■葛藤と選択のデザイン
自分でシナリオを作ろうとするからには、より良いシナリオを作りたいと考えるだろう。良いシナリオの定義はさまざまだが、ここでは記憶に残るものや、達成感を得られるものとして話を進める。
記憶に残るシナリオ、達成感を得られるシナリオとはどのようなものであるのか。そこで重要な要素となるのが葛藤と選択だ。葛藤とは、思い悩むこと。選択とは、選び取ること。ある状況に陥ったとき、いくつかの選択肢の中からどれを選び取るべきか悩み、そして決断する。決断によって得られた結果が良いもの、納得のいくものであれば、それは順風満帆な展開よりも記憶に強く残り、より大きな達成感を得られるだろう。よってシナリオには葛藤と選択のデザインという視点が重要となる。
テーブルトークRPGにおける葛藤と選択には、大きく分けて二つの葛藤がある。まずはそれについて確認しておこう。
テーブルトークRPGにおける葛藤と選択
- 目標に対する行動の正誤
- シナリオで提示された目標、PCに設定された目標、そしてセッションに対するプレイヤー自身の目標。こうした目標の達成を試みるとき、そのプレイングが正しいものかどうかについて、プレイヤーは思い悩み、選択することとなる。
- 資源管理
- 魔法やスキルなど特殊能力やブレイクスルーの使用回数、所持金や食料などの資源について、その場面で使用すべきか、あるいは温存すべきか。これらについてもプレイヤーは葛藤し、選択する。これには時間の浪費なども含まれる。
もちろん、これらの葛藤と選択をプレイヤーに迫り続ければ良い、というものでもない。
そもそも選択や決断という行為は、当人がそれを自覚するか否かは別として、ストレスとして精神的な疲労につながりやすいものだ。こうしたストレスによって集中力が損なわれ、ゲームが散漫としたものになっては本末転倒である。そのため、特に重大な決断を要するイベントなどは、回数を少なめにすることが肝要だ。
また、重大な決断の内容によっては他の参加者の意思決定にも大きな影響を与えることとなるため、更に強いストレスになることも考えなければならない。そのためプレイヤーに決断を求める場面は、それまでのゲームプレイで他の参加者たちの暗黙の了解が取れるよう、納得できる決断が自然と選ばれるように運ぶことが望ましい。
シナリオを通じて楽しく、スリリングなゲームを考える上で、こうしたプレイヤーの意識というものは極めて重要となる。
シナリオを俯瞰的に見た上で、葛藤と選択をバランスよく配置する方法については、古くから研究されてきた演劇や文芸などの時間芸術の知恵が役に立つ。それは物語がどう展開することで、納得できる意思決定につながるのかということであり、またどのように観衆のストレスをコントロールするのかという知恵なのだ。本章ではまず、そうした知恵についてひとつずつ確認していくことにしよう。