[chat] 20100714#2

2010/07/14

クロエさん(仮)
「質問いいですか? リプレイを書く事がシナリオを書くトレーニングになるっていうのは、小説とかでも同じですか?」
玄兎
「もちろん。まず認識として、リプレイとセッションログは違う……と、僕は考えてるんだけど。そうか、先にその辺からコンセンサスとっておこう。
 結論からいうと、リプレイは読物で、セッションログは議事録。もうちょっと掘り下げると、リプレイは読物として面白いように編集されたもので、セッションログは読みやすいように整えられたもの。編集の基準として、面白さを優先するために邪魔な部分を切り捨てたり、発言についても多少なりと編集が認められるのがリプレイ。セッションログの方は、誰が何をしたのかっていう事実を重視して、明らかに内容と関係の無い発言を除いて、基本的に発言を削除できない。あと、読みやすいように同じシーンの序列を直すことはできるけど、それによってゲームの進行における事実までは改ざんできない」
クロエさん(仮)
「セッションログを作るだけじゃダメってことですか?」
玄兎
「ダメじゃないけど、足りないね。特にシナリオを書きたい人にとっては。なんでか分かる?」
クロエさん(仮)
「……作ってないから、とか?」
玄兎
「間違いじゃないけど足りない。素材はもうあるわけでしょ? じゃあ何を作るんだろう?」
クロエさん(仮)
「……おはなし?」
玄兎
「うん、そうだね。おはなし、ドラマだね、それは何か基準があるんじゃない?」
クロエさん(仮)
「起承転結とかですか?」
玄兎
「それもひとつだね。じゃあそれでいこう。素材があって、起承転結の枠組みがあって?」
クロエさん(仮)
「枠組みの中に収めるから、邪魔なものとか切れないと駄目、とか?」
玄兎
「正解。起承転結でなくても、序破急とか、もっと言うとテーマなんて基準もある。主人公とかね」
クロエさん(仮)
「それで?」
玄兎
「だからさ、そういう基準をベースに編集する技術って、シナリオ書きにも使うんだよ」
クロエさん(仮)
「あ……分かりました」
玄兎
「だからストーリーの流れ、ドラマの流れ、対話の流れ、時間の流れ、ゲームの流れ、似てるようで違うものがいろいろあるんだけど、そういう流れを編集して、フレームに収まる大きさに、順番に、整形する。小説でもなんでもさ、書きたいもの全部詰め込むって言うのは相当無理があってさ、削るでしょう」
クロエさん(仮)
「ですよね」
玄兎
「うん。だからさ、そういうのを、素材が最初から用意された状態で出来るのって、超お手軽だと思わない? 削る前のネタ、自分で考えなくていいんだよ?」
クロエさん(仮)
「おー!(笑)」
玄兎
「まあセッションの方も、最初から整形されたシナリオ使ってると、ほとんど手を入れる場所がなくなってたりするんだけど、だから三行シナリオでさ(笑)」
クロエさん(仮)
「すごい良いことを聞いた気がする」
玄兎
「それは気のせいかも知んないけどね(笑)
 そういう次元からも、リプレイを書くっていうのは色んな勉強になると思うよ。テープ起こしは大変だけど、あれもさ、一言一句同じに起こす必要はないからね。聞きながら大体の流れを把握して、大雑把に起こしながら語尾やらなにやらは適当でいい。どうせ後で編集するんだし。この、えー今これ録音してるのも、後で文字起こしするの大変だろうけど、一言一句同じじゃなくても意図が伝われば構わないから」
クロエさん(仮)
「わかりました」
玄兎
「TRPGのシナリオなんて、小説のプロットとか箱書きみたいなもんだからね。どっちかに慣れればもう一方を覚えるのも早いよ。書きたい人は練習してみてください。損はしないと思うよ」
クロエさん(仮)
「やってみます」
玄兎
「うん。楽しみにしてる。興味があるなら夏休み中にでも一度、プレゼン大会とかやってみる? ロット持ち寄って発表して、面白そうなストーリーに投票する。集まったロットは整形して部誌に乗せてもいいし、TRPGのシナリオにしてみんなで遊んでもいいし」
クロエさん(仮)
「面白そうかも。相談してみます」
玄兎
「任せた。時間はどうにか工面するんで」
クロエさん(仮)
「もうひとつ、質問いいですか?」
玄兎
「どうぞ」
クロエさん(仮)
「その、シナリオに起承転結とか必要ですか?」
玄兎
「あ、それか。結論から言うと、TRPGの場合は起承転結じゃない」
クロエさん(仮)
「じゃあ序破急ですか?」
玄兎
「それでもない。いや、元はそれなんだけど、実際はもっと具体的になってる。そうだな、結論の前に考えてみて欲しいんで、ちょっと遠回りをしよう。そもそも起承転結のフォーマットって、なんで必要になってると思う?」
クロエさん(仮)
「謎と種明かし、でしたよね?」
玄兎
「そう。言い換えるとストレスとカタルシスの構造。未来という謎に対するアプローチと考えれば、ミステリーは全てのストーリーコンテンツの基本って言える。
 で、これがどうしてストーリードラマに必要となるかっていうと、一方通行のメディアでカタルシス、快感、楽しみをコントロールして『終わりよければすべてよし』にするには、それ以外の方法がないから、ていうのが現在の僕の考え。もしかすると将来的には変わるかもしれないけど。
 よろしくお願いしますで始まって、おつかれさまでしたで終わるセッションって、これ映画館と同じでさ、おつかれさまでしたの時点で面白かった、スカッとしたってなるのが理想形になってる。だから映画と同じように、全体のシナリオのフォーマットはあらかた決まってるわけ。
 でもまあこれって最大公約数とか、そういうレベルのコントロールなんだよね。パッケージとして楽しかったっていう話で、もちろんそれは大事なんだけど、もっと個人個人で見ていくと、また別の楽しんだシーンってのがあるわけでさ。そういうのは一方通行の、映画みたいなメディアと、インタラクティブ、双方向のゲームみたいなメディアとで、またちょっと違ってくる」
クロエさん(仮)
「そんなに違いますか?」
玄兎
「うん。簡単に分けると、一方通行の場合はなにかに感情移入して、感動するタイプの面白さっていうのが強い。あとは臨場感あふれる映像で疑似体験ってパターンもあるけど、これはジェットコースターみたいな感じで、叫ぶのが気持ちいいタイプ。これがゲームになると、自分が活躍した達成感の話になってくる」
クロエさん(仮)
「感情移入と達成感って違いますか?」
玄兎
「たとえばさ、まあちょうどいいからサッカーの話にしよう。サッカーで、サポーターとかファンって人たちは選手たちを応援して、時に感情移入して一緒に泣いたり喜んだりするわけだけど、試合に勝った時の選手の感動と、応援してた人たちの感動が同じかって考えると、どうだろう?」
クロエさん(仮)
「それは違うと思います」
玄兎
「僕もそう思う。単純に数量にして考えてみても、選手たちと観客とでは背負ってるリスクが違いすぎる。極論すれば、その後の人生賭けられてるような選手たちと、負けちゃったね残念だったね夢をありがとうで終われるサポーターたちが、同じだったら嫌だよね。
 で、まあそのリスクってのはそのままストレスの量だし、まあ賭け金みたいなもんだよね。勝てば何倍にもなって返ってくる。返ってくるのがカタルシス。開放感とか爽快感とか達成感とか満足感とか。どれだけ感情移入してても、どれだけリスク賭けた気になっても、実際かかってないんだから、そりゃ違うよって。
 でね、インタラクティブなものって、そのリスクを自分で決めて行動できるわけ。失敗したら大変なことになるかも知れないプレイも、何のリスクのないプレイも、自由自在。まあそのゲームが許してくれる範囲内で、だけど。TRPGってゲームは、遊びとしてはその範囲を最大級に広げられる代物なんだと思う。まあゲームマスターが対応できる範囲内って制限はあるし、遊びだからリアルな人生ほどのリスクは取れないけどね。そんなん取らんでいいし。命賭けたセッションなんて、やりたくないでしょ?(笑)」
クロエさん(仮)
「まだ死にたくありません(笑)」
玄兎
「うん。だからまあ、そこまでのリスクは背負わないんだけど、失敗にはそれ相応のペナルティが有って、それに成功したっていう達成感、これはずいぶんと大きい感動なわけ。
 でさ、これ極論すると、プレイヤーごとに勝手にやるわけでね、シナリオの起承転結とは関係ないところで、達成感とか満足感とか得てるわけ。プレイヤーって。そうすると、ストレスとカタルシスを操作する起承転結みたいなモデルに意味があるのか? って話になる。これはどうだろう?」
クロエさん(仮)
「あんまり無いような……気がしてきました」
玄兎
「(笑)不安だったら、ペテンにかかってないかどうか、あとでもう一度考えてみてね。で、まあ僕も結論としては、起承転結なんてモデルである必要は無いと思ってる。そういうんじゃなくて、単にシナリオが進むにつれて、行動のリスクが上がっていく。そういうモデルであれば十分、とか」
クロエさん(仮)
「行動のリスクって、難易度とか?」
玄兎
「難易度もあるけど、ペナルティが大きくなるってことかな。これもまあゲーム的に大体決まってて、たとえば誰かの秘密を暴くシナリオがあるとして、最初はオシント。地道な聞き込みとか、図書館やらネットやらで検索するとか、そういう誰にでもできることから始める。この時点ではリスクがほとんどない。
 で、重要そうなネタをつかんだら、今度はヒューミント。突撃取材だ。より関係の深そうなところに突撃する。でもこれは自分がそのことについて調査してることがバレる危険性もあるし、相手がそれを嫌がってたら、何かしらチョッカイかけてくることになる。危険が伴うわけだ。
 で、ある程度の確信をつかんだら、最後に潜入捜査。確証とか証拠品とかを確保するために、敵地に乗り込んでいく。これがバレたら一発でアウト。まず殺される。リスク最大。まあ大体そんな感じ」
クロエさん(仮)
「普通のスパイアクションじゃないんですか?」
玄兎
「そうだよ? 普通のスパイアクション。昔からある定番とか王道とかって、娯楽のパターンとしてはよく出来てるから、そういうのは無理してひねらなくても普通に使えます。まあ、そういうのがよく出来てるってのが分かったからこそ、萌えとかキャラとかメタネタとか、そういう小手先のニッチに走って何が書きたいのか見えてこないケースが増えてるんだろうけど。いや愚痴っても仕方がない。
 ただね、ここでひとつ注意しなくちゃいけないことがある」
クロエさん(仮)
「どんな注意ですか?」
玄兎
「シナリオを押し付けないこと。シナリオを押し付けるってことは、プレイヤーが自分で選んで挑戦したゲームとか、それで獲得したカタルシスに、水をぶっかけることになるから。コンシューマーのさ、プレステとかのRPGで良く有るんだけどね。
 ストーリーゲームの嫌なところというか、一本道シナリオが嫌われるのは、プレイヤー作った楽しみ、それで得たカタルシスに、後出しジャンケンで水ぶっかけてるところじゃないかと思ってて。究極の二択を迫られたときにね、どっちを選んでも答えは同じでしたって興ざめじゃない? 散々悩んだ時間を返せって思うでしょ。
 たとえばアクションでもシミュレーションでもいいけど、苦労してボスを倒したとして、倒したのにムービーになったら相手は本気出してませんでした、本気出したら戦闘シーンにすらならずにムービーのまま逆に倒されました、とかやっちゃうゲームがある。そうするとさ、まあ本気出してませんでした、までは有るかも知れない。でもそのあとムービーで逆襲されんなら、わざわざ戦う必要ないじゃんっていうね。今の戦いは何だったんだよってことになる」
クロエさん(仮)
「本当に意味ないんですか? なにかその、ないんですか?」
玄兎
「うん、表現としては有るんだ。たとえばプレイヤーが苦戦を経験して、その上で更にまだ本気じゃなかったっていうことは、本気の強さってどんだけだよ、っていう。あるいは勝ったと思った次の瞬間、より大きなストレスを掛けることで次のアクションを引っ張り出すとか。それをプレイヤーに実感させる方法論としては、確かにそういうアプローチはあると思う。
 ただね、そのアプローチがどうでもいいって人もいるわけ。ゲームとしての戦闘が面白くて遊んでる人、ゲームが遊びたい人にとっては、ストーリーがある必要を感じない。そういう人にとって、そういうシナリオを見せられると、ゲームは面白いけどシナリオはクズ、って言う。やる気が無くなっちゃうんだね。だったらまだ、もっと強い敵が出てきましたっていう方が納得出来る。あるいは絶対に勝てなくてもいいから戦闘画面にしてくれって人もいる。ムービーで負けるのは嫌だけど、戦闘モードで負けるなら納得出来るっていう。
 そういうことを考えるとね、その実は本気じゃありませんでした、なんて演出……というか展開かな。そういうものは本当に必要なのか? っていう話になってくる。そんなのシナリオライターの独りよがりに過ぎなくて、どうだ凄いだろう、驚いただろう、カッコいいだろうってNPC自慢してる吟遊詩人マスターと同レベルじゃねえの? って話。ゲームのシナリオとしては相性が悪い表現を入れることにどれだけの価値があるのか、とかね。
 逆に、どうしてもそういう展開を入れたいなら、そういう展開を受け入れられるだけの演出を考えなくちゃ嘘だと思うよ。RPGなんてシナリオとゲームは不可分なんだから」
クロエさん(仮)
「……深いですね」
玄兎
「うん、ちょっと掘り下げすぎて、逆に悩ませちゃうかもしれないけど。
 まあその、表現者のポジションからゲームを扱うときは、色々と考えてみてくださいってことで。ストーリーで与えるカタルシスがゲームを邪魔することはないか? ゲームで与えるカタルシスがストーリーを邪魔することはないか? そういうとき、どういう表現をすればお互いの邪魔にならずに済むか。すごい難しいです。たぶんケースバイケースで対応する話になると思う。
 あー……脱線しまくったね。閑話休題。話を戻そう。質問をワンモアプリーズ」
クロエさん(仮)
「シナリオに起承転結は必要ですか?」
玄兎
「ありがとう。で、えーどこまで言ったっけ。
 起承転結にするのは謎と種明かしの面白さを得るため。その面白さはプレイヤーが自分で開拓する。ゲームマスターは行動のリスクを上げながら緊張感を高めていく。プレイヤーの快感に水を掛けるな。ここまではいい?」
クロエさん(仮)
「はい」
玄兎
「で、それでも起承転結のモデルっていうのは、組み込めるなら組み込んだほうがいい。なんでかっていうと、プレイヤーが全てのシーンに参加できるとは限らないから。これはまあ、保険くらいの意味だね。
 ゲームとしての達成感は、さっき言ったとおり。サイコロを転がしたり、リスクを取ったり、成功して活躍したり、失敗して笑いをとったり……そういうのがTRPGの面白さの根っこにあると僕は思うんだけど、それとは別に、もうちょっとマイルドな楽しみってのがあってね。自分はこういう物語に関わった、っていう満足感とか充実感とか、そういうのもある。で、これがストーリードラマとしてのシナリオが持ってる価値」
クロエさん(仮)
「それはメインじゃないんですか?」
玄兎
「人によって、あとはゲームのタイトルによってはメインになると思う。はっきりと、一番面白いゲームっていうのが決まってて、それが一定以上の完成度に達してるタイトルなら、素直にゲームシステムの面白さを拾っていった方が無難だし、過半数の人はそれで楽しめる。でもそうじゃないタイトルとか、最初からストーリードラマを遊ぶためのシステムの場合は、そういうのがメインになる。
 ただ、あくまで僕個人としては、ストーリードラマとしての起承転結にこだわるより、プレイヤーのひとつひとつの選択とか、その場その場の楽しみの方を大事にしていきたいとは思う。だからシナリオテキストを作る段階ではちゃんと組んでおいた方がいいけど、起承転結がちゃんと組めないからシナリオ書けませんって言うのは、無しにして欲しい。シナリオなんかつまんなくても、セッションは面白くできるし、TRPGは楽しめるよ」
クロエさん(仮)
「え。つまんなくていいんですか?」
玄兎
「うん。酷いこと言うとさ、シナリオなんかつまんなくてもいいんだよ、別に。スリリングな判定一回やれば盛り上がるし、盛り上がったらあとはそのテンションを維持して、ネタも雑談も混ぜこぜにして、じゃんじゃん話を進めていけばいい。後はキャラとの掛け合いとか、情報のピースを並べて謎を解いたり、おバカなネタトラップとか。
 一見つまらないシナリオも、遊べば面白くなる。TRPG遊んでる時、楽しんでる要素はサイコロの出目。判定の結果。話が進展した実感があったとき。あとは掛け合いのネタが通じる、分かり合えることの快感なんじゃないかって思ってて。いやまあこの辺の感想はむしろ君らにはショックかもしんないけど」
クロエさん(仮)
「一週間くらい悩んでたんですよ?(笑)」
玄兎
「まあ分からないでもないけどね。
 色々と言ったけどね、悩むようなことじゃないよ、TRPGのシナリオなんて。書くシナリオと遊ぶシナリオは別なんだから。一本ずつ丁寧にシナリオを仕上げようとして、ひとつひとつのアイディアを吟味するより、色んなシーンの演出を思いつく限り書きまくって、頭の中にストックしまくっておいた方が、後々伸びるしね」
クロエさん(仮)
「色んなシーンを後で並べるってことですか?」
玄兎
「そゆこと。パッチワークする。特に君らはほら、自分でストーリー書いたりするわけだから、そういうストックしといた方が後で効いてくるよ。セッションで予想外の展開になっても、それが自分のネタになるわけだから、まったく無駄がない。プレイヤーは自由に行動できて、ゲームマスターはネタが増えて、みんなハッピーでウィンウィンの関係。すばらしい(笑)」
クロエさん(仮)
「ウソくさー(笑)」
玄兎
「ほんとほんと(笑)。僕は嘘、あー……嘘つくこともあるけど、これは本当。リプレイを書けって話にしても、演出を考えたりパターンを覚えておくって効果も狙ってるしね。ゼロからシナリオを書くことに悩むくらいだったら、市販のシナリオ遊んだり、自己流にシナリオ書き換えたりして、遊んだセッションをシナリオテキストにする方が慣れるし、覚えるのも早いよ。
 あとはまあ、小説とか漫画とかのシナリオを、そのままゲームに流用しちゃう。この辺は昔、『バトルテック』のリプレイ巻末で具体例が紹介されてたんで、元ネタとリプレイを見比べるんでも参考になるんじゃないかな? 興味があったらリプレイとDVDは貸します。まあ元ネタが初代ガンダムなんで、君らの趣味に合うかどうかは分かんないけど」