■三幕構成を再訪

enter image description here

■三幕構成を再訪

文芸の知恵として、まずは再び「三幕構成」という構造について考えよう。今回は前章「シナリオの基礎知識」で扱った現在のテーブルトークRPGのデファクトスタンダードなものではなく、あくまで創作術研究の観点から、特に葛藤と選択に関する重要な二つのポイントに関する知見を、ざっと追いかけてみることにする。

現在の三幕構成論

三幕構成とは文字通り、ひとつの物語を三つの幕に分けて構成する方法のことである。こうしたアプローチ自体は長い歴史を持っている。古代ギリシャの碩学、アリストテレスをその嚆矢とする説もあるくらいだ。だがシド・フィールドによってまとめられ、今なお研究が進められている三幕構成とは、そうした有史以来の三幕構成論に対して、より具体的なモデルを示したことで知られている。

三幕構成では物語全体を、特に内容と時間によって三幕に分けることが提案される。それらはプロットポイント、ミッドポイントという転換点とともに提唱されている。各幕の内容と合わせて確認をしておこう。

第一幕「設定」
第一幕はメインとなる登場人物たちの設定を開示することを目的とする。「どういったキャラクターが登場するのか」、「彼ら(特に主人公)はどのような日常生活を送っているのか」といった事柄について伝えることが重要となる。
プロットポイントI
主人公が引き返しようのない状況に追い込まれ、これまでの日常とは異なる状況の中での行動を開始する。主人公にとっての目標が提示され、目標達成のための行動が必要となる。またそうした変化した状況に対して「どうするのか?」という問いが投げかけられることになる。この問いは物語の結末(第三幕)に回答を出すことになる。
第二幕前半「葛藤A」
プロットポイントⅠで現れた新しい状況に対して戦いを挑み、解決を試みる。しかしその試みは上手くいかず、むしろ状況は悪化していく。その原因は目標達成のための能力や武器、心構えなどの準備が不足しているということ。その中で苦悩し、目標設定の正しさに疑問を抱き、葛藤する。
ミッドポイント
主人公を含む物語世界にとって、非常に衝撃的な事件が発生する。第二幕前半の葛藤を引き継ぎながら、そうした精神状態などお構いなしに、即座に対応しなければならない状況が発生し、主人公は立ち向かうこととなる。主人公は一時的な成功を収め、自信を取り戻して立ち直る。
第二幕後半「葛藤B」
ミッドポイントで起こった事件によって主人公の目標が明確化される。ミッドポイントでの成功によって一時的に好調となった主人公と、その仲間のうちの誰かに大きなトラブルが発生し、より強い不調へと陥っていく。明確化された目標達成のために行動する。
プロットポイントⅡ
主人公が敵対者のテリトリーでの行動を目撃し、敵対者の真実を知る。それによって主人公のこれまでの価値観、最終目標が一時的に破壊されるが、この葛藤を乗り越える決断をすることで主人公は大きく成長する。そしてその成長によって、目標を達成するために本当に必要なものを手に入れることになる。
第三幕「解決」
主人公にこれまでで最大の試練が課され、そしてそれは見事に解決される。それは主人公がこれまで物語の中で得た経験と、それによる成長が本物であるかを確認するテストであり、またプロットポイント1で提示された問いに対する回答でもある。試練に打ち勝つことで、全ての物事が好転し、良い方向に運ぶ。
エンディング
エンディングはときに爽快で、ときに悲劇的でもある。良いエンディングとは、リアリティもあるが予想外でもあり、なにより納得のできるものである。無理矢理まとめた不自然さや、月並みにすぎて予想通りのものは良いエンディングとはいえない。エンディングは第一幕の冒頭で示された主人公たちの日常の先、つまり主人公たちの日常がどのように変化したのかについて語ることが重要である。

三幕構成論を応用するために

以上が現在の三幕構成論の概略になる。これをテーブルトークRPGに応用するため、葛藤と選択が発生する状況、また葛藤が解消されるタイミングについて調べてみることにしよう。

選択0:プロットポイントⅠ
最初の選択は、プロットポイントⅠで発生する。これはプロットポイントⅠで主人公の日常が破壊され、新しい状況が発生することに対するものである。ただしこの選択は大きな葛藤によるものではなく、当面の指針を決めるにすぎない。
葛藤1:第二幕前半
この葛藤は、遡ればプロットポイントⅠの選択に対するものである。「この選択で正しいのか?」「他に方法があるのではないか?」といった葛藤だ。三幕構成論においてこの葛藤は物語のテーマであり、主人公の克服すべき欠点を表すが、ゲームのシナリオにおいては〈世界観〉にマッチした目標達成のアプローチや、そのために足りないもの(情報や資源、能力など)を表す。
選択1:第二幕後半
ミッドポイントの事件によって、目標が明確化される。これによって第二幕前半の葛藤の要素である目標や手段がクリアになる。この段階で葛藤に関する要因が整理され、選択が行われる。
葛藤2&選択2:プロットポイントⅡ
プロットポイントⅡで敵対者の真実を知り、第二幕後半での選択と比較検討、そして再度の選択が求められる。この決断は第三幕、クライマックスへ向けた最も重要なものとなるため、尊重されなければならない。そのため、ここで提示される敵対者の真実の内容や情報、その提示の仕方が、もっとも重要なものとなる。

ここで注意しなければならないのは、葛藤、思い悩む内容についてだ。テーブルトークRPGにおいて主人公はPCであると同時にプレイヤーでもある。そして実際に思い悩み、精神的な負担を受けるのはPCではなくプレイヤーである。そのため葛藤の内容やその提示手段についても、プレイヤー視点で考えることも忘れてはならない。