ホラーかもしんない。[散髪]

 夜中に急に、髪を切りたくなった。
 こんなことを書くとヘンな人なんじゃないかと思うかもしれない。
 回顧するに否定要素がない。さて困った。

 真夜中に、前髪つかんで鋏を持って、バッサリ。
 まるっきり危ない人である。
 僕が目撃したら、慌てて止めるか見なかったことにするかの二択だ。
 それをやった。
 念のために書いておくが、別に奇声をあげてない。
 目がヤバいことになったりしてない。
 イヤんなるくらい淡々と、欠伸と同じ感覚でバッサリやる。
 かれこれ十二年くらい前からやる、奇行の一つだ。

 たぶんストレスが溜ってたんだろう。
 あるいはある敗北感が、妙な形で発露したのかもしれない。
 どちらでもいいことだが、とにかくバッサリやった。
 ストレスだったら、大概これでスッキリするはずである。
 あとは夜が明けたら床屋にいって、ちゃんと切ってもらえばいい。
 ところがスッキリしなかった。
 物足りなかったとかではなくて、整ってないのがイヤになったのだ。

 急遽、散髪タイムである。
 しかし困ったことに、昨晩は婦長が夜勤だったので室内灯は点けられない。
 テーブルライトだけでやることになった。
 一大プロジェクトだ。

 鋏と鏡とライトを枕元に並べて準備する。
 まずは鏡の配置。見やすいように、何度も置きなおす。
 それからライトを点けて、鏡の反射角を考える。
 見やすい配置になったら鋏を持って、ミッション・スタート!
 夜の病室に、シャキシャキシャキシャキ音がする。
 ひそかに誰かが覗いてたら、かなりヤバい光景である。
 そんなことを自ら暴露し、あまつさえ読まれている時点でヤバいだろうが。

 襟足の処理がうまくできない。
 まあでもこれくらいは仕方がない。朝になったら床屋で整えてもらおう。
 あとは大体、満足のいくように切れた。
 梳き鋏の用意があってよかった。
 学生時分の貧乏生活の賜物で、なんかこういうことはできたりする。
 モヤシとタマゴは味方です。
 イワシの野郎は裏切りました。

 スッキリしたところで、切った髪を片付けて一眠り。

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 ……で、目を覚まして今、書いているわけですが。
 ひとつ困ったことがあります。
 寝ぼけてたのかなんなのか、一房だけ余計に短くなってました。

 はて?
 こんなトコ、切ったっけなァ?