに “Ultra Lite” → “Lite” → “Basic” といった階層があります。
この序列に沿って習熟を進めていけば、なんも難しいことなんて無い。
更に言えば “Basic” でも “Character” → “Campaign” の順にステップアップします。
そういう指針が、原書側にはちゃんと用意されていて。
この辺、レビューを見ても「あまり理解されてなかったんだなー」と思います。
まあ、きっと彼らは旧版で満足できなかったヴェテランで、故にこそ「もっと細かいルールを! もっと充実したルールを!」と、飢えた鳥の雛みたいになっちゃったんだと思いますが。
自分も当初そんな気分だったんで。ええ、まあ(笑)
上級戦闘とか車両ルールとかは後! 後!
いかにも『GURPS』らしいところでいくと、たとえば “Basic” の中でも更に解像度を上げる「上級戦闘」とか、あるいは同じ SJG の『Car Wars』を取り込んだ「乗り物」ルール*1[SJG の “Car Wars” を取り込んだ] = 『GURPS』のデザインは、コアルールに外部ルールを結合、分離することで適正化を行うモジュール型モデルだと考える。もあるけど……それも別に絶対使わなきゃいけないわけじゃない。
もちろん慣れてくると「使ったほうが面白い」モンで、そもそも個別の上級ルールはそれ単体でひとつのゲームシステム、ひとつのセッションに耐えうるようなモノなんだけど、慣れなきゃ「面白い」より「面倒くさい」が勝ってモチベーション下げるだけなんですよね。
もちろん、それでもゲーマーってのは「使えるものは全部使いたい」って人が多いし、ルールブックにあるんだから使うべきだって考えも分かるんですが。
『GURPS』は最初から “Basic” をフル活用するゲームじゃないよと。
……と、これはまあ、いくらか建前の部分もあって。
それでも『GURPS』には「難しい」と思わせちゃう「落とし穴」は確かにある、と思います。
プレイヤーが悩みやすい点
たとえば『ガープス・ベーシック』を渡されたプレイヤーが、それを熟読したとして。
それでも悩む点というのはあります。
たとえば――
- 能力値はどれくらいにすればいいの?
- 技能レベルは何レベルくらい必要なの?
- どの特徴が便利で、どの特徴が必要で、どの特徴は要らないの?
- 何を買えばいいの? どのアイテムが必需品?
――こうした点で、首を捻り足踏みをしてしまうというのは、よくあります。*2[キャラクター作成での足踏み] = 日本で「リプレイ本」というのが売れたのには、こうした「コンセンサスになるノウハウ」が求められていた部分があると思う。だから昔のリプレイは、ルールガイドとしての機能が強く求められた。逆にそうした要素について、ルールブック側で十分なアナウンスが行われるようになってからは、ルールガイドを省いた価値が求められて現在の「読み物型」のスタイルになっていったのだろう……とか。この辺は他にも色んな要因が絡んでると考えられるが、長くなるので割愛。
自分がキャンペーンゲームを開始する時は、毎度この手の相談を受けてました。
それでゲーム開始前に、あれこれテキストを色々と作るようになった……なんて経緯もあるんですが。
ちなみに。
こうした「キャラ作成のバランス」については、4版で「テンプレート」という概念が導入されたことで、かなり解消された感があります。
テンプレートとは主に「種族テンプレート」と「職業テンプレート」に分類され、前者は「種族毎の特徴」についてまとめたもの、後者は「職業ごとに持っているべき能力」についてまとめたものです。
具体的なテンプレートのデータについては、世界設定(ワールドやキャンペーン)毎に異なるので、ベーシックだけ見たんじゃ分からんのは変わらんのですが、「ワールドやキャンペーンをデザインする人は、こうしたデータについても意識するように」といったひとつの指針になるだろうなと。
キャンペーンのハンドアウトで予めコレを開示しておけば、昔ほど困ることはなくなるはずです。
でも「難しい」の大多数は、ゲームマスターの側にある
こうした方法でプレイヤーに「難しい」と思わせちゃうポイントを解消しても、尚「難しい」と感じさせる要素はあります。
自分の経験や他の経験者から話を聞いてみた様子では、『GURPS』が難しいと感じる瞬間は“ゲームマスター側がその「難しさ」を吸収しきれない時”に発生してるようなんですね。
言うなれば『GURPS』の「難しさ」は運用――取扱い方――にある……ということじゃないかと。
これらは既存のノウハウを応用することで解消できるものもあれば、そもそもの設計思想が違うためにそれが適わないものもあります。
……まあそれは後に回させてもらって、とりあえず話を進めると。
そもそも僕は『GURPS』を、プレイヤーの権限が大きなゲームシステムだと考えています。
そしてそれを支えるコアルールによって、ゲームマスターが「難しい」と感じやすい要素――言うなれば「ゲームマスターの負担」――が生じていると考えています。
特に注目されるルールは「CPの平等」と「下方ロール」の 2つです。
「CPの平等」の拡大解釈とゲームコンセプトの関係
CPの平等。これは『GURPS』のコアルールのひとつです。
具体的に明文化されてたかどうかはちょっと記憶があやふやなんですが、要は「同じ CP のものは同じだけの価値として扱う」ということ。
まあ「一票の格差は是正されなければならない」みたいな話です。
このルールは原則的にキャラクター作成ルールに関するコアルールであって、「特殊な背景」だとか新しい特徴の作成だとか、そういった場面で意識するものです。
これに、よりマクロな “TRPG” という遊びそのものの倫理である「キャラクターの出番はなるべく公平に与えるべきだ」という思想を絡めると、セッションにも大きな影響力を持ったルールになる……と考えられます。
ただし実際のセッションには無関係であるか? というと、そうでもありません。
分かりやすい所で言うと、「不利な特徴」があります。
不利な特徴とは、ある「弱み」を獲得することによって、代わりに CP を余分に使えるようになる(=キャラクターを強化できる)というものです。
キャラクターが獲得した不利な特徴が、実際のゲームで影響を持たなければどうなるか?
もしバトル漫画で……たとえば『HUNTER×HUNTER』で、ストーリーには全く関係のない「制約/誓約」によって「念」を強化しているキャラが出てきたら、どうでしょう?
……昔、『ガープス・妖魔夜行』を遊んでいた時に、こんなバカ話をしたことがあります。
- プレイヤーA
- 「なあなあGM、“むくつけき100人のアニキに取り囲まれると1秒ごとに1Dダメージ受ける”って弱点、何CP?」
- GM
- 「アホだろお前。そんなんでCPやれるか」
- プレイヤーA
- 「じゃあ10Dなら?」
- GM
- 「いやに食い下がるな。そんなに言うなら-1CPあげましょう」
- プレイヤーA
- 「じゃあ俺それ100レベル取るわ。これで-100CPな」
実際にはそんなキャラは作られませんでした。ただのバカ話ですから。
ですがもし、そんなバカキャラが実際に作られたとしたら、どうでしょう?
「むくつけき百人のアニキ」なんて、そうそう登場するわけがありません。
ましてやそれに PC が取り囲まれるなんてシチュエーションが、どうして発生するのか?
でもそれによって彼は CP を獲得している。
登場しない、ありえない弱点によって得た CP で、彼は活躍できる可能性を 100CP の分だけ獲得したわけです。
この時ゲームマスターはどうするべきでしょうか?
……まあ、ジョークなら「世界観にそぐわない」ということで却下することが出来るでしょう。
でもそれが、巧妙に世界設定にすりあわせられた、却下しづらいものであったなら?
このときゲームマスターには、その不利な特徴が「不利として機能するように」マスタリングすることが求められるわけです。
でないと他のプレイヤーに不公平ですから。
これはプラスの、有利な特徴に関しても同じことが言えます。
プレイヤーが「せっかく CP 払って獲得したのに、ゲームマスターの鶴の一声で無効化とかヒデェ」と感じるのは、感覚として間違っているとは到底言えません。
もちろんそれが「キャンペーンのテーマ」や「ゲームの状況」などから大きく乖離したものであるなら、そんなデータを組んできたプレイヤーにも責任があるわけですが。*3[死にスキルの回避責任] = そしてそうならないよう、なるべく事前の相談を行なっておくべきだろう。これはゲームシステムのデザインや、現在のいわゆる「今回予告」や「トレーラー」、「シナリオハンドアウト」が整備された理由の一つだ。
要は「ゲームマスターは CP を払って獲得した能力や CP を獲得した不利な特徴を、ちゃんとシナリオに活かそうね」ということ。
これ自体はさほど特別なものではないと思いますが、『GURPS』でとなると、ちょっと大変。
何故なら『GURPS』のデータの広がりは、良くも悪くも他にあまり類を見ないようなモノにまで及んでいますので。
――これがどれだけゲームマスターの負担となるか?
――シナリオセット、シナリオデザインにかかる苦労がどれだけか?
そうした苦労を吸収するために、準備に時間をかける必要が出てきます。
こうした理由もあって、『GURPS』を遊ぶ際には「キャラクターを事前に作成しておくこと」や、「作成されたキャラクターを見てシナリオを作成する」ってことが必要になるわけです。
もちろん、ごく単純に「作るのに時間がかかるから」ってのもあるんですが(笑)
そしてキャラクターを事前に作成してゲームマスターに見せた時、ゲームマスターが首をひねってどう活かそうかと悩む姿を見て、プレイヤーは「キャラ作るの難しいな」と感じてしまう……という話を実際に聞きました。
この問題をクリアするには、ゲームマスターが(たとえ表面上であれ)全てを受け入れるだけの度量を示す必要がある。
これがひとつめの大きな負担です。
「下方ロール」
さて下方ロール。
これは大枠では「{ランダマイザ}で定められた目標値以下の値を出す」ことを目標とした判定方法です。
ですが多くの場合、この「定められた目標値」はキャラクターデータとして先に設定されています。
『GURPS』では「能力値」や「技能レベル」などがソレです。
同じような判定方式に “Basic Role Playing (BRP)” に代表される D%*4[D%] = “D100” とも。 系のシステム等があります。
これに対して「上方ロール」ってのもありまして。
こちらは「{ランダマイザ}で定められた目標値以上の値を出す」ことを目標とした判定方法です。
こちらは「ランダマイザ」に合算されるもの(能力値や技能レベル等)がキャラクターデータとして設定されており、目標値はゲームマスターが決めるものが主流です。
この時、下方ロールの「目標値がキャラクターデータによって定められている」という点が問題で。
簡単にいえば「成功率を調整しづらい」んですね。
もちろんゲームマスターが「行為の難易度」として、目標値に修正をかけることは出来るんですが、目標値をダイレクトに決定する上方ロール系に比べて「どれくらい修正されるのか」が明確になる分、ゲームマスターの作為が目立ちやすい。
そうした時、先ほどの「CPの平等」に関する「死にスキルをなるべく出さない」との合わせ技で、「想定していなかった行動が成功してしまう」という状況が発生しやすくなります。
すると当然、想定していなかった展開が発生しやすくなる。
つまりゲーム展開のコントロール――セッションハンドリング――が難しくなってしまうわけです。
それでもゲームシステムがフォローする範囲が狭ければ、ちょっと迂回する程度で済みます。
しかし『GURPS』には、気が遠くなるような表現力がある。
それに応えようとすると、分岐パターンを事前に全て用意しておく、ということは非常に難しくなる。
まして『GURPS』では、そうした「キャラクターによる事態の展開の違い」を大いに肯定するポリシーがあります。
ロールプレイング・ゲームを行う目的のひとつは、それぞれのプレイヤーに、キャラクターが直面する事態を体験させることにあります。ゲームの中で、プレイヤーはさまざまなキャラクターの役割を演じます。厳格な日本の侍、中世の道化師、知識豊かな僧侶、スターを夢見る貧民街の少年……およそ、考えられるあらゆるタイプのキャラクターたち。同じ状況に置かれても、彼らはそれぞれがまったく違った反応を示すでしょう。それこそが、ロールプレイというものなのです!
『ガープス・ベーシック 汎用RPGルールブック』(角川スニーカー文庫) p.15
これがもうひとつの、そして最大級の負担です。
解決案
で、これらの解決案ですが。
これには幾つかの答えがあります。
ゲームマスターの負担を軽減する解決法
『GURPS』によって浮き彫りにされた課題は、そのまま現在の主流となっている各種ゲームシステムで、反面教師として生かされています。*5[反面教師として] = 『GURPS』が直接の反面教師になったのかは分からないが、TYPE2(第2世代)系のシステムが辿った膨張の歴史は、どれも同じような問題を持っていた。そしてその極点が(少なくとも日本語環境では)『GURPS』であったと考えている。
手広さが難しさにつながるのであれば、目的を絞ればいい。
これはセッションモデルのパターンとして、クライマックスに戦闘を持ってくる等のモデリング。
キャラクターデータのバリエーションの絞り込み。
そしてシナリオハンドアウトによって初期データの要請を行うことなどがあります。
これを『GURPS』で行うなら、たとえば――
キャラクターを特定の種族や職業など、活動範囲が制限される立場として、シナリオモデルを定型化する。
制限範囲内でのバリエーションを「テンプレート」によって行う。
そしてシナリオハンドアウト等によって、推奨テンプレートを指定する。
……等が考えられます。
まあ『GURPS』の幅広さに馴染んでる人には「それで面白いか?」という意見もあるでしょう。
それは僕がまっさきに考え、そして今も答えが出ていない問いなんですが。
時間をかけて負担を軽減する方法
上記のような「制限による解決」は、『GURPS』のスペックを十全には生かせなくなることを意味します。
それじゃあ今さら、わざわざ『GURPS』やる必要なんかないだろう。そう考える人もいるでしょう。
そのとき、もうひとつの解決策は、とにかく時間をかけることです。
時間をかけてゲームの舞台設定について掘り下げ、認識を深めておく。
時間をかけて参加者と話し合いを行い、「どういったゲームが遊びたいのか」についての共通認識を深め、必要になりそうな情報を集めてシナリオを作る。
時間をかけて参加者を観察し、彼らが想定する物語(シチュエーション)パターンを理解し、シナリオ運びに活かす。
……等といった方法です。
これらは結局ゲームマスターの負担を軽減することにはなりませんが、準備に時間をかけることで負担を分散することができます。
大胆な権利譲渡を肯定する方法
そして第三の選択が、ゲームマスターの権利を一部譲渡する方法です。
これはゲームマスターの「判定の結果を決める」権利をプレイヤーに譲渡し、判定そのものの意味を置き換えます。
具体的な手法は、プレイヤーに「判定結果を先に提案してもらう」というもの。
これによって、行為判定を「“宣言した行為が成功したか?”を定めるもの」から「“提案した結果を実現できたか?”を定めるもの」に書き換えます。
常にそうする必要はありませんが、これまでの方法に比べてこちらはセッション中の対処法として、困ったときにも使える方法でしょう。
……とまぁ、たとえばこんな感じの解決策があります。
最大の要件は「一人で悩まないこと」
上記の解決策、そのどれもに言えることは、「参加者と一緒に考える」ということです。
ゲームマスターがプレイヤーに相談するということは、準備されたシナリオのレールから外れてしまう、つまりは間違いだ……と考えるかも知れませんが、『GURPS』の遊び方はそもそも「正しいことを選ぶ」ものではありません。
そういう遊び方をするのに、『GURPS』は適していません。
むしろ想定外の展開に転がっていく中で起こる、さまざまなトラブルを参加者の話し合いと思いつきで解決していく。
そういう遊び方、楽しみ方に適したゲームシステムだと思います。
ですから『GURPS』の難しさは、とにかく相談することで吸収できます。
ゲームマスターが一人で何もかも背負う必要もなければ、プレイヤーもただゲームマスターがセッションの準備を終えるまで待ちぼうけることもない。
お互いに相談し、ゲームについて話し合っていけば、より深くより大きく楽しむことが出来るようになります。
……これは何も、『GURPS』に限った話ではないんですが。
References
↩1 | [SJG の “Car Wars” を取り込んだ] = 『GURPS』のデザインは、コアルールに外部ルールを結合、分離することで適正化を行うモジュール型モデルだと考える。 |
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↩2 | [キャラクター作成での足踏み] = 日本で「リプレイ本」というのが売れたのには、こうした「コンセンサスになるノウハウ」が求められていた部分があると思う。だから昔のリプレイは、ルールガイドとしての機能が強く求められた。逆にそうした要素について、ルールブック側で十分なアナウンスが行われるようになってからは、ルールガイドを省いた価値が求められて現在の「読み物型」のスタイルになっていったのだろう……とか。この辺は他にも色んな要因が絡んでると考えられるが、長くなるので割愛。 |
↩3 | [死にスキルの回避責任] = そしてそうならないよう、なるべく事前の相談を行なっておくべきだろう。これはゲームシステムのデザインや、現在のいわゆる「今回予告」や「トレーラー」、「シナリオハンドアウト」が整備された理由の一つだ。 |
↩4 | [D%] = “D100” とも。 |
↩5 | [反面教師として] = 『GURPS』が直接の反面教師になったのかは分からないが、TYPE2(第2世代)系のシステムが辿った膨張の歴史は、どれも同じような問題を持っていた。そしてその極点が(少なくとも日本語環境では)『GURPS』であったと考えている。 |