[column] フィルタリングとシナリオハンドアウト

 本当なら「原設定」の話を書くはずだったんですが、なんか書いてみると大した分量にもならないし、「どうやってネタを拾ってくるか」って話にしかならないんでモチベーションが上がらず(^^;
 ということで『背景設定の有効化フィルタ』シリーズ最後は、番外編として F.E.A.R.ブランドのお家芸(?)たるシナリオハンドアウトと、フィルタリングの関係についてちょっと書いてみようかと思います。

シナリオハンドアウトとは

 シナリオハンドアウトとは、『アリアンロッドRPG』や一連の SRS 系タイトルに見られる「フェイズプロセッション形式」というプレースタイルの一部です。*1[フェイズプロセッション形式] = ARA や SRS 系タイトル以外にも搭載されてるかもしれない。あんまし追ってないので不明。
 ちょっと長いですが、『アリアンロッドRPG上級ルールブック』に書かれた概説を紹介します。

 [シナリオハンドアウト]は、キャラクター作成の前に、GMから配布されるシナリオ導入用の設定などが書かれている用紙である。[シナリオハンドアウト]には、そのシナリオでPCに与えられる立場や設定などが書かれている。
 GMは[今回予告]を読み上げたあと、[シナリオハンドアウト]をひとつずつ読み上げていくこと。そして、プレイヤー一人につき、1枚ずつ[シナリオハンドアウト]を配布すること。
 この[シナリオハンドアウト]は、GMがどのプレイヤーに渡すのかを決めてもいいし、プレイヤーたちに選択させてもよい。
 プレイヤーは、この[シナリオハンドアウト]を参考にして、キャラクターを作成する。また、[シナリオハンドアウト]によって得た[コネクション]のNPC名、およびその関係をレコードシートのコネクション欄に記入すること。
 もし、[シナリオハンドアウト]の内容を変更したい場合は、GMと相談すること。GMはプレイヤーの希望を聞き、変更してもシナリオ上で問題がなく、かつ他のプレイヤーが認めた場合、変更を認めてもよいだろう。ただし、変更を認めることによって、他のプレイヤーに不満が出たり、思わぬところでシナリオが破綻することも考えられる。GMは、その点に十分注意すること。

『アリアンロッドRPG 上級ルールブック』 p.79-80

シナリオハンドアウト=フィルタリング済み設定

 さて、このシナリオハンドアウト。
 「世界設定」「舞台設定」「参加者の承認」の三枚のフィルタをすべてクリアした状態のものとして提示されます。
 シナリオデザイナーがシナリオのために用意するわけですから、当然「世界設定」と「舞台設定」のフィルタはクリア済み。そして最後の「参加者の承認」フィルタは、シナリオハンドアウトを使用することをプレイヤー各位が認めた時点で自動的に承認されることになります。

 面白いのは「シナリオハンドアウトの内容を変更したい場合」の注意です。

 プレイヤーは、まずゲームマスターに相談します。
 ゲームマスターはそこで「シナリオ上で問題がないか」を検証します。
 「世界設定」と「舞台設定」のフィルタリングですね。

 それらをクリアした後、更に「他のプレイヤーが認めた場合」のみ変更を認めてもよい、となっています。
 もちろんこれは「参加者の承認」フィルタです。

 ……なんか、僕はコレを元に書いてたんじゃないかと思っちゃうくらい、綺麗に当てはまっちゃいます。
 軽く切ない。

シナリオハンドアウトに欠けているもの

 で、上の話からも分かると思いますが、シナリオハンドアウトには一つ足りないものがあります。
 「原設定」です。

 シナリオハンドアウトは、シナリオデザイナー*2[シナリオデザイナー] = ゲームマスターが兼任するケースも多いが、役割としては別。 が作ります。
 だから「原設定」はシナリオデザイナーの中にあるわけです。
 そしてシナリオハンドアウトには、原則的にフィルタリング後の設定が記載されることになります。

 プレイヤーは、この欠けた情報を各自で補うことになります。
 「原設定」には「どういうキャラクターにしたいのか」とか、「どういう風に遊びたい/活躍させたいのか」といったプレーの指針が含まれていますが、シナリオハンドアウトではそこまで決められていないものも少なくないようです。
 この辺はシナリオデザイナーがどんなシナリオハンドアウトを書くかってコトで個人差が出る話ではあるんですが、フェイズプロセッション形式の運用を企図されたシナリオや、『アルシャードガイアRPG』のサプリメント『エブリデイマジック』に掲載されたハンドアウトテンプレート群を見る限りでは、どうもそんな傾向があるように思います。

 まあ、「原設定」までガッツリ書かれちゃうと、もう本当にプレイヤーはシナリオデザイナーの代理人として物語を完成させるだけの役割になっちゃう可能性も出てくるので、それが欠けていることはシナリオデザイナーの良心だと思うんですが。
 ただし、それが問題になるケースがあります。

シナリオハンドアウトの問題点

 シナリオデザイナーとゲームマスターが別人なら、あまり問題はありません。
 が、これが同一人物だと、何かと難しいことがあるわけです。

 「原設定」とは言い換えると「思い入れ」である、と前に書きました。
 シナリオハンドアウトでは、PC に対してこれを最初にシナリオデザイナーが持つことになります。そしてプレイヤーはシナリオハンドアウトを変更することについて、ゲームマスターの許可を必要とします。
 シナリオデザイナーとゲームマスターが別人であれば、ゲームマスターに直接的な「思い入れ」はありません。だからシナリオハンドアウトを客観的な「導入のための道具」として運用することが出来ます。
 しかし同一人物であった場合、ゲームマスターはシナリオハンドアウトに書いた PC 設定に、なんらかの「思い入れ」を持っているケースが少なからずあります。そのため、シナリオハンドアウトの変更を「シナリオ上の問題」といった理由でなしに拒否するケースが有ります。

 また、シナリオデザイナーが「思い入れ」としてシナリオハンドアウトに何らかの元ネタを持っていたとき、プレイヤーがこれを正確に読み取れないと、シナリオデザイナーの意図したシナリオ展開とは全く異なるプレイングが行われるケースもあります。もはや「思い入れ」というより「思い込み」のレベルになっちゃいますが。
 このときシナリオデザイナーは「読み取れない方が悪い」と言い、プレイヤーは「書いてない方が悪い」と言う、水掛け論になってしまうケースが有ります。

 上記二つの問題点は、どちらも「シナリオデザイナーとゲームマスターが同一の場合」に起こりやすいものです。これについては兼任しているゲームマスターが割り切るか、市販のシナリオを遊ぶことで相当なレベルまで回避できると思われます。

シナリオハンドアウトの有効性

 さて、話を戻してフィルタ周り。
 シナリオハンドアウトがフィルタリング済みであることの有効性について。
 これは大別すると二つ挙げられます。

  1. 「舞台設定」を説明する手間が省ける
  2. 「声の大きいものが強い」トラブルが回避できる

 ひとつずつ説明していきましょう。

「舞台設定」を説明する手間が省ける

 ぶっちゃけた話、「舞台設定」って説明するのが大変です。
 ゲームマスターが用意してくるゲームの世界や舞台に対して、「このゲームマスターのことだから、だいたいこんなモンだろう」ってのが分かってる面子であればともかく、初対面やそれに近い面子でのゲームとなると、「舞台設定」についてイチから説明しないといけないことが、少なからずあります。

 で、シナリオハンドアウトはそれを端的に説明して、あまつさえ「舞台設定」フィルタを通した設定を最初からくっ付けることで、説明する手間を大幅に省くことが出来ます。
 もちろん、ちゃんと意識して書かないと効果が薄れてしまいますが。*3[シナリオハンドアウトで「舞台設定」を説明] = 「舞台設定」の説明は「今回予告」で行うこともある。

 また、もうちょっとテクニカルな話になると、F.E.A.R. のシナリオハンドアウトには「クイックスタート」や「コンストラクト」など、キャラクターを作る際に推奨されるクラスやデータテンプレートが指示されているものがあります。
 これを採用する場合、シナリオで予定されている〈障害〉の調整を、それなりの精度で行うことができるという利点があります。*4 [それなりの精度で] = パーフェクトでないのは、F.E.A.R.ブランドのシステムの多くが、データの組み合わせによって能力に大きな差が生じやすい設計である、という理由から。

「声の大きい人が強い」トラブルの回避

 これは「参加者の承認」フィルタで問題点に挙げた話。
 プレイヤーが各自に作ってきた PC 設定の場合、PC 同士で設定のすり合わせを行う必要があります。で、そのときに「声の大きい人(押しの強い人)に設定を壊されたり、押し付けられたりする危険性がある」というのが、「参加者の承認」フィルタの問題点です。

 が、最初からシナリオデザイナーが用意したシナリオハンドアウトでは、PC 同士の設定のすり合わせは済んでいるはずですから、プレイヤーの要望で設定を変えたり、追加したりしない限りはこのトラブルを自動的に回避できます。

クイックスタートキットとして

 こうして見てみると、シナリオハンドアウトって良く考えられたテクニックだなぁ、と。

 僕自身は 1~2 ヶ月は準備に費やして、それから更に「幕間劇」でプレイヤーの希望を吸い上げてから、ようやく本編スタート……という、なんとも気の長いキャンペーンを好んで遊ぶ人なんで、シナリオハンドアウトは特に使うこともないんですが(笑)
 確かにコンベンションで初見の人同士が遊ぼうと思ったとき、ものすごい有効そうなんですよね。トラブルの原因になりがちな各種フィルタリングの処理不全が、かなりの高確率でクリアできる。すごいですよ。

 コンベンションでのゲームマスター経験は、実は数えるほどしかないんですが、一番苦心するのがこのフィルタリング作業なんですよ。ここで大まかなコンセンサスを取ってしまえれば、後は――プレイヤーが困ったチャンでなければ(笑)――さほど苦労することって無かったので。
 その点、シナリオハンドアウトを叩き台にして話せば、コンセンサス取りまとめるのも楽そうなんですよ。
 この辺はまだ実際にやってないんで分からないんですが。

References

References
1 [フェイズプロセッション形式] = ARA や SRS 系タイトル以外にも搭載されてるかもしれない。あんまし追ってないので不明。
2 [シナリオデザイナー] = ゲームマスターが兼任するケースも多いが、役割としては別。
3 [シナリオハンドアウトで「舞台設定」を説明] = 「舞台設定」の説明は「今回予告」で行うこともある。
4 [それなりの精度で] = パーフェクトでないのは、F.E.A.R.ブランドのシステムの多くが、データの組み合わせによって能力に大きな差が生じやすい設計である、という理由から。