久々の (T)RPG レビューは、毎度おなじみ『TRPGシナリオ作成大全』編集長・氷川霧霞氏の単著『TRPGシナリオ作成のがらくた箱』です。 今回はざっと通読した感想などを。
TRPGシナリオ作成のがらくた箱
本書のテーマを自分なりにまとめると、『TRPGシナリオ作成大全』の編集長として……ではなく、一個の (T)RPG 者としての筆者の素朴な思いと、どうやって技巧を磨いてきたか、またその一部の言語化を試みたもの。
といったところでしょうか。
『TRPGシナリオ作成大全』に何本か寄稿させていただきながら感じていたことではありますが、ノウハウを言語化していくと徐々に「立派なもの」を書こうとしてしまう自分の存在に気が付きます。それは自分で手に入れたノウハウがいかに優れたものであるかを誇ったり、逆に自信の無さを糊塗するためだったりするんですが、そうすることで零れ落ちてしまうものがあります。
それが素朴な思い。
こと初学者が唯一、教導者と共有できるものです。
初学者に寄り添うガイドブックとして
自身の弱みを晒すというのは、それなりに勇気の居ることです。特に昔から (T)RPG で GM を遊んできた人間は「虚勢であっても自信満々に見せること」が重要だと言われてきたので、普段はともかくゲームのこととなると弱みを晒しにくい、晒すのが怖いという人も一定数いることでしょう。
虚勢であっても自信満々に見せる――この旧い訓えは「セッションが予定通りに進んでいる、または脱線していても対応可能であることを態度で示して PL を安心させること」の重要性を説いたものであり、現在では肯定(どころか推奨すら)されている「PL との相談によって調整を行うこと」がタブーとされてきた時代のものです。
そして現在、虚勢を張るべきはシナリオ制作者にシフトしています。まあ実際はシナリオ制作者も相談して良いと思うのですが、セッション開始段階では「ちゃんと用意できている」という自信を示す必要はあるかと。そうでないなら「完成したシナリオを余所から持ってこい」ということになりそうですし。
そんなわけで、内心不安だらけ余所には相談しづらい、というのが現在のシナリオ作成の初学者が置かれた立場じゃないかと思うんですね。
そんな環境の中で、なかなか初学者に寄り添ってくれるガイドが無い。
良いガイドが無いわけじゃあないんですが、どことなく敷居が高そうに思えてしまう。
実際、僕もさまざまなゲーム仲間たちと何度と無くシナリオ作成の手伝い(ペアシナリオメイキングですね)をしてきましたが、助けになるガイドブックを貸したり勧めたりした中で、そんな反駁を受けたこともありました。
そんな中で、本書は近年珍しく初学者に寄り添ってくれる内容になってるんじゃないかと思うんですね。
内容は現在のストーリーコンテンツをなぞる遊びから逸脱し、筆者個人の好みである箱庭シナリオに傾注している部分があるので、全部が全部、初学者の役に立つ、ということにはならないかも知れません。ですが初めてシナリオを作ろうとした人が、自分なりに遊んでみたいセッションのイメージを持った人が、必ずしもそうした自分のエゴを否定しないで良いのだと、そのまま手を進めて良いのだとそっと手を差し伸べてくれるような、そんな心意気を本書に感じました。
まあ後半、「シナリオの戦略性と展開の多様性」のあたりに来ると、初学者にはちょっとキツいことになるかもしれませんが、その手前まででも一般的なシナリオは十分作れますんで、安心してください(笑)