[Column] 〈対話〉から見た行為判定

[Column] 〈対話〉から見た行為判定

 前エントリ『十人十色のゲーム盤 ~ 「戦闘」と「物語」』について、別の視点からちょっと書いてみようかと考え中。
 スッキリとは、まとまってないんですが(^^;
 今回はその準備として、〈対話(Dialog)〉と「行為判定」のお話。

〈対話〉としての TRPG

 僕は TRPG の行為判定を、〈対話〉を短縮したものだと考えています。

そもそも〈対話〉とは?

 ここでは「異なる価値観を持ったもの同士が、お互いの意見を理解しあうための手段」と定義します。
 この定義要素を TRPG に当てはめてみると、

  • 異なる価値観を持ったもの ⇔ ゲームの参加者たち
  • お互いの意見 ⇔ 希望するゲーム結果
  • 理解しあうための手段 ⇔ 混ぜこぜに楽しむためのプレー

 こんな感じになると考えてるわけです。
 まあ、これだけだとかなり雑なんで、もうちょっと丁寧に説明していきましょう。

〈対話〉の分解

 実際に〈対話〉を行うとき、特に言葉での〈対話〉がどのように行われるか、ちょっと考えてみます。

 〈対話〉にも様々なアプローチがありますが、なるべく多くの人が理解しやすいように、原因と結果が分かりやすくつながっていることが求められます。

〈対話〉のツール

 原因と結果を分かりやすくつなげる〈対話〉は、まず個々人が〈疑問〉、〈意見〉、〈理由〉の三つのファクターを備えたときに始まります。
 対話の始まりは、個人がある事象に対して「何故だろう?」と〈疑問〉を持つことです。
 で、次に〈疑問〉に対して自分の価値観に則して「○○だろうな」と〈意見〉を持ちます。
 そして〈意見〉を他人に理解してもらいたいと思ったとき、それを他人に説明するため、自問自答によって「○○だから」と〈理由〉を導き出します。

〈対話〉のプロセス

 それらツールを使って〈対話〉をするとき、〈提議〉、〈議論〉、〈結論〉の三つのプロセスで進められます。

 まず誰かが〈疑問〉に基づいて「何でだと思う?」と〈提議〉を行います。
 それに対して他の〈対話〉の参加者は、〈提議〉に対してそれぞれ〈意見〉を出していきます。各人は自分の〈意見〉についての〈理由〉を説明し、また他者の〈意見〉や〈理由〉に対して異なる〈意見〉を提示しながら、徐々に〈提議〉に関する価値観の違いを認識し、理解を深めていきます。
 最後に、お互いの価値観から導かれた〈意見〉を理解し、〈結論〉を出すことで〈対話〉は終わります。

  1. ある〈提議〉に対して
  2. 各参加者が自らの価値観によって〈議論〉して
  3. 参加者がお互いの納得のいく〈結論〉を決める

 さて、〈対話〉の基本知識はこれくらいにして、次は TRPG の基礎となっている「行為判定」についてです。

行為判定

 多くの TRPG に標準装備されている行為判定ですが。
 そもそも行為判定ってなんなのか、から。

行為判定とは

 行為判定とは、ある〈課題〉に対して、キャラクターの〈能力〉などを元にして判定を行い、キャラクターが試みた行為の〈結果〉を決める一連の流れのことです。
 多くの TRPG ではサイコロなどのランダマイザ*1[ランダマイザ] = 乱数発生装置 の結果と、キャラクターの〈能力〉とを比較して決定されるもので、行為の目的について達成されるか否かは、最終的には運任せということになります。

  1. ある〈課題〉に対して
  2. キャラクターの〈能力〉などを元にして判定を行い
  3. キャラクターが試みた行為の〈結果〉を決める

 では何故、TRPG には行為判定が必要になるのでしょうか?

なんで行為判定が必要なの?

 よくある説明としては「TRPG はゴッコ遊びとは違うから、行動の〈結果〉を勝手に決めることはできない。みんなが自分の好き勝手に〈結果〉を決めていったら、まとまりがつかなくなって話が進められなくなるからね」ってな具合。
 そう。みんなが好き勝手に〈結果〉を決めないように、行為判定は行われる。
 行為判定には、そういった側面があります。

 逆説的に、行為判定は「みんなが好き勝手に〈結果〉を決めないようにする」目的で、「みんなが納得する〈結果〉を決めるために」行われる。とも言うことができるでしょう。
 行為判定は、合意を得るための説得材料と考えられます。

 この「みんなが納得する〈結果〉」という部分、これは〈対話〉によって得られる〈結論〉と同じ性質のものになっています。

〈対話〉と行為判定を照合してみる

 ちょっと先走ってしまいましたが、行為判定の他の要素についても〈対話〉と照合してみましょう。

 前述のとおり、行為判定は、

  1. ある〈課題〉に対して
  2. キャラクターの〈能力〉などを元にして判定を行い
  3. キャラクターが試みた行為の〈結果〉を決める

 といったプロセスを経ます。
 そして〈対話〉は、

  1. ある〈提議〉に対して
  2. 各参加者が自らの価値観によって〈議論〉して
  3. 参加者がお互いの納得のいく〈結論〉を決める

 となります。
 勘のいい人はもうお気付きかと思いますが、行為判定と〈対話〉の[1]と[3]は、同質のものです。そして[2]が、ランダマイザによって運任せに決定される部分です。
 〈対話〉では、十分に〈議論〉を深めることで〈結論〉を得ますが、TRPG のセッションでそんなことをイチイチやっていたのでは埒が明かない。
 いかにして振り下ろした剣が怪物を切り裂いたか、いやいや怪物は間一髪でそれをかわした、なんてことを延々と〈議論〉したって〈結論〉なんか出やしません。そこでランダマイザによって、参加者みんなが認めざるを得ない結果を突き付けて、早々に〈結論〉を出す。
 行為判定によって参加者の合意を得、結果をゲームに反映し、先に進めるわけです。
 (もちろん「みんなが納得できる」なら、ランダマイザを使って決めなくてもいい)

 繰り返しになりますが、行為判定は「参加者の合意」を得るための説得材料として機能する。
 それが〈対話〉の側面から見た行為判定だと考えています。

References

References
1 [ランダマイザ] = 乱数発生装置