[column] 座席と距離と役割配置

 「遊ぶ環境のデザイン」に関連して。
 「PC番号」と「席順の意味」の関係性について。
 例によって原典や参考資料を用意せずに、記憶に頼って書いたものですので、詳しい人に突っ込まれるかもしれないけど、まあそうなったらそうなったときに訂正しますんで(苦笑)

PC番号と初心者ポジ

 前のエントリの冒頭に書いた〈プロクセミックス〉では、「人と人との距離そのものがコミュニケーションである」といった立場から、人と人との距離について大きく 4つに分類し、更にその中で 2つずつに分類しています。*1[更にその中で2つずつに分類] = 実のところ小分類(近相と遠相)については記憶が定かではない。前にホールの研究でそんな論文を読んだ気がしたので、誰かしら言及してたとは思うのだが。
 以下のような具合に。

intimate distance (密接距離)
近相 (0cm~15cm) : 直接的な感情の発露が行われる距離。たとえば愛情の確認や、積極的な攻撃などが行われる。
遠相 (15cm~45cm) : 非常に親しい関係の距離。ささやき声での会話など。
personal distance (個人距離)
近相 (45cm~75cm) : 親しい関係の距離。仲の良い友人との会話など。
遠相 (75cm~1.2m) : 知り合いの距離。知り合って間もない友人や、さほど親しくない知人との会話など。
social distance (社会距離)
近相 (1.2m~2m) : 知らない人同士の距離。ごく一般的な商談など。
遠相 (2m~3.5m) : 公式な会見の距離。調印を行うような公的な商談など。
public distance (公共距離)
近相 (3.5m~7m) : 公人としての距離。後援者と聴衆など。
遠相 (7m以上) : 社会的地位に大きな格差のある距離。要職にある者とそうでない者の対面など。

 ただし、ここに書かれている距離には文化的な差異が表れやすく、また身体条件などによる個人差もあるので、単純に数字だけで判断しなようにする必要はあります。
 〈プロクセミックス〉について書かれた『かくれた次元』でも、その出発点として「野生動物同士の距離感」について書かれているわけで、その辺の事を無視するわけにはいきません。
 たとえば小さい子供に対して「馴れ馴れしい」とか「人懐っこい」と感じることがありますが、それは彼らの距離感が、大人である我々と異なる身体条件によって形成されているからだ……なんて見方もできるわけです。

TRPG を遊ぶ距離

 翻って、TRPG を遊ぶ空間的条件について考えてみると、参加者同士の距離は、まあ「個人距離」から「社会距離」の近相あたりに含まれるかと思います。一番近い人は「密接距離」に座るかもしれません。しかしどんなに遠くても、普通にテーブルを囲んでいる限り、3.5メートル(八畳間の一辺の長さくらい?)以上なんてことは無いでしょう。(ライブRPGなんかだと、そういう環境で遊ぶこともありますが)

 で、まあそうだとしても、近い人と遠い人で「密接距離」、「個人距離」、「社会距離」という、距離の差が出ています。しかも間に他の人たちを挟んでいるわけで、空間条件としては随分と違いが出てしまうでしょう。視野に一人しかいないときと、たくさんの人がいる中で一番遠くの人と話すときでは、後者の方がより公共性を意識した発言になりやすいモンですし。*2[空間条件の違い] = より詳しく言及するならば「群集密度」や「テリトリー」、「パーソナルスペース」等の話になるかと思うが、生憎と門外漢であるため印象論で留めておく。

 そう考えたとき、たとえば僕らは伝統的に「初心者はゲームマスターの隣に」なんて訓えを受け継いできたわけですが、これについても単純な「ルールのガイダンスがしやすい」とかいう話だけではなく、初心者さんとの心理距離を近付け、ゲームマスターに発言しやすくする(過剰に公共性を意識させて萎縮させない)効果も有ったのではないか? そうした経験が、その言葉に説得力を持たせてきたのではないか? なんてことが考えられるわけです。

 同じように、「あまりに親しすぎる関係(親友や恋人など)は、なるべく遠くの席に分かれて座る」なんてのもありますが、これにしても双方で空間的距離をとり、互いに公共性を意識して発言するようストレスをかけ、他の参加者とのバランスをとる、という効果が期待できます。
 ……まあ度を越して親密だと、ストレスを無視して暴走し、他の参加者のプレーを妨害してしまうケースもあります。そういうときは単に環境を整えるだけでなく、実際的な言葉によって自覚を促しておかないとイカンのですが。
 そんな感じで限界はあるものの、空間要件を整えることでプレーをそれなりにコントロールすることが出来る、と考えられるわけです。

PC番号と席順 ~ ゲームマスターとプレイヤーの関係

 で。
 面白いのが「PC番号」と「席順」いうやつ。

 たとえば F.E.A.R. のフェイズプロセッション形式などでは、「PC番号順に座る」とか「ゲームマスターの左隣にPC①が座る」みたいなガイドがあります。別に「絶対にそうしろ」というものではないでしょうが、円滑にゲームを進めるためには効率的である、と期待できる環境整備です。
 これについて期待するには、別の複合的な要件があるんですが。

 PC番号のあるシナリオに初心者が参加するときは、「初心者にはPC①を」なんて話も聞きます。
 これはひとつには、PC①というポジションがシナリオの中核にあることで、ゲームへの参加を強く感じられ、何をすればいいのかの選択肢が提示されやすい事などが挙げられるでしょう。
 と同時に、「ゲームマスターの左隣にPC①が座る」というガイドが、ここで機能します。
 前述のとおり、近くに座ることで距離を固定し、コミュニケーションを密にして発言を促す効果が期待できるわけです。

 逆にPC⑤など物語の役割的にあまり固定化されていないキャラクターの場合、逆に「何をすればいいか分からない」ということがあるため、こちらもゲームマスターの近くで発言をしやすいような環境に置いて、手探りのチャレンジをサポートする等の必要があると考えられます。

隣り合う座席の関係と間接的ロール支援 ~ プレイヤー同士の関係

 これについて更に進めたのが「PCの関係性」を設定するルールで、このルールでは座席順に隣り合う PC 同士が、相手に対して何らかの関係があったり、感情を持っていたりします。
 「どのような関係であるのか」について、セッション開始時にハンドアウトやダイスロールなどで決めることで、PC同士の行動を連動させ、まとまりのあるセッション進行を企図しているのだと思います。ですがこれに関しても、隣り合った席順でリンクすることによって公共性を過剰に意識せず、自由に関係性をプレーできるよう環境が整えられることになります。
 ロールプレイ、特に演劇的な表現については羞恥心が邪魔をして、「思いついても話せない」という人が相当数いるわけですが、そうした心理的な障害を取り除く意味でも「隣の席」というのは効果的だと思われます。

 もっとも「隣り合った席」というのは、それだけでは必ずしも親密さを表すものではなく、座り方、主に姿勢(向き)によって心理距離を近づけたり、逆に遠ざけたり、といったコントロールが行われる(これをソシオペタル/ソシオフーガルと言う)のですが、近付けるチャンスを整える、という意味で十分異常に効果の期待できる環境整備だと思われます。*3[心理距離を近づけたり遠ざけたり] = 精神病院のデザインについて研究していたハンフリー・オズモンド(Humphry Osmond 1957)は、心理距離を近付ける“人間同士の交流を促進するデザイン”と「ソシオペタル」、その逆の“人間同士の交流を阻害するデザイン”を「ソシオフーガル」と呼んで、空間デザインに重要であるとした。

 この他にも、ゲームマスターから最も遠い座席にあって、ストーリーの展開を調整する PC③あたりのミドルナンバーは、ゲームマスターの方を向いて座ることで自動的に他のプレイヤーたちが視野に入るため、常に公共性を意識することになり、ゲームプレー全体を見て調整を行いやすくなる……といった機能も期待できるかと思います。

あとがきに代えて

 ゲームシステムやシナリオの研究だけじゃなく、ルール、慣習、環境なんかを上手く合致させることで、ゲームプレーをコントロールすることが、あるいは出来るんじゃないか? 言語化されていない習慣や属人的技術の中にも、それをあるパターンの下に解体することで、より誰にでも使える技術に変換できるんじゃないか?
 ……というのが「遊ぶ環境のデザイン」と今回のエントリとで、書いてみたかったテーマということになります。

 今回の話で言えば、「PC番号」というルールは、従来なら参加者が「自由に(自然に)席に着いた」時点から開始(リデザイン)されてきたセッションを、そのルールを導入することで、「席に着く前」からゲームマスターの管理(デザイン)下に持ってくるマスタリング技術、と考えられるんじゃないか? そう利用すればいいんじゃないか?
 更には「PC番号」を導入していないセッションでも、プレイヤー自身が「どのようにゲームに参加したいか」ということを考えて、どの席に座るかを選ぶ。また実際に座った席からプレー中の「ゲーム進行における役割」を意識する……などのプレー技術に出来るんじゃないか?
 とまあ、そういうことです。

 それとまあ、「たぶんベテランの人たちで語り尽くしたと思ってる人たちも、話せることはたくさんあるんじゃない?」というのも。
 当たり前だと思ってることとか、解体してみると別の何かが出てくることってよくありますからね。そういう素朴な言葉が増えたらいいなァ……というのが「そろそろ書くネタ無くなってきた気がするぞ。もっと外から建設的に刺激されないと飢え死にだ」と思ってる若造の偽らざる心境でもあります(笑)
 こっちは為るようにしか為らないことなんだけどね。

References

References
1 [更にその中で2つずつに分類] = 実のところ小分類(近相と遠相)については記憶が定かではない。前にホールの研究でそんな論文を読んだ気がしたので、誰かしら言及してたとは思うのだが。
2 [空間条件の違い] = より詳しく言及するならば「群集密度」や「テリトリー」、「パーソナルスペース」等の話になるかと思うが、生憎と門外漢であるため印象論で留めておく。
3 [心理距離を近づけたり遠ざけたり] = 精神病院のデザインについて研究していたハンフリー・オズモンド(Humphry Osmond 1957)は、心理距離を近付ける“人間同士の交流を促進するデザイン”と「ソシオペタル」、その逆の“人間同士の交流を阻害するデザイン”を「ソシオフーガル」と呼んで、空間デザインに重要であるとした。